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青春イベント盛り合わせ(10月)
楽しい修学旅行④(※)
しおりを挟む風呂から上がり、暫しの自由時間。
だがそれは戦争の時間でもあった。
「2回戦!チーム片倉 vs チーム松田ぁぁぁぁ!」
うおおおおおおおおおおお!
「レディー…ゴーッ!」
うおおおおおおおおおおお!
2年5組男子が4チームくらいに分かれて無差別な枕投げトーナメントを開催している。男子高校生の枕投げ、ガチもガチで部屋のありとあらゆる備品や装飾品をあらかじめ避難させて戦ってないチームの男子はヤジを飛ばしながらも襖や障子にダメージを与えないように見張る。
「松田ぁ!アレ投げろ!」
「うっしゃあぁぁ! くらえ…俺の必殺………オープンザドアぁぁぁぁぁぁ!」
智裕はツーシム気味のカットボールと同じような軌道で枕を投げると相手チームを次々と薙ぎ倒す。
「てめぇらズリィぞ!」
「うるせー!これも立派なぁ…戦術だぁ!」
「松田くん、怪我だけはやめてよ?」
野村は智裕の腕だけを心配した。
智裕の投げた最速の豪速球は片倉チームにいた一起の顔面に直撃する。
「ふごぉっ!」
「いえー!江川っち倒れたー!」
一起は鼻を抑えながらその場に崩れた。
「いてぇ………っだぁ!くそぉ!」
やり返そうと立ち上がると、すぐ近くにいた若月が一起の異変に気がついた。
「委員長!鼻血!」
「は?」
「あ、本当だ!江川めっちゃ鼻血出てる!」
「え?」
一起は自分の鼻を押さえていた右の掌を確認した。
「マジかよ…」
「ツワブキちゃんのとこに行ってこいよ」
「あ!江川っちずりぃ…!」
「行かねーよバーカ」
先程、体調不良を訴えた女子生徒が保健医の拓海に介抱されているのを見ていた一起は拓海の元に行くことを拒んだ。鼻をおさえながら戦場と化している部屋を脱し、とりあえず水場に向かうことにした。
***
男子トイレの手洗い場でひたすら顔を洗って、鼻血もおさまることがわかると、寝間着用の体操服の袖で男らしく顔を拭う。一瞬鏡にうつる自分と目が合う。
「………はぁ」
呆れと落ち込みがせめぎ合うなんとも複雑な心中、せっかくの一生に一度の、大切なクラスメートたちとの旅をもっと楽しみたいのが一起の本音だった。
(まだ売店行っても大丈夫だよな…水でも買って……)
そう思ったが慌てて出てきたので財布もスマホも持っていなかった。
また大きくため息を吐きながら男子トイレを出て騒がしい戦場となっている部屋に観念して戻ろうと歩いた。
「一起」
後ろからそっと呼びかけられた聞き慣れた声、だけど今は聞きたくない声。一起は振り向かずに事務的に返事をした。
「なんですか?」
「………ちょっといいか?」
「………行かないと内申点に響くんですよね?」
「まぁ、そういう手も使っていいなら」
「サイテー…」
そう軽蔑するように呟きながらも一起は踵を返して一歩、一歩と裕紀に近づいた。
「で、なんですか?」
10cm以上高い裕紀を見上げず、一起の視線は廊下の壁だった。
「外、出ようか」
そう言って裕紀は久し振りに一起の手を取って歩き始めた。
***
旅館を出るとすぐそばは鴨川の河川敷に出る。人影が等間隔でぽつぽつとある。一起は裕紀に手を引かれたまま、ただ同じ速度で歩くしかなかった。半歩前を歩く裕紀の表情は夜で窺うことができない。
(なんか、この沈黙、すごくやだ)
ジャリ、ジャリ、地面を踏む音が妙にうるさい。もうこの静けさにも限界がきていた。
「先生、こんなとこまで連れ出して、なんですか? さっさと要件済ましてください、もう消灯時間もちか…」
いつも以上に文句を垂れてどうにかやり過ごそうとしたら、裕紀が一起の方をまっすぐと見つめていてその目と視線が交わってしまう。裕紀の表情は、見たこともない、困ったような笑みだった。
「一起、もう少しだけ歩こうか」
一起はなんとなくそれに従った。手は繋がれることはなかった。
ザッ ザッ ザッ
足取りは重いのに足音は軽い。そんな矛盾に一起はまたため息を吐きそうになる。すると沈黙を破るのは裕紀だった。
「ここな、別れた嫁とも来たことがねぇんだよ。マジで高校以来、20年近くぶりに来た」
