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青春イベント盛り合わせ(10月)
楽しい修学旅行③
しおりを挟む奈良から京都に戻り、夕方には今日の宿泊場所である旅館に到着した。
各々荷物を受け取ると「修学旅行のしおり」で指定されている部屋に向かう。
「お荷物、運ぶの手伝いましょうか?」
智裕は1人だけ海外遠征用の荷物もあったので持ち運ぶのに四苦八苦していると、見兼ねた従業員の人が声をかけてくれた。智裕はそのありがたい言葉に甘えようとしたときだった。
「大丈夫ですよ、自分のものは自分で管理させますので。」
担任の裕紀が爽やかに断った。
「ちょっとほっしゃん!俺これ持って階段とか無理なんだけど!」
「ウエイトトレーニングになるだろうが。」
「ならないから!誰か手伝ってよぉ…。」
「はいはい、ちゃっちゃか歩け。」
手伝いどころかむしろ臀部を軽く蹴られて智裕は少しだけバランスを崩した。軽やかに去っていく裕紀に向かって「脳筋ほっしゃんのバーカ!」と悪態をつくと諦めて1人で大荷物を部屋まで運んだ。
そして今日、男子は本来は4人部屋に無理矢理6組の布団を敷いて6人で過ごすことになっている。智裕は、同じ班の宮西、裕也と野村、一起と若月の5人と同じ部屋だった。
「うっわ、まっつぁんの荷物クッソ邪魔じゃね?」
「もっとコンパクトにまとめとけよ、要領悪ぃなー。」
「てゆーかトモって投手じゃん、そんなに道具いらねぇだろ。」
遠征、ましてや海外をなんぞやと知らない帰宅部たちに文句を言われるが智裕は気にしないことにした。
「松田くん、明日は朝とかアップする?」
「あー、それは…。」
野村にそう言われて智裕はスマホを取り出した。画面に出したのは日本代表ブルペンチームのグループチャットで、そこには強化合宿までのトレーニングの指示が書かれたスクリーンショットの画像があった。
「朝はまず柔軟のあとに12分ラン、キャッチボール…遠投含む、これくらいか。」
「朝食は7時だから5時には始めないと、かな?」
そんな野球部の会話を聞いて、その他の4人はゾッとする。
「トモ、カッちゃん…まさか、野球部って朝練すんのか?」
「え?そうだけど。」
「秋季大会と神宮大会に勝って春センに行かないとね。清田くんの為にも。」
「だなぁ。」
野村と智裕は顔を見合わせてニヤニヤと笑う。その理由がわからない4人はポカンとする。
「なんか部活が強くなると修学旅行まで大変だな…。」
「俺には絶対ぇ無理だわー!まっつぁんもカッちゃんもどんだけ野球バカなん!」
「話聞くだけでゲロ吐きそう…。」
「椋丞、お前はもうちっと体力つけろよもやしっ子が。」
そんな会話をしながら荷物を整理して、一起はしおりと時計を見ながら次の行動を予測する。
「6時半から夕食、で7時半から順番に入浴だと。俺たちは1組と一緒だな。」
「委員長ぉ、混浴とかじゃねーの?」
「馬鹿か。」
「一起、ここの両隣ってうちのクラスだっけ?」
「そうだけど。」
裕也はニヤリと怪しく笑う。そしてピョンと跳ねてテンションを上げる。
「よっしゃ!風呂上がったら枕投げしよーぜ!トモも参加な!」
「やーだよ!俺拓海さんとこ行く!」
「松田、石蕗先生は仕事だろ。」
「お前最近150キロバンバン投げてるらしいじゃん。片倉の顔面にガンガン当ててやれよ。」
「ぎゃははは!それいいな!」
「やっべ、それ面白そう。」
「松田くん…怪我だけはやめてよ。」
2年5組男子の夜は枕投げ大会が開催されることになった模様。
***
一方女子は4人ずつに部屋割りされて、井川と里崎は、増田と高梨の“ゆりるりコンビ”と一緒になった。
「うちのクラスの男子、今日なにすると思う?」
「枕投げでもするんじゃない?明日はホテルだし。」
「だよねー。」
高梨と里崎は今夜の男子たちの予定をすぐに言い当てた。
そんな2人の会話に苦笑いしながら増田と井川は畳の上に腰を落ち着けた。
「井川さん、松田くんにいつ告白するの?」
「へ⁉︎」
唐突すぎる増田の質問に井川はしどろもどろしてしまう。高梨と里崎もニヤニヤと笑いながら井川に詰め寄る。
「あ、の………あ、明日…にしたら…松田くん、迷惑かな?」
