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青春イベント盛り合わせ(9月)

オオタケくんとアカマツくんの懸念(※)

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 智裕はしぶしぶ直倫を、野村と共に松田家に連れて行くことになった。
 

 そして松田家でも例に漏れず直倫フィーバーが開始された。

「おおおお!神奈川の首位打者様じゃねーか!」
「うはあぁぁ!芸能人みてぇ!」
「お父さん!電話電話!お寿司取らなきゃ!克樹くんも食べていきなさい!」
「あはは、お言葉に甘えていただきます。」

 夕飯の用意が出来るまで3人は狭い智裕の部屋で待機することにした。

「大竹んチも赤松が来て寿司の出前だったらしいぞ。」

 智裕は押入れを漁りながら話をする。野村は智裕の学習机の椅子に、直倫は床で胡座をかいて智裕の動向を見ていた。

「赤松くんに寿司パワーでもあるのかな?」
「いや、そんなこと無いと思うんですけど。」
「野村も小5以来じゃね?ウチくるの。」
「だね。智之くんも大きくなってビックリしたよ。」

 2人が懐かしそうに話し出すと、直倫はキョロキョロと部屋を見渡す。すると本棚が目に入り直倫は立ち上がった。
 その本棚はあまりちゃんと整理されていなかったが、漫画本とは別に野球の専門書や雑誌がいくつもあり、その全部がボロボロになっていた。

 雑誌を1冊手に取ると、折り目がついていたページを開く。そこにはマーカーなどで様々な書き込みがされていた。それらのページはどれも身体の作り方か投球フォームだけ。

(他校の情報なんか入るはずないな……配球やトレーニングをこれだけ頭に叩き込んで……それで1ヶ月で完璧に体を仕上げて…松田先輩って……。)


 バサッ

 直倫が雑誌を戻そうとしたら別の本が本棚から落ちた。音に気付いた野村と智裕もそれを見てしまった。

「あ。」
「……これ、琉璃ルリちゃんが持ってるような漫画?」
「ち、ち、ちが!こ、これは!決して!ゆ、優里ユリ!そう!優里から読めって言われて!」
「でもこの表紙のキャラクター、心なしか石蕗先生に似てませんか?」

 直倫はパラパラとページをめくった。さきほど、拓海に似ていると指摘したキャラクターが縛られて目隠しされて大人の玩具で弄ばれて喘いでいるシーンを見つけてしまった。

「……あーあ。」
「松田くん、こんなことしたいの?」
「ちちちち違う!だからそれは優里に押し付けられたんだって!それに俺は緊縛する趣味はねぇ!されたいけど!」
「宮西くんじゃないから俺は何も言わないよ?」

(やっぱマウンドに立つ松田先輩は別の人格なのかもしれない。)

「おい、あったぞ。低学年の時のアルバム。」

 智裕の手には小さく古いフォトアルバム。それを開くと少し酸化した写真が出てくる。

 誰が誰だか分からないくらいに幼かった。野村と智裕は何かを探すように目を凝らした。


「いた!これだ!」
「……あー!この子…が、生徒会長⁉︎え、待って、うちの生徒会長って男じゃん。」

 2人が見つけたのは、白いワンピースを着たお人形さんのような少女。一緒に写る高梨、里崎に比べると圧倒的に可愛い少女、これが「ちーちゃん」だった。

「ちーちゃんって、野村が覚えてるってことは小学校の時か。1つ上だったのかよ…。」
「うーん、というか何で男子なのにワンピース着てたんだろ?」
「そりゃわかるわけねーよ……ちーちゃん、ねぇ……。」

