死が二人を分かつまで

KAI

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”記憶に残る一日篇”

【仏の顔その壱】

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 数分後ーーーー



「うん。膝の皿は割れてはいません。亜脱臼に近いですが、炎症は病院で痛み止めを貰えば一週間ほどで治ります」



 レックス・谷の応急手当を、芥川がしている。



 カメラマンも、もうカメラを下げて、居づらそうにしている。



「肘はタップしたのが早かったので、異常はありません。格闘技の経験が活きましたね。本気でひしぎを喰らっていたら逆に折れてましたよ?」


「はい・・・・・・」



 あれほど啖呵を切っていたレックス・谷は、もう鳴りを潜めて大人しかった。



「一応、コレを」



 芥川が松葉杖まで用意していた。



「歩くのが難しかったらタクシーを使ってください。充分に冷やしましたので、あとは病院へ」


「分かりました・・・・・・」



 とーーーー



「あの・・・・・・」



 スタッフ兼カメラマンの男が近づいてきた。



「おや、貴方もやりますか?」


「と、とんでもない!」



 ずり落ちそうな眼鏡を戻して、なにやら鞄をまさぐっている。



「こ、こちらを・・・・・・お納めください」



 出てきたのは分厚い封筒だった。



 中身は・・・・・・見ずとも分かった。



「・・・・・・なんの真似ですか?」



 芥川の目が細くなり、声が少し低くなった。



「そ、その・・・・・・今日の道場破りの結果・・・・・・このお金でどうか他言無用でお願いします」


「・・・・・・ほお」


「SNSとか、掲示板にも書き込まないでください・・・・・・その代わりと言ってはなんですが、一応こちらの誠意ということで・・・・・・」


「・・・・・・ふむ」



 なるほど・・・・・・今まで勝った動画ばかりがアップロードされていたが、どうやらカラクリはこうらしい。



 まずは挑発。



 そして戦う。



 勝ったらもちろん動画にしてネットのオモチャにしてやるが、負けたら金を積んでなかったことにしてもらう。



「・・・・・・こすいやり方」


『同感』



 新樹もセツナも呆れている。



 だが、金を受け取るかどうかは芥川次第だ。



 まあ、自分たちの敬愛する師匠がこのような汚い金、受け取りはしないだろう。



 そう思っていた。



 が・・・・・・



 スッ・・・・・・



 芥川の腕が伸びていく。



「ちょ、先生!!」


「・・・・・・」



 芥川の手が、いつの間にか封筒目前に迫っていた。



「・・・・・・」


「どうされました? ささ、受け取ってください」


「・・・・・・クククッッ」



 芥川が金を受け取る寸前で笑っている。



 それほど経営に行き詰まっているのか?



 違う・・・・・・



「・・・・・・眼鏡、伊達でしょう?」


「!・・・・・・それは・・・・・・」



 その瞬間!



「シィィィ!!」



 芥川の目にも留まらぬ手刀が、振り下ろされた。



 シュパッ・・・・・・



 ポロ・・・・・・



 カメラマンの眼鏡が一刀両断・・・・・・



 !?



 カメラのフレームは切られているが、その中に細い電子機器に使われるような配線が露出しているのであった。



「バレバレ・・・・・・その眼鏡、カメラでしょう?」


「ッッ・・・・・・」


「金の受け渡しの様子を撮りたかったのでしょうが・・・・・・無断での盗撮は許しません」



 姑息にもほどがある・・・・・・



 芥川が金を受け取るその瞬間をカメラに収め、それを後から動画編集でイジるつもりだったのだ。



 熟練の編集者ならば、簡単な話し・・・・・・受け渡しの映像を逆にさえしてしまえば、あたかも『芥川が金銭を渡して八百長を頼んだ』風になる。



 狙いはそれだった。



 だが、ひとつしか残っていないとはいえ、芥川の眼は誤魔化せない。



「その金で新しい隠しカメラでも買いなさい。それで、日銭を稼げばいい」


「クソ・・・・・・」


「あなた方はまったく・・・・・・救いようのない」


「救われたいとも思わねえよ!」



 酷い・・・・・・



 手当てまでしてもらったにもかかわらず、この悪態。



 だが、この日の闖入者は、これにとどまらなかった。



「お~い!」



 全員が見やる。



 そこに立っているのは、真っ赤なスーツの坊主頭の男。



 醸し出す覇気は、にこやかに笑おうとも漏れ出ている。



「・・・・・・谷さん、でしたっけ?」


「は?」


「今すぐに帰りなさい・・・・・・ここからは、貴方のレベルとは違う世界です」



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