男子高校生のマツダくんと主夫のツワブキさん

加地トモカズ

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楽しい夏休み

アカマツくんの挫折

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 直倫は小田原の実家で朝を迎えた。目が覚めたのはドアのノック音だった。

「直倫さん、朝ごはん出来ましたよ。」
「……はい。」

 優しく透き通った母の声に応えて、直倫は重い体を起こした。目を触ると少し腫れていることがわかる。
 洗面所に行き、顔を洗い、顔を上げて自分の顔を見た。


「……はは…泣いてたのか。」


 タオルで顔を拭い、情けない表情で食卓に向かった。

 広いダイニングテーブルには、母が作った温かなご飯が並べられている。そして先に食べていた兄の直能ナオタカの隣に座ると、母が野菜ジュースを注いだグラスを直倫に出してくれた。

「直倫さん、明日帰るんでしょ?」
「はい、明後日から練習が再開する…ので……。」
「あまり無理はしないで…昨日のこともあるんだから。」
「大丈夫です。学校のみんなには黙っていたので。」
「直倫、松田くんにも黙っていたのかい?」

 牛乳を飲みながら、直能が訊ねた。

「はい……受かったら、お願いします、って言おうと思ってたので……すいません、兄さんに付き添いまでして貰ったのに。」
「まだ直倫は1年生なんだからこれからさ。挑戦したことに意義がある。」
「……すいま…せん。」

 直能の励ましに直倫はまた俯いた。すると母が後ろに立って直倫の背中をさすった。


***


 昨日の午後3時、U-18日本代表選手の最終追加が発表された。
 すでに松田智裕、松田八良、中川駿太など12名は確定しており、残りの8枠をトライアウト受験者から選出されることになっていた。

 その中に赤松直倫の名前はなかった。
 直倫が熱戦を繰り広げた馬橋の2年生正捕手のはたけアキラは名を連ねていた。
 そしてもう1人、直倫と縁深い人物の名があった。


「……そうか……。」


 隣で一緒に発表を見ていた直能は、少しだけほくそ笑んだ。


島田しまだ、受かったんですね。」
「そうだね……肩のハリがあって夏の大会には間に合わなかったから、1人で秋も見据えて練習していたんだよ。右投げの力強いオーバースローは馬橋の松田八良と同じタイプだから島田くんにとって良い経験になるだろう。」


 島田ツバサ聖斎せいさい学園1年生、投手。

 直倫とも昨年まで同じチームだった人物だ。そして、直能が自らの後継者と公言している同級生。
 同じ1年生なのに島田は選ばれている。だから一層悔しさが増した。

 それらのショックを直倫は家族の前で隠しきれなかった。


***


 いつもより時間をかけながら朝食を食べ終えると、母は特製のプロテインを2人に出した。
 同時に飲み終えると、直能が「ご馳走さま」と挨拶をして母に話した。

「母さん、今日は直倫と海に行って来るよ。」

    直能の突然の提案に、直倫は「俺は行かない」と断ろうとすると、直能に指で唇を触れられてそれを制される。

「暗くなる前に帰って来てくださいね。」
「最終のバスまでには帰ってくるよ。」

    直倫は直能に引っ張られて直能の部屋に入れられた。

「兄さん、俺は行くなんて言ってませんけど…。」
「直倫、砂浜で走ると下半身に負荷がかかってよく鍛えられるぞ。」

    直能はウキウキしながらクローゼットから大きめのトートバッグ、そして自分のグラブとスペアのグラブを出してバッグに収めた。

「久し振りにキャッチボールでもしようか、直倫。」

    あまりにキラキラした笑顔で言われて直倫もそれ以上拒否をすることが出来なかった。

「直倫、着替えとタオルを用意しておいで。」
「はい。」
「日焼け止めはあるか?」
「いえ…。」
「なら塗ってあげよう。腕、出して。」

    言われるままに直倫が腕を差し出すと、直能が日焼け止めクリームを丁寧に塗ってくれる。少しヒヤリとする温度と硬くなったマメだらけの感触。特に酷使し続けた右手は自分の何倍もの厚みがあった。

