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”日常その弐”
【基本が大切】
しおりを挟む冬紀が東山邸に出現して一ヶ月ーーーー
彼女の動向は一切分からないままだ。
山崎が教えてくれたが、現職の大臣の自宅と言うこともあり、警察上層部がかなりコトを重要視したらしい。
周辺の住人に説明を行い、理解を得た上で二四時間態勢の警護が続けられることとなったのである。
屈強な、警視庁が誇る機動隊十五名。
必要とあらば即時発砲を許可されている、私服刑事も、張り込みを続けている。
芥川は無駄だと言ったが、それで引き下がるようでは国を護る仕事はできない。
警察も警察で、動き出しているのだ。
「・・・・・・黙想やめ!」
芥川道場にてーーーー
まだ時刻は昼前だったが、三人が神棚へ向かって正座をしている。
「それでは、稽古前に神前へ礼!」
「よろしくお願いします!」
「お互いに礼!」
「よろしくお願いします!」
「では・・・・・・始めましょう」
芥川の稽古は相変わらずだった。
個人に合わせた、マイペースな鍛錬。
芥川の壮絶な過去を知った新樹は「先生が経験した修練を積む」と願い出たが、芥川自身がそれを拒んだ。
「ダメです。アレはもはや荒行。私には私なりの、強くなる方程式があります。信じてください」
そう言われてしまうと、頷くしかなかった。
「それでは準備運動から」
身体中の筋を伸ばして、筋肉に軽く熱を持たせる。
こうすることによって、身体の緊張を緩めて怪我のリスクを減らすのだ。
芥川流のコツは、軽く汗をかく程度。
それ以下だと休憩ですぐに冷めてしまうし、それ以上ではこれからの稽古に支障を来す。
例を挙げれば分かり易い・・・・・・登山において、最初の三〇分は鬼門と言われている。
重いリュックサックを背負い、少し大きめの靴を履き、傾斜を登る。
初めの三〇分・・・・・・怒濤の後悔!
山なんてなんで登ろうと思ってしまったんだろう・・・・・・
家のベッドで毛布にくるまっていればよかった・・・・・・
汗でパンツまでビショビショ・・・・・・
もうやめたい・・・・・・下りたい・・・・・・
そうこうしていると・・・・・・三〇分が経つ。
すると・・・・・・不思議なことに、目の前の視界が明るく、そして広くなるのだ。
人の手が介在していない森を眺め、涼やかな川のせせらぎを聞き、爽やかな汗と心地良い疲労に包まれる。
そうして山頂に辿り着くと、こう思う。
「登って良かったぁ! 最高ぉ!!」
この感覚は、なにも登山だけにとどまらない。
単純に、山を登るというシンプルな動きゆえに、比喩表現にピッタリなだけだ。
サウナでも滝行でも、仕事でも運転でも同じこと。
そしてもちろん・・・・・・武術の稽古でも。
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