死が二人を分かつまで

”日常その参”

【座頭の針】

　十二月二十三日･･････クリスマス前でも、稽古は変わらない。



　今日も三人だけで、道場を往復している。



「移動稽古は体力も体幹も鍛えられますからね～！」



　移動稽古とは、基本の突きや蹴り、型などを移動しながら行うトレーニングのことである。



　普通は、通常の準備運動・その場での稽古を経て行われる。



　ゆえにかなり疲れている状態だ。



　汗も出て、息も上がっている。



「ハァハァ！！」


「新樹さん～無理はしないで下さいね～」


「はいっ！！」



　とーーーー



　ズルッ！！



「うわっ！」



　ずでんっっ！！



　新樹が転んだ。



　しかも、上段蹴りを放った瞬間に、軸足が滑ったのである。



「新樹さん！」



　すぐに芥川が駆け寄った。



「大丈夫ですか！？」


「だいじょ･･････いてて･･････」



　軸にしていた左足に痛みと違和感が･･････



「･･････（スッ）」



　セツナが無言で救急箱を持ってきて、冷感スプレーを取り出し、新樹の足に吹きかける。



　近くに彼女の顔があることで、新樹はドキッとしていたが、セツナはそんなことよりも足を心配していた。



「も、もういいから･･････」


「･･････」



　セツナが不安そうに芥川を見上げる。



「ふむ･･････」



　芥川がつま先をトントンと突いた。



「響きますか？」


「いえ･･････」


「腫れもない･･････骨には異常はないですね」



　しかし、新樹は立ち上がってすぐに気がついた。



「痛いッス･･････それと、なんか痺れみたいな･･････」


「･･････どうやら汗で滑ったらしいですね」



　じっくりと観察して、芥川は一応の診断を下した。



「おそらくは、筋肉と筋を伸ばしてしまったかな･･････」


『すぐに病院』


「批判するつもりは毛頭ないですが、整形外科に行っても、骨に異常がなければ湿布を出されてお終いです。西洋医学では限界がある･･････」


「じゃあ･･････どうすれば？」


「･･････先生のところに行きましょうか」



　クエスチョンマークの二人をつれて、タクシーで十分ほどの場所へ行く芥川。



　ついたのは、ガラス戸に『門次もんじ　医院』と描かれている平屋だ。