死が二人を分かつまで

KAI

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”記憶に残る一日篇”

【ママの後悔】

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「セツナちゃん! この間、美味しそうなクッキーの詰め合わせを買ったの! 一緒に食べましょう?」


『はい』



 暖房のついた居心地の良いリビングに、ココアにクッキー。



 これ以上何が必要か・・・・・・と思わせるほど、この空間が好きだ。



 セツナはクッキーを小さな口で食べながら思った。



「カワイイ~♪ ハムスターちゃんみたい!!」



 もう東山ママはメロメロだ。



「母さん、僕のは?」


「新樹ちゃんの分もちゃんとあります~」



 距離が近い親子だ。



 まるで友達同士。



「僕トイレ行ってくる」


「は~い」



 ガチャン・・・・・・



 ・・・・・・ママとセツナが二人きり。



 女子トークでも始まるのか?



「・・・・・・新樹ちゃんのこと、どう思ってる?」



 ママが唐突に質問した。



 クッキーをつまむ手を止めて、ホワイトボードを持った。



『兄弟子』


「そう・・・・・・優しい?」


『・・・・・・少なくとも、今まで会ったどんな男よりも優しいとは』


「そう・・・・・・そうなの。優しい子なの」



 なんだか、ママがしおらしい。



 いつもは勝ち気で活き活きとした母親なのに・・・・・・



「・・・・・・あの子には言わないで欲しいんだけど、私もパパも、後悔しているの」


『なにを?』


「・・・・・・あの子が、小学校の頃からイジメに遭っていたことに、気がつけなかった」



 ママは肩を落として、遠くを見ている。



「・・・・・・あの頃は忙しかった。パパがちょうど当選して議員になった時期でね・・・・・・もちろん、言い訳なのは分かってる」



 そのまま、続けた。



「パパも信念があったし、私もそれを信じていた。まさに戦場よ・・・・・・だけど、家庭を顧みなかったことは、両親失格」



 ため息をつく。



「気がつくチャンスはいくらでもあったわ。あの子の教科書がなくなっていたり、泣きはらした目で帰ってきたり・・・・・・それでも、毅然として『何もなかった』って・・・・・・まだ小さい息子に、気を遣わせてしまったの」



 目尻に、雫が貯まっていく。



「パパが内閣に入って・・・・・・そこでようやく振り返ったの・・・・・・自分が護るべきだった場所を・・・・・・家庭を・・・・・・手遅れだった」



 カップを持つ手が震えていた。



「あの子は外で人と会うだけで、症状が出るほど酷い対人恐怖症に・・・・・・私たちのせいよ・・・・・・あの子を見捨てたと言われても、言い返すことなんてできない」



 その時だ。



 震える手を、セツナが包み込んだ。



「セツナちゃん・・・・・・」


「・・・・・・」



 キュキュッ



『大丈夫。今からでも遅くない』



 ここであえて『悪くない』や『そんなことない』などの薄っぺらい言葉は使わなかった。セツナの優しさだ。



 自分を責める人間に『』と言っても無理に決まっている。



 むしろ酷なことだ。



 ならば、どん底まで悩めばいいし、悔いればいい。



 そしてーーーー這い上がればいいのだ。



 そうすれば、元通り。



 自分で落ちて、自力で這い上がる。



 ココが肝要。



 セツナの、過去のせいで年齢よりも達観した思考によるものである。



 きっと、ママが抱えている苦悩はもうしばらく続くだろう。



 残酷だが、現実だ。



 それでも、自分の力で戻ってくる。



 そうして初めて、脱却に成功するのだ。



『心配しないで、新樹を見守れば、答えは出てくる。大丈夫』


「ぐすっ・・・・・・本当かしら・・・・・・」


『信じて。あなたの育てた子供でしょ?』


「そうね・・・・・・自慢の・・・・・・息子だもの!」



 泣いてはいたが、笑顔に戻った。



 小さな一歩だが、大きな一歩だ。



 ガチャン



「何か話してた?」


「ふふっ・・・・・・女子の話しを聞くもんじゃありませ~ん」



 そう気丈に振る舞っているが、赤くなった目を見せないようにしていたーーーー


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