井川はほぼ100%玉砕することが確定しているのに、今日告白して明日の自由行動がギクシャクしてしまうことを危惧している一方で、明後日から日本代表強化合宿に出発する直前に告白してしまい智裕の精神を惑わすのではないかという懸念があった。
「え、別に明日の夜でいいじゃん。」
高梨があまりにもさらりと答えて井川は焦る。
「で、でも…明後日から松田くん強化合宿だし………そんな大切な日の邪魔をしちゃいけないんじゃないかって…思って…。」
「乃亜ちゃん、智裕のこと、あんまり見くびらないの。あなたが好きになった男でしょ?」
そう指摘されると井川はハッとして顔を上げた。高梨の方を見れば、高梨は井川に優しく微笑んでいた。
「あいつはそんなことで揺るがない、それくらい強くなってんのよ。ね?」
ずっと智裕を見てきた高梨の言葉は井川にとって力強かった。もうこの言葉を呑んでしまおうかと思ってもいた。
「乃亜ちゃんは優しすぎなのよ、あんなどヘタレに遠慮なんかしてやるなって。」
「そうそう、松田くんはドMだから寧ろ試練がある方が燃えるかもよ。」
「大体乃亜ちゃんみたいな良い子、松田には勿体なさすぎ。」
智裕の有識者である3人かしまし娘は今や井川の味方だ。
「夕飯、智裕と隣になる?」
「へ⁉︎ あ、いや…そ、それは……ずっと隣だったし……優里ちゃんにも…。」
「あー…いいわよ、別に。私なんか小学校の修学旅行で玉砕したんだから。」
「あれ?でも中学の修学旅行で優里、松田と……」
「わーーーーー!ヨーコさん!その黒歴史は消してぇぇぇぇぇ!私がお嫁にいけなくなる!」
高梨は妙に慌てて里崎の口を塞いだ。
「ね⁉︎乃亜ちゃんが智裕の隣にいて!ね?」
察しの良い増田は怪しく笑ったが、それ以上は追求しなかった。井川は夕飯にまた緊張してしまう、とそれどころではなかった。
***
そして夕飯の時間になり食事会場の宴会場へと生徒達は続々入っていった。卓上にクラスと班が書かれた紙が掲げられて智裕たちも自分の班の円卓へと向かう。
「うーわ、やっべ、すき焼きじゃん。」
「何を当たり前のことをいってんのよ、ちゃっちゃと座りなさい。」
里崎に促されると井川は当然のように智裕の隣になってしまった。向かい側で既に座っていた宮西は給仕をしてくれる従業員の女性と話しながらスマホを入力していた。
「関東とは作り方が全然違いますね。」
「そうですねぇ、東京のお客様は味の違いに驚かれる方が多いですね。」
「あの、これ撮影しても構いませんか?」
「え……ええ、ご自由に…。」
「ありがとうございます。」
料理のことになるととても礼儀正しくまじめになる宮西を智裕たちは呆れたように苦笑いして見た。宮西はだるそうな目を少しだけ輝かせてスマホを構えた。
こんな男子高生は初めてなのだろう、女性は戸惑うしかなかった。
「宮西くんって料理得意なんだよね。家庭科の調理実習凄かったもん。」
「家庭科の調理実習で肉汁溢れるハンバーグとか本気出しすぎなんだよ。」
井川と智裕は1年生の時の「宮西の神ハンバーグ事件」を思い出した。
宮西の得意料理であるハンバーグが課題で、教科書や教師から提示されたレシピを無視して店開けるレベルのハンバーグを生成し、担当の女性教諭が一口食べてむせび泣いたのであった。
そんな思い出を井川と共有すると智裕はおかしくて笑ってしまう。
「松田くんは宮西くんの料理食べたことある?」
「あるぜー。中1で日本代表になった時にさ、体でかくする為に死ぬ程唐揚げ食わされた。」
「あー……あれは悲惨だったわね。業務用のモモ肉3キロくらい買ってきて1キロは食べさせられたわよね松田が。私たちも2キロを分けたけど…しばらく唐揚げいらないってなった。」
すき焼きの他にもオードブルの皿があるのだがその中には定番の唐揚げがあった。そんな地獄の話を思い出した里崎と智裕は唐揚げに目をやると「おうえぇ」と同時にえづいた。
「じゃあ今日は松田くん、お肉いっぱい食べなきゃね。」
そう井川が言うと、向かいにいる宮西が完全に狩人の目つきになった。
「おい松田、テメェは飯だけ食っとけ。すき焼きのタレで飯だけ食っとけ。」
「はぁ⁉︎俺に肉食わせろよ!俺まだ75キロいってねぇんだよ!」
「とりあえずプロテイン飲んどけよモヤシ。」
