死が二人を分かつまで

KAI

文字の大きさ
上 下
46 / 300
”日常その壱”

【東山一家の日常】

しおりを挟む


 東山邸ーーーー



「はぁ~い! ママ特製のハンバーグですよ~♡」



 四〇代後半とは思えぬ美貌の東山ママが、ニッコリ笑って昼食の準備をしていた。



 テーブルには、珍しいことに東山パパことーーーー東山ひがしやま 紀明のりあき 財務大臣ざいむだいじんが。



 岩のような鉄仮面に、深い眉間のシワ。センター分けの髪は真っ黒に染めており、姿勢はピシッと正しい。



 厳格で、寡黙な印象を受ける男性だった。



「いただきます」


「いただき・・・・・・」



 ここまで言って、紀明大臣はハッと目を見張った。



「コレ、ママが作ったのか?」


「ええ。そうよ♪ パパ♪」


「す、凄い・・・・・・まるでレストランみたいじゃないかぁ~!」



 オーバーすぎるリアクション。



「あら、お世辞がお上手で」


「世辞なんか言っていない! ママ・・・・・・毎日味噌汁を作ってくれぇ!」


「フフッ・・・・・・二〇年前のセリフそのままね♡」


「ママ・・・・・・」


「アナタ・・・・・・」



 昼間からピンク色の雰囲気がリビングに拡がっていく。



 ・・・・・・両親のイチャつく場面なんて、思春期の息子からしたら耐えられない。



 が、新樹はホカホカのハンバーグを箸で割り、口まで運んでゆっくりと咀嚼していた。



 見慣れた・・・・・・十九年間もイチャコラされたら、もう何も気にならなくなっている。



「で・・・・・・新樹、最近はどうだ?」


「別に・・・・・・」


「・・・・・・芥川さんの道場、行っていないんだって?」



 うっ・・・・・・



「・・・・・・まぁ」


「継続は力なり・・・・・・だぞ」


「・・・・・・大学の勉強があるし・・・・・・」


「パパの息子なんだから勉強なんて楽勝だろう! なんたって!! 自慢の息子新樹ちゃんなんだから!!」



 パパが痛いことを言い出した。



「芥川さんは本当に素晴らしいお人だ。学ぶところも多いはず。机上の勉学だけじゃなく、人間性も勉強しなさい」


「・・・・・・父さんに関係ねーし」



 その瞬間・・・・・・



 カランカラン・・・・・・



 紀明大臣が震える手から箸を落とした。



「か、か、か、関係ない・・・・・・そんな冷たいことをたったひとりのパパに・・・・・・反抗期ってヤツか?」



 目がうるうるしている。



「そうだよな・・・・・・もうすぐ二十歳の男子に、こんな過保護なパパ・・・・・・ウザいよな・・・・・・うん。ごめん」


「はぁ~」


「ため息!? ハハハ・・・・・・パパ・・・・・・死んじゃおうかな・・・・・・こんなダメパパで本当にごめんなさい・・・・・・大臣とか言われて天狗になってすみません・・・・・・」


「パパ! シャキッとしなさい!!」



 ママがげきを飛ばした。



 もう塩をかけられたなめくじのようなパパの背中を、バシッと叩く。



「アナタは国民の皆様のお金を預かる身でしょ? そんな弱腰でどうするの!!」


「でも・・・・・・この前、街頭インタビューで『この東山って大臣、影が薄いよね』ってが言ってたし・・・・・・」


さんと、私、どっちを信じるの? アナタならできる。大丈夫よ」


「ママ・・・・・・」



 本当に面倒くさい・・・・・・我ながら癖の強すぎる両親を持ったものだ・・・・・・



 記者会見では、あんなに記者たちから嫌みったらしい質問をされてもケロッとした顔で一蹴するのに、家ではメンヘラもいいところ。



 落ち込むパパを、ママが励ます。



 これがルーティンと化している。



 そして、それを見守る息子も・・・・・・習慣となっているのだ。



「新樹ちゃん」



 ママの声・・・・・・しかし、いつものふんわりとした感じじゃない。



 真剣な声だ。



 泣いているパパを抱擁しながらで、少し絵面は悪いが・・・・・・



「自分のウソはつかないこと。これだけは守って」


「・・・・・・」


「道場に行かないのも、きっとなにかワケがあるのでしょう。でも、それを聞き出そうなんてしない・・・・・・自分の道よ。自分で決めなさい」


「・・・・・・分かってるよ」


「なら、いいわ」



 とーーーー



 ピンポーン♪



「あら、誰か来たわね」



 ママが立とうとした。



 しかし、子泣き爺のごときパパが放してくれない。



「しょうがないわね~新樹ちゃん。悪いけど出てきてくれない?」


「・・・・・・いいよ」



 上下スウェットで、廊下を進み、玄関へ。



 ガチャリ・・・・・・



「誰です・・・・・・か・・・・・・」



 立っていたのは美少女だった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART1 ~この恋、日本を守ります!~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)
キャラ文芸
「もうこんな国、どうなってもいいんじゃない?」 みんながそう思った時、でかいゾンビの大群が襲って来て、この国はあっけなく崩壊した。 でもまだ大丈夫、この国には『あのお姫様』がいるから…! ゾンビも魔族も悪い政治家・官僚まで、残らずしばいて世直ししていく超絶難易度の日本奪還ストーリー、いよいよ開幕。 例えどんな時代でも、この物語、きっと日本を守ります!!

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

宝石のような時間をどうぞ

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 明るく元気な女子高生の朝陽(あさひ)は、バイト先を探す途中、不思議な喫茶店に辿り着く。  その店は、美形のマスターが営む幻の喫茶店、「カフェ・ド・ビジュー・セレニテ」。 訪れるのは、あやかしや幽霊、一風変わった存在。  風変わりな客が訪れる少し変わった空間で、朝陽は今日も特別な時間を届けます。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...