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”もうひとりの門下生”
【授業】
しおりを挟むーーーー暗闇に、ひと筋の光りが差し込み、鈍痛が押し寄せてくる。
「~~~~・・・・・・」
むくっと起き上がった沼田は、周りを芥川・新樹・セツナに囲まれていることに気がついた。
救急箱が置かれており、自分の鼻の穴に違和感。
「・・・・・・手当てを?」
「顔面の中央部をまともに打ったので、念のためです」
「・・・・・・ありがとございます。敗北以上です」
戦った相手に、怪我の手当てをされる。
屈辱的ではあったが、そんなに度量の狭い沼田ではない。
「負けたのに・・・・・・スッキリしてます」
「それは、全力で戦った証拠。後悔無くして終わったのですから、良い勝負だったということです」
「そうですね」
ゆっくりと二足で立つ。
ふらつきもなく、痺れなどもない。
「鼻骨が折れた以外は大丈夫ですよ」
「ハハハ・・・・・・白真会では、かすり傷のようなものです」
「流石」
さてと・・・・・・と、
「沼田さん。少々、お願いがあるのですが・・・・・・」
「押忍。何でも言ってください」
「胸をお借りできませんか?」
「はい?」
数分後ーーーー
鼻にガーゼを貼りつけた沼田と、芥川がまたもや道場の真ん中で向き合っていた。
だが、勝負という雰囲気ではなかった。
「いいですか? 打撃戦での要は、スタミナでもリズム感でもありません。敵の次なる行動を読み、そこを挫く・・・・・・」
芥川が目で合図を送る。
沼田は応えるように、軽く右ストレートを放った。
「このように重く鋭い一撃でも、必ず隙があります。どう動くべきか・・・・・・新樹さん」
「はい。半身だけ動き、敵から離れすぎずに躱す」
「正解・・・・・・頭に攻撃がくると分かっていれば、頭を逸らすだけでも大違い」
スッと身体を動かし、沼田の攻撃を躱すと同時に密着した。
「大事なのはここからです。攻撃時、人体は必ず右か左に重心が移動します。この場合だと・・・・・・セツナさん」
キュキュッ
『左足』
「またもや正解。良い生徒さんたちに恵まれてますね・・・・・・左足を、こう・・・・・・」
芥川は足首を、沼田の左足に沿わせる。
「さて、問題は膝か足首か・・・・・・闇雲に払ってはいけません。次に自分がどうしたいかで、変わってきます。私の場合だと・・・・・・」
パッと左足同士で払ったかと思うと、バランスを崩した沼田のアゴを軽く掴んだ。
「このまま地面に叩きつけたいので、ふくらはぎをス~っと伝って足首を取りますかね」
「いやはや、お見事」
叩きつけられそうな沼田が、褒める。
「大の大人を地面に叩きつける・・・・・・言葉にすれば簡単ですが難しい・・・・・・でも、芥川さんなら簡単でしょうね」
「まあ、一応実践的な総合武術を謳ってますからね」
新樹とセツナは食い入るように見ていた。
「では次の授業・・・・・・沼田さん。いきなりですが、重量挙げの記録は?」
「記録には興味ないですが・・・・・・まあ一〇〇キロは楽勝ですかね」
「それは凄い! 私の体重は七〇キロ強・・・・・・沼田さん。私の襟を掴んでいただけますか?」
言われたまま、沼田が襟を掴む。
「で、どうすれば?」
「持ちあげてください」
「はい?」
「柔道のようにいかずとも、私の身体を浮かべて下さい」
「・・・・・・分かりました」
簡単な話しだった。
七〇キロの男性を持ちあげて宙吊りにするくらい・・・・・・
グッ・・・・・・グッ・・・・・・
!?
「え?」
襟は指でしっかり握り込んでいる・・・・・・にもかかわらず・・・・・・
ググッ!!
「う、動かん・・・・・・ッッ」
「まるで演武みたいでしょ?」
「どんなマジックを?」
芥川はニヤッとすると、視線を足下に落とした。
「私はただ立っている・・・・・・だけではありません。ものすごく動いてます」
「動いてる?」
「ほらっ!」
ミシミシ・・・・・・
静かにすると・・・・・・なにか軋む音が聞こえてくる。
よくよく観察するとーーーー
「指?」
「ええ。足の指で床を『噛んでいる』のです」
「・・・・・・ということは」
「はい。沼田さんは先ほど、この道場の床全体を引っ剥がそうとしていた・・・・・・ということになりますね」
「・・・・・・ハハハ、ボディビルダーでも無理だ」
「私が勝手に名付けましたが、『足噛』という技術です。不思議なもので、靴を履いていても有効な場面も多い」
「安定感バツグンの立ち方・・・・・・空手の『三戦』に似てますね」
「ま・・・・・・パクってるので」
「えぇ・・・・・・」
と、芥川が手を掴んでいる沼田の手首に引っかけた。
「・・・・・・はっ!」
「!?」
ズンッと沼田の姿勢が崩れた。
(!? 意味が分からん・・・・・・まるで土嚢を背負わされたかのよう・・・・・・)
「合気道も、もれなくパクってます。相手が上へ上へと力を出している・・・・・・それに合わせて、落とす」
どんどん沼田と芥川の海抜が低くなってゆく。
「重要なのは力で落とさないこと。腕力で無理矢理下へ押してもダメです」
よく見ると、手で制しているように見えて、身体の足首・膝・腰・背中・肩・腕が意思を持っているかのように同時に動いている。
「身体全体で、下へ向かっていく・・・・・・その間、姿勢は正しく。相手の気を殺すのではなく活かして・・・・・・一緒に下へ・・・・・・」
グググッ・・・・・・
「うっ・・・・・・」
「そうしたら・・・・・・円を描くように、腰を動かし・・・・・・相手と自分の場所を交換するようなイメージでっ!」
ぐるん!!
「うわっ!」
ドスンッ!
沼田が轢かれたカエルのように、芥川が立っていた場所でのびている。
「今の動き方や力の伝え方を、水のように流れのごとくできるようになれたら、実践的にも使えます。沼田さん、ありがとうございました」
「いや・・・・・・ハハ」
むくり・・・・・・
「礼を言わなくてはいけないのは自分の方です・・・・・・勉強になりました」
「・・・・・・空手は立ち技主体の総合格闘術」
「は?」
「柔・関節・合気・理合・・・・・・それらを、正面から剛で打ち砕く・・・・・・授業が上手くいったのも沼田さんが協力的だったからこそ。空手を使えば、幾重にも打開策はあったでしょう?」
「・・・・・・胸を貸した手前、封じました」
「ええ。ですから、ありがとうございました」
芥川は深々と頭を下げた。
「・・・・・・押忍ッッ」
二人の武道家が、それぞれの挟持で礼を尽くした。
なんとも美しい光景であったがーーーー
そんな美談には浸れない男がひとりーーーー居た。
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