いつもは一方的にボコボコにされる智裕だがご馳走のことになると宮西にさえファイティングスタイルをとる。
「あー…これは…。」
里崎がまたもや苦い思い出でを絞り出そうとすると、すぐ後ろの方から騒がしい声が聞こえ始めた。
「俺の肉だあああああ!」
「っざけんなチビ!肉は私のモンだかんね!」
どうやら大竹と高梨の肉戦争が勃発している模様だった。そして5組の各班あちこちから同様の戦争が起こっている。平和的解決をしようとする者は皆無だった。
「お前らうっせーぞ!」
職員卓の方から裕紀が呆れたように注意するがそんなものでは収拾がつくはずもなかった。
「ったく、5組は相変わらずですね。」
「すいません…あとでキツく言っておきますので…。」
「まぁまぁ、このご時世、クラスが満遍なく仲良しなのはいいことだと思いますよ。」
裕紀は嫌味を言われたりフォローされたりと忙しかった。拓海も他の教諭と合わせるように5組の方を見るが、その視線は愛しい人を探す。
「松田くん、はい、一応お肉確保してるよ。」
「サンキュー井川ぁ。あ、井川は?お前もせっかくなんだからちゃんと肉食えよ。」
「大丈夫だよ、ありがとう。」
智裕は井川を自陣営にし肉戦争をしていた。井川は智裕にすき焼きをこんもりとよそったお椀を渡してあげる。そんな2人のやりとりが目に入ったのは、井川を知る美術部の顧問で4組の担任、五十嵐だった。
「あらぁ、井川さんったら早速女子らしさ発揮してるわねぇ。」
「あ、五十嵐先生もご存知なんですか?」
「ええ、部活中ずーーーーーーーーっとグラウンドの方を眺めてたので白状させました。青春ですよねぇ。」
裕紀と五十嵐は親のような温かい目で井川を見守る。だが裕紀はちらりと拓海の方もみる。どうにか感情を隠そうとしているのがわかる。
「そういえば5号車のバスガイドさん、石蕗先生のお姉さんだったんですね。」
他のクラスの先生が唐突に話すと、拓海と裕紀は肩をビクッと震わせた。
「え、ええ…。」
「5組の生徒たちが話しているのを耳にしてびっくりしましたよ。とても綺麗なお姉さんですね。」
1組の担任教諭(独身男性)が少々鼻の下を伸ばしながら話すと、裕紀は聞こえるか聞こえないかくらいの音量で「顔だけはな」と呟いた。
「あ、姉はとても母に似てるので…はい…僕とはだいぶ歳が離れているんですが、とても可愛がってくれました」
拓海が当たり障りのない回答をすると、裕紀は頭の中に成海の顔と思い出が浮かんできて苦い顔をした。
そんな世間話で職員卓も盛り上がるが、拓海の心臓は徐々にチクチクと痛みはじめた。そんな時に、職員卓の方にやってくる女子生徒がいた。
「石蕗先生、すいません…ちょっと同じ班の子が生理痛酷くて…。」
「え、あ…うん。すぐに行くね。」
拓海はすぐに立ち上がって女子生徒の後について行く。そして夕食会場に戻ることはなかった。
***
夕食が終わって智裕たちはすぐさま風呂の時間になった。5組の男子は1組の男子と一緒だった。
脱衣所で一際注目を集めたのは智裕と恭介だった。
「………トモ…お前、モヤシじゃなかったんだな…。」
「マジかよ。」
「つーか清田も普通そうな顔してんのに脱いだらすげーとかどういうこと?詐欺?」
今夏、強豪校を抑えて甲子園に出場した野球部のレギュラーなだけはあった。恭介は臀部や太腿の筋肉が特に太くて引き締まっており、智裕は男子憧れのシックスパックで腕の筋肉も普通の男子に比べたら隆々としている。
「俺そんなモヤシじゃねぇっつの!それなりに鍛えてんの!わかる⁉︎何のために激マズプロテインに耐えてると思ってんだよ!」
「これでも選手は毎日ウエートしてるからな……それより俺は野村の腹筋が割れてる方が衝撃的だと思うけど」
群がる全裸のクラスメートたちを追い払おうとダークホースであるマネージャーの野村を指した。
野村はしれっと大浴場へ入ろうとしてたのに、それを阻まれるよう囲まれた。
「カッちゃん!なんで⁉︎メガネなのに何で⁉︎」
「いや、メガネ関係ないよね?」
「てか待てよ!野村…え、野村?」
「野村だけど」
「メガネ取ったら塩顔イケメンとか反則だろ!それで脱いだらすげぇとか俺ら勝ち目ねぇじゃん!」