 2人が懐かしむ横で、ゴゴゴ、と不穏な空気を出している直倫。その写真のどれもに「ちーちゃん」の隣は幼い裕也だったからだ。

「俺も女の子だと思ってちーちゃん好きになったんだよな。あと大竹も。」
「そうだったね……。」


***


「ちーちゃんは俺のお嫁さんになるんだ!」
「いーや!俺のお嫁さんだ!」


 小学校低学年の春だか夏、智裕と裕也は多分史上最悪の喧嘩をしていた。原因は女の取り合い。

 近くに越してきたお目々がクリクリしている美少女・ちーちゃん。

 裕也と智裕、どちらもこのちーちゃんが初恋であった。

 この日にちーちゃんがお誕生日だか何かで、裕也がプロポーズなんかをして智裕が「ちょっと待った」と邪魔をしたのが契機だった。


「トモみてーなビビりの泣き虫がちーちゃんを守れるわけねーだろ!」
「ユーヤなんかバカじゃん!この前算数で0点だったじゃん!」
「うるせーよ!トモの方が野球もかけっこもヘタなくせに!」
「ユーヤはおれより泳ぐのヘタクソ!」
「トモヒロくんもユーヤくんもケンカやめなよ!ちーちゃん泣いてるよ!」
「女の子泣かすとかサイテー。」

 優里と蓉子ヨーコが必死になって諌めるが喧嘩は酷く幼稚になる一方で、ちーちゃんは泣いてしまっていた。

「だっておれだってちーちゃん好きだもん!」
「おれがちーちゃんと結婚すんだよ!」
「もぉ…チヒロのことでケンカいやだよぉ……グスッ、うぅ…。」
「じゃあちーちゃんがえらんでよ!」
「おれとトモ、ちーちゃんはどっちが好きなんだよ!」

 物凄い剣幕で2人はちーちゃんに詰め寄った。それを引き離したのは克樹カツキ椋丞リョースケ

「ユーヤくん、トモくん!ちーちゃん怖がってるからぁ。」
「ちぃ、大丈夫だから…どっちか選んでやってくれよ。」

 えっぐえっぐと泣くちーちゃんは優里に慰められてなんとか落ち着いた。そして顔を赤らめながら、涙目で裕也を見る。


「チヒロ…ゆーくんがすき……。」


 智裕の初恋が粉砕した。泣き虫智裕はその場で大声をあげて泣いた。裕也を選んだちーちゃんはスカートをなびかせて裕也の元に駆け寄って。

 チュッ

 頬にキスを捧げた。驚いて顔も赤くなってる。そしてちーちゃんはふにゃりと笑った。


「チヒロ、おっきくなったら、ゆーくんのお嫁さんになる!」


***


「今思えばあの頃が大竹の全盛期だったな。」
「そうだねぇ、クラスの中心で運動も出来て、モテてたよね。」
「まさか背が止まるとは思わなかったけど。」

 約10年前のことを2人は懐かしんだ。「ちーちゃん騒動」を一通り聞いた直倫は無表情でアルバムをじっと見つめている。

「そう言うことなんだけど…赤松よ…俺と大竹はそのぉ…ちーちゃんがまさか男だとは微塵も思ってなかったんだよ。」
「俺も思い出したけど、本当に今驚いているんだよ。」
「大竹って超女好きだから!男だと分かって好きになったのは赤松だけだから!」
「赤松くん、その嫉妬にまみれた禍々しいオーラをちょっと控えて欲しいかなぁ……って。」
「……本当ですか?」

 直倫の声が完全に疑っている様子なのがわかって、智裕は肩をビクリと震わせた。

「ああああ赤松!怖い!マジで怖い!なんなのお前!」
「いやぁ……愛が重いね……。」
「つーかパッと見て生徒会長の方が大竹より小せぇじゃん。大竹が襲われて掘られるなんてことは絶対ないんじゃね?絵的にも厳しい。」
「その辺はよく分からなけど、会長も昔馴染みを見つけて声をかけただけかもしれないし。あと宮西くんも一緒だったからさ。」
「そうそう!宮西の仏頂面って昔っから変わんないし!それで思い出したんじゃねーの?な?」

