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夏が始まる

マツダくんの夏

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『今日の“烈風 甲子園”は……今の高校球界最強の右腕と左腕、それぞれのチームと想いを取材しました。』


_烈風甲子園きたー!
_松田まつだ、見てんの?
_明日5時起きだって言ってた。
_開会式のあとすぐに試合とかヤバくね?


『大阪の名門、馬橋まはし学院……その練習の厳しさと生き残る厳しさで有名だ。数多くのプロを輩出してきたこの学校で今年の春からエースナンバーを背負っているのが、“西の松田”又は“右の松田”と呼ばれる3年の松田八良ハチロウ投手。』

『身長は168cm、高校球児の中では小柄な体型だが、その腕からは最速156km/hの豪速球が飛び出す。まさしく、高校野球最強と呼ぶに相応しい。』


_え、この人本当に高校球児⁉︎
_めっちゃ顔可愛くない?
_普通にイケメン(*´艸`)
_肌きれい(´⊙ω⊙`)
_これ、松田くんが後からとかオチじゃんwwww


『失礼ですけど、豪速球を投げられるようには見えない…。』

『あはは…!監督にもめっちゃ言われます。これでも筋肉増やしてやっと70kg超えて…今もすごい米食べてます。』


_ヤバい!ヤバい!
_キャーーー♡
_え⁉︎ダブル松田のもう1人ってこんなイケメンなの⁉︎
_笑顔可愛すぎる…♡
_女装して欲しい(*゚∀゚*)
_増田さん、自重して。


『今年の馬橋学院、春は準優勝しましたが、やはり悔しかったのではないですか?』

『それはベンチに入れなかったメンバーを含めて全員が同じ思いです。なので夏は必ず優勝する、という目標でここまでやってきています。』


『春の雪辱を果たすために厳しい追い込みをかけていた矢先、松田選手にとって嬉しい報せが舞い込んだ__。3年前、ともに日の丸を背負って共に戦ったライバルが復活した。』


_中学時代の松田くん⁉︎
_え、全然変わんない。
_やっぱあれって合成なんじゃ…
_写真と動画でこうも違うかwwww


『第四高校の松田智裕トモヒロ投手が怪我から復帰したと知った時はどんな気持ちでした?』
『えーっと…彼が夏の大会中に肩を壊した後、連絡も取れなくなって…このまま居なくなってしまうかもしれないと不安だったのでとても嬉しかったです。それと同時に、怖い相手が出てきたなと、闘争心みたいなものも出てきました。』


_ちょっと松田くんこんなイケメンと友達なの⁉︎
_去年そんなこと一言も教えてくれなかったし(゚Д゚)
_イケメン隠しの罪だわ。


『神奈川県立第四総合高校……ごく普通の公立高校で一昨年までは県予選準々決勝進出が最高だったが、昨年強豪校を倒して県大会準優勝。その名を一気に知らしめたのは、“東の松田”、最強左腕の松田智裕投手だった。』


_なんだろう。この虚無感。
_一気に華がなくなった。
_西の松田がイケメンすぎて…。
_シケメンだなぁ…


『初戦から全試合先発登板。圧倒的なピッチングで三振の山を築き、準決勝では甲子園常連校の聖斎せいさい学園を相手に完封勝利。得点圏にランナーを許さない完璧なピッチングで甲子園へ王手をかけた。』

『しかし、この松田投手の起用法について他校の監督や有識者からは「投手の将来を潰しかねない」などと批判が相次ぐ。そして甲子園行きをかけた決勝戦に松田投手の姿は無かった。』

『決勝戦前日に事故に巻き込まれ、命とも言える左腕を負傷しメスを入れた。様々な批判を受け問題が明るみになった野球部はその後活動停止、廃部寸前まで追い込まれた。4月から監督や顧問が一新された四高の野球部、しかしその中に松田投手の姿はなかった。』


_その頃松田は二股をされていた。
_そしてフラれたwwww
_そして石蕗つわぶき先生とあんなことやこんなこと。
_そういや江川、松田大丈夫かよ。
_何で?
_ツワブキちゃん昨日保健室行ったら元気なかったぞー。
_2人を引き裂くようなことして恨まれない?
_大丈夫だろ。
_本当かぁ?(・ω・`)


『もうすぐ県大会ですが、今の心境はいかがですか?』

『そうですね…先週まで練習キツくて、身体も中々思い通りに出来なくて不安だったり焦りだったりしましたけど、目前になると「もうやるしかない」という気持ちで楽になりました。』

『“東の松田”、“左の松田”の復活は多くの高校野球ファンが待っていました。ご自身ではどう感じてますか?』

『いやー…もう自分の周りは高校野球ファンもそんなにいないので…そんな歓迎ムードはゼロだから、高校野球ファンは都市伝説だと思ってます。』

『そんなことありませんよ。私も先程投球練習を拝見しましたが、あのストレートとスプリットを甲子園のマウンドで見られたら最高ですよ。』

『本当ですか⁉︎嬉しいですね。』


_おい。
_いいなー女子アナと話してさー
_鼻の下伸びてる。
_浮気だ浮気
_デレデレしてる。
_キモい(´Д` )


『誰か意識している投手などはいらっしゃいますか?』

『んー…テレビとかで見てたらやっぱ八良先輩ですね。あとこの前、清田きよたから教えて貰った聖斎の赤松選手もすごいなーと。』

『その挙げた2人の何処が凄いと思いますか?』

『八良先輩は中学の時に凄いっていうのを間近で見てましたし、あのストレートは…プロでも通用しそうですよね。赤松選手も球が速いと聞いてましたし、投手としても野手としても高校トップレベルだとその…雑誌に書いてたのでビビってます。』

『確かに赤松選手は二刀流ですね。』

『それと四高の1年に赤松選手の弟がいるんですよ。弟がすごい打つの上手くて、なのに兄はそれ以上だとか言うので…何発かホームラン打たれるんじゃって不安になりますね。』


_あ、赤松くんだ。
_大竹、彼氏映ってるぞーwww
_彼氏じゃねーし!しばくぞ!( ゚д゚)
_赤松くんテレビ越しでもかっこいいね♡
_次学校来たらキャーキャー言われそー
_うわ、あいつやっぱモテ男かよ!(゚Д゚)
_俺たちの敵だ!(゚Д゚)
_僻むなー事実だー(´-ω-`)
_しかもあれで頭もいいからね。完璧じゃん。
_なんで惚れたのが大竹なの?
_まじ大竹とかないわー
_赤松くんってチビ専?ブス専?
_おい(゚Д゚)



 この言われたい放題の「烈風 甲子園」を当人たちは見ていなかった。既に2人は眠りについていた。はずだった。


***


 「あーーーーーーどーーーーしよーーーー。」


 午前0時、豆電球をつけただけの暗い部屋でタオルケットにくるまって智裕は不安で何度も目が覚めた。暗い廊下を進んでダイニングへ向かい、コップに水を注ぎガブガブと飲むが緊張や不安のモヤモヤは消えない。さっき起きた時は「そうだ、性欲を処理すればいいのでは。」という安直な考えでこっそりスマホでエロ動画を見たが全く盛り上がらなかった。

 そして智裕にはもう一つ足りないものがあった。

 今日まで期末試験だったが、死んでも赤点を回避しろという監督命令の下、学年1位の江川のマンツー教育で授業と部活以外の時間をほぼ勉強で拘束されており、更に江川は「恋人への接見禁止令」で追い込んだ。その為、智裕の中で「俺の拓海タクミパワー」と呼ぶものがエンプティーランプ点灯している。
 今すぐ会いたいが、拓海は自分の恋人である以前に1歳児の父だ。こんな真夜中は子供が夜泣きでもしない限り起きてないだろうし、電話をかけても迷惑がかかると思うのが普通だ。なので智裕はそっとベランダに出て、拓海の家の方に向かって念を送る。


(拓海さん会いたい会いたい会いたい、あわよくば触りたいキスしたいベロ入れたい、そんでもってアソコをぐちゃぐちゃにしてヒィヒィ喘がせてトロトロな顔にして、俺のムスコでズッコンバッコンしてグチュグチュしてアンアンやって、ついでに拓海さんに俺のムスコさんをペロペロして欲しいです………なんでもいいから拓海さんに会いたいよぉぉおおおお!)


