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”記憶に残る一日篇”
【恐ろしい思想と意外な過去】
しおりを挟む「・・・・・・以上が、分かっている限りの『黒真会』の情報です」
東山の家の中が、外の警官の声が聞こえてくるほど静まりかえっていた。
まるで夢物語のような、組織。
そんなものが実在するとは・・・・・・
大臣として、裏も表も見てきた東山財務大臣も、口を結んで聞き入っていた。
「ネットの都市伝説じゃなかったんですね・・・・・・」
やっと、新樹が口を開いた。
「作り話だとばかり・・・・・・」
「空想上の存在に、天下の警視庁がここまで本気になりますか?」
「・・・・・・ヤツらの狙いは何なんです?」
「・・・・・・皆様、『白真会』はご存知ですよね?」
四人が頷く。
「今さら説明の必要もないかもしれませんが、空手道の最大にして最強の団体『白真会』は、まさに日本の武道界の顔です」
フルコンタクト空手として名を馳せた『白真会』は、テレビで取り上げられる機会も多く、武を志す者以外でも、見聞きしたことはある。
海外にも支部が多く存在し、そしてそこでは『押忍』『アリガトウゴザイマシタ』とたどたどしい日本語が使われている。
「彼ら『黒真会』はそれをヨシとしていない・・・・・・あえて『黒』を名乗っているのは『白真会』の座を狙っているためです」
「狙っている?」
「日本武道文化の象徴ーーーー『白真会』を潰す。これが目的です」
新樹が異議を唱える。
「『白真会』は二代目会長の改革でより実戦に強くなった上に、減ったとは言え、五〇万の門下生を抱えていますよ・・・・・・流石に勝てないんじゃ・・・・・・」
「いいえ。安定した生活も家族も捨てた彼ら彼女らは、本気でやるつもりです」
「け、警察が壊滅してくれる。歴史を見れば一目瞭然だ。危険な反社会的組織は長生きしない。危険思想を有しているなら、なおさら警察が・・・・・・」
「無理です」
東山財務大臣の発言を、芥川は一蹴した。
「数やら権力やら・・・・・・そんな紛い物に屈するヤツらではない」
それに・・・・・・
「『黒真会』はまず間違いなく、警察内部にもいる」
「!?」
「いや・・・・・・警察だけじゃない。消防・自衛隊・国会にもその影を伸ばしていることでしょう」
「あり得ない・・・・・・」
「手段を問わない・・・・・・もしも人生のゴールが明確かつ厳格に定められた人間がいたら、どうなると思います?」
「・・・・・・?」
「ある目的のため・・・・・・そのために。何も前代未聞じゃないですよ? 戦国時代から江戸時代ではごくごく当たり前のことだった・・・・・・主君のならば己が犠牲も厭わない。現代社会にこの思想が持ち込まれたら、何が起こると?」
「・・・・・・さあ?」
「・・・・・・かの時代よりも、社会は複雑になった? いやいや・・・・・・私の目から見れば、実にシンプルになった・・・・・・」
芥川は続ける。
「勉学をし、前科を持たずに、模範的な市民を演じる・・・・・・そんなことだけで、一国の首相にさえなれる」
「なっ・・・・・・」
「不可能ですか? 可能だ・・・・・・一%でも細い道があれば『無敵の人』には簡単なことです」
指を動かす。
「まず試験に合格する。身体検査を合格する。身辺調査をクリアする・・・・・・するとあら不思議・・・・・・立派な警察官のできあがり・・・・・・簡単です」
「言葉にすればそうだが・・・・・・」
「貴方たちはヤツらの本気度を知らない。文字通り死ぬ気でやります。主君のため」
「だったら・・・・・・」
「ええ。いくら警察が動こうとも、無駄です」
東山財務大臣が頭を抱える。
がーーーー
新樹が手を挙げた。
「あの・・・・・・何でそんなに詳しいんですか?」
「・・・・・・」
初めて、芥川が言葉を詰まらせた。
鼻から、息を吸って・・・・・・ふぅ、と、吐く。
「・・・・・・大変不躾なのは承知してますが、ひとつお願いがあります」
「な、なんでしょうか?」
「タバコ・・・・・・ここからの話しは、煙と共にでも吐かないと出てきません」
「・・・・・・いいですよ」
ラッキーストライクの箱を揺すり・・・・・・
一本取り・・・・・・
フィルターを咥えて・・・・・・
火をつける。
ここまで、所要時間・・・・・・十五分!!
「・・・・・・ふぅ」
紫煙がリビングに拡がり、雲を作って消える。
「・・・・・・冬紀」
「え?」
「あの、冬紀が『黒真会』の始祖です」
「はあ・・・・・・で?」
「・・・・・・その冬紀は・・・・・・」
芥川が目を閉じた。
「私の妻でした」
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