静かな川の音とともに流れるような切ない声色が一起の耳に届く。一起はふと顔をあげて裕紀の背中を見つめる。
「高校の腐れ縁の友達と遊んで、そん時に萌香と2人でここを歩いたんだ。何となく萌香との思い出を上書きできなくてさ、情けないだろ?30過ぎたおっさんが」
裕紀の自嘲に肯定も否定もせず、ただただ、その背中を見つめている。
「ベタなカップルのデートコースやね、ってアホくさく笑った顔がさ…妙に頭の中にこびりついて、今でもはっきりと思い出すことができるんだよな…」
一起は耳をふさがなかった。向き合おうと顔をあげたままにした。だけどその代わりに涙が溢れてきた。裕紀の背中が、歪んで見える。
「でも、お前と一緒に行きてぇなって思えたんだ。あいにく夜で何も見えないけど、それでも…な」
一起の方を振り向いた裕紀は、一起が泣いていることに驚きもしなかった。一起は恥ずかしさから腕でゴシゴシと目をこすった。
次に一起が顔を上げた時、裕紀が目の前にいて、一起の左手はそっと裕紀に取られていた。
「一起、俺はお前が好きだ」
言葉と同時に、一起の左手の薬指にはキラリと光る指輪がはめられた。
「こんなどうしようもない大人でごめんな。不安にさせたよな」
余裕がある口ぶりのくせに、一起の輪郭に触れる裕紀の手は震えていた。それに一起は愛おしさがこみ上げたが、裕紀に触れようと伸ばした手を咄嗟に引っ込めた。
「一起?」
「………先生は、ずるい、です…」
「で、お前の返事は?なんで手ぇ引っ込めた?地味に傷つくんだけど」
一起は震える声で、裕紀の顔を見ながら、少し怒ったように律儀に答えた。
「だって…ここ外で……触ったら、我慢できなくなる……から………」
川風が強く吹いた。
***
バタンッ
「ん、ふぅ、はぁ…っ!」
急ぎ足で強く手を引いて、裕紀は自分の部屋に一起を引きずり込んだ。部屋の鍵を閉めるとすぐに一起の華奢な身体を抱きしめて激しいキスを与える。
一起は裕紀の首に腕を回してそのキスを甘受しながら、ちらりと視界に入ったのは裕紀の部屋の中。明らかに2人分の荷物がある。
「あ、せん、せぇ……こ、こ…」
「もう待てねぇよ…」
「でも、他の先生、来ちゃ…」
コンコンッ
一起の懸念は的中した。
「あれ?星野先生、鍵かけてどうされましたぁ?俺鍵ないんですけどー」
裕紀と同室に割り当てられた2組の担任教師の声だった。
「田浦先生、すいません。うちのクラスが部屋でかなり騒いでたので首謀者に今反省文書かせてるんですよー。すいませんが1時間ほど締め切らせてください」
「あー、じゃあ石蕗先生の部屋か主任の部屋に行ってますねー。終わったら連絡お願いしまーす」
「はーい」
裕紀が上手いことそれらしいウソを並べてドアの向こうにいた教師は部屋から離れて行った。
「と、いうことだから…少ししか構ってやれねぇけど……」
裕紀は緊張でこわばってしまった一起の身体を軽々と抱き上げて少し雑に自分の衣服が散らばる方のセミダブルのベッドに一起を優しくおろした。一起がキョトンとした顔で裕紀の顔を見つめていると、裕紀は優しくワレモノを扱うようにそっと一起の輪郭を撫でた。
「好きだよ、一起……」
一起は触れられてるその手に触れて、じんわりと温もりを感じると、自然と涙が流れた。
「俺も……で、す……」
そんな一起の健気な返事に裕紀は安堵したように微笑むと、輪郭に触れていた手の親指で震えている一起の唇をなぞる。
「ほんと、勿体ねぇよな…こんなキレーな顔してんのに、こんなおっさんのものになっちまって」
「先生……もう、時間ないんですよね…?」
言葉と表情は控えめだが、一起の潤んでいる瞳は強く裕紀を欲してたまらないと訴えていた。
一起が纏っているのは簡易な学校指定のジャージ、あっという間に生まれたままの姿にさせられ、少し暗い部屋に色白い肢体が映える。
「お前さ、何あんな羽交い締めされてマジマジと身体見られてんの?」
「え……」
「松田の野郎はあとでシメるとして……ちゃんとマーキングしとかねぇとな」
「は?え……あれ、は……んんっ!」
白くなめらかな肌に裕紀は唇を当てると、チュウ、チュウ、と可愛らしくも凶暴な音を立てて吸い付き、その無垢な身体に己の所有の証として真っ赤な花弁を咲かせた。
