252 / 300
”アイドル篇”
【師匠と弟子】
しおりを挟む戦いを終え、服装を整えたカン・レン・ゴウが芥川の前で正座をしている。
満足げな芥川は、三人の姿を目に焼き付けるように見つめ返していた。
ケンカ三銃士は、すっかり意気消沈して壁により掛かっていた。
「お三方・・・・・・厳しい鍛錬、ご苦労様でした」
深々とお辞儀をする。
ここで三人の心にはクエスチョンマークが浮かんだ。
感謝するのはこちらの方。
なぜ、芥川が感謝するのか?
「・・・・・・弟子は師匠の鏡」
彼らの心を読んだかのように、芥川が頭を上げて語る。
「弟子を見れば、その師の質が一瞬で判る・・・・・・何処に出しても恥ずかしくない・・・・・・なんて、日本人らしい言葉が存在しますが・・・・・・お三方は恥ずかしくないどころか、誇りです」
ニンマリと笑った。
「よく頑張りました。おめでとうございます」
「・・・・・・先生のおかげです」
カンが口を開いた。
「ボクらに・・・・・・戦いの素質なんてなかったボクらに短期間で叩き込んでくれた・・・・・・芥川先生のおかげ」
「師匠が何かを教えるのは当たり前のこと。それを飲み込むか、吐いて捨てるかは弟子次第です」
仮に・・・・・・
「もしもお三方が今日・・・・・・負けるようなことがあったならば、撮影機材と監督を破壊してでも映画撮影を妨害するつもりでした・・・・・・弟子の恥を晒すようでは、師匠ではない」
「・・・・・・そこまで・・・・・・」
「アイドルだから・・・・・・じゃない。人間、生きる時間は決まってます。そんな大切で取り返しのつかない貴重な時間を、この道場に使ってくれた・・・・・・信頼して私に預けてくれた・・・・・・有り難いことだ」
今後・・・・・・
「これから先、もしも困ったことがあれば私にご相談ください。全力で力をお貸しします」
「・・・・・・自分たちも、何か先生のために・・・・・・番組とかに出てくれませんか!? そうすれば、もっと多くの人に芥川道場の良さが・・・・・・」
「それはいらぬ世話です。貴方がたがどうしても恩返しをしたい・・・・・・と申すのなら」
芥川は目を光らせた。
「幸多く、生きなさい」
「・・・・・・」
「容易いようで、難しい・・・・・・これから先、辛いこともあるでしょう。ですが、心に常に芯を持ち、生きなさい」
それと・・・・・・
「欲に忠実に。我慢は良くありません」
さらに・・・・・・
「よく食べて・・・・・・よく眠って・・・・・・よく学び・・・・・・」
ポタリ・・・・・・ポタリ・・・・・・
「風邪などをひかないように・・・・・・笑顔を絶やさぬように・・・・・・」
ひとつしかない瞳から、涙が滝のように流れている。
「まぁ・・・・・・楽しく・・・・・・それくらいですかね」
グッと袖で拭う。
ふと見やるとーーーー
「あらら・・・・・・貴方たちまで・・・・・・」
三人は泣いていた。
膝の上に置いた拳を強く握り、肩を鳴らして泣いていた。
「貴方たちのご活躍をお祈りいたします・・・・・・頑張れとは、言いません。ほどほどに、夢を魅せてください」
「・・・・・・先生」
「はい?」
「・・・・・・最後に・・・・・・写真を一枚だけ・・・・・・」
「・・・・・・いいですとも」
新樹とセツナも入り・・・・・・なぜか北斗がカンのスマホを持って撮影していた。
「じゃあ・・・・・・撮りまーす」
「お願いします」
「せーのっ・・・・・・ピース」
カシャッ
「ありがとうございます」
その時だ。
「おっとっと!」
三人が、芥川・新樹・セツナを包み込むように抱きついてきたのだ。
「「「ありがとうございました!!」」」
「子供みたいですねぇ・・・・・・まったく・・・・・・師匠泣かせは二人で充分です・・・・・・」
そう言って、芥川もまた泣いた。
新樹も、セツナも目を擦った。
さんざん全員で目を赤くした頃には、夕暮れだった。
1
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
キャラ文芸
「お前はやつがれの嫁だ」
涼音は名家の生まれだが、異能を持たぬ無能故に家族から迫害されていた。
お遣いに出たある日、涼音は鬼神である白珱と出会う。
翌日、白珱は涼音を嫁にすると迎えにくる。
家族は厄介払いができると大喜びで涼音を白珱に差し出した。
家を出る際、涼音は妹から姉様が白珱に殺される未来が見えると嬉しそうに告げられ……。
蒿里涼音(20)
名門蒿里家の長女
母親は歴代でも一、二位を争う能力を持っていたが、無能
口癖「すみません」
×
白珱
鬼神様
昔、綱木家先祖に負けて以来、従っている
豪胆な俺様
気に入らない人間にはとことん従わない
さようなら竜生、こんにちは人生
永島ひろあき
ファンタジー
最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。
竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。
竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。
辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。
かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。
※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。
このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。
※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。
※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!
同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました
菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」
クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。
だが、みんなは彼と楽しそうに話している。
いや、この人、誰なんですか――っ!?
スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。
「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」
「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」
「同窓会なのに……?」
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
元虐げられ料理人は、帝都の大学食堂で謎を解く
逢汲彼方
キャラ文芸
両親がおらず貧乏暮らしを余儀なくされている少女ココ。しかも弟妹はまだ幼く、ココは家計を支えるため、町の料理店で朝から晩まで必死に働いていた。
そんなある日、ココは、偶然町に来ていた医者に能力を見出され、その医者の紹介で帝都にある大学食堂で働くことになる。
大学では、一癖も二癖もある学生たちの悩みを解決し、食堂の収益を上げ、大学の一大イベント、ハロウィーンパーティでは一躍注目を集めることに。
そして気づけば、大学を揺るがす大きな事件に巻き込まれていたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる