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楽しい夏休み

3馬鹿トリオの閑話【ピアス】

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 バチッ


「っつー………ぅ。」
「うっわー痛そー。」
「いてぇよ……あーっ!」
「はい、もうしばらく冷やしとけよ。」

 久しぶりに宮西と裕也と智裕の3人で裕也の部屋に集まっていた。
 目的は裕也の右耳の軟骨にピアスホールを開けることだった。

 宮西が容赦なく裕也の右耳軟骨を貫通させ、見ていた智裕はチンサムを起こした。裕也は氷を入ったビニール袋を患部に当てて「あー。」と唸る。

「そういやさ、トモってもうピアスしてねーの?」

 裕也は智裕に寄ると、右耳の耳たぶを摘んで観察する。

「してねーよ、部活で禁止されてるっつーの。」
「あー、塞がり始めてんな。」
「どれどれ?」

 今度は宮西が寄ってきて、智裕の右耳に鼻を近づけた。

「あー、無臭。」
「当たり前だろ。」
「嘘、イカ臭い。」
「ンなわけあるかあぁぁぁぁ!」

 智裕がツッコミを入れると宮西は間髪入れずにその塞がり始めた耳朶を甘噛みする。


「ひぁあぁぁぁぁっん!」

 突然のことで智裕は甲高い声を上げてしまう。裕也は左手で床をバンバン叩きながら爆笑する。やられた智裕は右耳を押さえて宮西から離れる。

「おおおおおおおおま、お前なにしてくれんじゃあぁぁぁぁぁ!」
「耳弱すぎじゃね?」
「誰でもこうなるわ!アホか!」
「ひひひ……ひぁあ…って……ぎゃははははははっ!」

 離れた智裕は右耳を懸命にこする。

「なんかさー、ピアスってエロいらしいよ。ヨーコさんが言ってた。」

 少し落ち着いた頃、宮西が自分の黒いピアスを触りながら話す。

「ヨーコさんがそんなこと言うのかよー、意外だな。」
「俺も意外だった。なんかピアスと首筋のコントラストみたいな?色っぽいってさ。」
「あー……女の子の頸とキラキラピアスってちょっとイイかも。」
「へそピのお姉さんとかたまんねぇよな…。」


 3人とも、それぞれの恋人はピアスホールがない。なので三者三様、自分の恋人にピアス開いてたらと妄想する。


「あー……拓海さんは水色の石が似合いそうだなぁ。」
「………直倫…似合わねーな。なんかチャラくなりそう。」
「ヨーコさん、えっろ。」


***


 1年の秋、智裕は宮西と裕也と裕也の部屋にいた。


「あ、そういやさ、俺ヨーコさんに誕プレ貰った。」
「いいなー、彼女持ちはよー。俺なんかオフクロに野口さん1人だったんだけど。」
「俺もケーキを姉貴が全部食ってたし。あんなことしてっから彼氏出来ねーんだよ。」
「ははは、平伏せ愚民ども。」


 勝ち誇った嫌味ったらしい笑い顔で宮西は髪の毛を耳にかけて誕生日プレゼントを自慢した。小さいワインレッドの石がはめ込まれたリングピアスがキラリと輝いていた。

「あー、椋丞っぽい。」
「さすがヨーコさんだな。つーか宮西、そこ新しく開けたろ。」
「夏休みに開けたんだよ。お前らもやる?」

 宮西は中2の終わりからピアスホールを増やし、この時点で右に3つ、左に2つも開いていた。

「軟骨は痛そうだから勘弁だわ。」

 裕也は左に2つ、高校に入学してすぐに開けた。智裕は部活で染髪もピアスも禁止だったので耳は真っさらだった。
 退部してから髪の毛だけは軽くブリーチをかけて明るめの茶髪にしていた。染めた翌日、クラスメートからは「遅すぎる高校デビュー」と大爆笑されたが。

「うーん……1個くらいなら開けてみてぇな。」
「トモがピアスなぁ……絶対ぇビビりそう。」
「やるか。」

 宮西は立ち上がって即行動に移す。その顔がニヤニヤとしていて智裕は嫌な予感しかしなかった。


 30分後、ピアッサーと消毒液、綿棒、コットンが用意されて智裕は耳を氷嚢で冷やしていた。

「で、感覚なくなったら消毒してこれでバチコンやるだけだから。」
「お、おう。」
「あ、もうビビってるぞトモ。」
「そろそろいくか。」

 宮西はゴム手袋をはめて、両手を顔の位置に上げる。裕也も悪ノリで同じようなポーズをする。

「これより貫通の儀を執り行います。」
「先生、よろしくお願いします。」
「ちょっと待って!何⁉︎オペ⁉︎」
「はい松田さーん、お耳をこちらに近づけてくださーい。」