 野村と智裕は全力で直倫をフォローする。ちーちゃん、もとい、加治屋かじやが裕也にそういう目で見ている訳じゃないと直倫に言い聞かせるように。

「松田先輩、野村先輩……俺、まだ自信が無いんですよ……。」

 直倫は眉を下げて不安そうに2人を見つめ訴えた。

「お前のスペックで自信無いって嫌味にしか聞こえねーんだよ。」
「まぁ気持ちは分からなくないよ、大竹くんって本当に超女の子大好きだから不安になるよね。」

 野村はよしよしと直倫の頭を撫でる。

「優里やヨーコさんが前に言ってたけど、俺らの中で1番男らしいのって大竹なんだぜ。そんな奴が黙って男の膝に乗せられたり、お前のキザったらしいレディーファーストな行動を文句言いながらも受け入れたりさ、フツーにありえねーから。」

 智裕は落ち込む直倫に呆れてビシッと指摘する。

「あと、なんか夏休み中にあいつピアス新しいの開けて、あいつの趣味じゃねぇ赤いの嵌められてたんだけど。」

 智裕はクイクイと右耳を指しながら言う。野村も「そういえば」と思い出しながら上を向く。

「あれ、お前のためにやったんじゃねーの?」
「あー……あー!赤いから、赤松くん…大竹くん粋なことするねー。」

 野村は参ったというように笑った。智裕はもう一度ため息を吐くと、直倫を見据えてハッキリと物申す。

「お前も大概愛されてんだよ。もうこれだけ挙げるとゲロ吐きそうなくらいな。」
「充分ラブラブじゃないか、赤松くんと大竹くん。」
「愛されてる…俺も、ですか?」
「何回も言わせんじゃねーよ。」

 智裕は「おえぇ」とえづき、猫を追い払うように「しっし」と手を振った。直倫は心が晴れたように安心した笑顔を浮かべた。その笑顔に智裕と野村もドキッとした。

「うわぁ……顔が直能ナオタカさんに似てるからタチ悪ぃなー…ドキドキしちゃう。」
「赤松くん、本当にモデルさんとか向いてるかもね。」


 智裕の心拍数が上がった頃に、智之トモユキが部屋をノックして「ご飯だよ」と呼びに来た。
 食卓には本当に特上寿司が並んでいた。


***


 翌日、裕也はいつも通りの時間に登校した。いつも北側の門から入る。すると門を通ってすぐに誰かに腕を取られた。

「ぬおっ!」

 驚いてコンマ数秒思考がフリーズした。しかし気がついてすぐに暴れて抵抗する。

「裕也さん。」
「な、直倫⁉︎何してんの?」

 犯人は制服に着替えた直倫だった。しかしいつもならキッチリとネクタイまで締めているのに、ノーネクタイでボタンも1つ外れている。着方もぐしゃぐしゃだった。

「すいません、ちょっと付いてきてください。」
「へ?あ、おい!な、何⁉︎」

 手を引かれて付いていくが、直倫に導かれるのは校舎とは反対の方向だった。段々と人が少なくなって、着いたのは部室棟だった。そして勿論、中に入ったのは野球部の部室。

 部室に押し込まれると、ガチャリ、と施錠するような音がした。

「直倫!何してんの⁉︎え、俺なんかした⁉︎」

 裕也は完全に怯えてしまっている。直倫は鍵をかけると、裕也の方にゆっくりと近づく。

「な、な、なお…み、ち……?お、おはよ?え、えっと…何?」

 直倫が近づく度に、裕也は後退し、だけど乱雑に用具が置かれた部室では足元を見ないとすぐに転んでしまう。悪足掻きで尻餅をついたまま後ずさるが、追い詰められる。
 裕也の背中にロッカーの金属のヒヤリとした温度がして、ガンッと激しい音が鳴った。
 そっと見上げると、眉を下げた不安そうな表情をしていた。その表情に裕也も心臓が高鳴るが、同時に困惑する。

「おい……なんだよ…どうしたんだよ……。」
「裕也さん……好きです。」
「……はぁ…。」

 いつも息を吐くように発する「裕也さん、好きです。」という台詞だったからか、裕也は脱力するようなため息を吐いた。

「いやいや、それ言うため引っ張ってきたのかよ!」

 冷静になって反論し、直倫を退かそうとすると、その腕を取られてロッカーに押し付けられた。

「何だよ……何か言いたいことあったんじゃねーのか?」
「……松田先輩たちにも言われました、裕也さんは俺のこと好きだって、超女の子好きな裕也さんが俺を受け入れてることは普通じゃないって…だけど、俺は…まだ自信ないんです。」
「急に何を言い出してんだよ、意味わっかんねー……んだけど。つーかお前のスペックで自信ないとか嫌味にしか聞こえねーし。」