「どうかな、僕の右手は松田くんの左手に比べて。」
「え?」
「直倫なら解るはずだよね?」

    正直に答えるべきかどうか少し迷う。しかし嘘で取り繕うところで直能にはすぐ見抜かれてしまう。


「松田先輩は他の先輩に教えて貰うまで、県下でこんなに有名な兄さんのことを知りませんでした。」
「うん。」
「それに聖斎のことも、あー去年当たったところかー、くらいの認識でした。」
「そっか…松田くんにも推薦の話があったはずなんだけどね。」
「それほど…あの人はもっと上しか見ていない、そんな情報が入らない程の…厳しい練習を自ら課しています。だから……その、兄さんが決して努力してない訳ではないのですが…おそらく想像を絶する努力をあの人は…。」
「そうか……成る程、敵わないわけだな。」

    直能は感心したように微笑んで、諦めたような声を出した。

「あの敗戦を何度も見返した、そして馬橋対四高の試合も何度も見たよ。歯痒くもあり…どうして僕は負けたのだろうと、何度も何度も疑問に思った。」
「兄さん……。」
「でも、そうだね…今の直倫の話では合点がいったよ。松田くんの努力、僕も今後は見習わないとな。」


(兄さん……ごめんなさい。兄さんも充分凄いですけど…あの人の掌は……。)


 _……あ、か……ま…つ……。


(見えてしまった左手、震えて、荒れて、初めて見たくらい酷くボロボロで…俺はあれを一生忘れることは出来ないだろう。)


「兄さんの手は、キレイです。」


 今の直能にとってこれは褒め言葉ではなかった。直倫の両腕、両足、首回りに日焼け止めクリームを塗り終えると、直能は切ない笑顔を向けて直倫の頭をクシャッと撫でた。


***


 バスを乗り継いで市内の海辺に辿り着くが、キラキラと目立つ赤松兄弟は多くの人に囲まれた。
 やっと2人で静かになったのは到着してから1時間以上経ったあとだった。

 2人は本当に人気の無い砂浜でキャッチボールを始めた。



「直倫、どうして僕のスプリットを打てたんだい?」

 パシッ

「えっと…俺のバッティングピッチャーを松田先輩がしてくれてました。」

 バシッ

「そっか、やっぱり甘かったか?」

 バシッ

「すいません。四高おれたちには、甘く見えました。でも普通だったら十分通用すると思います。」

 バシッ

「ありがとう!…直倫、僕は今決めたよ。」

 
 直能はボールを投げずに、直倫に一杯の笑顔を向けた。


「僕は、中条ちゅうじょう大学に行く!」
「…え。」

 中条大学とは、大学野球の名門で野球部の厳しさはプロ以上とも云われている。日本で1番プロを輩出しているだけあって、スカウトで入学した部員も年に数度のセレクションでふるいに掛けられる。現在県内ナンバー1の実力と謳われている直能も生き残れるかどうか、正直難しい環境である。

「そこが僕のラストチャンスだ。」
「そんな…兄さんならもう調査書だって来ているはずです!なのにどうして…。」
「今決めたって言っただろ。直倫!」

 穏やかな顔でまた直能は直倫にボールを投げた。直倫はすぐに返球すると、直能は一呼吸おいた。

「直倫、少し構えてくれ。」

 それは、直能が本意気で投げる合図だった。直倫はグラブと身体を構えてゴクリと喉を鳴らした。
 右足を一歩下げて、グラブを口元まで上げて、左足をあげて身体を右に向けて、オーバースローで球が放たれた。