 宮西は片手で智裕の頭を自分の方に引き寄せる。

「マキ●ン。」
「はい。」

 裕也が消毒液を染み込ませたコットンを宮西に渡す。宮西は耳朶に丹念に塗る。

「ピアッサー。」
「はい。」
「汗。」
「はい。」
「汗関係ねぇだろ!」
「痛くないでちゅよー(棒読み)」

 智裕はガタガタ震えながら宮西のシャツにしがみつく。


 バシッ


「あ……ん…。」

 貫通した瞬間、智裕は甲高い吐息を出した。

「さすがドM、いい声出すじゃねーか。」
「痛ぁ……ジンジンするぅ…。」
「大竹、綿棒にマキ●ン。」
「ほいほーい。」

 消毒液をたっぷりと染み込ませた綿棒でピアスの周りを消毒する。そこにまた染みる痛みで智裕は宮西にしがみつく。

「うぁ…いたぁ……あん。」
「キモいドM、死ね。」
「だって痛ぇんだもん!はぁ……で、これどうすりゃいいの?」
「1ヶ月くらいはそのままで、風呂上がりとかしっかり乾燥させて消毒しろよ。」
「はぁい。」


 そして翌日、登校すると知識の泉でもある江川に指摘される。


「松田…右だけに開けたのか?」
「宮西に開けてもらったからな。」
「男が右にピアス1個って、ゲイって意味だからな。」
「……………はぁ⁉︎」
「まぁ日本じゃあまり知られてないと思うけど、その耳で海外行ったらヤバいからな。」
「ちょちょちょ!俺ドMだけど至ってノーマルだって!セクシーお姉さん大好きだけどお兄さんはダメなんだって!助けてぇぇぇ江川っちー!」


***


「アメリカ行く前には塞がって欲しいんだけどな。」
「えー、なんでだよー。」
「十中八九お前のせいだよ宮西椋丞。」
「あー、だって俺も知らなかったしー。」

 宮西は智裕の目を見ないで棒読みだった。

「絶対知ってただろ。」
「それにお前男と付き合ってるからあながち嘘でもないじゃん。」
「拓海さんをその辺の男と同じフィールドで語るな!」
「てか日本代表にピアスホールってフツーに叩かれるだろ。残ったら絆創膏貼った方がいいぞー。」

 野球部に復帰する際、頭は自分から丸めていたがピアスホールだけはどうにもならなかったので監督の森には目を瞑ってもらっていた。
 だが裕也の言う通り、日の丸を背負うチームの一員としてこれはマズいことだった。

「じゃあスプリットの使い手だけにスプリットタンっていうのはどうだ?」
「全然上手くねぇから!」

 スプリットタンを知る裕也は思わず口を守るように片手で塞いだ。

「舌にピアスあったら相手を舐める時とか楽しそうじゃね?」

 「べ」と舌を出す宮西に対して2人はゾッと身震いをした。

「そこまで俺は身を削れない…。」
「ドMが何言ってんだよ。」
「ドM関係なくね⁉︎」


***


 日曜日、裕也は直倫ナオミチと一緒に繁華街まで出かけた。ピアスホールが完成した後に着けるピアスを探しに雑貨屋などを巡るためだった。

 電車に揺られながら、直倫は裕也の右耳を観察する。

「裕也さん…これ開けすぎじゃないですか?」
「そーか?左2つと右に1つだしそんなに多くないと思うけど…あ、でも右の軟骨は痛かったかも。」
「へー…これ自分でやったんですか?」
「いや、椋丞に開けてもらってる。」
「………宮西先輩に耳触らせて、感じたりしてませんよね?」
「するか!キモすぎるだろ!」
「というか俺以外の男に簡単に触らせないでくださいよ。裕也さん、可愛いんですから。」
「あのな、椋丞とは10年以上の付き合いだから死んでもそんなことありえねぇから!」

