男子高校生のマツダくんと主夫のツワブキさん

加地トモカズ

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楽しい夏休み

ミヤニシくんの名はアカマツくん

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直倫ナオミチぃぃぃぃぃぃ!」

椋丞リョウスケ!大丈夫!」




 夏休みも終盤、今日はいつもの幼馴染ズと直倫とで集まってアホトリオ(智裕トモヒロ裕也ユウヤ宮西みやにし)の休暇課題を片付ける為に里崎さとざきの家に集結していた。

 午前9時から始まった(主に野村のむら一起カズキからの)スパルタ学習は、正午すぎるまでノンストップで行われ、3人の頭が爆発寸前になり、里崎の部屋から出てきたカラーボールとカラーバットを持って、昔のように野球ごっこ(甲子園出場選手入り)を河原の空き地で始めた。
 高梨たかなしと里崎は日焼けを気にしながら、10年以上振りの野球ごっこを楽しんでいた。

 そして裕也がバッター、智裕がピッチャーでカラーボールでガチのスライダーを放ったが見事にヒット。ボールを追いかけたのはなんちゃって外野をしていた宮西と直倫だった。

 しかし2人は激突してその場に倒れ、冒頭に戻る。


 裕也は直倫の頬を叩きながら声をかけ、里崎は宮西をユサユサと揺らす。野村が急いでミネラルウォーターを買ってきて、2人の顔にバシャ、とかけた。

 すると同時に気がついて、先に起きたのは宮西だった。


「あれ?里崎先輩……。」

「え?」


 続けて起きた直倫。


「あ?何、ちょー痛ぇんだけど。松田マジでヘボだな。」

「な、直倫?」


 智裕と野村と高梨もしゃがみこんで2人の顔を覗く。そして一問一答をしながら意識確認を始める。


「えっと……赤松?」

「あ?何、俺と赤松そんな似てねーぞ。」

「いや俺赤松に話しかけてんだけど!」

「は?」

「じゃあ、こっちは……椋丞じゃないの?」

「え…俺が赤松ですけど。」


 すると直倫が宮西の方を見て指をさす。


「何で俺の身体があんの?何これユータイ離脱?」

「俺の身体がそっちにある……。」

「もしかして」

「俺たち」

「入れ替w「ストーーーーーップ!」

「♪君の【大人の事情でカット】」

「あ、歌ってる、棒読み気味で歌ってる。顔は赤松くんだけどあれは赤松くんじゃないわね。」


 とりあえず一度里崎の家に戻ることにした。


***


 そこから高梨と智裕による本人確認が行われた。

「ではまず、自分の恋人に抱きついて下さい。」

「ほーい。」

「はい。」


 2人は返事をすると、自分の恋人を優しく抱きしめた。直倫が里崎に、宮西が裕也に。
 抱きつかれた裕也は全身に鳥肌が立ち、里崎は珍しく赤面した。


「ぬあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!離れろ!椋丞!キモい!やめろ!」

「え…キモいって……俺たち恋人ですよね。」

「椋丞から敬語とかキモすぎる!やめろ!」

「ちょ、ちょっと……やばい……椋丞以外の男の子に抱きしめられるの初めて…かも。」

「え、じゃあこのまま違う男も経験しちゃう?俺のよりデカそうだし、ヤっちゃう?」

「ごめん、前言撤回。椋丞だわこれ。」


 野村も試しに比べてみることにした。そして2人の前にシャーペンとノートを差し出す。


「ここに自分の名前書いてみて。」


 そう指示すると、直倫の方は「宮西椋丞」と小学校低学年レベルの汚さで書かれ、宮西の方は「赤松直倫」と硬筆のお手本のような整った字で書かれた。


 そして智裕と高梨で最後の検証を行うことにした。


 ガシッ


「は?」

「ちょっとツラかせや。」

「松田、顔はやめな。ボディーにするよ。」

 
 裕也は智裕に抱えられ、リビングから追い出された。
 そして1分と経たずして裕也の断末魔が聞こえた。


「おい、アイツら何やってんだよ…。」

「うーん……想像したくないかも。」


 一起と野村は顔を青くして断末魔が聞こえた方を見る。そしてすぐに、2人は戻ってきた。
 直倫と宮西の目の前に転がされたのは、パンツ一丁姿で且つタオルで猿轡さるぐつわ、手足をガムテープで拘束された裕也だった。


「さぁ、仕上げといきますか。」

「んんんんんんー⁉︎」

 
 高梨と智裕はニヤリと笑い、ティシュで作ったコヨリで乳首や耳の裏、脇なんかをコチョコチョと攻撃する。
 一起は唖然としていたが、野村も里崎、ついでに直倫になっている宮西にとってこれは昔の遊びだったので懐かしさを感じた。


「よくやったなー、大竹くんをくすぐり攻撃。」

「あの頃は大竹姉もいたからもっと酷かったわね。」

「さすがにチンコやったときは引いたけどな。」

「ふふふ、久しぶりじゃのぉ、松田。」

「ふへへ、お主も悪よのぉ、高梨。」

「ふぅ…んんん…んーっ!ふぅ、うぅ……っ!」


 裕也は涙目になりながら身悶えた。そして野村と里崎は気付いてしまった。
 子供の頃はただ「きゃはは」と笑って苦しんでいたのだが、この歳になるとその行為は性感帯の刺激になる。ということは、裕也を性的な目線で愛している直倫なら、この姿に興奮するに違いなかった。

 そしてそれは立証された。

 宮西の身体の下半身が明らかに隆起していた。


「ギャハハハハハ!み、宮西が勃起してやんのぉぉ!」

「宮西の勃起……ふふふ、おもしろ!」

「高梨さん!松田!笑ったらダメだろ!」

「本当に椋丞が大竹で…なんてイヤだわぁ。」

「へー、この距離からもわかるんだな、俺の勃起。」


 ヒーヒーと顔を真っ赤にして涙を流している裕也を高梨はやっと解放した。
 すると宮西の身体の直倫はたまらず裕也に抱きついて、そのまま唇を貪った。甘い、甘いキス、の筈だが、裕也にとってそれは宮西からのもので、腹を思い切り蹴って抵抗した。


「マジでないから!椋丞のキスとかキモいから!」

「裕也さんがあんなに身悶えて煽ってきたんですよ!」

「だからお前は“宮西椋丞”なんだよ!中身が直倫だからってマジで無理だから!」

「赤松ー、勘弁しろよー。俺ツワブキちゃん以外の男とチューしたくねぇんだけど。」

「椋丞、それはマジなの冗談なの?松田が泣くわよ?」

「ヨーコさん、既に泣いてます。」


 一起は「帰りてぇ。」と呟いた。


***


 夕方、里崎宅は更に石蕗つわぶき親子を招集し賑やかになった。


「うーん……こんなこと現実でありえないよねぇ……。」


 養護教諭の拓海はスクールカウンセラーも兼ねているので心理学も普通の人より知識があるということで宮西と直倫を診てもらった。
 しかし拓海でも根を上げてしまう状態であった。


