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マツダくんの秘密
ツワブキさんに好敵手?
しおりを挟む「ん……あ…。」
昼休み、智裕は超高速で昼ご飯を食べて、保健室でデザート、もとい、拓海をいただいていた。
仕切りのカーテンを閉め、ベッドに腰をかけた智裕はいつものように膝に拓海を乗せて、長い長いキスをする。
「あ……ふぁ……。」
「やば……拓海、超赤い。可愛い。」
「もぉ、だめだよ……ここ、学校だよ…。」
少し困ったように制す拓海だが、その目は熱を帯びてウルウルしていた。智裕はニヤリと笑って、また口付けて、舌を絡ませて、拓海のワイシャツのボタンに手をかけようとした。
ガラッ
「すいませーん、ちょっと膝擦りむいたんでバンソーコー下さーい。」
「はーい、そこ座ってね。」
1人の男子生徒が保健室に入ると、養護教諭の石蕗先生は薬の検品をしていた。ひとつベッドは埋まっている。
「ズボンの裾上げて、膝出して。」
「はーい……いってぇ。」
「あー…何したのこれ?結構酷いよ。」
「野球してて、それでヘッドスライディングしたらこうなった。」
「だから制服もそんなドロドロなんだね。」
(昼休みの野球でヘッスラとか馬鹿じゃねーの⁉︎)
しかし現時点で1番馬鹿なのは、恋人に手を出そうとしてビンタをされてベッドの布団を被り隠れている智裕であった。ムスコも萎えたところで、智裕はベッドから出た。
まるで今まで寝てました、のテイでカーテンを開ける。
「ツワブキ先生、もう大丈夫なんで教室戻りまーす。」
「あ…松田くん。」
拓海は男子生徒の手当てをしていたが、智裕の方を見ると寂しそうな顔をする。智裕はその拓海の表情に、またキュンとなる。
(また俺のムスコが反応する前に出なければ…!)
急いで保健室のドアに手をかけた時だった。
「まっつん!うっそ、まっつん⁉︎」
自分と拓海以外の声。消去法で、拓海が手当てしている怪我人の男子生徒が智裕を呼び止めた。智裕は思わずそちらを振り返る。
「まっつんだよね、U-15の!覚えてない?俺、国体の時とかに一緒の合宿所だったじゃん!」
「………あーーー!お前男子バレーの水上か!」
「そうそう!まっつんこの高校だったんだ。」
「でも水上、この高校バレー強くねーじゃん。なんでいんの?」
「バレーはもう俺は実業団のチームに入ってやってんだわ。学校じゃ帰宅部扱い。」
「そっかそっかー!つかお前1年だろ?松田さんって呼べよ。」
「えー、だってまっつんって先輩っぽくないもん。先輩っぽいのピッチャーやってる時だけだし。」
「何で⁉︎俺そんな威厳ない⁉︎」
「ないないー。しかもまっつん野球辞めたらしいじゃーん。」
「何で知ってんだよ、怖ぇよ!」
拓海は2人のやり取りと、そして今の智裕のリアクションに驚いた。先日、拓海は本人から訊けなかったくらいタブーだと思ってた疑問だったのに、智裕は水上に笑って返していた。
「ここの野球部、去年マジでまっつん頼み過ぎていつかぶっ壊れるって思ってたんだけどねー。見事的中だったねー。」
「そうそう!あんな連日投げてたらしんど……い……。」
智裕はやっと拓海が視界に入った。拓海は明らかに落ち込んで下を向いて黙々と水上の膝の手当てをしていた。
それを見て、智裕は言葉が出てこなくなった。自分は拓海に嘘をついていたからだった。
「あ!俺移動教室だから!じゃあな水上!」
「おー、またなー。」
ガラッ バタンッ
(やってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!拓海には左腕のこと超嘘ついてたの忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁ!)
