死が二人を分かつまで

KAI

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”日常その壱”

【仁侠会】

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 二日前ーーーー



「あぁ? 『暴走列島ぼうそうれっとう』ぉ?」


「はい。近頃、首都圏で幅きかせている、名うての暴走族でして・・・・・・」



 場所は東京都新宿区某所、大きなビルの最上階。



 入口にはデカデカと金文字で『じん きょう かい 事務所』と書かれている。



 そう。



 ここは、関東最大の暴力団『大和組やまとぐみ』の直参団体『仁侠会じんきょうかい』の本部事務所だった。



 必要以上に大きい応接間には、革張りのソファが対になって置かれており、間にはガラス製の机が。



 壁には『仁 義』『任 侠』『人 情』と三枚ひと組の筆文字が、額縁で飾られている。



 他にも牛の角やら、金でできた虎の置物。



 高価な壺や日本刀、花瓶には綺麗な百合の花が刺さっている。



 若衆が、客人にお茶を出して、用事があるまで壁際に直立不動していた。



「そないなガキ共、さっさと痛めつけりゃええやないか」



 迎えているのは仁侠会会長、丹波たんば 市郎しろう



 今日も今日とて、お気に入りの真っ赤なスーツだ。



 丹波と対峙しているのはグレーの背広を着た壮年の男性二人。



 年齢は丹波よりも上だが、汗をハンカチで拭きながら、言葉を選んで喋っている。



 それもそのはず。



 この人物は、同じ大和組内の組長と若頭だが、三次団体の『高橋組たかはしぐみ



 二次団体で本部の幹部も務めている丹波とは、格が違うのだった。



「それがそうもいきませんのです・・・・・・」



 高橋組の若頭が口を開く。



「私どもも昨今の情勢を鑑みて、表のビジネスをやっておりまして・・・・・・大立ち回りなどはもってのほか・・・・・・」


「ケッ・・・・・・ヤクザがなにビジネスなんぞしとるンやボケ」


「そうでもしないと、食べていけない時代になりましたから・・・・・・」



 暴力団対策法ーーーー通称『暴対法ぼうたいほう



 この法律ができてもう半世紀。



 ヤクザは冬の時代と呼ばれ、社会から排除される存在になってしまった。



 ゆえに、あえて盃を与えずに表社会のビジネスをさせる・・・・・・いわゆる企業舎弟をこさえるヤクザも少なくない。



 刺青も入れずに、スーツ姿で髪は七三。



 眼鏡をかけて毎朝出勤!!



 ・・・・・・それが、マフィア化しつつあるヤクザの現状だ。



 だが・・・・・・



「おもろくないわ~ヤクザはどこまでいってもヤクザ。流した汗と腕っ節の強さで生き残る・・・・・・そうやないかぁ?」



 この丹波という極道には、法律も条令も関係ない。



 好きに生きて、好きなことをやる。



 それだけだ。



「そこで、仁侠会の丹波会長になら、何か解決案があるのではないかと相談に・・・・・・」


「ワシがそない頭良さそうに見えるか? 殴り合いし過ぎてアホになってもうてるんやで? ガッハハハ!!」



 彼が笑うのに合わせて、壁際にずらりと並んでいる組員も笑った。



 ゆえに、高橋組長も若頭も笑った・・・・・・



「ハハハ・・・・・・」



 ・・・・・・のだが、



「なに笑とんねん・・・・・・ド突くぞボケ」



 般若のごとき、恐ろしい顔だった。



「す、すみません・・・・・・」


「ハァ~」



 丹波が背中をソファに預けて、指をピースさせた。



 素早く組員が近づき、タバコを一本指の間に滑り込ませる。



 そして、ライターを擦り、火をつけた。



 この間、丹波は動いていない。



 ヤクザ社会の縮図である。



「フゥ~」



 丹波は紫煙を吐きながら、で・・・・・・と話しを続けた。



「その『なんたらかんたら』ってヤツら、潰せばええんか?」


「『暴走列島』です・・・・・・まあ、端的に言えば・・・・・・その通りで」


「・・・・・・なんでそないカス共に、この『猛虎の丹波』が出張らなきゃいけんの?」


「それが・・・・・・この暴走族タチが悪いだけなら、わたくし共でも対応ができますが・・・・・・」


「モニョモニョせずに・・・・・・さっさと言わンかい!!」


「・・・・・・関西がをつけて来てまして・・・・・・」



 その一言で、丹波のタバコを吸う指と口が止まった。



 眼を細めて、真剣になる。



「関西・・・・・・『龍王会りゅうおうかい』か?」


「はい・・・・・・どうも、その傘下組織が関係しているようで・・・・・・」


「・・・・・・間違いないンやろうな?」


「確かな情報源からですので、間違いなく」


「・・・・・・厄介やな」



 丹波はタバコをにじり潰す。



「この間の『関口組せきぐちぐみ』も、人身売買で功績立てて関西に売り込もうとしとった・・・・・・近頃きな臭いことばっかりや・・・・・・」


「おっしゃる通りで・・・・・・」


「・・・・・・龍王会の、どこや?」


「まあ五次団体の三下でして・・・・・・」



 調べた書類を、提出する。



 検分した丹波は、捨てるように紙を戻した。



「『』・・・・・・三下どころか、ほぼ赤の他人やないか!!」


「まあそんなんですが・・・・・・それでも一応は『龍王会』がケツモチしている会社です」


「で、このクソローン会社が? その『暴走列島』に盃下ろそうとしとるン?」



 若頭が頷いた。



「かぁ~アホクサ・・・・・・」


「ですが丹波会長!! もしも『暴走列島』に盃が下りたら、関西が関東進出の足掛かりにしないとも考えられない!!」


「まぁそうなんやけども・・・・・・つまらなそうな・・・・・・」


「ここは真剣に・・・・・・」


「はいはい・・・・・・で? その族の頭は?」


板垣イタガキという男です。本拠地や、人数までは・・・・・・」


「それなら心配ないわ・・・・・・せきぃ!」



 関と呼ばれた男が、ソファの後ろで立ち止まった。



「ウチの若頭の関や。コイツはな、鼻がよぉ効くねん。な!」


「へい・・・・・・十二時間ください。そいつらの構成員からシノギまで調べ上げます」


「どや! 凄いやろ!?」


「はい・・・・・・」


「じゃ! ワシは風呂の時間やから」



 丹波は立ち上がると、おもむろにスーツを脱ぎ、上半身裸になった。



 高橋組長も若頭も、息を飲んだ。



 おびただしい刺し傷・切創・銃創・・・・・・傷の万博だ。



 そして細身の筋肉質な体には、巨大な猛虎が描かれている。背中で吠えており、その周りには雲のように『ガク』が彫られ、肩口から胸には桜が入っていた。なんとも立派な刺青・・・・・・芸術品だ。



「お湯は沸いとるンやろな!!」


「はい! 四十二度でホカホカです!!」


「よっしゃぁ!! ケンカの前のひとっ風呂じゃぁ!!」



 息巻いて風呂に突撃する丹波。



 その後ろ姿を、高橋らは黙って見つめていた・・・・・・



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