「そんなことないってばぁ!俺は至って普通です!」
野村は逃げ、群がったクラスメートたちもなだれ込むように大浴場へ入った。恭介と智裕はホッと胸を撫で下ろしてその集団から少し離れて大浴場に足を踏み入れた。
洗い場で急いで体を洗うと次々と湯に浸かる。割と体育会系の多い1組と5組の男子たちは合宿慣れしていることもあり下半身をタオルで隠すことなく堂々と闊歩している。となると、ゲスい考えの多感な男子高校生は股間に着眼してしまうわけで。
「第1回、チキチキ☆ムスコの大きさ選手けーん」
無表情の外道・宮西椋丞がそんなことを言うものだから良識人とムスコに自信がない男子は一斉に股間を手で隠した。そんな中、1番はじめに犠牲になったのは智裕だった。5組の男子数人から羽交い締めにされると、大きさ鑑定士・若月と宮西にジロジロと観察される。
「松田、お前中学から成長してねぇんだな」
昔を知る宮西から真顔でそう言われると智裕は顔を真っ赤にし涙を流しながら反論する。
「いいんだよ!別に!」
「こんなんで恋人を満足させられるんですかぁ?」
「た…満足してくれてるっつーの!」
智裕は危うく拓海の名前が出そうになったが、今は1組の人もいるのでどうにか言葉を飲んだ。
「満足してんのぉ?演技じゃねぇの?思い出せよー」
百戦錬磨のヤリチンである若月にそう指摘されると不安になった智裕は1番最新の情事を思い出した。
__は、あ、あ、や、きも、ち、いぃ…
__ともひろくんに、ぱんぱんってしてもらわないと、イケなくなったのぉ………
「あああああああああああああああ!」
ただでさえ欲求不満な状態なのに拓海の背面騎乗位というマニアックな痴態を思い出して勃起しそうになり大声をあげて湯船に素早く沈んだ。
「何勃起しようとしてんだよエロ魔人が」
「ドMの勃起とか見たくねぇんだよ!」
「だったらムスコ選手権とかやめろよバーカ!」
智裕の言うことが珍しく正論だったが全員から無視される。そして智裕を基準に次々と若月と宮西から査定されていく男子たち。
「やめろ……やめろぉ…」
裕也は大浴場の隅に追いやられた。筋肉があるとはいえ小さい身体では抵抗できるはずもなく、(半勃起がおさまった)智裕と力があるサッカー部の男子たちに拘束されると、陰毛も薄いまるで小学生のような幼い股間がお目見えになる。
「最悪だ…この世の終わりだ………」
羽交い締めされた裕也は真っ青な顔をした。
「まあお前のチンコなんか一生使うことねぇだろうけど」
「だよなぁ、赤松のケツに突っ込むこともねぇだろうし」
「俺は直倫と一生付き合わなきゃいけねぇのか⁉︎」
「大竹、お前すげぇな…」
おもむろに近づいたのは清田だった。
「清田……お前はいいよな、チンコもそこそこデカ…」
嫌味たっぷりに涙目で恭介の下半身を睨もうとしたが言葉を失った。裕也を羽交い締めしていた男子たちも裕也の視線に合わせて恭介の股間を見ると驚きおののいた。
「………き、清田…」
「あ?」
「お、お、お前………」
「なんだよ。別に普通だろ」
裕也たちの異変に気がついた智裕と若月、宮西も近づいて恭介の股間をマジマジと見つめた。ダランと下がっているということはこれは最大サイズではないが。
「俺のフルマグナムとほぼ同じ…か?」
智裕は己の粗末さに嘆いた。
「これ優勝候補だな」
「ひえええええ!こんなの挿れられたらガバマンになっちまうって!」
「清田の彼女になる子、かわいそう」
「あ゛?」
恭介は一気に不機嫌になる。そして智裕は恭介の彼女、のような、自分の女房役でもある晃の顔が浮かんだ。そして不本意であるが、想像してしまった。
__や、そんな…おっきぃん………はいらへん…
「お゛え゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
晃のトロ顔など智裕にとっては吐き気をもよおすだけのものだった。智裕が何を想像したのかわかった恭介は、鍛え抜かれた手の平で後頭部を叩いた。そしてすかさず頭を掴んでギリギリと握りつぶす。
「おい…テメェ……」
「な、なんだ、よぉぉ…いてぇ…離せぇ…」
「今お前、晃の何を妄想したぁ?ああ?脳みそ潰してやるからなぁ」
(畠!絶対好きになる奴間違えたぞ!清田のやつマジでやべぇってば!)
