死が二人を分かつまで

KAI

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”出逢い”

【後始末 その壱】

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 唯一、痛めつけられなかった船長は、役目を果たした。



 無事に(?)長崎県の人目のつかないみさきに到着した。



 だが、接岸した瞬間・・・・・・ッッ!!



『警察だ!! 船員!! 直立不動ォォォ!!』



 一斉に点火した赤色灯が、群れをなして待っていた。



 船に何本ものハシゴがかけられ、何十人もの警官隊が登り、乗船して制圧にかかる。



 その様子を、少し後ろで見ていた灰色の背広を着た男が、タバコを箱から揺すり取り出していた。



「良くやってくれた・・・・・・芥川あくたがわ



「いやはや、上手く気づかれずに背後をとれたと思ってましたが、流石です山崎警部」



 暗闇から出てきたのは、またもやずぶ濡れの作務衣を着ている男。



 その脇に、ちょこんとブルーシートを頭から被っている少女がいる。



「・・・・・・今さらお前のお人好しに口出しはせん。しかしな・・・・・・」


「まあ話しくらい聞いて下さいよ山崎さぁん」



 山崎警部・・・・・・肩幅が広く、ガッシリとした体格。身長は一八〇センチを超えている。



 鼻の下に濃いヒゲを生やし、アゴもガシッとしている。



 眼はわしのように鋭く、眉毛も太い。



 なんともクマさんのごとき印象を受ける中年男性だった。



「このね! 凄いんですよ!!」


「何が・・・・・・お前・・・・・・その目、どうした?」



 包帯とも言えないボロ雑巾でグルグル巻きにした左目。



「そうそう!! コレね!! このがしたんですよ~いや~何年ぶりですかねぇ!! ヒヤッとしてヒリヒリした感覚に襲われたの!!」



 バッと夜空を見上げて、隻眼の男は叫ぶ。



「私!! 生きてて良かったぁ!!」


「・・・・・・変態め」


「何もそこまで言わなくてもいいじゃないですか~」


「ハァ・・・・・・で、どうするんだその被害者」


「もちろん!! 私が引き取ります!!」


「何がもちろんだ。今すぐに未成年者誘拐で逮捕してやろうか?」


「ちゃんと聞いて下さいよ~この娘・・・・・・両親は・・・・・・もう・・・・・・」


「・・・・・・それ以上言わんでいい」


「やっぱり、山崎さんは恐そうだけど優しいですねぇ~」


「だが、国に返すのが正しいやり方じゃないのか?」


「・・・・・・惜しい」


「え?」


「これほどの逸材いつざいを、貧困層の中に埋もれたままは・・・・・・もったいない・・・・・・私の『』のさがが許しはしません」


「馬の耳に念仏ねんぶつやもしれんが、一応言っておくぞ? 外国から誘拐された子供を養子にするのには何重もの手続きと審査と調査が必要なんだ。お前の立場だったら、落ちる。分かっているのか?」


「そこのところは・・・・・・山崎さん!! 頼みます!!」


「あのなぁ・・・・・・」



 山崎は呆れて物が言えない。



 そんな様子だった。



「だってぇ~このも私と一緒が良いって・・・・・・」


「言ったのか?」


「外的ショックによって失語症しつごしょうですが、こう・・・・・・でそう感じました!!」


「・・・・・・お前、本当に武がなかったら最底辺のゴミ野郎だな」


「私自身もそう自認してます」



 えへへ、と頭を掻く作務衣の男。



「まぁ? 山崎さんがど~しても『無理だ。できない』っておっしゃるんでしたら? さんに助力を請うだけですけどねぇ~」


「なぬっ!?」


「あ~あ。正義の味方で武道の魅力も十二分じゅうにぶんに理解している山崎さんなら、力を貸してくれると思ったんだけど・・・・・・しょーがないですよねぇ? できないんですもんねぇ?」


「・・・・・・る」


「え?」


「・・・・・・やる!」



 ニヤリと隻眼作務衣は笑った。



 チョロいぜこのオッサン。



「本当ですかぁ! やっぱ凄いですぅ! 山崎さぁん!」


「持ち上げるな・・・・・・あぁもう! だが、俺の立場もあるし、限度がある。悔しいがあの腐れ丹波にも手伝ってもらう」


「はい! 表と裏から。そしたら完璧ですものね!」


公文書偽造こうぶんしょぎぞうに・・・・・・偽の報告書の作成・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「じゃあ、後は頼みましたよ!!」


「ちょっと待て。船内は安全なんだろうな?」


「ええ。少女たちはボスの私室で温かいご飯を食べてます」


「で、構成員やそのボスとやらは?」


「ああ・・・・・・まあ、生きてます」


「・・・・・・」



 山崎は笑顔の裏にある作務衣の男の、血生臭さに気がついた。



「・・・・・・お前、また『』を?」


「・・・・・・どうしてもボスの方がねぇ・・・・・・救い難い方でしてねぇ・・・・・・」


「息の根は止めていないだろうな?」


「無論です。ですが・・・・・・死んだも同然」


「もっと酷い・・・・・・警官の俺が言うのもなんだが『』状態にするのがあの技だ・・・・・・お前・・・・・・」


「・・・・・・世の中にはね、山崎さん」



 少しだけ、声のトーンが下がった。



「心も体も破壊して、そこまでしてやっと初めて自分の罪を理解する人種もいるんですよ・・・・・・そんなこと、警察官をやっていたら分かってるんじゃないですか?」


「・・・・・・三週間だ」


「はい?」


「三週間。まずはその娘が正規のルートで入国したことにして、それから役所の手続きに移る。それまで三週間・・・・・・静かに息を潜めていろ」


「分かりました」


「入管に知り合いがいる。役所にもな。まあ、安心しろ」


「・・・・・・山崎さんになら、そんな言葉いらずとも安心してますよ」



 ザッザッと去って行く男を見つめる山崎。



 その胸中は複雑だった。



 山崎は警官をやりながら、空手家という側面も持ち合わせている。



 フルコンタクト空手の最大流派『白真会はくしんかい』の参段さんだんだ。



 大会で入賞したこともある。



 だが・・・・・・彼を知ってからは、自分の生きている世界とのギャップに苦しんでいる。



 日本の武道は素晴らしい。



 礼に始まり礼に終わる。



 相手にも最大限のリスペクトをする。



 勝った後に狂喜乱舞してマイクパフォーマンスをするような若造共とは、品格からして違う。



 武道が大好きだ。



 しかし・・・・・・あの男・・・・・・人生を武に捧げ、武に愛されている。



 それと比べれば・・・・・・自分など一般人も同じ。警察官という立場上、こうして何度も協力してされてを繰り返しているが、同じ土俵には立てず。ただ指をくわえて見ている観客に過ぎない・・・・・・



「・・・・・・俺も、強い人生だったらなぁ・・・・・・」



 紫煙を吐きながら、警部は呟くのであった。


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