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”日常その壱”
【東山一家の日常】
しおりを挟む東山邸ーーーー
「はぁ~い! ママ特製のハンバーグですよ~♡」
四〇代後半とは思えぬ美貌の東山ママが、ニッコリ笑って昼食の準備をしていた。
テーブルには、珍しいことに東山パパことーーーー東山 紀明 財務大臣が。
岩のような鉄仮面に、深い眉間のシワ。センター分けの髪は真っ黒に染めており、姿勢はピシッと正しい。
厳格で、寡黙な印象を受ける男性だった。
「いただきます」
「いただき・・・・・・」
ここまで言って、紀明大臣はハッと目を見張った。
「コレ、ママが作ったのか?」
「ええ。そうよ♪ パパ♪」
「す、凄い・・・・・・まるでレストランみたいじゃないかぁ~!」
オーバーすぎるリアクション。
「あら、お世辞がお上手で」
「世辞なんか言っていない! ママ・・・・・・毎日味噌汁を作ってくれぇ!」
「フフッ・・・・・・二〇年前のセリフそのままね♡」
「ママ・・・・・・」
「アナタ・・・・・・」
昼間からピンク色の雰囲気がリビングに拡がっていく。
・・・・・・両親のイチャつく場面なんて、思春期の息子からしたら耐えられない。
が、新樹はホカホカのハンバーグを箸で割り、口まで運んでゆっくりと咀嚼していた。
見慣れた・・・・・・十九年間もイチャコラされたら、もう何も気にならなくなっている。
「で・・・・・・新樹、最近はどうだ?」
「別に・・・・・・」
「・・・・・・芥川さんの道場、行っていないんだって?」
うっ・・・・・・
「・・・・・・まぁ」
「継続は力なり・・・・・・だぞ」
「・・・・・・大学の勉強があるし・・・・・・」
「パパの息子なんだから勉強なんて楽勝だろう! なんたって!! 自慢の息子新樹ちゃんなんだから!!」
パパが痛いことを言い出した。
「芥川さんは本当に素晴らしいお人だ。学ぶところも多いはず。机上の勉学だけじゃなく、人間性も勉強しなさい」
「・・・・・・父さんに関係ねーし」
その瞬間・・・・・・
カランカラン・・・・・・
紀明大臣が震える手から箸を落とした。
「か、か、か、関係ない・・・・・・そんな冷たいことをたったひとりのパパに・・・・・・反抗期ってヤツか?」
目がうるうるしている。
「そうだよな・・・・・・もうすぐ二十歳の男子に、こんな過保護なパパ・・・・・・ウザいよな・・・・・・うん。ごめん」
「はぁ~」
「ため息!? ハハハ・・・・・・パパ・・・・・・死んじゃおうかな・・・・・・こんなダメパパで本当にごめんなさい・・・・・・大臣とか言われて天狗になってすみません・・・・・・」
「パパ! シャキッとしなさい!!」
ママが檄を飛ばした。
もう塩をかけられたなめくじのようなパパの背中を、バシッと叩く。
「アナタは国民の皆様のお金を預かる身でしょ? そんな弱腰でどうするの!!」
「でも・・・・・・この前、街頭インタビューで『この東山って大臣、影が薄いよね』って渋谷のギャルが言ってたし・・・・・・」
「渋谷のギャルさんと、私、どっちを信じるの? アナタならできる。大丈夫よ」
「ママ・・・・・・」
本当に面倒くさい・・・・・・我ながら癖の強すぎる両親を持ったものだ・・・・・・
記者会見では、あんなに記者たちから嫌みったらしい質問をされてもケロッとした顔で一蹴するのに、家ではメンヘラもいいところ。
落ち込むパパを、ママが励ます。
これがルーティンと化している。
そして、それを見守る息子も・・・・・・習慣となっているのだ。
「新樹ちゃん」
ママの声・・・・・・しかし、いつものふんわりとした感じじゃない。
真剣な声だ。
泣いているパパを抱擁しながらで、少し絵面は悪いが・・・・・・
「自分のウソはつかないこと。これだけは守って」
「・・・・・・」
「道場に行かないのも、きっとなにかワケがあるのでしょう。でも、それを聞き出そうなんてしない・・・・・・自分の道よ。自分で決めなさい」
「・・・・・・分かってるよ」
「なら、いいわ」
とーーーー
ピンポーン♪
「あら、誰か来たわね」
ママが立とうとした。
しかし、子泣き爺のごときパパが放してくれない。
「しょうがないわね~新樹ちゃん。悪いけど出てきてくれない?」
「・・・・・・いいよ」
上下スウェットで、廊下を進み、玄関へ。
ガチャリ・・・・・・
「誰です・・・・・・か・・・・・・」
立っていたのは美少女だった。
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