(松田先輩と、同じ言葉……同じような考え…それはずっと一緒にいたから……そこに「ちーちゃん」も居て…。)


「チヒロ、おっきくなったら、ゆーくんのお嫁さんになる。」
「……な、に?」
「チヒロって人に会ったんですよね?昨日。」
「はぁ⁉︎何でお前が……ってカッちゃんとトモか……はぁ。それでまたくっだらねー嫉妬かよ。」

 裕也は呆れて睨みながら指摘すると、直倫は余計に力を加えた。ギリギリと音がしそうなくらい。

「いてぇ…よ…なんだよ……っ!」
「嫉妬ですよ…全部に嫉妬してます。野村先輩にも、松田先輩にも……俺は裕也さんのこと、何も知らないって思い知らされるんですよ…時間の差は埋められないこと、解っているのに……心は追いつかない。」
「いたい……離せ…!」
「教えて下さいよ…裕也さん……お願いだから……俺が裕也さんの1番だって…思いたいんです…。」


(教えて下さい…だと?)

 裕也はピクリと反応した。そして小さく低く呟く。


「それは…こっちのセリフだよ……。」


 裕也の怒りの声に直倫は驚き、泣きそうになって俯いていた顔を上げた。直倫の目には怒りに満ちた目をしている裕也が映った。

「俺のくっだらねー昔話なんかより、お前の方がコソコソコソコソしてんじゃねぇか。」
「裕也さん…?」
「俺、そんなに頼りないか?チビだから?バカだから?女役だから?」

(あれ、なんだこれ。めっちゃキレたいはずなのに……。)

 裕也の目からは涙が溢れていた。


「お前のモンは俺も全部一緒に背負ってやるって言ったじゃねーか!俺の過去知らねーお前より今のお前を知らねー俺の方が惨めじゃねーかぁ……!」

 いくら怒鳴っても、怒りでなく悲しみが直倫には伝わった。直倫が拘束の手を緩めると裕也は腕で顔を隠した。

「なんだ、よ……トライアウトって……落ちたって……ンなこと、知らなかったし……そんな、おれ、触れられたくねぇ、ことなの?」
「何で…そのこと……。」
「受け、て…ること…知らなかった……知って、たら…あそ、び…誘わなかった……俺のせい、かも…じゃん……おま、え…が……。」


 _あいつの将来考えたら四高こんなとこにいちゃいけないのは分かってんだ。


 盗み聞いた智裕の悩む言葉が裕也の頭に巡る。その言葉が今更、また痛く裕也に刺さる。続けようとした言葉は「お前が日本代表になれなかったのは俺のせいだったかもしれないじゃん。」だったのに、口走った言葉は違った。


「置いてくなよ……離れんな、よ……。」

 聡い直倫はその言葉が発せられる意味に気がついていた。だけど、まだ確証が取れない、それが不安で訊ねた。

「どうして、そんなこと言うんですか?」

 そっと裕也の腕を取って、隠されていた顔を暴く。ぐちゃぐちゃに泣いて真っ赤になって、釣り上がってた眉は下がってしまっていた。その潤んだ目は直倫をしっかり見ていた。


「好き……だから……おまえ、が……すき……だからぁ……。」


(……松田先輩、野村先輩…お2人の方が裕也さんこのひとのことを理解しているという事実に凄く嫉妬します。お2人の言う通りでした…俺は、愛されてました。)


「裕也さん…好きです……ごめんなさい……裕也さんを悲しませて、ごめんなさい……嫌いにならないで下さい…。」

 激しく、でも優しく、抱きしめた。
 裕也はその腕を震える大きな背中に回した。

「直倫……ちーちゃんのこと、昼休み…一緒にカッちゃん達に訊くぞ……俺、マジで覚えてないから……さ……。」
「はい……。」
「あとさ……直倫……1限…サボり、に…なるかも……。」