 裕也は「はぁ。」とため息を吐くと、直倫を睨んで見上げた。

「今日だってわざわざお前呼んだのは、ここのピアスをお前に選んでもらう為なんだけど。」
「え?」
「俺、アクセとか服は自分で選ぶ主義なんだからな。感謝しろよ。」
「……どうして俺に選ばせてくれるんですか?」

 その問いに裕也は少し戸惑うが、下を向いて赤面しながら答えた。


「だって…お前はアクセとか着けらんねーし……お揃いで身につけるのとか無理だったら……せめてお前が…その……選んでくれたの…俺が…着けて、やりてーな…って…。」


 目的の駅まであと2駅、直倫は理性をフル稼働して裕也の手をそっと握りしめた。


***


 智裕は部活の後、石蕗つわぶき家に訪問して、茉莉のオモチャになったいた。

「ぷっちゅー。」
「ん?あだだだだ!」
「きゃあー!」

 右の耳たぶを思い切り引っ張られ、引っ張った本人は手を叩いて笑う。

「こらまーちゃん。智裕くんにごめんなさいは?」
「とーと、あーと。」
「え……あ、ありがとう。」
「もー、違うでしょ。ごめんね智裕くん、痛くなかった?」

 心配そうに拓海が至近距離で近づいて智裕の右耳に触れる。

(茉莉ちゃん!ありがとう!)

「……あ、ここって…。」
「うん、ピアス。野球部入ってからはしなくなったからもう塞がりかかってる……早く塞がって欲しいんだけど。」
「……どうして?」
「いや、アメリカ人ならまだしも…体裁が悪いというか……国際試合の高校球児の日本代表がピアスってやばいでしょ。」
「あー……そうなんだ……。」
「?拓海さん?」
「キラキラしてて、カッコよかったんだけど…なぁ。」

 俯く拓海の顔が寂しそうなのに紅潮してた。智裕はその頬に思わずキスをした。

「ちゅー!」

 茉莉も便乗して拓海の頬にキスをした。

「穴開けないピアスとかあるし、今度拓海さん選んでよ、ね?」
「よー!」
「そんで俺が拓海さんの選んであげるね。」
「ねー!」

(なんかまーちゃんが合いの手打ってるみたいで楽しいな♪)


 拓海は茉莉がいるとはいえ、智裕と出かける期待にドキドキしていた。


***


 数日後、2年5組のグループ通信はまたもや嵐が起こった。

 智裕が投下したのは、水色の天然石のマグネットピアスをつけて、髪をかきあげて微笑む拓海とニコニコしている茉莉が写ってる写真だった。


_んほおぉぉ!石蕗先生かわいいー!
_夏休みのツワブキちゃんだあぁぁ(*゚∀゚*)
_送信者には殺意しかないけど
_ツワブキちゃんかわいい♡
_ツワブキちゃんのピアス、えっろ(*´艸`)
_松田のくせに生意気だ!
_うはー癒されたー(*´д`*)
_ツワブキちゃんの娘可愛すぎる!

_ひれ伏せー童貞どもー( ̄∀ ̄)

_死ね!
_ヘタレ!
_調子乗ってんじゃねーぞ!
_引っ込め引っ込め!


 そしてブーイングを起こしたのは、拓海と智裕がお揃いのマグネットピアスをして自撮りしている写真だった。


「あー、妬んでる妬んでる。」
「ちょ……は、恥ずかしいから…。」

 智裕はグループ通信を見ながら優越感に浸り、拓海は寝ている茉莉を抱っこして智裕に寄り添って電車で座っていた。

「アイツらは俺と拓海さんがラブラブなの知ってるからいっぱい自慢したいのー。」
「そんな……むぅ……。」
「もー、膨れないでよー。帰ったらいっぱい愛してあげるから、ね?」

 わざと智裕が低く甘い声で囁けば、拓海はたちまち顔が熱くなる。そして反射的に左耳につけたマグネットピアスに触れる。智裕はそんな拓海の左耳に触れて、笑う。

「うん、やっぱ拓海さんは水色が似合うね。」
「そ、かな?」
「アクアマリンだっけ?これ。」
「うん……幸せの象徴って書いてたね。」
「じゃ、これ選んで正解だ。俺拓海さんが恋人でちょー幸せだもん。」

 そう無邪気な笑顔を向けられた拓海は、理性をフル稼働させて智裕に微笑みを返した。

(本当に……智裕くんを好きになって、幸せだなぁ。)


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