死が二人を分かつまで

”芥川 月の誕生”

【復讐の火種】

　･･････暗い。



　ピッピッ･･････



　聞こえてくる音も、聞き取りづらい。



　目がない･･････



　耳が千切られた･･････



　下半身も、感覚がほとんどない･･････



　息を吸う度に、肺が痛む。



　図体が規格外の自分用にしつらえられた、特大のベッドに横になりっぱなし。



　何もできない･･････



　死ぬことすら･･････舌を噛み切ることも許されない。



　おびただしい数の管がなければ、自分は排尿することすらできない。



　この･･････苦痛･･････ッッ



　地獄の火で炙られているかのような･･････長き拷問･･････



　誰でもいい･･････



　殺してくれ･･････



　でないと･･････



　残りの半生を、無様なまま、我慢しなければいけないのだ。



　気が狂う･･････ッッ



「ホント･･････酷いコトするわね」



　！？



　誰だ･･････



　聞き取りづらいが、ハッキリと自分の横から発せられた声。



　水のように透き通った、美しい声。



　しかも、外国人の俺に分かるように、言葉を変えている･･････



「月君たら･･････殺人術を応用して、こんな使い方するんだから」


「･･････」


「活殺術？　残酷ねぇ･･････死ぬよりも殺すなんて、私のことをイカレてるなんて言えるたちばじゃないわよね」


「あが･･････ふが･･････（誰だ！？）」


「あらら、舌まで･･････でも大丈夫よ。喉から発声する技術もあるわ」



　シーツの上から、下半身を触る音が聞こえる。



「こっちも、器具をつければ何とかなる。肺も、もう一回手術をすれば治るわ」


「？？」


「耳も復元できる。鼻もね。目は･･････流石に無理だけど、盲目でも使い物にしてあげる」


「ァ･･････アア！」


「あなたには恵まれたフィジカルがある･･････そして何より、殺人適正が備わっている」


「ア･･････オ、ウ･･････」


「うふふ♪　さあ･･････どうする？　このままベッドの上で人生を終える？　それとも･･････」



　耳のすぐ近く･･････鼓膜のそば･･････



「私と･･････夢を見る？」



　甘い甘い甘言。



「アアッ！　ウガァ！！」


（アイツを･･････殺す･･････殺す！　殺すッッ！！）



　ピッ！！　ピッ！！



「いいわぁ･･････その調子･･････♪」



　廊下を走る音が、遠くからした。



「じゃあ、行きましょう？　夢の･･････殺しても殺し飽きない、楽園へ！！」



　シャーッ！！



「心拍数が上昇してきてみたら･･････」



　夜間担当の医師と、ナースが目を疑った。



　空のベッドを見て、緊急事態のボタンを、震える指で押した。



　ポチ･･････



　ジリリリリリリリッッ！！！！



　ジリリリリリリリッッ！！



　ジリリリリリリリッッ！！



「緊急事態発生！！　容疑者逃亡！！」



　警察官が駆けつけ、状況を確認すると、本部へ無線で叫ぶ。



「こちら警察病院！！　大変です！！　『Mr.リズム』が逃亡ぉ！！！！」



　復讐の夜が明けたーーーー