死が二人を分かつまで

KAI

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”日常その壱”

【天賦のアドリブ】

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「言葉では分かりづらいでしょう・・・・・・さ、やりますか」



 え?



 芥川は立ち上がった。



「私にかかってきて下さい。お得意の沼田スタイルでもテレフォンパンチでも、どうぞ」



 こう言われたら、セツナも応えるしかない。



 拳をアゴに上げて・・・・・・



「はいっ」



 ポスン・・・・・・



 芥川の足刀が、膝関節に接触した。



「・・・・・・!?」


「下への意識が全くない。下半身がガラ空きです」



 ビュッ!!



 セツナのしなる足が飛んできた。



 が・・・・・・



 すかっ!



「!!」


「漠然とハイキックを放っても意味はない・・・・・・むしろ!!」



 いつの間にか、伸ばしていた蹴り足が芥川に握られている。



「ここから、どうます?」


「・・・・・・!!」



 セツナは残った片足でバランスを取ろうとしたが、それを見越した芥川によって乱された。操り人形のように芥川の手のひらの上。



「足を取られてしまったら、かなり致命的です。お気をつけて」



 パッと手を放した。



 セツナは少し息が上がっている。



「どうした! もっと来なさい!!」



 セツナがストレートを・・・・・・違った。



 パンチと見せかけて、その実は芥川の襟を掴みにいったのだ。



(来た・・・・・・頭突きか?)



 芥川は未熟なセツナに、武道家の襟を不用意に掴む危険性を教える準備をしていた。



 まずは、頭突きを腕で防ぎ、その後に逆に肘を決めて・・・・・・



 それで彼女に自分の弱さを痛感させて、基本の大切さを学ばせようとしていたのだ。



 だが・・・・・・



 パァン!!



 セツナが打ったのは至近距離のローキック。



(ほう・・・・・・それならば、こっちは無防備な腕を取らせてもらいましょうか・・・・・・)



 ただ伸ばしているだけの彼女の腕を、掴んだーーーー



 まさしく、その刹那ーーーー



 スッ・・・・・・



 セツナは芥川の手首に指をかけてきた。



「!?」



 そして・・・・・・



 ズンッッ・・・・・・



 芥川の背中に、重い水を吸った土が乗ったかのような感覚が。



(コレって・・・・・・)



 まさか・・・・・・



 そんな・・・・・・



 セツナの胸ぐら掴みも、ローキックも、ブラフ!!



 狙っていたのはコレなのだ!!



 下半身から腰、そして上半身を使って重心を下げてくる。



 芥川の標高がガクンと下がった。



・・・・・・ッッ)



 たしかに、沼田の協力を得て見せたことはあった。



 だが、本当に見せただけだ。



 実際に練習してもらったわけではない。



 なのに・・・・・・ッッ!?



「・・・・・・むんっ!」



 いったい、いつぶりだろうか・・・・・・



 自分の身体が宙を舞うのは・・・・・・



 ドスン!!



 芥川は受け身を取ったので、投げられたダメージはなかった。



 しかし、仰向けに倒れたのは事実。



 その隙を見逃すセツナではない。



 シュルリと彼の腕を足で絡め、ホールドした。



 芥川の上に跨がり、あっさりとマウントをとってしまった。



 右の拳を上空へ・・・・・・



(マズい・・・・・・ッッ)



 芥川は咄嗟に右脚をセツナの股の隙間から抜くと、彼女の腹部に押しつけた。



「せいっ!!」



 ともえ投げ・・・・・・



 柔道の、上にいる相手に使う高等技術。



 それが、反射的に出てしまった。



 セツナの小さな身体が、宙に浮く。



「セツナさん!!」



 ダメだ!!



 まだ受け身を教えていないのに投げてしまった!!



 下は板張りの床・・・・・・



 頭から落ちたら・・・・・・



 だが、その心配は杞憂に終わった。



 ふんわりとセツナはネコのように足から着地し、何事もなかったかのように立っている。



 ・・・・・・



 ・・・・・・



 ・・・・・・



「ふ・・・・・・ハッハッハ!」



 思わず笑ってしまう。



 それほどの、才覚・・・・・・



「貴女は凄いですねぇ」


「・・・・・・」



 キュキュッ



『私の攻撃が通用しない』


「そりゃ当たり前ですよ。私、強いですから」



 芥川が足を伸ばした。



 そして、地面に向かってグンと反動をつけ、手を使わず上体を起こす。



「まさか合気を使うとは・・・・・・思いつきもしなかったです」


『アドリブ』


「いいですねぇ・・・・・・貴女に実践の危険性やら理論を話しても、無駄ということが分かりました」


『それって、良いこと? 悪いこと?』


「良いことに決まってます。これから武術の基本稽古を教えますね。そしたらもっとアドリブが使えるようになりますから」



 芥川は満面の笑みで右手を差し出してきた。



「貴女というダイヤモンドの原石を磨けるなんて、うれしくってしょうがないです!」


『・・・・・・私も、正しい知識を身につけたい。ありがとう』



 ホワイトボードを左手に持ち、右手を伸ばして彼の手を握る。



 二人は握手をした。



 とーーーー



「ああ、そうだ!」



 芥川は歯を見せてニヤリとした。



「組手は終了の合図がなければ・・・・・・終わらないんです!!」



 握った右手を捻り、全身を左へ半回転させる。



 するとセツナがくるりと一回転し、地面に落ちた。



 安心してほしい。



 彼女の落下地点には、芥川の足がちゃんと置かれクッションになった。



 ポスン・・・・・・



「どうです?」


『・・・・・・卑怯』


「ハッハッハ! 実戦では卑怯も実力のうちです! ハハハ!!」



 まったく、大人げない男だ。



 だが、この日を境に、セツナの基本の練習が始まった。



 数日が経ちーーーー



 数週間が経ちーーーー



 一ヶ月になろうとしていた。



 その間、新樹が来ることはなかった。



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