智裕は頭を抱えながら教室へ戻って行った。
***
手当が終わった水上はズボンを元に戻した。
「先生、ありがとうございまーす。」
「これで大丈夫、だから……お大事にね……。」
拓海はなんとか笑顔で水上に答える。すると水上は椅子から立ち上がろうとはしなかった。頭を掻きながら気まずそうに喋る。
「先生はさ、男に好きとか言われたら…やっぱキモいって思う?」
「へ…?お、俺は……そんなことないし…。」
「本当?」
「うん。」
「よかった……じゃあさ、俺誰にも相談出来なかったんだけど…。」
拓海は嫌な予感がした。どうかそれが当たらないでくれと願い、心臓を大きく鳴らしながら平然とした顔をする。
「俺さ、さっきの人……まっつんが、好きなんですよね。」
拓海の脳は重いハンマーで殴られたような衝撃だった。片そうと持っていたピンセットを落としそうになった。
「俺はバレーやってんスけど、野球の日本代表と合宿所が何度か一緒になってまっつんと、知り合ったんですよ。そんで中2の時に俺めっちゃ練習でしごかれて裏庭で1人泣いてた時に、まっつんが来てくれて、メシだぞ、って呼びに来ただけなのに俺それがすっげー嬉しくて、そっからまっつんのこと好きになったんです。」
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「まっつんって、ずっとあんなんで、ヘタレだし何故か男子バレーやサッカーの奴らにもイジられまくってU-15のファンにも愛されキャラみたいな感じだったんだけど、1歩グラウンドに出て、マウンドに立つとさ、すっげー別人。圧倒的なオーラで鬼のようだった。それが俺にはカッコ良く見えてさ………地元も近くだったし、またまっつんに会いたくてここに入学したんです。」
水上の智裕への恋慕が、グルグルと拓海の思考を支配する。気付かれないよくに呼吸をして水上の目を見ると、その目は本気で恋をする人のものだった。
(多分、俺も智裕くんのこと考えている時、こういう顔をするんだろうな……。)
「まっつんに前に好きな人のタイプきいたら、セクシー系の巨乳のお姉様とか言われたから、あー、まっつんは普通に女の子が好きなんだよなーって思って、だからこの気持ちはずっとしまっておくことにしました。」
(智裕くんの好きな女の子のタイプなんて聞いたことなかった…。俺なんかには縁遠いタイプだ。)
「でも、さっきやっとまっつんと会えて……やっぱ好きだなぁって。」
(もう、聞きたくないよ……だけど、水上くんは、本気で…。)
「先生、また色々相談してもいいですか?こんなこと誰にも言えなかったから、なんか少しスッキリした。」
(聞きたくない、もう来ないで!)
「俺でよければ、また聞いてあげるよ。」
拓海は自分を押し殺して石蕗先生としての正解を選んだ。
***
2年5組のチャラ男、若月は昼休みに3年生の女子生徒と一戦交えてスッキリした足取りだった。そういうことをするのは専ら人のいない校舎裏と相場が決まっている。
だから人がいるとは思わなかったので、思わず声をあげてしまった。
「うわあっ⁉︎」
足にドン、と何かが当たって確認すると塞ぎ込んで丸くなっている人。制服ではなく白衣を着た。若月はそれで誰か分かった。
「え……ツワブキ、ちゃん?」
「あ…ごめんなさい。」
拓海は顔を上げた。そして若月は更に驚いた。
「ちょ、ツワブキちゃん⁉︎どしたの?なんかあった⁉︎」
「え……あ、な、何も……ない、よ…?」
「だって目ぇ真っ赤だし、あー鼻水も出てるし……。」
「ほんと、だ……あはは……みっともないとこ………。」
笑いながらも拓海はボロボロと涙が止まらないようで、若月は慌てる。
「もしかして、松田となんかあった?」
「え……。」
「あ、俺5組だから知ってるよ。ツワブキちゃんと松田のこと。安心して、ね?」
「そ、そうなんだ……うぅ……ぐすっ。」