(恥ずかしい……何で、こんな状況で……どっちも…硬くなってんだよぉ……。)

 直倫は顔を近づけて、柔らかな微笑みを浮かべた。

「いいです…今は裕也さんが大事です。」

 「手加減しろ」とか前もって言おうとした裕也の呼吸は直倫に飲み込まれた。


***


 木製のベンチに裕也は横たえられた。普段自分の親友たちが一息つくために座るベンチ。トタン屋根の天井をまじまじと見るのもこれが最初で最後だろう、とか考える余裕もなかった。
 覆いかぶさってくるオスの目をした直倫に捕えられると、逃げる事は出来なかった。逃げたくもなかった。

「は、ふう……ん、んん……。」
「ん、はぁ…ゆ、や…さん…ん。」

 獣のようなキスはお互い初めてだった。裕也の細い腕が直倫をしっかりと捕まえて、角度を変えながら互いの口内を侵食していく。

「ん…な、お……みち……も、触る…。」
「え……?」
「ここ……お前も限界、だろ?」

 扇情的な潤んだ瞳で見つめながら、裕也の手は直倫のすっかりと膨張した熱を制服越しから触れる。

「ダメです…そんな、の……我慢出来なくなって、裕也さんを優しくできない…。」
「時間ねぇだろ……そこ、座れよ…。」

(あー…エロ動画見ながらいつか俺もされてーって思ってたのに…自分がやる羽目になるとはな……。)

 裕也の言う通りにベンチに腰掛けた直倫は、自分の脚の間にしゃがんだ裕也にベルトを外され、スラックスを全開にさせられ、下着をずらされて、ギンギンに勃起したモノを直に触れられた。

「ゆ……や…さ、ん……っ!」
「んむぅ……ん……。」

 そしてそれは裕也の口に含まれて、裕也は愛でるように舌で嬲った。たまらず透明が溢れると苦味が口に広がり少ししかめるが、嫌悪感はなかった。

(直倫、すっげー感じてんのか…。)

 ズッ ズッ

 わざと吸い上げて音を立てて、直倫だけでなく裕也自身の興奮も煽る。

(やばい……俺も、出てくる……。)

 裕也は自分のベルトにも手をかけて、スラックスを広げて下着も少し下ろして直倫と同じように興奮が溢れ出したソレを取り出すと、右手でスルスルと扱き始めた。

「は…裕也さん……なに、して……うぅ…ん…だめです…出そうです…っ!離して、ください…。」
「らへよ…んん…ん……っ。」

 受け入れる覚悟は出来ている、そう伝えるように咥えきれない根元を扱き、カリを刺激して、直倫を堕とした。青臭い苦味を全て呑み込んで、口を離すと、裕也のモノの先端からもトロトロの透明がたっぷりと滴る。

「はぁ…はぁ……ゴホッ!」
「裕也さん……無茶しないで……。」
「うるせー……させろよ……。」

 そんな男らしい言葉に似合わない、蕩けた表情と呼吸は直倫の中にあった少しの罪悪感と遠慮を掻き消した。
 直倫は強い力で裕也の腕を引いて立たせると、目の前のロッカーに押し付けた。ガンッとぶつかって、「いてぇ」と呟いて少し見上げると、そのロッカーの使用者の名前が記載されていた。

「トモ……のロッカー……や、やだ、待って……!」
「ごめんなさい、無理です。」

 しゃがんで、裕也の下半身の衣服を下げきって、両手で裕也の少し筋肉質で貧しい双丘を割り、そこに隠された秘部を舌先で愛した。

「バカぁ…やめ…ひゃうぅ…んん……きった、ないぃ…ってばぁ……あ…。」

 ピチャピチャと直倫によって濡らされている音が響く。ひだが丁寧になぞられていく。言い様のない快感でゾクゾクすると秘部はキュウと窄み、ペニスから溢れた先走りが陰嚢に垂れてくる。裕也の排出するものを惜しむように直倫は陰嚢を舐め上げて味わった。男なら誰でも弱いソコの刺激で敏感になった裕也は達した。

