死が二人を分かつまで

KAI

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”記憶に残る一日篇”

【山崎の苦悩】

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「ですが・・・・・・まぁ見つかれば苦労してないんですけどねぇ~」


「・・・・・・ふん」



 山崎はようやくフィルターを口から剥がした。



 なんと平たくなるほどにフィルターを力強く噛んでいたことに気がついた。



「・・・・・・お前、そういえば金はあるのか?」


「ギクッ!」



 完全に芥川の凄みが出てくる場面だったが、山崎の質問で瓦解した。



「まさか・・・・・・借金なんてしてないだろうな?」


「まだしてません・・・・・・」


「『』だと?」


「・・・・・・ハハハ・・・・・・ハハハ」


「笑って・・・・・・誤魔化すんじゃない!」



 ガツンと、丸みを帯びた拳が、ちゃぶ台を揺らした。



「・・・・・・すみません」


「全くしょうがないヤツだ・・・・・・」



 山崎が頃合いを見計らったかのように、一枚の封筒を差し出した。



「あ、お心付けは結構です・・・・・・」


「勘違いするな。コレは宇嶋うじま先生からの伝言だ」


「宇嶋先生?」


「ああ。お前も、もう今は養う存在がいるんだぞ。ちゃんと後先考えろ」


「・・・・・・はい」


「それじゃあ、俺はもう帰る」



 立ち上がり、ドアまで歩く・・・・・・



 ・・・・・・感じる。



 背後から、強者の感覚が・・・・・・



 それでも・・・・・・



 ガチャ・・・・・・バタン



 山崎は出て行った。



 ・・・・・・



 ・・・・・・



 ・・・・・・



 警察官たる者、スーツを着こなすのはもちろん。



 しかし逃げる相手を追いかけるためにも、スポーツシューズを履くのがコツだ。



 玄関で靴を履き、そして外へ・・・・・・



「アンタはヤらんのか?」



 丹波の声だ。



 外に停めてあった黒塗りの高級車で、タバコを吸いながら優雅に待っていたのである。



「・・・・・・関係ないだろう」


「ウソついとるな? ホンマはヤってみたくてしょうがないンやろ?」


「・・・・・・勝てん」


「ヤりゃな分からンよ? それに・・・・・・本気の勝負味わってみたくないン?」


「・・・・・・」


「組手やしょーもない喧嘩じゃあ感じることのできン真剣勝負の味・・・・・・一度味わったら、病みつきになるで?」


「チィ・・・・・・」


「それとも、しょせんは武道家やのうてスポーツマンっちゅうことかい?」


「あまり舐めてると銃刀法違反で逮捕するぞ丹波」


「へいへい。それじゃ、また会おうや」



 ブーン・・・・・・



 ・・・・・・分かってるさ。



 やってみるまでもない。



 芥川は自分とは違う世界の住人だ。



 そりゃ・・・・・・年齢も社会的地位も、家庭があって自慢の娘が難関大学に受験中という事実だってある。芥川よりも表面上は、恵まれているかもしれない。



 だが・・・・・・それはあくまでも『』に過ぎないッッ!!



 も、も・・・・・・強さという唯一無二の能力に手が届かなかった者が、代わりに調達する『強さ』の『』だ!!



 それさえあれば、弱くたって威張れる。



 しがみついて「どうだ」と吠えることができる。



 しかし、そんなもの、本物の強さの前では何の役にも立たない。



 本当の円が描けないように・・・・・・どれほどの方程式を展開しても、計算は完成しない。



 本当の○・・・・・・それがあの芥川だ。



 それと比べてしまえば・・・・・・自分は、どれほどいびつな○なんだ??



 ・・・・・・耐え難い。



 アイツに会う度に・・・・・・いきなり襲いかかりたくなる。



 俺だって・・・・・・やればできるんだッッ!!



 ・・・・・・と、何度も思う。



 しかし、思うばかりで実際に行動にしたことは、ない。



 自分の拳を見る。



 嗚呼・・・・・・すまない。



 散々痛めつけてきた。



 荒縄を殴った。角材を殴った。コンクリブロックを殴った。



 おかげで、拳はでこぼこ・・・・・・岩を包み込むゴムのような拳ダコが、育った。



 ありがとう。



 だけれども・・・・・・それでも、挑戦できない。



 お前たちに課してきた荒行が、灰塵に帰す?



 そんなこと耐えられねえよ・・・・・・



「・・・・・・まだまだ金玉が小せえってことかぁ」



 山崎が去って行く。



 その足取りは重く、鬼刑事の威厳はなかった。




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