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”日常その参”
【芥川と座頭】
しおりを挟む休憩室は異様なほど物がない。
パイプ椅子と折りたたみ式のテーブル。
旧式の灯油ストーブに、その上でお湯を沸かすヤカン・・・・・・
それだけだった。
「芥川君。いいよ。吸っても」
「はい?」
「タバコの匂いくらい健常者でも分かるよ? まだ禁煙してないんダ?」
「・・・・・・では、お言葉に甘えて」
ラッキーストライクの箱を揺らして、タバコを咥える。
ジッポーで火をつけてくるりと回し、ポケットへ。
「ピヒャハハ・・・・・・あっしも一服」
テーブルの上に置かれている、使い古されてヤニ汚れがひどいキセルを掴む。
タバコの刻み葉をくるくると指で丸めると、黒ずんだ火皿へ押し込み、マッチで火を灯す。
パッパ・・・・・・と火を均等に葉っぱへ行き届かせる。
「ぷはぁ~」
口から鼻から、雲のように煙を吐き出す門次。
「やっぱり、あっしもやめられないネ」
「・・・・・・十五分・・・・・・聞かせられない話しをする時間は限られていますよ?」
「ピヒヒヒ・・・・・・そうだネ・・・・・・」
ぷはぁ・・・・・・
「・・・・・・風の噂で聞いたヨ・・・・・・冬紀ちゃんが動き出したって」
「ええ」
「それと、コレも聞いた・・・・・・芥川君の目玉がとれちゃったって! ピヒャハハハ!」
「はい。左を」
「なんならサァ・・・・・・右もどう?」
シュビッッ!!
タンッッ!!
「門次先生の悪い癖だ・・・・・・」
芥川の指には細い針が・・・・・・
「ピヒヒ・・・・・・あっしの見てる世界もイイもんだよ・・・・・・真っ黒で、いらない情報が入ってこない・・・・・・漆黒の真実しか見えないぃ!! ピヒャハハハハッッ!!」
「フフフ・・・・・・」
「で・・・・・・冬紀ちゃんの動向はつかめてる?」
「神出鬼没・・・・・・とはまさに彼女のこと。足取りは掴めません」
「そっちも、か・・・・・・お互いに大変だネ~」
二人が同時に紫煙を吸い込んだ。
「ぷはぁ~まあ冬紀ちゃんはまだ、面白いことがあると出てきてくれるから、マシかな?」
「・・・・・・先生は?」
「もう全然だヨ! どこ行ってるんだろうネ」
「・・・・・・国外に逃げた可能性は?」
「冬紀ちゃん同様、全国の警察から追われてる身で? ないない・・・・・・それに、さ」
「はい」
「・・・・・・あの男がこの国を出るときは・・・・・・きっと芥川君が死んだときかなぁ!? ピヒャハハハハッッ!!」
そこまで言って、門次は頭巾を取った。
頭はつるりと剃り上げられ、一本の毛髪もない。
そして・・・・・・眼球があるはずの場所には、ただの穴が空いていた。
二つの眼窩は木の洞のようにぽっかり黒く、視力が有る無し以前の話しであることが分かる。
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