死が二人を分かつまで

KAI

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”記憶に残る一日篇”

【迷惑千万 レックス・谷】

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「靴を脱がんかぁぁぁ!!!!」



 新樹の声が、道場の壁に反響し、ビリビリと響いた。



「え?」


「靴を脱げ!! ここは神聖な道場だ!!」


「あ~はいはい・・・・・・」



『レックス・谷』が靴を脱ぐ・・・・・・と・・・・・・



 ブンッ!!



 土のついたスニーカーが、新樹の道着に当たる。



 投げられたのだ。



「お前ら・・・・・・」


「ちっちぇ~! オマエみたいなチビの言うこと聞くと思ったぁ?」



 新樹はこの男を知っている。



』・・・・・・ネット配信者にして、暴露・ケンカ自慢・道場破り・私人逮捕・凸撃撮影など、あらゆる迷惑動画をアップしている人気のインフルエンサーだ。



 登録者は百万人を超えており、彼の一挙手一投足がネット記事に挙げられることも珍しくない。



 過激なスタイルの彼だが、一番人気のコンテンツが道場破り。



 総合格闘家という過去を持つレックス・谷は、実力を兼ね備えている。伊達にプロを名乗っていたワケではない。ボクシングジム・格闘技ジム・武道道場などに、無礼千万で乗り込んでやっつける。



 この映像によって、潰されたジム・道場は十や二十では収まらない。



「で・・・・・・俺のことは知ってるよな?」


「ああ・・・・・・」


「じゃあさ、時は金なり・・・・・・道場の師範を呼んでもらっていい?」


「・・・・・・断る」



 新樹が毅然とした態度で立ち向かう。



「僕が相手だ」



 レックス・谷は笑うかと思った。



 だが、後ろのカメラマンとなにやら話し合っていた。



「なぁ? コイツでいいのかな?」


「あんなチビ倒しても再生回数回んないって」


「だよな・・・・・・」



 あくまでも、レックス・谷はビジネスでやっている。



 相手は誰でも良いというワケじゃない。



 動画映えする、強そうな相手じゃなければいけない。



「う~ん・・・・・・道場主じゃないとさぁ・・・・・・俺も弱い者イジメとか、アンチが騒ぐワケよ」


「知ったことじゃない。ここは僕らの大切な道場だ。それを脅かすヤツは倒す!」


「そういう正義感とかどうでも良いからさ~」



 とーーーー



 セツナが割り込んできた。



『・・・・・・強い相手ならいいの?』


「そ、そうだけど・・・・・・お嬢ちゃんもここの門下生?」


『私が、相手をする』


「いやもっとダメでしょ! 女の子怪我させたら、それこそ垢バンだって!」


『なら、帰って』


「しょうがないなぁ・・・・・・じゃあさ、折衷案で、そこのちっちゃいので」



 新樹がご指名された。



 不安そうなセツナの肩を持ち、頷く。



「大丈夫。僕がやる」


「・・・・・・(コクリ)」



 レックス・谷と新樹が対峙した。



「コレ、一応持ってきたから」



 レックス・谷が一枚の紙ペラを出す。



「今日の立ち会いにて如何なる事由が起ころうとも、私の自己責任とします・・・・・・って、必要ないかもだけど」


「上等・・・・・・」



 カメラの赤いランプが点いた。


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