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”日常その肆”
【負け犬】
しおりを挟むふらり・・・・・・
ゆらり・・・・・・
道場の奥へ不確かな足取りで向かっていく。
弟子二人は静観するしかできない。
すると、芥川の足がサンドバックの前で止まった。
何をするのだろう・・・・・・
イライラをぶつけるために、殴る?
蹴る?
それともーーーー
「・・・・・・シィィィィイッッ!!」
ズバンッッ!!
手刀を頭上から一気に地面まで振り下ろす!!
とーーーー
パラ・・・・・・
パラパラ・・・・・・
バラバラバラ・・・・・・!
サンドバックの中身である刻まれた革が、堰を切ったように溢れてきた。
「き・・・・・・切った・・・・・・」
サンドバックには上下に芸術的なほど、真っ直ぐな線ができていた。
革のシャワーを浴びながら、芥川は微動だにしない。
バラバラ・・・・・・
パラパラ・・・・・・
パラ・・・・・・
中身がなくなり脱皮したあとの皮のごときサンドバックの前から、ようやく芥川が立ち上がった。
「・・・・・・修行が足りない」
ギャッと音が出るほどに踵を返して、弟子たちの元へ戻る芥川。
「こんな醜態を晒さないように、お二人とも修行に打ち込んでくださいね」
「先生・・・・・・」
「今は何を言われても、心に響かない・・・・・・申し訳ない」
「・・・・・・」
「今日はもう終わり・・・・・・お帰りなさい。セツナさんは自分の部屋へ」
「でも・・・・・・」
「いいから・・・・・・帰ろ!!」
芥川の気迫に圧されて、新樹は帰ることにした。
セツナは、動じていない。
落ち着き払って、ガーゼに消毒液を染みこませて、芥川の目の前に立っている。
「・・・・・・世話をかけます」
芥川は身をかがめて、セツナと身長を合わせた。
額の傷を手当てしてもらうと、芥川は二階へと向かう。
「・・・・・・新しいサンドバック、ネットで注文しておかなきゃいけませんね」
やはり、生気のない声だ。
その日、夜まで芥川は部屋の外に出てこなかった。
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