死が二人を分かつまで

KAI

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”日常その壱”

【武の強さとは?】

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「・・・・・・」



 キュキュッ・・・・・・



『お酒クサい』



 セツナの目の前には、どんよりとして真っ青な顔の芥川がいた。



「飲み過ぎましたねぇ・・・・・・うぇぇぇ・・・・・・」


『・・・・・・あなたって強くなかったらダメ人間ね』


「はい・・・・・・自覚しているところで・・・・・・うぷっ!!」



 ダダダッッ



 トイレに走って行った。



 セツナはため息を吐くと、彼の寝ていたベッドを整え、コップに水道水を溜めて待っていた。



「はぁはぁ・・・・・・二度と酒は飲みませんから神様・・・・・・」


『そう言う人って、絶対にまた飲む』


「そうかも・・・・・・しれませんねぇ」



 コップを手にして「ありがとうございます」と言いながら水を飲み込む。



『昨日は何処へ行っていたの?』


「・・・・・・古い友人と会ってました」


『そう』


「さて、今日は何をしましょうか」



 まただ・・・・・・この男、話しを逸らすのが下手くそ過ぎる。



『・・・・・・武を学びたい』


「おやおや、これまた大きな要望ですねぇ」


『・・・・・・こないだのみたいな戦い方じゃなく、正しい力の使い方を』


「そうですねぇ・・・・・・あのままでも、貴女の強さは一級品ですが・・・・・・」



 芥川はセツナに道着に着替えるように言った。



 数分後には、二人は下の階の道場であぐらをかいていた。



「・・・・・・


「・・・・・・」


「強いことは良いこと。強ければ、どれほど貧しかろうとも、世界チャンピオンになり豪邸に住むこととて可能」



 ですが・・・・・・



「『武』が目指す強さは、そんなものではない。ゴールというモノが


『じゃあ、何を目指すの?』


「己の魂を守る術・・・・・・私はそう信じています」


『・・・・・・具体的に』


「ん~・・・・・・たとえば、獣がなぜ人を襲うのか考えたことはありますか?」


『ううん』


「野生動物というのは利口です。人間なんかよりも合理的に生きている。例を挙げれば、チーターは足の速さで有名ですが、追いつけないと判断すると数十秒もせずに諦める・・・・・・追う過程で怪我などをしてしまったら致命的だからです」


『何の関係があるの?』


「急がず・・・・・・では、そんな利口な動物たちが、武器を持っている人間を遅う・・・・・・矛盾だらけのこの行動はなぜでしょうか?」


『人間を食べるため?』


「ハハハ・・・・・・そんな危険を冒しませんよ・・・・・・


『子供?』


「子供が近くにいるときの野生動物の恐ろしさは、異常です。あの優しげなゾウやカバでさえ、人を殺します」



 セツナは小さい頃に、野良猫に噛みつかれたことを思い出していた。



 あの時も・・・・・・確か近くに子猫がいて、可愛くて手を伸ばしたんだっけ・・・・・・



「子供を守る・・・・・・本能ですが、そこには自分の大切なモノを守るという強い意志があります。たとえ銃を突きつけられようとも、向かっていく度胸と力・・・・・・本質的だ」



 芥川は拳を握った。



「人間とて、それは同じ。戦っている人間は、すべからく大切な何かを護るために戦っている。・・・・・・意識して無くとも、何かしらを護っているのです」



 芥川が拳を前へ突き出した。



「護るべく戦う。そのためには強くなる。それが・・・・・・『武』の目指す強さ」


『だからゴールがない?』


「よく分かっていらっしゃる・・・・・・生きていれば能動的にも受動的にも、守るモノが増えていく。ゆえに、人生をかけて強くある必要があるのです」


『単純に武器を持てばいいんじゃないの?』


「う~んそれは少し甘いですねぇ」


『銃があれば、子供でも大人から身を守れる』


「それも一理ありますが・・・・・・銃なんて簡単ですよ」



 芥川がニヤリと笑った。



「銃弾の速度は時速数百キロ・・・・・・指先ほどの大きさしかない弾丸が飛んでくる・・・・・・実に容易い」



 セツナは首を傾げた。



「たとえば、頭を狙われたとしましょうか・・・・・・映画では絶体絶命の瞬間です。しかし・・・・・・人体の中で最硬度を誇る頭蓋骨の額を撃ち抜くのは難しい。猟師の世界ではままあることですが、弾丸の入射角によっては頭蓋骨に弾かれることすらある」



 そもそも・・・・・・



「躱せばいいじゃないですかぁ」


『・・・・・・躱す?』


「ええ。前後左右上下・・・・・・どこにでも」


『そんなこと・・・・・・』


「不可能? この世の全てを見てきた者以外は、不可能という言葉を使えない・・・・・・セツナさんは世界中をくまなく見たことがありますか?」


『・・・・・・ない』


「でしたら、不可能ではない! ハッハッハ!」



 この男の話しはいつも掴み所のないようで、核心を突いているようで・・・・・・難しい。



「話しはだいぶ逸れてしまいましたが・・・・・・この間の貴女の戦い方は『武』ではない」



 芥川が笑みを消して、真剣な顔になった。



「アレは『』です。沼田さんの空手と、思い出したくないでしょうがMr.リズムの戦法をミックスさせた見事な戦いでした。見ただけで覚える・・・・・・天才の領域です」



 しかし・・・・・・



「姿勢はグチャグチャで、重心はグラグラ・・・・・・素早いけれども芯に力がこもっていない・・・・・・しかも思い出したかのように戦い方を変えて、頭突きを繰り出す・・・・・・基本が無いことの証拠です」


『・・・・・・』


「言葉では分かりづらいでしょう・・・・・・さ、やりますか」



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