 そんな淫魔の念は拓海に届くわけがなかった。

 はずだった。

 念を送った方向からベランダの窓が開く音がした。石蕗家でベランダの窓を開けられるのは消去法で1人だけ。

「嘘だ…!」
「ふぇ⁉︎……智裕くん?」

(神様ありがとーーーーー!)

「拓海さんキターーー!」
「智裕くん、夜中だから声抑えて…!」
「あ。」

 拓海に注意されて智裕は手で口を塞いだ。そして1つ咳払いをしたら、拓海の家のベランダの方に乗り出す。

「さっき“烈風 甲子園”見たよ。智裕くんは?」
「寝ようと努力してたから見てない……。なんか5組のグループ通信でかなりディスられてるのは確認した。」
「ディスられてるの?」
「西の松田はイケメンで俺はオーラ無しとか、出オチとか…いつも通り安定の悪口パレードだよ。」

 何で確認してしまったのかと夜空を見上げながら後悔する。そんな傷心の智裕の姿にさえ、拓海は見惚れる。

「確かに八良先輩、身長小さいけど女子みたいな綺麗な顔立ちしてるし、面白いし、強いし、勝てる要素は1つもないのは分かってるよ。それにめちゃくちゃ面倒見が良くて俺もすげー世話になったもんなぁ。」
「俺は…智裕くんが……1番カッコ良いいって思った、よ?」
「あははー…拓海さんだけだよ、そう言ってくれるの。」

 いつものように冗談めいた調子でそう返すと、拓海は黙っていた。不思議に思って智裕は拓海の方に目をやると、拓海は嬉しそうに美しく微笑んでいた。

「拓海さん?」
「智裕くんのことをカッコいいって思うのは俺だけなら、智裕くんのこと独り占め出来るかも……なんちゃってね。」
「………拓海さん、こっち向いて。」

 智裕は嬉しくて、自分の方を向いた拓海に身を乗り出して触れるだけのキスをした。
 不意打ちのキスに、拓海は嬉しさと恥ずかしさで顔が赤くなる。

「今日はこれで我慢する…。」
「うん……。」
「県予選終わったら…いっぱいイチャイチャしような。」
「うん。」
「拓海さん、俺は拓海さんが大好きだよ。」
「俺も、智裕くんが好きだよ。」

 見つめ合うともう一度自然とキスをする。智裕の「俺の拓海パワー」はこんな些細なキスで満たされていった。


***


 甲子園行きの切符をかけて、県予選が始まった。
 1回戦で、公立高校同士の対決としては異例の満員御礼。立ち見まで出だした。

「松田の経済効果?昨日の“烈風 甲子園”か?」

 初めての光景にベンチにいる今中いまなかたちは圧倒されていた。
 裏の攻撃の四高、スターティングメンバーはすでに守備位置に着いて試合開始を待っている。マウンドでは智裕が清田きよたのミットに目掛けて最終調整をしている。パンッと快音が鳴る度に観客は湧き上がる。

「もう間もなくだ……気を引き締めろよ!」
「はい!」

 野村はスコア用ノートを構えて、ベンチに入る部員はマウンドを見守る。試合開始のサイレンが鳴った。



_始まった!松田投げるよ!

 2年5組のグループ通信には、吹奏楽部のみなみ衣織イオリたちから実況メッセージが投下される。


_こっちもネットで始まった!
_テレビやってないの?
_やってなーい(´;ω;`)
_みんな集まってんの?
_私は未智ミチ乃亜ノアと一緒にネットで観てるよー。
_私と増田ますださんとヨーコさんもネットで観れてるよー。
_男子は全員片倉かたくらんチでCSで見てるぞ(^ω^)
_えー!ズルくない⁉︎
_片倉くんの家豪邸だもんねー(*・艸・)
_そんなことねーよ!
_さっきメロン食った。
_やっぱ金持ちじゃん!


『松田、1球目は……ストレート見逃し。球速はなんと150km/h。場内は歓声に包まれます。』
『松田投手の復活を見せつける作戦でしょうね。相手バッターは萎縮せずに振り切れるでしょうか。』


***


 拓海は茉莉マツリと一緒に松田家にいた。松田家もケーブルテレビに加入していたので県大会の初戦をテレビで見ることが出来た。1回表はあっという間に終わった。

「よっしゃー!にーちゃん3人でピシャリ抑えたあー!」
「たぁー!」

 茉莉は幼少期に智裕が使っていた応援メガホンを首から下げて応援する。智之トモユキは兄の活躍に一喜一憂する。両親と拓海はダイニングテーブルに座って、お茶を飲みながら見守る。

「おーおー、初っ端から飛ばすなぁオイ。」
「……すごい、ですね…。」
「バテなきゃいいけどねー。あのキャッチャーの子の言うこと聞いてればいいのよ。」

 両親は智裕に対してそこまで熱心ではないが、温かく見守っている。特に松田母は怪我をしたこともあって身体を心配している。

「智裕くん、ずっと頑張ってましたから。」
「まぁ負けても国際大会の保護者会やらあるから騒がしいよなー。」

 智裕にはすでに今年のU-18日本代表の招集がかかっていた。その案内状は冷蔵庫に乱雑に貼られていた。

「10月に修学旅行を中抜けでそのまま大阪……大変ですね。」
「そして本番はアメリカのフロリダ…あの子だけ羨ましいわぁ。」
「にーちゃんばっか色んなところいけてズリィよな。」
「なー!」
「お、四高の攻撃始まったぞ。」

 テレビに映っているのは、打席に立った赤松直倫ナオミチ。拓海はあまり知らないが、智裕から彼の話はよく聞いていた。

(この人が大竹くんに告白したんだっけ。)


***


「お、先頭赤松じゃん。大竹。」
「は、はぁ?まー、あいつが1番打率良いって聞いたし?ふつーのオーダーじゃねーの?」

 クラスメートの片倉の家のリビングには80インチのテレビがあるくらい広いので、5組の男子(野球部を除いた)19人でも広々と寛げる。


『さぁ、1番の赤松、初球はボール、よく見ました。』
『1年生で上位打線はすごいですね。』
『第四高校のベンチ入りメンバーで唯一の1年生です、赤松。2球目は低めのスライダー、カウントは0-2。』
『1年生だとまだ情報が少ないですからねー、バッテリーも明らかに警戒していますね。』
『ピッチャー、3球目……。』


 カキーンッ


『打った!打球はショートの頭上を越えセンター、が、捕れない!レフトも捕りに行く!赤松は1塁蹴って2塁…3塁、は行かない、ストップです!赤松、低めの変化球を捉えてツーベースヒット。第四高校、1回ノーアウトで得点圏にランナーを置きます。』


 男子たちは「うおーーー!」と興奮する。いつも教室で裕也ユウヤに一方的にイチャイチャしてくる変態イケメンの直倫ナオミチが一瞬で彼らの中でヒーローになった。

「いやー…赤松って実は凄い奴なんだなぁ。」
「なぁ、大竹、俺あんま詳しくないんだけど…あれそんなに凄いのか?」
「そりゃ相手の球を実際に見るのは初めてだからな……すげーよ。」

 テレビに映っているのは、プロテクターを外して受け取りに来た四高の部員に頷きながら真剣な顔をする直倫だった。その表情は裕也も見たことがなく、鼓動が1つ、大きく鳴る。

(あれ?赤松……あいつ、赤松、だよな?)

 この鼓動と顔の温度を、裕也はまだ認めたくなかった。


***


『2番は、ピッチャーの松田です。』
『恐らく犠打バントで赤松を進塁させる打順でしょうね。』

 高梨は自分の部屋で増田と里崎さとざきと一緒にノートパソコンの画面を食い入るように見ていた。

「これってつまり、松田くんは期待されてないってこと?」
「そういうことだと思うよ。打つ練習ほぼしてないって言ってた気がする。」
「うーん…私もあんまり野球詳しくないからわかんないや。」

 里崎は片倉の家にいる宮西にわからないことを通信アプリで訊ねながら、3人は試合を見守る。

『キャッチャー、球が逸れた!その隙に赤松は3塁へ!これでノーアウト、ランナー3塁です。』
『これでバント策は不必要ですけど、松田選手の打撃はどうなのでしょうか?』