「ごめんね、ここまで詳しいこととか知らなくて。」

「謝んなくていいよ、普通にあり得ないし。」

「そうそう。夕方のツワブキちゃんってエロいよね。」

「椋丞。」

「でも2人の力になりたかったんだけど。」

「ぱーぱ。たぁー!」

「拓海さん、可愛い。」

「かあいー!」

「あー、石蕗親子の癒し最強だわー。松田邪魔殴りてぇ。」

「とりあえず今日はどうするんだよ。宮西も赤松くんも。」

「あ、明日朝練だよ。軽いメニューだから打撃とキャッチボールとランニングかな。」

「おいおい、赤松の身体でも宮西死ぬんじゃね?」

「俺が得意な運動は夜の前後運動だけだ。」

「爽やかなイケメンが言うセリフじゃねーぞ。」

「里崎、そろそろ宮西の家って弟たち帰ってくるんじゃないか?」

「あーそんな時間かー。とりあえず、赤松くん、今日は椋丞に成りきって椋丞の家で過ごそうか。」

「え、でも大丈夫ですか?」

「賢い弟の大介ダイスケには話しとくし、今日も椋丞のお母さんは朝まで帰って来ないし。」

「赤松、お前料理出来んの?」

「まぁ少しは……。」

「今日はチキン南蛮にする予定だからよろしくー。」

「何だろう…赤松くんの中に入ってる宮西くん、何でこんなに順応してんだろ?」

「宮西って図太すぎるくらい図太いからな。」

「で、俺どーすんの?赤松んチ?」

「いや、裕也さんと家族以外が入るのは嫌なんでやめてください。」

「えー、高級マンション入りたかったー。」

「しゃーねぇから、椋丞は俺んチ泊まれ。明日起こしてやるから。」

「じゃあ大竹の姉貴のおっぱい触っていい?」

「お前殺されるぞ。」

「うーん……どうにかなるのかなぁ?」

「宮西はどーでもいいけど赤松が不憫だな。」

「ぷー!」


 今日のところは解散した。
 宮西の身体になった赤松は里崎と宮西の家へ。直倫の身体になった椋丞は裕也の家に泊まり様子を見ることにした。


***


「おい、椋丞。直倫はまだウチに来たことねーからな。しょっちゅう来てるとかそういう態度出すなよ。」

「あらー、やっぱりセックスは高級マンションなのねー、お盛んだこと。」

「直倫の顔でゴリゴリの下ネタやめろ!」


 一抹どころか幾多の不安を抱えながら裕也は椋丞と帰宅した。


「ただいまー。オフクロー、今日後輩泊まるからー。」

「あらーそうなの。」


 宮西にとっては見慣れた顔だが、直倫はまだ一度も会っていない大竹家。その設定を忠実に守れるだろうか、と裕也の動悸はおさまらない。


「初めまして、赤松直倫といいます。いつも大竹先輩にはお世話になっています。」


 裕也は開いた口が塞がらなかった。先程まで気の抜けた顔をしていたのに、今は本物の直倫よりキラキラに輝く笑顔を母に向けていた。


「あらあら…まぁ……ちょっと裕也!アンタこんなイケメンと仲良かったの⁉︎」

「は、はぁ、まぁな……。」
(ちょっと待て!これ元に戻った⁉︎え、あれ椋丞か⁉︎)