吸い付かれ、舐められ、触れられ、その度にゾクゾクと身震いをする一起は声を抑えることに必死になり、横を向いて枕に顔を埋めた。視界を自ら閉ざした、そんな一起を見ると裕紀はいたずらな微笑みを浮かべた。
「何か文句あるか?」
「あ…明日から、お風呂…入れないじゃん……ばかぁ…」
「オンナにやられたとでも言っとけ、あいつらバカだからヘーキだよ」
「そんなの……やだ………俺、は…先生だけ……」
一起は恥ずかしがりながら独占欲を口にして、裕紀に向けて手を伸ばして少しだけ身体を起こして裕紀に抱きついた。
「はやく……しないと………俺、1回じゃ足りない」
裕紀はそっとその華奢な背に手を回して。
(こいつは本当に……)
***
一起はうつ伏せで腰だけ高く持ち上げられ、使い切りの潤滑ゼリーを使われ丹念に秘部を愛される。
グチュ、クチュ、粘着質な音がうるさくて恥ずかしい。
「ふぅ…あ、そ…んな…っ」
「まだ1本だけど…」
裕紀は急に指の関節を曲げた。久しぶりだが裕紀は一起の感じる場所を覚えていた。的確に狙われた一起は声を漏らさないように枕に埋まったまま声を出す。
「ああっ!や、だめ……声、ばれ、ちゃ…」
「じゃあ頑張って我慢しろよ…」
いたずらに色っぽく注意すると裕紀は容赦無く2本目の指を挿れてナカを拡げる。
声が漏れないように一起は必死にシーツにしがみついた。
「無理ぃ……出、る……」
「だめだ、俺の寝床がイカ臭くなるだろ」
「なんで…だ、よ……あっ」
達しそうになっていた一起は根元を握られて捌け口を堰き止められた。
「一起、こっち向け」
「へ……え…?」
うつ伏せていた一起は裕紀の言うがまま、ゆっくりと身体を反転した。動いてシーツが肌に触れるたびにビクビクと身体が震える。
握られて少しだけ萎えてしまった自身を見つめたら、視線を上昇させる。
裕紀は急いでシャツを脱ぐと、ジャージのポケットに忍ばせていたスキンを2袋取り出した。1つは硬くて熱くなった裕紀自身に、そしてもう1つは一起に着けようとしたが。
「萎えたのかよ…仕方ねぇな……」
呆れたように笑うと袋を投げ捨てる。そして一起の太ももをがっちり掴んで脚を開かせて、ヒクヒクと誘う一起の秘部へ挿し込む。
「ひゃう…んんっ!」
熱に侵された瞬間、一起の先端からはピュクッと白濁が可愛らしく飛び出した。
「あーもう、我慢、しろっての…!」
「んんん…む、りぃ……せん、せぇ……の…あ、熱い……」
「ちっ…!」
無意識で煽られると裕紀の欲望は更に増強する。ナカで凶暴となるその熱を感じると、一起は涙を流した。
先ほどの射精からまた硬くなった一起の屹立は裕紀の無骨な掌で管理されてしまっている。
「や、もぉ……せんせ、意地悪、やだぁ…」
「はぁ……一起、お前、田浦先生にバレてもいいのか?」
ここは裕紀だけでなく田浦も宿泊する部屋で、セックスの証拠は一片も残してはならない。
「や、やだ……バレたら、やだ…!」
「バレたくなきゃ、しっかり俺に掴まってろ……」
そう指示すると裕紀は深くキスを与えてきた。一起はそれに応えながら両腕を裕紀の首に回した。
ガクン、と深く深くに貫かれる。
一起は繋がったまま裕紀に抱えられた。裕紀はベッドから降りて一起の身体を壁に押しつける。
「んんんん!……あ、あぁ…ぁぁ…」
不意打ちで最奥に当たって、一起は絶頂を迎えていた。しかし射精は不可能で、ただ裕紀に縋り掴まりガクガクとする未知の痙攣に身をまかせるしか術がなかった。
「一起、大丈夫……じゃねぇな…」
「く、うぅ……あ、なにこれぇ……も、無理……たすけ、て……」
大粒の涙を流しながら一起は懇願した。裕紀は勿論応えた。
「助けてやるよ…これからも、ずっとな」
優しく額にキスを落としたら、繋がったままカーペットの上に一起を寝かせる。今までと同じように、視線、舌、指、熱を絡ませて。
裕紀は何度も何度も飽きるほどに想いをぶつけた。一起もそれは同じだった。
「ん、ふ、んん…ん!」
一起の喘ぎ声は全て裕紀の体内へ、裕紀の熱い吐息は一起が吸い込む。
ガツッ
(先生、もう…離れないで……)
隔たりすら破れるのではないかというくらいに裕紀は達した。一起はキスを深く深く、離さないようにと、しがみ付き全てを吐き出した。