「んあ、ああああっ!そこ、なに…してんだ……よ……。」

 裕也の脚はガクガク震えている。直倫に固定されているからしゃがみこむことが出来ない。立ち上がった直倫にロッカーに押し付けられると、達したばかりのペニスにヒンヤリした金属の温度が伝う。

「や…だ…トモの…汚れちゃう……あ、直倫……やだ…。」
「すいません、このまま挿れます……。」
「は…何で……なん、で……。」

 直倫の先端が入り口に充てがわれると入り口は期待するようにヒクヒクと動いている。

「まだ…指、してねー…痛いの、無理だって…。」
「少し、腰落として……。」

 直倫が左腕で裕也の腰を自分の方に引き寄せると、少しだけ臀部を突き出すような体勢になる。

「こんなかっこ…やだ、恥ずかし……あぁああっ!」
「あぁ……挿入はいりまし、た……。」
「うそ…うそうそ…なんで…はい、た……。」

 グググ、と侵攻してくる熱と圧迫感で、痛みはなかったが、どうしても「やだ」と呻いてしまう。裕也の腰を支える左腕、その指先は裕也の脇腹の少し下。コチョコチョと擽ってみれば。

「んひゃあ…っ!ひゃ……あ、は、ば、く……すぐ、った……んんっ!」
「本当に……悔しい…。」
「へ……な、に……んんん……っ。」

 裕也の手は「松田智裕」と記名されたロッカーの平面を掴んでいる。その裕也の指先に直倫は視線を向けて、一瞬口付けた。

「ひゃうっ!……直倫ぃ…も…腹、おかしいぃ…。」

 直倫の熱が難なく根元まで挿入されたのだが、動かないから余計に裕也の内臓が熱く苦しくなる。

「裕也さんが、くすぐられるの弱いとか…痛いの嫌いとか…根っからの女好きとか…モテモテの全盛期が小学生の時とか……っ!」

 つらそうに呟くと後ろから裕也の右耳を舐めて、軟骨の、ピアスが嵌められた箇所を食んだ。

「このピアスホールも、わざわざ俺の為に開けたとか…全部、先輩たちに教えられて…悔しいです……。」
「は、はぁ……うぅ…そ、んな……こと……。」
「でも……裕也さんが、こんなに…可愛くて魅力的なこと……シルバーよりも赤が似合うこと…それを知ってるのは、俺だけですよね?」
「も……そんな、の…い、からぁ……っ!」
「良くない……!ねぇ…裕也さん……俺、この人にさえ嫉妬するくらい……貴方を独占したいんです……。」

 裕也の右手を直倫の右手が覆う。トントンと直倫が指したのは「松田智裕」の名前。おぼろげにそれを見る裕也は「バカじゃねぇの」と心で嘲笑う。


「裕也さん……いいですか?こんなに、愛しても…。」


(ああ、もうそんな風に訊いてくんなよ……重すぎるし……もっと、離れたくなくなる。)


 _赤松の兄貴にも、赤松を聖斎に返してって言われた。


(いつか…離れてしまうかもしれない時に辛くなるじゃねぇか……。)


 _赤松がもし聖斎だったら多分日本代表になってた……だけどなぁ…。


(わかってんだよ……トモが言ってることが正しいって……だからこれ以上好きになりたくないのに…っ!)


「い、い……よ……直倫……好き……。」


 裕也は右を向いて、間近にあった直倫の熱い吐息を口元に感じて、深いキスを交わした。そしてキスをしながら直倫は腰を引いて、打つけて、裕也のナカのナカの隅々を支配する。

「あ、あ、あ、あぁ、ん、ふあ…や、だめ…なお、みち…だめ…っ!」
「どうして、ですか…裕也さん…すごく、きもち、良さそうです……けどっ。」
「がくがく、する…あ、たま……ぐら、ぐらするぅ…あ、んあぁあぅ…。」
「もっと、速くします?もう、イってもいいんです、か?」

