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”日常その壱”
【悪くない敗北】
しおりを挟む新樹が裸足でハイキックを放った。
が、
シュッ・・・・・・
セツナは両足の位置を交差させただけ。
それだけだったが、新樹の狙った頭部は後ろに引かれ、当たらない。
さらに、新樹の足を掴むことにも成功した。
「・・・・・・マジかぁ~」
ここまでくると、むしろ変な笑いがこみ上げてくる。
「・・・・・・」
「・・・・・・どうしたんだよ・・・・・・この続きも習ったんだろ!? やってみろ!!」
もう打開策はない。
蹴り足は取られ、軸足だけで立っている状態だ。
セツナは少しばかりの逡巡の末にーーーー
「・・・・・・むんっ!!」
蹴り足を肩に担ぎ上げる要領で、距離を縮めた。
当然、セツナの接近により新樹の足は天高く上がってゆき、立ってられないマリオネット状態になってしまった。
そして・・・・・・
ガッ!
セツナは骨盤付近まで急接近すると、新樹の軸足の膝を刈った。
そのまま・・・・・・
ドスンッッ!!
新樹は辛うじて受け身をとったが、またもやマウントを取られ、セツナの美貌を見上げる形になった。
「・・・・・・シュッ!!」
拳が降ってくる・・・・・・ッッ!!
新樹は目をつむった・・・・・・
だが、予測していた打撃は来ない。
「えっ・・・・・・?」
寸止め・・・・・・
伝統派空手などで見られる、勝負の決め手。
新樹の鼻の上で、拳が静止している。
サァ・・・・・・汗が滝のように流れる。
「認める・・・・・・僕の負け・・・・・・だ」
それを聞くと、セツナは新樹の身体から離れて、ホワイトボードを拾い上げた。
『胸を貸していただき、ありがとうございました』
ペコリ・・・・・・
・・・・・・
「へっ・・・・・・僕が腐ってる間に、礼節まで身につけやがって・・・・・・」
「新樹ちゃん!」
急いで、パパとママが飛び込んできた。
「大丈夫? 怪我はない?」
「うん・・・・・・正直、視界がぐにゃっとしてるけど・・・・・・」
「頭を冷やしましょう。家の中へ戻りなさい」
「はい・・・・・・」
息子を倒したんだ・・・・・・きっと、嫌われた。
セツナはダウンを着ると去ろうとした。
が、
「お嬢ちゃんも、家の中に入りなさい」
ママだ。
「??」
「外は寒いわ。温かいココアでも飲んでいって」
「母さん・・・・・・」
「新樹ちゃん・・・・・・」
その時ーーーー
温厚な母親の頭から、角が生えているのが見えた・・・・・・
「出会い頭に女の子を蹴ろうとして、まさかこのまま帰すなんてこと・・・・・・許すと思う?」
ヤバい・・・・・・
夕食の具にされる・・・・・・
「・・・・・・すみませんでした」
「まったく・・・・・・お嬢ちゃん、お名前は?」
「そいつはセツナって言うんだよ」
「セツナちゃん。どうか息子の無礼な行動を許してあげて・・・・・・」
『そもそも、無礼とは思っていない』
「くつろいでいって。さ、家の中へ」
セツナはちょっと考えた後に、靴を脱いで家の中に入った。
バタン・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「・・・・・・作戦成功」
曲がり角でタバコを吸っている、作務衣姿の男がいた。
「『大木刈り』・・・・・・ミックスさせたオリジナル技を使うとは流石・・・・・・ハックション!!」
ぶるりと、芥川は震えていた。
「寒いぃ・・・・・・カッコつけて遠くから見守るんじゃなくて、私もお邪魔したかったぁ!」
白い息を吐きながら、弟子たちの様子を窺っていた、芥川なのだったーーーー
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