「突然お邪魔して申し訳ありません。」

「いいえー、いいのよぉ。やだ、今日夕飯野菜炒めだわ!ちょ、ちょっとお寿司取らなきゃ!」

「何でだよ!」

「ちょっと、お化粧も直さないと。もーやだぁー!」


 大竹母は完全に舞い上がっていた。


「おい、りょ…直倫、部屋行くぞ。」

「はい、裕也さん。それでは失礼します。」

「ごゆっくりー♡」


 2階に上がって、裕也の部屋に入り、ドアを閉めると、裕也は大きなため息を吐いた。


「お前のかーちゃん、やっぱチョロいな。」

「人のかーちゃんチョロいとか言うな!やっぱ椋丞かよ!」

「あ?そんなすぐ戻るわけねーだろ。あー疲れた。」

「お前俳優になれるよ……って人のベッドを占領してんじゃねーよ!」

「あ、コンドーム発見伝。」

「ベッドの引き出し漁るなあぁぁぁぁ!」

「お前いらねーだろクソ童貞。」

「うるせーよ!俺だっていつかは卒業すんだよ!」

「つーかお前このチンコで掘られてんだろ?」

「だから直倫の顔で下ネタを吐くな!」


***


 宮西家の夕食はチキン南蛮に、ポテトサラダ、なめこの味噌汁、梅キュウだった。


「にーちゃん!おかわり!」

「こーちゃん、にーちゃんにたのんでもダメだよー。」

「はい、晃介コウスケ。お茶碗一杯でいいかな?」

「えー!」


 いつもの椋丞なら「は?自分でやれやクソガキ。」と睨んで終わりなのだが、今日はニコニコと慈愛溢れる、しかもで応えてくれることに末っ子たちは驚いた。


侑芽ゆめ、お口にご飯粒がついてるよ。」

 
 侑芽の顎についていたご飯粒を椋丞が優しく摘んでくれた。しかもニコリと笑った。


「ヨーコちゃん!にーちゃんどうしたの⁉︎いつもこんなにやさしくないよ!いつもは人をバカにする時しか笑わないよ⁉︎」

「んー…とね……えっと……。」


 里崎が困っていると助け舟を出したのは賢い弟の大介だった。


「侑芽、椋丞はね宇宙人に改造されて優しくなったんだよ。」

「うそだぁ!」

「本当だよ。その証拠にほら、これさっき椋丞が書いた字だよ。」

「うっわー!にーちゃん、ユメより字ぃヘタクソなのに!すごい!宇宙人すごい!」

「ね?だから今日は宇宙人に感謝しようね。」

「うん!」


 直倫はこっそりと里崎に耳打ちをする。


「あの……宮西先輩の人物像がよく分からないんですけど。」

「まぁ一言でまとめれば、クズ、かな?」

「俺自分の身体がすごく不安なんですけど……。」

「まぁ、大竹がいるから大丈夫でしょ…多分。」


***


 夕飯が本当に宅配寿司になった大竹家は、姉も帰宅して更に大騒ぎになった。


「ははは、お姉様もとてもお綺麗ですね。」

「やだーもー!お姉様だなんてー!ちょっと裕也!なんでこんなイケメンの知り合い紹介してくんなかったのよー!」

「こうやって騒ぐのが目に見えてたからだよバーカ。」

「先輩、お姉様への言葉遣いがはしたないですよ。」

「はぁ⁉︎」

「やーいやーい!怒られてやーんの!あはははは!」

「クソ姉貴……。」
(あー言いてぇなぁ。中身はいつも姉貴と喧嘩するクズ椋丞だって言ってやりてぇ…。)

「直倫くん、ご飯食べ終わったらお風呂に入ってねー。お客様なんだから1番風呂でね。ま、うちのお風呂は狭いかもしれないけど!」

「あははははははは!」


 直倫があの高級マンションに独り暮らしをしていると聞いた途端に母も姉も益々目を輝かせていた。


「先輩のご家族は本当に明るくて、楽しいですね。」

「もーうるさくてごめんねー!」

「さ、どんどん好きなだけ食べちゃって!」

「あ、はい。いただきます。」

(俳優じゃねぇ!詐欺師だ!詐欺師になれるぞこれ!)


 そして椋丞も裕也も風呂に入ってやっと裕也の部屋でゆっくりすることが出来た。


「あー……これ本物来た時絶対やばいわー。」

「ねーちゃんもチョロいな。あれ結婚詐欺される典型だろ。」

「お前は詐欺師に向いてるわ!」

「しっかし赤松ももったいねーよな。コイツの体、すっげーのなんの。」

「そりゃ自己管理しっかりしてるし鍛えてるし。」

「チンコがズル剥けで中々ご立派だったぞ。」

「この脳味噌下半身大魔王が!」

「この身体があればちょっと頭ゆるい女なら股開いてヒィヒィ泣かせられるぞ。」

「もー…直倫の声でクズ発言聞きたくねーよぉ…。」

「それがこのチンコ突っ込んでんの、大竹のアナルだけかよ。信じらんねー、宝の持ち腐れじゃん。あ、そういや俺まだアナル体験したことなかったわ。」

「お前マジで黙れ。明日朝練なんだからもう寝ろよ。」

「一緒に寝るか?」

「寝るかボケ!」


 裕也は押入れからいつも椋丞や智裕が使っている布団を取り出してベッドの横に敷く。いつもなら日付を越える時間に寝るのだが、今日はもう消灯して寝ることにした。


「お前はいつも通りにそこな!」

「はいはい。おやすみー。」


 なんだかんだで疲労していた椋丞はすぐに寝床について寝息を立てた。



 しかし裕也は目が覚めてしまった。


(あれは椋丞だ…椋丞……直倫じゃない……椋丞…っ!)


 どうにかしていつも馬鹿をやっている宮西を思い浮かべるように努めたが、微かに鼻についてくる直倫の匂いが情事を思い出させてくる。

 丁寧な言葉で乱暴に攻めてくる、整った色っぽい顔と甘い囁き、裕也を愛でるイヤラシイ指先、熱い欲望を注がれる感覚。


「ふぁ……や…だ……。」


 とうとう反応し熱を持ったソレを裕也はそっと握った。椋丞を起こさないようにタオルケットを噛んで息を殺して自慰をする。


「ふぅ……んん……ぅ…。」
(いつもみたいに、早く……早く……。)