「やっぱこれ松田くん三振フラグだね。」
「さっきはあんだけカッコ良かったのにね。」


 カキーンッ


『打った!セカンド抜けてライト前!3塁赤松ホームイン!しかし松田は間に合わず、1アウト。第四高校、1点先制!クリーンアップに入る前に得点を入れました第四高校。』


「赤松くんはめっちゃ祝福されてるけどね。」
「松田は……あ、先輩に頭叩かれてる。」
「ヘルメット取るの早っ!」


 カキーンッ


『打球は伸びていく!伸びていくぞ!フェンスに直撃!1塁ランナーが今ホームイン!ほりは2塁を蹴った!どうだ⁉︎…セーフ!4番、堀、1点追加のタイムリースリーベースヒット!』
『今の堀選手の打球詰まってあの距離ですからね。ホームランも期待出来るのではないでしょうか。』


「この人、主将キャプテン……だよね?」
「3年の堀先輩でしょ?」
「里崎さん、知ってるの?」
「うちの生徒会の副会長だよ。デキる秘書って感じでスポーツマンだとは思わなかった……あと、いつもは眼鏡掛けてるし。」
「うちの生徒会長って……すごく細身の背はフツーだけど、ツワブキちゃんが来る前は校内一美形だった加治屋かじやって人…!」

 増田は高梨の発言からすぐにローテーブルにノートを広げてシャープペンシルを走らせた。

優里ユリ…なんで副会長は知らないのに会長はそんなに詳しいのよ。」
「ほら、去年何かある度に挨拶とかで出てきてみんなキャーキャー言ってたし。妄想もはかどる容姿だったし。あ、でも今の私の中で美形受ナンバーワンはツワブキちゃんだから!」

 高梨はとてもキラキラした瞳で、ブレない持論を繰り広げた。そして動画では、5番の捕手キャッチャー、清田がレフトヒットで2塁に着いていた。


***


_うちの学校ってこんな強ぇの?(゚Д゚)
_1回で10点追加とかコールドあり得るぞ。
_打って出塁してねーの松田だけなんだけどww
_打者一巡で慌てすぎだろww

_マジ疲れた……ずっと演奏してた(´-ω-`)
_やっと休憩ー_ノ乙(、ン、)_

_吹奏楽部お疲れ様(´-ω-`)
_でも松田が投げるからまたすぐ攻撃だな。

_えー⁉︎もう最悪!(´・д・`)
_松田マジで吹奏楽部の空気読めよなー。

_伊織たちマジ荒れてるねww

_1人目凡フライで終わったww
_4番でこれかよ。
_まだクリーンアップは1人いるから。

_ショートライナーか。
_赤松の反応早いな。

_赤松マジ空気読めよ。

_伊織たちがまた怒ってる(゚Д゚)

_もう休憩終わるー!
_向こうの吹奏楽部にやってほしー_ノ乙(、ン、)_


_あ、3球三振だ。
_はい、また攻撃ー。 

_えーーーーー⁉︎(´;ω;`)
_さいあくー(´;ω;`)

_あとどんくらい取れば5回コールドだっけ?
_このまま松田が打たせないと5回コールド。
_早っ(゚Д゚)


***


 最終的に21-0というではあり得ない5回コールドゲームで第四高校が初戦突破した。

『第四高校、昨年は松田選手の一人勝ちという印象でしたが今年はチームの力が凄まじいですね。』
『打線が上位も下位も安定して打ててますし、得点圏にも強いですね。守備もかなりレベルが上がってます。4番の堀の長打力も見事でした……そしてキャッチャーの清田も素晴らしいリードで松田を牽引していましたね。』


_うわー…(;´Д`)
_フルボッコですやんww
_野球部容赦ねーww

_お前ら好き勝手言ってくれてんじゃねーよo(`ω´ )o

_松田ー!
_松田くんおつー!
_おつかれー
_なにしてんの?

_球場出て監督待ちなう。
_カメラの数すげーよ

_松田あんたどこ?

_南、まだいんの?

_マジで疲れた。
_ほんと殴らせろ

_なんで⁉︎

_あんたが三者凡退ばっかするから
_こっちは休めなかったのよ!
_空気読め!
_いおりんたちもお疲れー
_松田になんか奢ってもらっちゃえー(*´艸`)
_あ、それいいかも!

