死が二人を分かつまで

KAI

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”出逢い”

【Mr.リズム】

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 元は軍人だった。



 その凶暴きょうぼう性は、部隊の中でも有名で、実戦を想定した訓練では銃を使わず白兵戦で勝負をつけるのだった。その際には、相手の兵士の骨が折れる、内臓が損傷そんしょうする・・・・・・はたまた・・・・・・死ぬ。



 人のことを壊す。



 しかも・・・・・・鼻歌を歌いながら。



 その、異常な癖から『Mr.』と名付けられた。



 軍でのあまりの傍若無人ぼうじゃくぶじんぶりに、不名誉除隊ふめいよじょたいに処されたが、それを言い渡した上官をその場で殺害。



 大きな音を聞いて扉を開けた上官の秘書は、机にカエルのように叩き潰されている上司の亡骸なきがらと、何者かが出て行った窓を発見した。



 彼が記録した重量挙げの種目全てを総合したら、なんと一トンを超えていたらしい。



 もしも犯罪に走らず厳格に軍にいれば、どれほどの英雄になれていたか・・・・・・



 表社会に居場所がなくなったリズムは、そのまま裏社会に入った。



 普通、ギャングの新米は靴や車磨きから始まる。



 だが、彼は違った。



 気に食わない。



 それだけの理由で所属していたギャングのボスを右ストレートで殺した。



 唖然あぜんとしている幹部たちに「俺様の下につくか・・・・・・もしくは死ぬか!!」と二択を突きつけた。後者を選ぶ者は、皆無だった。



 一夜にしてボスとなった彼は、人身売買じんしんばいばいに着手した。



 ただ金になる。



 商品を眺めては、度々自分の性欲発散に使ったものだ。



 そうして毎回、犯した女の顔を、背中にタトゥーとして残していた。今や、三〇もの女たちの顔が彫られ、新しく入れる場所に苦慮くりょしているところだ。



 風貌ふうぼうも変わった。



 軍人だった頃は規則にのっとって坊主頭だったが、髪をオールバックにして金色に染めた。眼光も薬物をたしなんでいたことでドロンと濁ったものになっていた。



 だが、鍛錬だけは欠かさなかった。



 その結果、身長二メートル体重一三〇キロにもかかわらず、リズミカルにステップを踏みながら、敵をほふる。



 生身の人間の顔面を真っ正面から、突き抜けるように殴るのが、性交渉のエクスタシーに勝るとも劣らぬ快感だと彼は言った。



 歳は二七歳。



 脂の乗った年齢だ。



 しかし、いくら金を得ても裏社会で恐れられても、新参者であることには変わりない。



 他の組織に負けないビジネスを開拓するべきだと、感じていた。



 そこで、政治家たちの依頼をこなしながらも、隙を見つけては美しい少女をさらい売ることを本業にしようと考えたのだ。



 だが、いくら娼婦街しょうふがいに売ってもたかが知れている。



 そこで、日本の裏社会に売り込めないかを模索。



 ようやく『関口組せきぐちぐみ』というヤクザが定期的に少女たちを購入することになった。



 海上保安庁などの情報も慎重に集め、そして今夜、中古の足のつかない船を使い商品二〇名を送ることにしたのだ。



 外国の組織に顔を売るまたとない機会。



 ボスである自分も、船に乗り込んだ。



 大金と販路はんろを確保。



 そうすれば、自国の中でも頭ひとつ抜けることができる・・・・・・




 はずだった。




 まさか、たったひとりに、その計画が邪魔されようとは・・・・・・



 警報が鳴った時、彼は何をしていたか?



 豪華な自室で準備運動だった。



 スクワット・懸垂けんすい・腕立て伏せ・サンドバック打ちなどなど・・・・・・



 汗をかき、侵入者を撃退する楽しみのために入念なウォーミングアップをしていたのだ。



 退屈な船旅で、まさか殺せる愉悦ゆえつに浸れるとは・・・・・・



 汗を拭き、髪型を整え、黒のタンクトップのみを着てドアを開けた。



 不甲斐ふがいない部下たちは死屍累々ししるいるい・・・・・・違うな。



 死んではいない。



 ピクピクしているが、死にはしてない。



 まさか



 ・・・・・・舐めやがってッッ!!



 この俺様たちを・・・・・・生かしたまま捕まえる!?



 その選択を・・・・・・後悔させてやる・・・・・・ッッ!!



 ズチャリ・・・・・・ズチャリ・・・・・・



 軍用の厚底ブーツで艦内を闊歩かっぽする。



 ようやく、口がきけそうな部下が見つかった。



「ぼ、ボス・・・・・・」


「下らねえ言い訳はいらん・・・・・・何人だ? 誰にやられた? 得物えものは?」


「そ、それが・・・・・・ひとり・・・・・・」



 ・・・・・・??



 ひ・・・・・・と・・・・・・り・・・・・・?



「たったひとりに?」


「ええ・・・・・・それと、素手で・・・・・・」


「分かった。もう良い」


「ボス・・・・・・ヤツは商品の部屋に・・・・・・」


「ッッシャァァァ!!」



 ズガァァァン!!



 部下は壁にめり込むほどに蹴り飛ばされ、そのまま絶命した。



 まさか一応のために重武装させてたのに・・・・・・ひとりの野郎に・・・・・・



 この俺様の計画が・・・・・・



「・・・・・・てぇ」



 どこかの血管が切れたのが、分かった。




「ぜってぇブチ殺してやらぁぁぁ!!」




 窓が揺れるほどの咆哮ほうこう



 Mr.リズムの人生が試されている瞬間だった。
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