***
消灯寸前、もよおした智裕は1人急いで用を足して個室トイレから出ると洗面台に誰かがいたので少しだけ驚いた。
「あ、あれ…江川っち! 何してた……」
「ん、ああ…松田か……」
一起は出てきた智裕に気がついて、洗った顔を雑にジャージの袖で拭いながら智裕を見た。
見られた智裕はびっくりしながら一起の全身をまじまじと見る。
「江川っち……お前もしかして、ほっしゃんとヤッてた?」
「……へ⁉︎ は、え⁉︎ な、なんで…!」
一起は智裕に指摘されて慌てて両腕で身体をかばうように隠した。 智裕は困惑した顔をして一起とヒソヒソ話ができる距離まで詰める。そして、くんくん、と匂いをかぐ。
「ん、イカ臭くはねぇな……けどな、お前…男なら拓海さんしか無理な俺でもちょっと勃ちそうなくらい、めっちゃエロいぞ」
「はぁぁ? そ、そんなわけねぇだろ」
「そうなの! じゃあ自分の顔鏡で見てみろよぉ」
智裕は一起の綺麗な輪郭を雑に掴んで鏡の方に向かせた。
「………なっ⁉︎」
「な? 俺の言うこと正しいだろ?」
「ぐ………けど、もう部屋戻んないと……」
「とりあえずお前1番壁側な、俺が隣の布団で匿ってやるから、誰かに気づかれる前にその、なんだ、エロいのなんとかしろよ」
「すまんな……」
一起は肩を落として事情を知る智裕に支えられながら部屋に戻る。歩きながら一起は右手で左手をさする。
その動きになにかを察知した智裕は一起の左手首を握って薬指にはめられた指輪に驚いた。
「ちょ、ちょっと江川っち! なにこれ⁉︎ え、なにこれ⁉︎」
「何って…指輪だろ」
「はぁぁぁぁぁ……ほっしゃんってこんなくっせぇことするんだー、ガチムチのくせに」
「それはガチムチ関係ないだろ」
いつものように冷静にツッコミを入れるが智裕はニヤニヤしながら一起に肩を寄せて、揶揄うように祝福した。
「あっついねーお2人さん♡ ま、とりあえず一件落着だな江川っち!」
「松田…」
感謝の言葉が出そうになったが一起はぐっと飲み込んで、智裕の腕をひねり上げた。
「あだだだだだだだ! お、おま、やめてぇぇぇぇぇ!」
「うるせぇ…! お前のせいで……くそが!」
「えええええ⁉︎ 俺なんかしたぁ⁉︎ いだいいだい! やめて! 江川っちーーーーーーーーー!!!!」
こうして修学旅行の夜は更けていったのだった。
***
同じ頃、韓国のスポーツアリーナの近くのホテルに多くの日本人記者が集まっていた。彼らのターゲットはホテル入り口につけられた大型バスから降車する。
「監督! 水上選手がプロに行くという噂は本当ですか⁉︎」
「水上選手! 日本代表選手を多く擁する“大阪サンダーズ”との契約は確約ですか⁉︎」
「今のお気持ちを一言だけでも!」
質問ぜめされる張本人である水上蓮はスタッフや他の選手に匿われるように口を開くことなくホテルの中に逃げていった。
「はぁー! マジしつこい! 契約したらちゃんと会見するっつーの!」
バレーボール日本代表候補に選出された水上は2学期に入ってから合宿、遠征などでほとんど学校にも行けずバレーボール漬けの日々を送っていた。
そんな最中、水上が最年少でプロチームに所属するという噂が流れ、練習場や遠征での移動の度にこうしてマスコミに追いかけられている。
「そりゃそうだろ、10代唯一の日本代表なんだから。マスコミはそういう『天才』とか『神童』が大好きなんだし諦めろ」
日本代表にほぼ内定しているベテラン選手の羽柴が笑いながら不機嫌な水上を宥める。
「これ終わったらやっと学校行けるって思ったらさ…はぁ……」
(今度はまっつんがアメリカに行っちゃうんだよなぁ)
「なんだ、蓮くんは学校に好きな子でもいるのか?」
羽柴がニヤニヤとしながら水上を見る。揶揄ってやろうと次の言葉を用意していたが、羽柴の予想外に水上は普通だった。
「そうですよ。 だけど俺、10月31日で転校ってことになったからまぁまぁ焦ってますよ」
真剣に答えると、水上は険しい顔でスマホのカレンダーを見る。
(まっつん帰ってくるのは22とかだよな…だとしたら本当あと1週間だけじゃん……絶対にあのチビ保健医からまっつんを奪ってやる)
「絶対に、な」
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