_はぁあぁぁ⁉︎(;゚д゚)

_私かき氷食べたーい♡
_いおりん、今駅前のファミレスでカキ氷フェアやってる♡
_いいねー(*´艸`)
_下唇ちょー痛い(´;ω;`)

_知らねーよ!(´;ω;`)


***


「おかえりー。」
「おあえりー!」

 智裕は現地解散でそのまま電車に乗り歩いて帰宅、かなりヘトヘトになって玄関を開けるとバタバタと可愛らしい駆け足が近づいてきた。

「茉莉ちゃん⁉︎」
「あーい!」
「にーちゃん、かーちゃんが先に風呂入れって。くせーから。」
「もー!まずはお疲れ様とか労いはねーのかよー。」
「くちゃーい!」

 茉莉に無邪気に臭いと言われて早速傷心した智裕はトボトボと浴室へ入って行った。
 スポーツバッグから汚れたユニフォームや下着を取り出して、乱雑に洗濯機に放り込む。そしてすぐにシャワーで全身の汚れや汗を流して、やっと湯船に浸かった。


「あー……きもちー……。」

 一息つけた、とリラックスしていると洗面所から物音がし出した。どうせ母が洗濯機を回しに来たのだろうと考えていたら、浴室のドアが開いた。

「と……智裕くん……。」

 智裕は硬直した。ドアから現われたのは、恥ずかしそうにして、腰にタオルを巻いただけの拓海だった。

「たたたたたた……っ⁉︎」

(拓海さんが何故うちの風呂に…⁉︎てゆーかタオル1枚⁉︎身体が、白くて細くて…あ、だ、だめだ!親父もお袋も智之もいるんだぞ!がががが…我慢だ!)

「一緒に……入っちゃ、だめ?」
「いいに決まってます!」

 その仕草に智裕はノックアウトした。そして智裕のムスコさんは元気になった。拓海はシャワーで身体を軽く洗う。

「あの……お、親父たち…は?」
「えっと……まーちゃんが遊んでて……智裕くんの…お母さんに……その……腕のケアお願い、されて……。」

(オフクロおぉぉぉぉ⁉︎男同士だから放り込んだんだろうけどさ!いやいやいやいや俺を殺す気か⁉︎)

 拓海がおずおずと湯船の中に入り、智裕と向かい合わせに座る。拓海はまだ目を強くつぶったままで下を向いている。

(あーもー!可愛い可愛い可愛い!)

 たまらず智裕は拓海の顔を上げさせると、いきなり深く口付ける。拓海は戸惑い逃げるがすぐに智裕は捕らえて舌を絡ませる。一旦離すと、2人を透明が繋げて惜しくなりまた口付ける。智裕は拓海を自分の方に抱き寄せ拓海も手を智裕の背中に回す。広くない浴槽で2人は密着する。

「はぁ……智裕くん……だめ…だよ……まーちゃん達が…いるのに…。」
「これでも我慢してんだよ。」

 拓海の耳元で智裕が本音を明かすと拓海はまた恥ずかしくなる。

「も、もう…!それは県大会終わるまでダメです!ほら、マッサージするから左腕出して。」
「はいはーい。」

 悪戯っぽく笑いながら智裕は腕を差し出した。その逞しく疲労した左腕に拓海はそっと触れるとまたドキドキとする。

「すごく……カッコよくて……ドキドキする音が…お父さんたちに聞こえないように頑張った…。」
「拓海さぁん……。」
「本当に凄かったし、あっという間だったから、もっと見たかったなぁ、なんて…智裕くんは疲れちゃうよね。」
「いやー、俺も不完全燃焼なところはあるよ。9回投げられる体力を作ってきたからさー。」
「そうなんだ。」

 2人は話しながら徐々に寛ぐ。拓海は左腕の硬直した筋肉をほぐすように指先で揉む。その感触に智裕は癒される。

「試合終わったあと、監督に言われた。俺は次に先発で出るのは決勝戦だってさ。」
「……じゃあ……もしかしたら今日が…。」
「うん。だけど監督や堀先輩たちは決勝まで進むつもりでいる。その自信があるんだよみんな。」
「凄い、頼もしいね。」
「今日あれ打ち過ぎでしょ?アウトになったの主に俺だしダセーのなんのって…チャットは祝福の前に罵倒だったし。もっと打てよヘボ、とかね。」
「あははは…みんな智裕くんに期待しているんだよ。」
「そっかなぁ……。」

