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”各々の年越し”
【世界最強の男】
しおりを挟む「ほぅ・・・・・・これはなかなか・・・・・・」
まるで彼をつまみにしているかのように、グラスをクイッとして清酒を飲み込む。
『彼、なんでもう汗だくなの?』
セツナは質問した。
「ロッカールームで、ウォーミングアップをしてきたのでしょう・・・・・・しかも、本当に試合をしているかのごとき熱量で・・・・・・ゆえに、すでに仕上がっている」
『そんなことをして、スタミナが尽きちゃうんじゃないの?』
「普通はそうです。しかし、筋肉を温め、身体というジェットエンジンを点火させるという点においては・・・・・・理にかなっている」
『つまりは・・・・・・』
「ええ・・・・・・」
くっと酒を飲み、空のグラスを机に置く。
「早々の決着・・・・・・おそらくは一RでのKOを狙っている」
テレビでは実況が喉に火傷を負うほど叫んでいた。
『対するは日本の至宝!! キックボクシングライトヘビー級王者!! 北谷ぃぃぃ健二郎ォォォ!!!!』
筋肉量ではブラインに劣るが、軽やかに道を歩いてくる日本人王者は、涼しげな顔をしていた。
ピコン♪
『観てる!? スッゲー!! ブラインが日本に!!』
スマホを介しても、彼の格闘技ファンとしての熱は消えないらしい。
『うん。ゲツが『あれくらいのウォーミングアップをしているということは一R・KOを狙っている』って』
『先生流石だなぁ~! 伝説となってるボクシングヘヴィー級チャンピオンのマイク・タイソンも、異常なほどのウォームアップをしていたんだ。ブラインも多分、彼のように瞬き厳禁の試合をみせてくれると思う!!』
メッセージが長い!!
意中の女性に送るには少々、我が強すぎる文章だ。
しかし、そこもひっくるめて、新樹という人間の良さだとセツナは知っている。
『じゃあ、一緒に観ましょう』
『うん!』
「始まりますねぇ・・・・・・」
リングの上で、両者が相対した。
日本人王者はブラインほどの長身ではない。
しかし、下から上へググッと睨みつけている。
『あの二人、なにか因縁でもあるの?』
今度は新樹へ質問をするセツナ。
『いや、会うのも初めてだよ』
『じゃあ、なぜ睨みつけているの?』
『今回のマッチは北谷からの要望だったんだ。ボクシングとキック、どっちが強いのか勝負をつけようぜって』
『なら、むしろケンカを売られたのはブラインの方じゃない?』
『そうなんだよ。だけど・・・・・・ブライン冷静だなぁ・・・・・・挑発にまったく乗らない』
その文面通り、テレビでも睨みつけている北谷とは対極的に、ブラインは身じろぐこともなくジィッと見つめているだけだった。
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