 いつもならテキトーにエロ動画を見たり想像したりするだけで終わるその行為が、今日は物足りないと感じる。

 だからなのか、直倫の匂いを徐々に強く感じていた。


「裕也さん……。」


 ベッドが軋む。そして背後に温もりを感知した。そして裕也のモノと扱いていた裕也の手が丸ごと包み込まれた。


「や…やめろ……りょ、すけ……っ!も、最悪……。」

「宮西先輩じゃないですよ…裕也さん……。」

「え……直倫?」

「すごい勃ってる……俺がイかせてあげます。」


 直倫の手が裕也のモノを慰め始めた。そして抱きしめられて直倫の匂いやかかる吐息、愛でるようにうなじや耳に落とされるキス。

 手の動きは優しく、徐々に速くなり裕也は声を必死に抑えた。


「はぁ、あ……ふ……だめ……なお、み……。」

「いいですよ…イッて……可愛い声、聞かせて?」

「あ、出る…で……くぁ……あぁぁ……っ!」


 耳元で囁かれた「裕也さん、愛してる。」の言葉と同時に裕也は絶頂に達した。呼吸を整えながら裕也は直倫の方を振り向く。

 暗くても分かる、直倫の穏やかな色を含んだ笑顔。裕也はじっと見つめながら。


「直倫……。」


 手を伸ばしてキスをせがんだ。あと数センチの寸止め。



「んなわけねーだろバーカ。」



 悪魔の顔に変わった。裕也は固まってしまった。


「イカ臭ぇ。窓開けるぞ。」

「な……あ………ぁ………。」

「うえ、手ェ洗って来よ。精液ザーメンだらけだわ。」

「な、な、なお、み、ち……は?」

「あ?知らねーよ。何興奮しちゃってんの、お前もチョロいな。」


 バタン、とドアが閉まる。裕也は絶叫してしまった。


***


 翌朝、宮西家は大黒柱の宮西母がほろ酔い状態で帰宅した。


「ただいまー……あーしんど。」

「お帰りなさい、母さん。」

「椋丞かー、ただい………椋丞⁉︎」

「はい、何でしょう?」


 母は一気に酔いが醒めた。
 キッチンに立っているのは間違いなく自分の息子なのだが、雰囲気が全く違う。それに息子から近年「母さん」などと呼ばれたことはない。


「あれ?私、夢みてるの?いつもの椋丞なら『酒くせーぞババア』って冷たい目で見るんだけども。」

「お仕事お疲れ様です。朝ごはん準備出来てますよ。」

「椋丞が、私に、お疲れ様、って……ええぇぇぇぇぇぇ⁉︎」


 母は絶叫して息子の顔をペタペタと触る。


「熱はないみたいね……。」

「大丈夫ですよ……あの、ご飯の前にお風呂にしますか?今から準備しますけど。」

「ああぁぁ……椋丞…あんた……やっと、お母さんの有り難みがわかったのね……はぁ……もう、嬉しくて、嬉しくて……。」


 母の目には一筋の涙が伝う。愛しい我が子をその手で抱きしめると、息子は応えてくれた。


「大袈裟ですよ母さん。さ、お風呂に入ってご飯を食べたらお休みになって下さい。」

「椋丞……ありがとう。」


 結果、宮西家には感動的なシーンが生まれた。


***


 そしてなんやかんやで翌日元に戻った2人。

 裕也は直倫に対してしばらく人馴れしていない野良犬のように警戒し続けた。


「半径3m以内に近づくんじゃねー!」

「どうしてですか?俺たち恋人同士ですよね?」

「お、お、お前…な、直倫じゃねーだろ!俺に触っていいのは直倫だけなんだよ!バーカ!」

「だから俺は直倫ですって!裕也さん!」



 そして宮西家では女性陣が悲しみに暮れた。


「あーあ……にーちゃんがクズになった。もっかい宇宙人こないかなぁ。」

「あ?宇宙人?何の話だ?」

「ほんと、宇宙人来ないかしら……あの可愛い椋丞を返してっ!」

「いや、こっちが本物だから。現実見ろやババア。」

「ああ⁉︎お母さんって呼びなさい!もしくはお母様!」

「うるせーババア、さっさと食えよ。」

「ユメ、こんなにーちゃんきらーい!」

「おれもきらーい!」

「俺も嫌ーい。」

「私もきらーい。」

「ババアきもい。」

「はぁ⁉︎」



 宮西家には平穏が訪れなかった。

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