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”記憶に残る一日篇”
【猛虎・丹波】
しおりを挟む丹波と芥川が向かい合う。
二人とも戦闘に向いている服ではない。
丹波スーツだし、芥川は作務衣のまま。
しかし・・・・・・コレは試合でも、ましてや組手でもない。
殺し合い・・・・・・
丹波がドスを上空へ放り投げる。
そしてくるりと一回転。
パシッ!
器用に鞘を掴み取り、歯を見せた。
「ワクワクするで~」
グッ・・・・・・
芥川が・・・・・・構えた!!
ギャング・道場破り・迷惑系配信者・・・・・・数多の敵をいなしてきた彼が、初っ端から構えている・・・・・・
「ヒヒヒ・・・・・・いいでぇ・・・・・・嗚呼! あかん! アソコが堅くなってもうたぁ!」
「セツナさんの前で下ネタはお控えください」
と談笑していた瞬間だった。
ダッ!!
丹波が仕掛けた。
ドスを右手に持ち、腹に向かって思い切り突いた。
それを片手でブロックし、芥川はガラ空きの丹波の鳩尾へ足刀をぶちかます。
「ぐはぁ・・・・・・いいでぇ」
苦痛が快楽へと変わっている。
丹波がハイキックを放った。
それも・・・・・・超接近した状態でだ。
関節がかなり柔らかい。
芥川は右手で掴んだ。
さらに、左手で太ももの付け根を掴む。
「ふんっ!!」
足を背負う形で、そのまま丹波の体を浮かせた。
一本背負いーーーー
だが、足を取られているので、通常の一本背負いとは異なり顔面から床に投げつけられる。
グシャッ!!
受け身もとらずに、丹波は柔らかい顔の中心から着地した。
「いっだぁ!!」
転がり、痛みに苦しんだかと思うと、すぐに立ち上がった。
鼻が曲がり、血が垂れているがその顔は満面の笑み。
「・・・・・・引っかかったのぉ」
・・・・・・何を言っているんだ?
間違いなく優勢なのは芥川だ・・・・・・
新樹もセツナも、不思議に思っていた。
ポタ・・・・・・
ポタポタ・・・・・・
!?
「せ、先生ぇぇぇ!!」
「・・・・・・ッッ!!」
芥川の左脇腹に・・・・・・ドスが深々と刺さっている。
そこから、赤い雫が床に落ちていた。
「・・・・・・罠ですね?」
「その分、ワシも顔が潰れたが・・・・・・骨を断たせて随を断つのが・・・・・・ッッ」
ビュッ!!
丹波の素人丸出しのキックが、芥川に直撃する。
脇腹だ・・・・・・
腹を蹴ったのではない。
ドスの鞘を蹴り、より深く刺さるように力を入れたのだ。
「うっ・・・・・・」
「ワシの喧嘩じゃあ!!」
「ぐっ・・・・・・」
丹波はふらついている芥川に向かってジャンプした。
地面を強く蹴り、上空へ舞ったのだ。
そして両腕を天高く掲げると、両手の指を絡めてハンマーを作った。
「おりゃぁ!!」
ガスンッッ!!
堅いハンマーで殴られ、芥川は姿勢を崩した。
その隙を見逃さないのが、丹波だ。
ガッ!!
「返してもらうでぇ・・・・・・」
鞘を掴んでいる。
ザシュッ・・・・・・
血液を纏った刃が抜かれ、血飛沫が飛び散る。
血まみれのドスを翻すと、芥川の脳天へ一直線に振り下ろした。
パシィィ!!
汗と血で濡れた手で、芥川が真剣白刃取りを魅せる。
「おお! 掴みよった!!」
ドガッ!!
またもや蹴り飛ばされる丹波。
しかし、流儀は忘れない・・・・・・
「・・・・・・ッッ」
芥川は顔を歪めた。
蹴られ、離されたほんの一瞬ーーーー
そこで芥川の手首を斬り裂いたのだ。
まるで、カマイタチの手腕である。
「ヒヒヒ・・・・・・行くで・・・・・・ガッカリさせんなやぁぁあ!!」
ザシュッ!!
ドシュッッ!!
バシュッッ!!
見たことのない体捌きーーーー
まるでダンスでも踊っているかのように、体を上下前後左右へ動かし、ドスをくるくる手の中で回転させながら斬り裂いていく。
芥川の作務衣が徐々に裂かれていき、肌と肉が見えてきている。
ビチャビチャ・・・・・・と、道場の床が赤く染まっていく。
「ほらほらどした!? こんなモンやないやろ!!」
ゴッスン!!
丹波のくり出したヤクザキック!!
あれほど打たれ強い芥川の頭がサッカーボールのようにガクンと動き、とうとう膝をついた。
「ハハハ・・・・・・お強い・・・・・・」
「そりゃそうや・・・・・・ワシやからのぉ!」
ビュッ!!
丹波が芥川の顔面を狙って、正面から一直線にドスを放った。
ーーーー
(流石だ丹波さん。貴方に武術で対抗しても無駄だ)
迫り来るドスを見つめながら、芥川は考えていた。
(そう・・・・・・一見すると敗北間近なこの姿勢・・・・・・これこそが私の秘策)
ズン・・・・・・ズン・・・・・・!!
(膝をつき、体を前傾してしまえば、自ずと顔を狙うしかありませんよね? 他の部位は下過ぎる・・・・・・)
いよいよ取り返しのつかない地点まで、鋒が迫るッッ!!
(ココ!! 刃物使いの貴方が最も攻撃的で、尚且つ隙が生ずる一瞬!!)
今だ!!
芥川の足がバネに弾かれたかのように、丹波の足を刈った。
「おわっ!?」
だが、これしきで刃は止まらない。
すぐにドスを持っている右腕を上下に挟み、グイッと上へ持ちあげた。
自然と、丹波はバレリーナのごとき格好となった。
つま先は浮き、背中を芥川へ向け、腕は上へ。
「丹波さん。ちょっと危ない領域になってきたので、終わりにします」
シュンッッ!!
持ちあげた腕を、丹波自身の踵目がけて一気に落とす!!
その間、わずかコンマ二秒!!
(あっちゃ~こりゃぁ、やられたわ)
さしもの丹波も、笑みがなくなっていた。
ドチャッッ!!
丹波は奇妙な姿勢になった。
足は地面すれすれに浮かんでいるが、そのすぐそばに頭もある。
逆Uの字型になり、固まっていた。
「ハァハァ・・・・・・貴方に勝つためには、意識を飛ばさないと・・・・・・手足を壊しても噛みついてきますからね・・・・・・」
ドサリ・・・・・・
失神した丹波が仰向けに倒れた。
しかしその顔は・・・・・・
「なんと・・・・・・貴方には脱帽します」
スッキリとした、笑顔だった。
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