運命の人じゃないけど。

6

　鷹倫は大人になって初めて「楽しい。」と心底から感じた。

　遠くから見つめていた山崎と堀田も「お連れさんもどうすか？」と苳也に誘われて同席をして、初めて仕事以外で微笑む鷹倫の顔を見てただただ驚いた。


「えー！あのババアの受付ミスで1時間ってやばくね？」

「ほんとだよ、あのΩババアなんなの？か弱いですぅ、Ωなんだから大切にしなさいよぉ、閉経して何年経ってんじゃボケェ！」

「あはははははは！佐竹お前言い過ぎー！」


　苳也の同僚もシラフからテンションが高かった。αの3人にとってこの雰囲気は新鮮だった。性別の差がこうも生活まで違うのかと。


「山崎さんも堀田さんもαなんですねー。うちの会社βかΩしかいないんでこうやってαと話すの初めてかもー。」


　1人の女性がキャッキャとしながら、何故か女性の山崎に熱視線を送りながらそう口火を切ると他の人も同調しだした。勿論、苳也も。


「3人とも独身なんですか？」

「いや、私と堀田くんはΩのパートナーがいるけど、そこの鷹倫がねぇ…。」

「そうそう。ちょうどその話をする為に飲んでたところだったんです。」


　2人が鷹倫を呆れたように指すと全員が鷹倫に注目した。


「今日会社で“運命の番”を見つけたのに、接触を渋ってんのよ。」

「ちゃっちゃとマーキングして結婚しろって、みなさんも言ってくれません？」

「因みに相手の写メ。」


　山崎がスマホの画面に相手の千崎の画像を出して見せると、苳也たちは歓喜の声をあげた。


「めっちゃ美人じゃないですか！」

「男の人⁉︎え、すっごい綺麗！なにこれ人類⁉︎」

「松中さーん、これは即マーキングでしょ！何してんの！」

「佐竹、下品！」

「あはははははは！」

「そうそう！佐竹さん、もっと言ってやって！」


　山崎と堀田もアルコールが効き始めて苳也たちと同じテンションになって騒いだ。


「いいなーαの人は。こーんな美人さんと結婚出来んだもんなぁ。ま、俺らβには無縁だけど。」

「あ、でもさ、この前βとαの夫婦のとこにコンセントの修繕行きましたよ。βの奥さんが少しだけΩの血があるとかですっごい綺麗でした。顔がいいと望みあるんじゃないっすか？」

「じゃ俺ら無理だな。」

「ちょっとそれ酷くなーい⁉︎ねぇ、松中さん！」

「いや……佐竹さんはとても魅力的な人です。」

「あ？俺？」


　精一杯のアプローチで鷹倫の心臓は跳ね上がった。そして自分に向けられる間抜けた苳也の顔が愛らしく感じる。


　ドクン　ドクン　ドクン


　気がついたら、鷹倫は苳也の頸に歯型をつけていた。