死が二人を分かつまで

KAI

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”芥川 月の誕生”

【新樹の決断】

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「僕は・・・・・・稽古を続ける」


「新樹ちゃん!」


「母さん・・・・・・僕は・・・・・・強くなりたいんだ」



 芥川はあえて割って入らなかった。



「ママはね・・・・・・新樹ちゃんが心配なの・・・・・・分かってくれない?」


「・・・・・・危険は生きていれば付き纏う」



 新樹は初めて親に反抗した。



「外に一歩出れば、車に轢かれるかもしれない。常識の通用しない通り魔に刺されるかもしれない。ハチに刺されて、アナフィラキシーショックで死ぬかも」


「・・・・・・それは」


「このまま部屋の隅っこで震えてたら、また、弱かった昔の自分に戻っちゃう・・・・・・何もかもに怯えて・・・・・・護りたいものも護れない男になる」


「・・・・・・」


「強くなるまで・・・・・・それまで、僕は芥川先生から学ぶ。それが・・・・・・僕の答えだ」


『私も、芥川に拾ってもらった命・・・・・・彼の側にいる』


「二人とも・・・・・・」



 芥川は笑っていた。



 充足感に満ちた・・・・・・顔だ。



「本当に、弟子に恵まれている・・・・・・」


「これからも、よろしくお願いします!」



 新樹とセツナが、頭を下げた。



「・・・・・・だそうですが、どうですかね?」



 芥川がママを見つめた。



「ッッ・・・・・・もう・・・・・・何も言わない。けど、これだけは約束してください」


「なんです?」


「預かるのであれば、二人のことを護って。命に懸けて」


「クックック・・・・・・言われずとも」



 さて・・・・・・



「流石に、今日は他人様のご家庭に、干渉しすぎましたね。帰ります」



 芥川が立つと、セツナも同時に立ち上がる。



「山崎さんが送ってくれるそうです。さあ、我が家へ・・・・・・」


「・・・・・・(コクリ)」


「ああっ! そうだ!」



 芥川が振り向き、



「無礼ついでに、もうひとつお願いしてもよろしいですか?」


「・・・・・・なんでしょうか?」


「私も仕事がありまして・・・・・・それに、少々コトが大きくなってきた・・・・・・セツナさんを預かって欲しい日があると思うのですが、ダメでしょうか?」


「・・・・・・言われるまでもなく、セツナちゃんにはここに住んで欲しいくらいです」


「では、お言葉に甘えて・・・・・・」



 この日ーーーー



 あらゆる事象が動き出していた。



 丹波が・山崎が・芥川が・新樹が・セツナが・東山夫妻が・警察が・日本が・・・・・・



 バタフライエフェクトかのように、冬紀という個人の行動によって、瞬く間に影響を受けて動き出す。



 しかし・・・・・・それでも、毎日は変えない。



 当たり前の生活を守り抜く。



 コレもまた、命を拾った芥川の責務なのであった。


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