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”芥川 月の誕生”
【可及的速やかに】
しおりを挟む再び、東山邸。
静寂に支配された、重苦しい空気の中で、芥川は十五本目のタバコを消したところだった。
「以上が、私と冬紀の過去です」
東山財務大臣は、大層苦い顔をしている。
「・・・・・・貴方にそんな過去が・・・・・・」
「偏見を持たれても仕方ありません。ある種の洗脳状態だったことも、今冷静になって振り返ると分かる」
「そんな狂人親子に捕まって・・・・・・先生だって・・・・・・被害者だ」
「お優しいですね。新樹さん」
バンッ!
東山ママが、机をたたき、立ち上がった。
髪がふぁさっと下を向いているせいで、表情が分からない。
「芥川さん・・・・・・」
「何でしょう?」
「あなたの事情はよく分かりました。大変なのも、できる限り理解しようと思います」
「はい」
「ですが・・・・・・その話しを聞いてしまったからには、もう息子を道場へ通わせることはできません」
この突然の物言いに、パパも新樹も驚いた。
「母さん! 何言って・・・・・・」
「大切な息子を・・・・・・そんな危険なところへは行かせることができない」
「・・・・・・」
「セツナちゃんも、この東山が引き取ります。安全な場所で、もう辛い想いをさせないように・・・・・・」
「クックック・・・・・・」
芥川は笑った。
「・・・・・・何が面白いの!」
「安全? ここが?」
芥川は首を振る。
「機動隊が仮に一〇〇人いても・・・・・・無駄」
「なんですって・・・・・・」
「芥川さん、あなたの強さや信条はよく分かる」
大臣が割って入ってきた。
「だがね・・・・・・あんた、冬紀という女性を過大評価していないですか?」
「どこが?」
「たとえば警察の力・・・・・・貴方の話しが本当として、仮にスパイが紛れているとしましょう・・・・・・だからなんです? 警察は全国二〇万人がいます」
「・・・・・・」
「もっと言えば、現在警視庁が採用している防具・武具・武器・・・・・・あらゆる点で、一個人の限界点を超えている・・・・・・ミサイルや恐竜じゃないんだ・・・・・・ママの言うとおり、冬紀が逮捕されるまで、この家にいれば・・・・・・」
「・・・・・・大臣」
「・・・・・・なんですか?」
「あなたの権限で・・・・・・私に不逮捕特権をくれませんか?」
「ええ?」
「・・・・・・今から十分で・・・・・・この家の前にたむろしている機動隊全てを・・・・・・無力化します。そしたら・・・・・・冬紀の神話的なまでの強さ、信じていただけますか?」
「ふ、不可能・・・・・・」
「かつて・・・・・・宮本武蔵という天下無双の剣豪がいた・・・・・・彼は何十人もの刀を帯びた敵を相手取り、勝利した・・・・・・一個人が複数人を殺すことなんて、歴史を見ればいくつも前例がある」
吸い殻でパンパンになった携帯灰皿を、ポケットにしまい込みながら、芥川は続ける。
「そもそも・・・・・・冬紀は警察官も道行く一般人も、等しく敵と見なしていない」
「なに?」
「アリをひとりとカウントしない・・・・・・何匹いてもアリは蟻・・・・・・注目することもありません」
「・・・・・・そんなに・・・・・・」
「ええ。ですので、冬紀がシャバにいる以上は安全地帯など存在しない・・・・・・道場に通うかどうかはさておき、私の手の届く範囲が最も安全と言える」
「・・・・・・冬紀の目的は?」
「予測不可能・・・・・・彼女は気まぐれで、想像がつかない。幼少期からの虐待で、精神は大きく歪んでいる・・・・・・赤子がロケットランチャーを持っていたら・・・・・・と考えてみると分かりやすいかもしれませんね」
「・・・・・・僕は」
ここで、沈黙を貫いていた新樹が、口を開いた。
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