死が二人を分かつまで

”もうひとりの門下生”

【空手道 白真会】

『白真会はくしんかい』･･････高度経済成長期に日本で設立された、直接打撃性フルコンタクトの空手道団体。



　最強にして最大の組織を自負しており、格闘技ブームも相まって門下生は急増。



　最盛期には日本国内で百万人、海外にも広まり五百万人の会員数を誇った。



　しかし、転機が訪れた。



　二〇〇五年に初代会長が死去。



　二代目会長に引き継がれたが、そこで驚くべき改革が起こったのだ。



　初代会長の推し進めていた『実践性と安全性の両立』



　それを、あっさりと破ったのだ。



　直接打撃性ーーーーフルコンタクト空手史上初の、顔面パンチの許可だ。



　これによって、安全性の両立は瓦解した。



　大会の度に、会場と病院を救急車が何往復もするのが当たり前になってしまった。



　この変革に、異議を唱える声は多く大きく･･････遂には二代目会長『武山たけやま　火山かざん』氏はテレビ会見を迫られた。数多の記者たちの前に現れ、その危険な判断について追求されることになったのだ。



　しかし･･････



『顔面への殴打を許可して、会員の怪我などに責任を持てるのか？』



　という質問へ、なんと不敵な笑みを浮かべながらこう答えた。



『何を言っているのかね？　怪我など命あってのことでかすり傷に過ぎない･･････入門するときに腹をくくってもらわねば、こちらとしても困ってしまうね』


『そ、そんな乱暴な姿勢は批判されるのでは？』


『ケッ･･････』


『そもそも、武道を通じて社会性・人格形成を養い、社会に貢献するという白真会の理念は･･････』


『人格形成？　バカを言うな。人間ぶっ叩くのが好きで好きでしょうがない変態共が立派な人間に育つ？　人格を形成したいというのなら座禅でもして念仏でも唱えてみたらどうかね？』


『なっ･･････』


『よいかね？　今日ここに来たのは詫びるためでも、戻るためでもない』


『と、と言うと？』


『意思表明だ！　この生中継見ているそこの君！！』



　ニヤリ･･････



『人ぶっ壊したいならウチに来なさい。とことんまで味あわせてあげるよ･･････殴り合いの妙味ってヤツを！！』



　その日を境に、マスコミは大バッシングを浴びせた。



　ネットでも『白真会　ヤバい』『白真会　オワタ』『白真会　被害者同盟』などと話題になったものだ。



　入門していた百万の門下生も、去って行く者は多く、あくまで初代会長の意志を引き継いだ顔面パンチ無しの流派がいくつも作られた。



　会員数は五〇万人ほどになり、半減。



　だが、人の噂も七十五日。



　白真会への批判・嘲笑・白眼視も長くは続かなかった。



　残ったものは何か？



　純粋な闘争を求める猛者たち。



　純度一〇〇％のピュアな戦闘集団の、できあがりだ。



　その結果、令和の現在でも『最強最大』を名乗っている。



　そんな白真会で四段までのし上がった漢が、今、芥川の前に立っている。