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”日常その壱”
【共食い】
しおりを挟むトラックとの正面衝突から数秒の後・・・・・・
むくっ・・・・・・
何事もなかったかのように、丹波がスーツについた汚れを払いながら立ち上がった。
「よいしょ~」
だが、もちろん無事なわけがない。
鼻からも口からも流血しているし、スーツも擦り切れている。
それでも、謎の達成感がある顔だった。
「痛ぁ~!! 最ッ高やなぁ!!」
パチッパチッパチッ
組員たちは拍手を送っている。
一方、板垣は顔面の骨が粉々に砕け、切られたトカゲの尻尾のごとくピクピク痙攣していた。
「お~い。生きとるかぁ?」
「・・・・・・ぁ・・・・・・ぁぁ・・・・・・」
「うん! 生きてる!! ヨシ!!」
蚊の羽音のようにか細い呻きだけで、判断している。
イカれている・・・・・・
ガチャン・・・・・・
ドサリ・・・・・・
軽トラックを運転していた『暴走列島』の構成員が、血だらけで降りてきた。
「おっ! 元気そうなヤツ発見!!」
たった今車に轢かれたとは思えぬ速さで走り、運転手に向かっていった。
「なぁ? まだヤれるやろ?」
「も、もう・・・・・・」
「なぁ~に甘いこと言ってるンや~」
ガツンッッ!!
丹波は革靴に全体重を乗せて蹴る。
それも、顔面を、だ。
ガツンッッ!!
ガンガンッッ!!
「ま・だ・ヤ・れ・る・や・ろぉぉぉ!!」
とうとう運転手の意識はなくなり、ズボンからは小水が漏れ出してきた。
興奮状態の丹波を刺激しないように気をつけながら、関が近づく。
「親父、それ以上は死んでしまいやす」
「あぁ!? ああ・・・・・・ホンマやな」
ようやくキックをやめた。
「ヒヒヒ・・・・・・いい夜やぁぁぁ!!」
狂喜乱舞・・・・・・
丹波はなんとスキップまでしていた。
「関~♪ あとは任せるでぇ~♪」
「へい。暴走列島の軍資金もシノギもウチのものにします」
「じゃあよろしくやってくれや。それと・・・・・・」
ぐるりと、倒れている暴走族たちを睥睨した。
「コイツらには聞きたい話しがまだまだあるから・・・・・・『牢獄』に連れてけ。そこで思う存分、叫んでもらう」
「分かりやした。お前ら!!」
組員たちが、族を引っ捕らえてずるずる引きずっていく。
「近所の家が通報しているかもしれない!! 迅速に動け!!」
「「「はいっ!」」」
あっという間に族も組員も消え、残ったのはバイク『だった物』と赤い水溜まりだった。
「ふぅ~いい汗かいた」
・・・・・・
「あの~」
「ん? ああ!! 忘れてた!! ワシとヤるんやったなぁ!?」
「だから違いますって!! 僕は芥川道場門下生・東山 新樹です!!」
「ほえ? 芥川ちゃんのとこの?」
ん~・・・・・・と丹波は考え込んだ。
彼の脳みその内容量は一ギガもない。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ! 居た!!」
「いや遅い!!」
思わずツッコんでしまった。
「こりゃぁ運命のいたずらやなぁ~まさか芥川ちゃんとこの弟子が、族にタイマン張ろうとしとったなんて」
「まあ・・・・・・はい」
「邪魔してもうたかな? すまんのぉ・・・・・・ケンカと聞いたらいてもたっても・・・・・・」
「いいえ! 助かりました!!」
新樹は深々と頭を下げた。
「あ~そないかしこまらンでええって! 頭上げてや」
「お礼のしようも・・・・・・」
「コレも一応仕事やからな」
「仕事?」
「ワシの仁侠会のシノギはなぁ・・・・・・『共食い』や」
『共食い』・・・・・・同じ裏社会に生きる別組織を喰い、そして資金とシノギ、シマまでもを丸呑みにしてしまう、仁侠会の荒っぽい稼ぎ方だった。
本家『大和組』から正式に認められたシノギであり、この丹波が率いる仁侠会の『共食い』によって大和組にとって都合の悪い組織などを潰し、牽制しているのであった。
「ま、半分趣味やけどな。ケンカは楽しいお遊びや!! ガッハッハッハ!!」
「・・・・・・あっ! 怪我の手当てをするので、どうぞ家にお入りください」
「んん~? ここ、新樹ちゃんの家なン?」
「はい」
「ってことは・・・・・・強請られてたのって・・・・・・」
「ええ・・・・・・僕です」
と、
「親父、ここはお言葉に甘えて家の中に入りましょう」
「何言うてンのや。こないなもんかすり傷やで」
「久保田から連絡がありまして・・・・・・どうやら通報があってサツがもうそろそろここに来るそうです。落ち着くまで家の中に居たほうがいいかと」
「チィ・・・・・・分かった。そんなら、お邪魔しますわ」
「どうぞ!」
こうして、新樹の身に降りかかった危機は去ったのであった。
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