 どうも腑に落ちない智裕の顔を見た拓海は、肩に手を乗せて智裕の頬に不意のキスを落とす。智裕は豆鉄砲を食らったような表情になる。

「ねぇ、煽ってない?」
「んー、ちょっと?」
「拓海ぃー。」

 智裕は仕返しとばかり、拓海の脇の下や脇腹をくすぐり始めてじゃれる。


「何してんの…?」

 浴室のドアが開いていてそこから呆れ顔の智之がいた。気まずくなる3人は一時停止するが、智裕が「あー」とか唸りながら答える。

「裸の付き合い?」
「はぁ……もうご飯出来るから早く上がれってよ。あ、お湯抜いとけって。」
「お、おう。」

 ドアが閉まると、2人は安堵のため息を吐く。拓海は少しだけ拗ねたような顔をする。

「智裕くーん……。」
「だって拓海さんが可愛いことするから…だろ?」

 智裕は怒られたお返しと言うように、拓海の額にキスを落とす。

「今日はこれで終わりにする。先上がっててよ……。」
「う、うん。智裕くんは?」
「もうちょっとしてから上がる。」

 拓海は少しだけ名残惜しい気持ちに引かれ、浴室を出た。智裕は拓海に聞こえないように、完全に反応したソレを処理した。


(ダメだ、もう拓海さんの匂いでご飯いくらでもいける!すげーいい匂いしたぁあぁぁああぁぁ!お湯のせいでめっちゃホッペ赤くて可愛いし濡れてるし…いやイヤらしい意味でなくて物理的に、それがもう我慢ならん!あーいつになったら県大会終わるんだあぁぁぁぁぁぁ!)


 こうして智裕の夏は本番を迎えた。



***


_お疲れ!今日は先頭からヒット出塁凄かったな!
_でもホームランじゃねーからな。せいぜい頑張りたまえ。はーっはっはっはっ(*゚∀゚*)


 帰宅してからスマホを確認した直倫は、片想い相手からの嫌味ったらしいメッセージに胸を躍らせた。

「……ホームランじゃ、なかったから……。」

 やはり確実性を狙うと、どうしてもフライにならない。頭でわかっていても身体がホームランを打てるようになっていない。沢山のバッティングに関する本も読み漁った。だが克服出来ない。


 直倫は電話をかけた。


『もしもし?どうした赤松。』
「清田先輩、お疲れ様です。」
『おう。2回戦は明後日だからな、今日はゆっくり休めよ。』
「………先輩、またお願いがあります。」
『あ?大会中だぞ。それにお前は今の調子でいいんだけど。』
「どうしても、ホームランを打ちたいんです!主将や清田先輩みたいに、飛ばしたいんです!』
『いや……お前さ、フライ意識すると詰まっちまうじゃねーか。』
「お願いします!決勝戦にホームランを打ちたいんです!』
『…………赤松。』
「はい。」
『野村と監督に頼んでみないとわからないけど、明日からお前の打撃投手を松田にしてもらう。アイツからフライを打てるようになればいけるはずだ。』
「……はい。」
『今日見て分かっただろう。アイツの球は並みのレベルじゃ簡単に真芯で捉えて飛ばせない。かなり厳しいぞ。松田はヘタレだけど。』
「……わかってます。やらせてください。」
『よし、頑張れ。じゃあ、今日はもう休め。』


 そうして清田との通話を終えると、赤松はすぐに動画フォルダを開いた。再生したのは智裕の投球練習の動画。鋭いストレート、正確なコントロールと緩急、決め球のスプリットのキレ、全てがハイレベルだった。

(これを打ちにいくのは正直怖い……だけど、やらないと!俺はこの人を超えて、堂々と、裕也先輩に……っ!)

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今まで書きためたショタ物の小説です。フェチ全開で欲望のままに書いているので閲覧注意です。スポーツユニフォーム姿の少年にあんな事やこんな事をみたいな内容が多いです。

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