死が二人を分かつまで

KAI

文字の大きさ
上 下
84 / 300
”芥川 月の誕生”

【異常性の開花】

しおりを挟む


 冬紀はーーーー虐待されていた。



 前提条件を書いておくと、冬重にも被害者の冬紀にも、その認識はなかった。



 だが、異常だったことに間違いはない。



 冬紀が幼い頃に、すでに『空術』の修行が始まっていた。



 小学校には途中までしか行かせず、最低限の学力を身につけた彼女を、地獄の生活に引き込んだのは紛れもなく父冬重。



 井戸の・・・・・・底。



 突き落とされ、蓋を閉められながら言われた。



『上がってきなさい。泣き叫んでも、助けを求めても、だぁれも助けてくれませんよ!』



 そうは言われても、丸一日は泣いた。



 出してと叫んだ。



 しかし、冬重は来ない。



 自力で這い上がった。



 爪は剥がれ、肉が見え、血が滴り落ちながら・・・・・・



 貞子のごとく、井戸から這い出ると、家に戻った。



 ボロボロの彼女を迎えたのは、食事をしながら野球を見ている父親だった。



『遅い。次は二四時間以内に』



 嗚呼・・・・・・この人は自分を助けてはくれないんだ。



 小さいながらに悟った。



 それからも苛烈な拷問のような修行が続いた。



 しかも・・・・・・だ。



 この冬重の行動、きちんとした理屈があればまだしも、なんとで行うのだから恐ろしい。



『即身仏って面白いことを昔の人は考えつきましたねぇ! そうだ! 土の中の箱に入れて放置したら、精神力が身につくんじゃないですかぁ!?!?』



 そして、実の娘を埋める。



 狭い暗所ーーーー



 薄い空気ーーーー



 少女は半狂乱になり、箱の中で暴れたが、遂には三日後に掘り起こされた。



『悟り開けたかと思ったけど、狂っただけですかねぇ・・・・・・失敗失敗!! ヒャハハハ!』



 眩い陽光の中、薄れゆく意識の彼方で、嗤う父の声がしたーーーー



 そんな過去を知ってしまったからには、芥川も同情をせざるを得ない。



 ポツリポツリと呟く彼女を、背後から強く抱きしめた。



「辛かったでしょう・・・・・・寂しかったでしょう・・・・・・」


「・・・・・・」



 彼女の体は小刻みに震えていた。



「もう大丈夫・・・・・・私がいる。二度と辛い思いは・・・・・・!?」



 彼女は・・・・・・



 笑っていた・・・・・・



「今にしてみれば、イイ思い出よ。パパは私のことを本当に心の底から愛してくれていたの」


「そんな・・・・・・だって・・・・・・」


「フフフ・・・・・・あなたの驚く顔・・・・・・可愛い・・・・・・」



 唇が交わされた。



 その時、芥川も目をつむり、諦めた。



 嗚呼・・・・・・もうこの子も・・・・・・あの父親も・・・・・・救うことはできないのであろう。



 自分にできることは・・・・・・何もない・・・・・・と。



 そして、目の前の甘美な夜に、身を委ねたのだ。



 何倍も簡単で、ラクで、幸せに感じる。



 愛する彼女の、壮絶な過去を、見て見ぬフリをした。



 それが・・・・・・後悔に繋がるとも知らずに・・・・・・


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...