 ズドンッ


 キャッチャーミットではなく普通のグラブで捕球した直倫は全身がビリビリと痺れた。その球は県大会決勝戦で直倫がホームランにした綺麗なコースの豪速球と同じもの。

「僕は、この自信を確信に変えたいんだ。それが出来なければ、この道を諦める。」

 直能の決意の言葉は直倫に酷く衝撃を与えた。20m程離れた場所にいる直能のオーラは鬼気迫るモノがあり、直倫は膝が震えそうになった。

「直倫、君も本気になってくれないか?」
「どういうこと、ですか?」

 たらりと汗を一つかいて、受けた球を直能に返した。


 パシッ


「直倫!君は聖斎学園に戻るべきだ!」


***


 キャッチボールを存分に楽しんだ2人は、裸足になって岩場に腰をかけて足湯のように足だけ海水に浸かって、太平洋を眺める。


「兄さん……実は馬橋の中川なかがわさんにも、試合の後に言われました。聖斎に戻るべきだ、と。」
「…そうだったんだね。」
「分かってます…今回何故俺が選ばれなかったのか。公立高校でズバ抜けて能力があるわけでもない…時間も私立に比べて限られてくる…なら基礎がしっかりとした選手が選ばれると…自分の実力云々以外のことが少なからず影響していることを…痛感しました。」
「そうだね…決して直倫の実力が劣っているわけではない。あのトライアウトを最後まで見てた僕が思ったんだからこれ以上自分を低く見る必要はないよ。」

 パシャッと直能は海水を蹴るが、直倫は海面にじっと視線を落としたまま。

「でも俺は…松田先輩がもう一度あのマウンドに立つところを見たいんです。だから…今は、今のままで頑張ります。」

 少し顔を上げて直能を見ると、直倫はにこりと笑う。すると直能もつられるように微笑んだ。


 ピロリンッ


 このタイミングで直倫のスマホの音が鳴った。直倫はポケットに突っ込んでいたスマホを取り出し画面を見たら、智裕からのメッセージだった。

「松田先輩…珍しいな……。」

 確認すると動画とメッセージが添えられていた。


_大竹、なんか心配してたぞー。


 そして動画を再生すると、カラオケボックスにいる裕也がマイクを持っていてロックの音楽が流れ始めた。宮西も見切れているのでいつものメンツで遊んでいたのがうかがえる。
 歌い始めたのは直倫の知らない曲だった。けど裕也はとても楽しそうにカメラに目線を向けていて、そのメッセージは直倫に送られているようにも見えた。


「直倫?また泣いているのか?」

 直能に指摘されて直倫は気が付いた。目をこすりながら直倫は答えた。

「泣くのはこれで、最後にします……もう涙は流しません。」
「そうか…この人は、友人?」

 直能が訊ねた時だった。


『大竹ー、赤松に一言。』
『あ?直倫、ういろう買ってこいよー!』
『素直に寂しいから早く帰って来てよダーリン♡って言えよバーカ。』
『言うわけねーだろこのハゲ!』


 智裕と裕也の口喧嘩で動画は終了した。直能は少しだけ黙ったあと、愉快そうに笑った。

「今の声、松田くん?」
「あ……はい……。」
「今の歌ってた方は、直倫のとても大切な人なのかな?」
「……はい、とても大事な人です。」
「そうか…。」

 直倫の幸せそうな表情を見ると、直能は安堵したように微笑んで直倫と同じく海を眺めた。


***


 その日の夜、智裕のスマホに見ず知らずの番号から着信があった。少し警戒しながら智裕は通話ボタンを押して応対する。


「も、もしもし…?」
『こんばんわ、松田くん。赤松直能です。』
「なななな直能様⁉︎」

 まさかの人物からの電話で智裕はベッドから転がり落ちた。挙動不審になる智裕に直能はクスクスと笑っている。

「ど、どうして俺の番号を!てか何で電話を⁉︎」
『直倫から聞いたんだ、勝手なことをして申し訳ない。』
「い、いえいえいえいえいえいえ!こここ光栄でございます!で、直能さんが…いえ、直能様が俺のような凡人になぜ、で、電話を…。」
『少しね、松田くんに頼みたいことがあるんだ。』

 直能の真剣な声を察した智裕は一気に恐怖で緊張した。

 ドクン ドクン ドクン


『直倫に、聖斎に戻るようにと説得して欲しい。』

「え……。」


 智裕はその冷たい声を了承することが出来なかった。


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