死が二人を分かつまで

KAI

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”日常その壱”

【凡人の意地】

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 新樹の深刻そうな顔を見て、丹波はグラスをテーブルに置いた。



「ケンカでもしたンか?」


「半分当たってます・・・・・・」


「だからハッキリ言えや」


「・・・・・・新参者に惨敗しまして」



 丹波の反り返った眉が、ピクッと動いた。



「・・・・・・もしかして、芥川ちゃんのっちゅう小娘か?」



 新樹は頷いた。



「まだ十六の・・・・・・それも女が、芥川ちゃんの左眼を奪い、さらに一番弟子にケンカで勝った・・・・・・ってことか?」


「はい・・・・・・」


「・・・・・・」



 丹波は俯いた。



 そして黙ったまま、肩をヒクつかせて、



「クックックッ・・・・・・」



 笑っていた。



「興味があるなぁ~」



 眼がギラギラしている。



「ワシはなぁ・・・・・・ゴッツいヤツが好きやねん・・・・・・もう、そない話し聞いたら・・・・・・アソコが堅くなってしまうんやぁ~」



 変態だ。



「族潰すよりも、トラックにぶつかるよりも楽しそうやないの~」


「・・・・・・僕は楽しいめなかった・・・・・・」


「ん?」


「勝負を挑んだのは僕です・・・・・・先生の目玉の仇討ちのために・・・・・・そんな啖呵を切ったくせに・・・・・・ダサいですよね」


「ああ。わ」



 グサリ・・・・・・



 あまりの直球な発言に、新樹は泣き出しそうになる。



 が・・・・・・



「家の中でセンズリこいて、いつまでも負けを引きずるなんて、わ」


「え?」


「勝負、したかったンやろ? なら、負けようがええやないか。そんで強くなって、勝つまで挑め・・・・・・そこまでしなかったら、一生敗北者やで?」


「・・・・・・」


「一回や二回の負けで、引っ込むようならもう金玉とってまえ。勝つまで戦え。どんな手を使っても勝て! それが、真剣勝負っちゅうヤツや」



 丹波がガマンできずに咥えタバコをした。



 関がいつも通りに火をつけようとしたが、喫煙者がいない屋内では吸えないと、丹波が断った。



「でも・・・・・・一年やって全然強くなってない・・・・・・僕はどうしたら・・・・・・」


「ん~コレでも使うか?」



 チャキ・・・・・・



 丹波が差し出したのは、なんと本物の拳銃。



四五フォーティーファイブ。防弾ガラスでもイチコロの代物やで」


「えっ・・・・・・それは・・・・・・」


「なら、マシンガンはどないや? 軽機関銃もあるで?」


「さすがに・・・・・・」


「ズルいってか? お前、才能ないンやろ? せやったら何やってもよろしい」


「何やっても?」


「ああ。『』と呼ばれるヤツぁある種の鎖で繋がれとるンや。スポーツでも勉強でも、格闘技でも武道でも・・・・・・その分野で『天才』と言われてしもうたら、もうその道を正しく歩むしかない」



 せやが・・・・・・



「凡人はちゃう。あの手この手で天賦の才に打ち勝つンや。そこに手段の正解不正解は存在しない・・・・・・岩に噛みついてでも勝つ・・・・・・その気概がありゃぁお前・・・・・・凡人も天才に勝てるンや」


「・・・・・・そういうものですか」


「ま、あくまでも拳で勝ちたい言うンならワシも止めへん。頑張りや」


「・・・・・・どう頑張れば・・・・・・」


「んなもん自分で考えろボケ。ワシから言えるのは、生きてる間は負けはない・・・・・・生きてる限りは何度でも挑戦できる。鋼の心を養うのが肝心や」


「親父・・・・・・」



 関が割り込んできた。



「サツは引き上げたようです。帰りましょう。車も用意しておりますので」


「そうか。じゃ、色々と世話になったな」



 丹波は立ち上がり、玄関へ向かう。



「何か困りごとがあったら、ウチに来い。借りは必ず返すのが、ワシの仁義やからな」


「・・・・・・はい」


「ほんじゃあ、芥川ちゃんによろしゅう」



 バタン・・・・・・



 救急箱とグラスを片付けながら、新樹は考えた。



「岩に噛みついてでも・・・・・・か」



 自分はどうしたい?



 あのセツナが地面に伏せている姿を見たい?



 完膚なきまでに叩きのめして、罵声を浴びせたい?



 ・・・・・・違う。



 それでは、あの哀れなイタガキと何の変わりもない外道だ。



 自分の目指す強さとは・・・・・・



 丹波の姿を思い出す。



 本気で楽しんでいた・・・・・・真剣勝負ゆえに瞬間を楽しむのだ。



 そこに、何かヒントが隠れているような気がする。



 もう少し・・・・・・何かのきっかけで目が覚めるかもしれない・・・・・・



 だが、それが分からない。



 両親が帰ってくる前に、寝室へ行き、拳立けんたてを始めた。



「フンッ・・・・・・フンッ・・・・・・」



 きっかけがなんであろうと、いつでもすぐに動けるように、心も体も準備しておきたい。



 眠れる獅子が、起き上がった瞬間だった。


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