 直倫のペニスは裕也の肉襞にキュウキュウと象られて、動くのすら辛い状態になっている。裕也はキツくなる内部を楽にしようと「ハ、ハ、」と懸命な呼吸を繰り返す。未知の感覚に陥って半ば恐怖心を抱いている。直倫の右腕は裕也を抱きしめて、下に向いてた上体を起こされた。プチッと第3ボタンを器用に開けられて、するりと掌に胴体の直を許した。

「やだやだ!も、ちく、びぃ……だめだってばぁ……っ!」
「コリコリしてますね……ここも…鳥肌すごい……可愛いです…あぁっ!」

 主張する乳首を甘く擽られると、またナカに収まる直倫のペニスを締めた。直倫も衝撃で動きを止めたが、獣のタガが外れた。獰猛に成りきった直倫は、ガッチリと裕也を抱き潰すように自分と密着させると、絶頂を目指して激しく律動した。
 裕也の思考は「壊れてしまう」と危険信号を発していたが、それが裕也の脳神経と全身には求めていた快感だと解釈し伝達する。

「ああああっ!はげし、の、もっと、やらぁ!なお、ああぁぅっ!」
「裕也さん、裕也さん、裕也さん……っ!」
「あ、も、い、くぅ……あああぁぁぁぁっ!」

 裕也はナカから与えられる刺激だけで射精をした。直倫も同時に欲を裕也の最奥に注ぎ込んだ。


***


 1限目は幸い、グラウンドに出ているクラスはなかったので裕也と直倫は水道で直倫のタオルを1枚濡らして、身体を拭ったあと、部室の後始末もした。そして終業のチャイムが鳴るまで、部室棟の裏側の影で涼んだ。
 しかし裕也は直倫の脚の間に収められて、後ろからハグをされて涼むどころではなかった。

「うざい、暑苦しい、離れろ。」
「嫌です……ふふ、授業をサボって裕也さんを独占するなんて贅沢ですね。」
「おっまえマジで頭わいてんな。」
「何とでも言ってください。」

 直倫は裕也の発する暴言さえも甘言に変換して、嬉々として言うことをきかない。そして先ほどから何度も裕也の少し焼けたうなじにキスマークをつける。

「それチクチクチクチクいてぇからやめろ。」
「え…でもこうすると感じるって本に書いていたんですが…。」
「おい、それ何の本だよ。誰から借りた。」
「増田先輩です。」

 予想通りの答えに裕也はうな垂れた。直倫はもう一度だけ首の後ろにキスをすると、右耳のピアスに触れた。

「これ、なんの石でしたっけ?」
「あ……うん……なんだっけ?」
「ガーネットですよね。」
「覚えてんなら訊くなよ。」
「松田先輩と石蕗先生はお揃いでアクアマリンのマグネットピアスだって、夏休み中散々自慢されましたけどね。」
「アクアマリンなぁ……まーツワブキちゃんは綺麗な水色って合ってるよな。」
「アクアマリンの石言葉は『幸福』……そしてガーネットは『忠実な愛』って意味ですよ。」
「…………言っとくけどそれ選んだのお前だかんな。」
「でも嵌める為に開けたのは裕也さんですよね?」

 からかうように言い返した直倫に反論するために裕也が振り返ると、反論は許されずに即座に唇を食べられた。舌を2、3絡ませて、「はぁ」という吐息で離された。

「はぁ……もー疲れた……帰りてぇ…。」
「でも昼休みまでは残って下さいね。」
「もう早退でいいじゃん……。」
「俺の敵になる、ちーちゃんのお話を一緒に聞きましょうね。」
「さらっと怖いこというなよ。」


 なんとなく、ちーちゃん、もとい、加治屋の身が危険になりそうだと考えた裕也は、直倫の左手を取って薬指にキスをした。
 その行動にキョトンとしていると、裕也は直倫の左手を両手で持って俯いた。耳まで真っ赤になっている。


「そこ……俺が予約したから……誰にも、取らせねーっつの…だから嫉妬とか程々にしろよ、バカ倫。」

 直倫は左手が熱くなる。そして心が溶かされて温かくなる。自然と笑みがこぼれた。


「はい!」


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