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”日常その壱”
【悪魔の甘言】
しおりを挟む「イイわぁ・・・・・・本当に、飽きないオ・ト・コ♡」
「・・・・・・この方も『黒真会』の人間ですね?」
「そう。熱心な方だけれど・・・・・・まだまだ半人前ね」
バーテンダーはこれまでの紳士的な振る舞いを捨てて「チィ」と舌打ちをした。
「この場で殺せば、貴女様への極上の貢ぎ物になると踏んだのですが・・・・・・」
「飲んでみろと言われたら、飲みなさい。青酸カリが効くまでは数秒・・・・・・その間に相手に飲ませられれば・・・・・・貴方の勝ち」
「そ、それでは・・・・・・」
「なに? 死んで勝つよりも、負けて生きたいの? ホント・・・・・・小さい男ね」
「・・・・・・申し訳ありません」
「こんな感じよ。半端物が多くて困るわぁ・・・・・・ねえ、考えてくれない?」
「・・・・・・私に、黒真会に入れと?」
「私と貴方・・・・・・この二人が頂上に立てば、この世に阻める者などいなくなるわ」
「・・・・・・ハッハッハ!」
今度笑ったのは芥川だった。
「貴女が私との勝負を捨てると? 有り得ない・・・・・・今この瞬間でも、隙があれば私を自分の手で殺したいのに・・・・・・」
その刹那ーーーー
芥川はなんと毒入り酒を一気に口に含んだ。
驚愕するバーテンダーと少しだけ驚く冬紀。
芥川は笑っていた。
「プフゥッッ!!」
毒霧を、冬紀目がけて噴霧する。
「フフッ・・・・・・」
くるり・・・・・・
サァ・・・・・・
冬紀は両手を拡げると、素早く宙に円を描いた。
霧は彼女の周りへ散っていき、一滴もドレスには付着しなかった。
「空手の回し受け・・・・・・案外と使えるものね」
「ハハハ・・・・・・いやはや」
空になったグラスへ口腔内の毒素を含んだツバを吐き出し、芥川は笑った。
「その技を、そのように使える人間なんてそうそういませんよ」
「もちろん、私は人間をやめてるもの♪」
彼女も楽しげにしながら、バーテンダーである弟子にもう一杯のマティーニを頼んだ。
バーテンダーは異次元の二人に完敗し、素直に酒を作ることに専念した。
「ねえ・・・・・・本当に嫌?」
「しつこいですねぇ」
「黒真会はもっと大きく、そして強くなるわ。こんな生け簀を放っておくの?」
「強い? 相手を殺すことしか考えていない殺人集団がですか?」
「あら、私たちのルーツってそこじゃない? 一緒に汗を流したじゃないの・・・・・・殺人術こそが、全ての武術の頂点なのよ」
「・・・・・・その結果、私は大手を振って太陽を拝めますが、貴女は闇の中で生きることしかできない・・・・・・違いますか?」
「もうすぐよ・・・・・・この国の『力』の象徴は『黒真会』となる・・・・・・そうなれば不自由からも解放されるわ」
まあ、と冬紀。
「今でも自由だけれどね。警察もヤクザも、私にとってはどうだっていい存在よ」
「・・・・・・バーテンダーさん」
「は、はいっ」
まさかこのタイミングで話しかけられるとは思ってなかった彼はビクついた。
「カルーアミルク・・・・・・毒抜きで」
「か、かしこまりました・・・・・・」
ふぅ・・・・・・
紫煙が二人を包む。
「・・・・・・ねえ」
「今度は何ですか?」
「今夜は全部忘れない?」
「・・・・・・」
「ふ・た・り、で素晴らしい夜にしましょう? それとも・・・・・・一六歳のお子様の方が性癖になったのかしら?」
「・・・・・・」
芥川の静かな怒りが伝わってくる。
美女に一夜を誘われた男の出す雰囲気ではない。
「聞いたわよ。左眼を失ったことも、その目を奪った女の子を保護して鍛錬させていることも」
「・・・・・・そうですか」
「残念だわぁ貴方の眼も耳も心臓まで全て、私の物だったのに・・・・・・」
「・・・・・・それだけの、かいはありました」
「へぇ・・・・・・貴方が入れ込むなんて、そんなにセンスがあるの? そのお嬢ちゃん」
「センス・・・・・・そんな言葉では収まらない。天才・神童・原石・・・・・・様々な言葉がありますが、どれも足りない・・・・・・あの娘の力量は底知れない」
「ふ~ん・・・・・・ちょっと、妬けちゃうかしら」
「・・・・・・先ほどの問いに答えていませんでしたね」
「あっ話しを逸らした!」
「うるさいですよ。冬紀」
「で・・・・・・私との甘い一夜は?」
「断ります・・・・・・と、口に出して言おうとすると、心が締めつけられる・・・・・・頭の中が混乱してめちゃくちゃになる・・・・・・その甘いささやきに、体も心も身を委ねたくなる」
「それでも、嫌だって?」
「はい。私たちが交わるのは身体ではない・・・・・・命じゃありませんか?」
「フフッ・・・・・・正直・・・・・・抱かれるよりも興奮するわね」
「でしたら、今日はもう帰りなさい・・・・・・警察が三人・・・・・・客に混じって観察してますよ」
「ざ~んねん! 五人よ。表のドアと裏口にひとりずつ」
「・・・・・・五人でも十人でも、貴女を捕まえるのは無理だ。余計な被害者を出す前に、帰って下さい」
「分かったわ・・・・・・バーテンダーさん」
「はいっ!」
「この人に思う存分飲ませてあげて。お代は取らなくていいから」
「承知しました」
「じゃあね月君。久しぶりに会えてうれしかったわ」
彼女の腰が椅子から離れた。
そして・・・・・・
ちゅっっ・・・・・・
芥川の頬に、優しいキスをした。
「愛してるわ月君・・・・・・食べちゃいたいくらい♡」
「私も・・・・・・愛してますよ冬紀・・・・・・たいらげたいくらいに・・・・・・」
そう呟いた頃には、冬紀の姿はどこにもなかった。
警察関係者が慌てて捜査員を集めているが、無駄な足掻きだろう。
彼女を、通常の警官が身に付けている武術で捕まえることなど、不可能。
逮捕術も、柔道も剣道も・・・・・・冬紀の前では枯れ葉同然だ。
唯一・・・・・・彼女を捕まえられるのは・・・・・・
「じゃあバーテンダーさん。お言葉に甘えて、もう一杯。今度はマティーニ」
「は、はい」
「甘口のベルモットで。それともちろん・・・・・・」
「ど、毒抜きですね。分かっております・・・・・・」
この芥川 月だけだ。
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