恭介の独占欲や嫉妬心に智裕は恐怖を覚えた。このまま頭蓋骨が陥没するのではないかと自身の死まで想像した。
「5組の最大マグナムは宮西だもんな」
5組の男子たちには周知の事実であった。しかし宮西は「いいや」とそれを否定する。
「ダークホースっていうのがいるだろう。な、委員長」
素知らぬふりをし気配を消していたはずの一起に矛先が向けられて一起は下半身を庇いながら逃げようとする。しかし辱められた裕也がそれを逃すはずがなかった。
「一起ぃぃぃぃぃぃ!」
「江川っちいぃぃぃぃぃ!」
短小とお粗末の2人がかりで羽交い締めにし、きっちり股間を晒すと違うところで男子たちは固まった。一起は涙目になっている。
「お前ら…マジで、覚えてろぉ…」
一起は羞恥のあまりいつもの殺人鬼オーラが発動できなかった。
「委員長ぉ…チンコ、綺麗すぎねぇ?」
「え………委員長ってパイパンなの?」
「てか江川っち、脇毛もちょろちょろだよな」
一起の股間はほぼ無毛で遠目から見ればパイパン少女のそれだった。そして長さは平均的だがドス黒い色はなく本当にピンク色と形容していいくらいの美しさだった。
「そこの短小チビより毛がねぇし」
「短小短小言うな!」
「だから大浴場嫌だったんだよぉ…」
ほぼ無毛の薄毛でムスコまで色白であることは男として一起にとって最大のコンプレックスでもあった。それが今クラスメートどころかあまり係わりのない他クラスの男子にまでバレてしまい、本当に泣き出しそうになっていた。
「も…マジで………やめてくれって…」
(あれ?)
(一起?)
(委員長?)
真っ赤になった一起の表情はやたらと色っぽく、見とれてしまう男子が多数であった。
見とれなかったのは、晃を溺愛する恭介、無表情の宮西、真面目な野村くらいだった。
そんな時だった。脱衣所の方の扉が勢いよく開いた。
「もう交代の時間だぞー……って何やってんだお前ら」
顔を出したのは当然だが担任の裕紀。そして裕紀の目に飛び込んだのは、クラスメートに羽交い締めにされて股間を晒されて観察されて半泣きになっている一起の姿。
「何やってるって、マグナム選手権」
「はぁ……お前らはほんっと」
裕紀はいつものように頭を抱えてため息をはいた。「やれやれ」という仕草をすると、一瞬だけ一起を見てあとは辺りを見渡しながら注意をする。
「もう次のクラス入れるからさっさと上がって着替えろよー」
裕紀がそう言うと一起以外の全員が「はーい」と気の抜けた返事をした。裕紀はそれから一起を見ることもなくぴしゃりと扉を閉めた。
(………あ、あれ?先生…?)
泣きそうになった一起の涙は驚きと悲しみで引いてしまった。しかし肩は震えている。それに気がついたのは羽交い締めをしていた智裕だった。
「江川っち…」
「離せっ」
一起は少しだけ冷えた体のまま脱衣所へ上がった。
***
裕紀は男子たちが泊まる部屋が密集する廊下に行くと、次の風呂のクラスに声をかけた。素直に言うことを聞く生徒ばかりで手こずることはなく、ぞろぞろと大浴場に向かう集団を見送る。
シーンと一気に人がいなくなると、その場にしゃがみこんでしまう。
「………一起…」
一起の名前を呟くだけで、精一杯だった。
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