死が二人を分かつまで

KAI

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”もうひとりの門下生”

【ある意味・・・・・・鬼の新樹】

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 滴り落ちるは汗。



 空気はピリつき、少しの咳すらも許されない雰囲気だった。



 誰がそんなオーラを醸し出しているのか?



 やはりこの道場の主、芥川?



 いやいや・・・・・・彼は正座をしている。



 しかも、汗を垂らしているのは彼自身だ。



 では、セツナ?



 いや、彼女もその隣に座って、状況を興味深そうに見守っている。



 二人の正面に座っているのは、おびただしいレシートを検分している新樹だ。



 彼こそが、並々ならぬ覇気を出して、眉をひそめているのである。



「・・・・・・先生」


「はい・・・・・・」



 芥川の顔は血の気が引いて、真っ青になっている。



「この・・・・・・三週間分の出前の注文は、なんですか?」



 ・・・・・・



 ・・・・・・



 ・・・・・・シーン



「・・・・・・」


「答えて下さい」


「その・・・・・・自炊が面倒くさくて・・・・・・」


「にしても・・・・・・『Lサイズピザ五枚』『特上寿司三桶』『牛丼メガ盛り十杯』・・・・・・相撲取りでも飼い始めたんですか?」


「いえ・・・・・・その・・・・・・やはり、健康的な身体と精神は、美味しいご飯をたくさん食べることかなと・・・・・・」


「限度って知っていますか?」


「はい。すみません」



 はぁ・・・・・・と新樹のため息。



「では次」


「はい」


「ワンピース七着に、今日買った衣服数十点・・・・・・着せ替え人形ですかそこの娘は?」


「か、カワイイ服ってなんぼあってもイイものじゃ・・・・・・」


「それは収入と支出が釣り合った上での話しです」


「はい・・・・・・」


「だいたい・・・・・・今流行はやりの服ばっかりじゃないですか。どうせろくに話しも聞かずに、店員のオススメを買い漁ったんでしょう?」


「ぐぅ・・・・・・」


「その他・・・・・・コスメに高級シャンプー。新しいベッドカバーに羽毛布団。タバコ三カートン・・・・・・何か言い訳ありますか?」


「ありません・・・・・・」


「では・・・・・・この一ヶ月の収入を見てみたいと思います」



 ピラリ・・・・・・



 紙が一枚。



「『芥川流健康増進・安心安全・護身の豆知識ブログ』ーーーー広告収入・・・・・・以上」



 ・・・・・・



 ・・・・・・



 ・・・・・・



「・・・・・・先生?」



 新樹の天使のような笑みが、逆に恐い。



「は、はい・・・・・・」


「父の知り合いの企業に就職・・・・・・」


「嫌です!! 稽古の時間が減るじゃないですか!!」


「・・・・・・なぁにが嫌ですですかぁ!!」



 パァンと、新樹は自分の膝を叩いた。



「僕が入門してから赤字じゃない月がゼロじゃないですか!! アルバイトでも何でもして稼いで下さいよ!!」


「いつ如何なるときも武をそばに感じておきたいんです!!」


「レジ打ち中にイメージトレーニングでもしてろ!!」



 まったく・・・・・・と、新樹。



「だったら、以前言ったように月謝を取って下さいよ」



 そう言って、新樹は胸元から封筒を取り出してそっと置いた。



「先生には感謝しています。こんな運動音痴の僕を一年間鍛えてくれて、有り難くて仕方がない・・・・・・だから先生」


「月謝は、取りません」


「なんで・・・・・・」


「・・・・・・武を志す者が、金銭の有無ではじかれるなんてあってはいけないことです。誰でも習える。それこそが、真の武なのです」


「・・・・・・って!! 格好つけてますけど、このままじゃあ道場の経営自体が立ちゆかなくなりますからね!?」


「だって・・・・・・自分で道場の価値を算出するなんて、恥ずかしいじゃないですかぁ」


「そんなこと言って!! あのサンドバック買ったときだって、僕に内緒で買いましたよね!?」


「アレは・・・・・・必要経費です!!」


「散々申し上げているように、芥川先生のお金の使い方は下手すぎます!! もっと計画性を持って・・・・・・」


「・・・・・・おいわっぱ・・・・・・」



 ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・



 芥川の覇気が出てきた。



「てめぇ・・・・・・この私に『』だとぉ?」


「ええ。です!!」



 断じられてしまい、芥川は暖簾に腕押しだった。



「ちょ、今のところは口が滑った弟子に、師匠が喝を入れるパターンじゃぁ・・・・・・」


「そんなテンプレしてる場合じゃないですからね!? 火の車ですから!!」



 しょぼくれている芥川の袖を引っ張る手があった。



「セツナさん?」



 キュキュッ



『私のためにお金使ってくれて、ありがとう』


「セツナさぁん・・・・・・」



 でも・・・・・・



『たった三週間だけどお金の使い方、雑だなって思ってた』


「そんなぁ・・・・・・」



 ガクッ・・・・・・



 完全に萎れてしまった。



 そう。



 この芥川 月は強さ、武術に関して言えば一流だ。



 しかし、社会的地位となると・・・・・・いまいちどころか底辺にいる。



 年齢四十四歳にして、無職。



 大学を卒業後、一度就職。そして二年で退社。



 それから一回も定職に就いたことがない。



 貯金はゴリゴリと減っていき、セツナに『お金を渡すことも・・・・・・』などと言っていた癖に素寒貧すかんぴんもいいところ。



 何とかしようとブログを開設してみたが・・・・・・今月の三十二円が最高額だ。



「こうなったら・・・・・・あの手段をとるしかないようですね・・・・・・」


「先生・・・・・・『あの手段』って?」


「・・・・・・動画をネットに上げて、それで収入を得るという今時の・・・・・・」


「ダメです!! そもそも動画撮影・編集・アップロードにどれだけ初期投資が必要だと思っているんですか!!」


「じゃあ・・・・・・アングラな地下格闘技に乱入して、優勝賞金をかっさらう・・・・・・」


「チューバーよりも現実的ですけど、都合良く月に何回も開催されていると思いますか? 年三回がいいところですよ?」


「うぐぅ・・・・・・」


「もう・・・・・・いつの間にやら少女を助け出したり・・・・・・面倒見ていたり・・・・・・お人好しにもほどが・・・・・・」



 くどくど・・・・・・


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