若月は拓海の隣に腰を下ろした。拓海はまた膝を抱えて涙を流した。
「えっと……な、名前…。」
「あ、そっか。俺、若月っていうんだ。」
「わ、若月くんは……智裕くんが、野球強かったの…知ってた…?」
「え⁉︎ツワブキちゃん知らないの⁉︎あいつすげー有名だったんだぜ!ちょっと待ってて……。」
若月はポケットからスマホを取り出して、なにかを探し始めた。するとすぐにそれは見つかったようで、画面を拓海に見せた。
「ほら、これ去年の練習試合の動画。」
ピッチャーが投げて、ズバン、という激しい音が鳴る。画面越しでもその音の威力に圧倒されそうだった。審判の「ストライク!」という声で周りのギャラリーが歓声を上げる。
するとピッチャーにズームされて、その顔がハッキリと映る。それは智裕なのだが、まるで別人だった。バッターに向ける目線は射殺すような鋭さがあり、整える呼吸の仕方は桁外れの集中力を窺わせる。初めて見る、智裕の顔だった。
「な?すげーだろ?今のヘタレから想像出来ねーよな。」
「……俺、知らなかった………左腕のことも、星野先生から聞き出して……智裕くんからは一度も……。」
「あー…もしかしてさ、キズ、見ちゃった感じ?」
「俺は、自転車でコケたって嘘つかれた……だから昔のことは、智裕くんにとって触れられたくないことって……思ってたのに……思ってたのに………。」
智裕は水上にアッサリと話していた。拓海には嘘をついて隠して、なかったことにしていたのに。
「俺、全然智裕くんのこと……知らない……水上くんには楽しそうに……話してて…俺に気づいたら……どっか行っちゃって……智裕、くん……うぅ…。」
「あちゃー、松田やらかしたなー。そりゃツワブキちゃんも不安になる……てゆーか水上って誰だよ。」
思い出してまた泣き始めた拓海を若月は慰め続けた。
***
昼休みが終わろうとする時間、智裕はトイレで用を足しながら考えた。
(やべーよ、拓海にコケたとか嘘ついてたのバレたよ完全に。野球してんのも言ってなかったし何かすげーショック受けてたよな。そーだよな、あんま言いたく無かったから言わなかったけど水上には軽く話せてんだし、きっと拓海のことだからまたネガティブなこと考えてそうだし、でもどーしよ、いつ謝る?今日何時に帰ってくるんだろ?あ、でも今日は茉莉ちゃんいるだろうからあんまシリアスに話し合いとか出来ないだろ。また今度の日曜日にオフクロたちに預けて2人で話し合うか?いや、あと何日だよ!その間にもしかしたら拓海にフラれでもしたら…!あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁもう何やってんだよ俺えぇぇぇぇぇぇ!)
手を洗って、手洗い場を出て教室に戻ると、3分前との教室の雰囲気が変わってた。クラス全員が戻ってきた智裕を睨んでいるようにも見える。
「え……な、何?」
動揺しながら自分の席に戻ると、高梨が智裕の前に立ちはだかり、机を思いっきりバン、と殴る。
「ヒイッ⁉︎」
「まぁつーだあぁぁぁぁぁ…アンタのヘタレにゃほとほと呆れたわぁぁ……。」
「え!何⁉︎ヘタレ⁉︎ヘタレなの⁉︎いや、ヘタレだけど!」
智裕を追い詰める高梨はメデューサ化していた。
そこから四方に大竹、若月、増田が詰め寄る。圧迫感が凄まじい。
「え……みなさん、何?何なの⁉︎はぇ⁉︎」
縮こまって怯えて、追い詰められたネズミのようになる。
「トモさぁ、恋人同士で隠し事は無しだろー。」
「しかもそれを他の男にはベラベラベラベラ、恋人の目の前で楽しそーにお話するのはどうかと思うよ?松田くん?」
「ツワブキちゃん、俺の腕の中で泣いてたぜ。智裕くんに嘘つかれたーって。あと水上って誰?」
「へ⁉︎水上⁉︎なんでアイツ出て……つーか若月てめぇ何してんだよ!」
「松田ぁ、5限目の公民は自習だってさー。」
そしてトドメの言葉は恒例のごとく、宮西。彼の手には何故か縄が。
「久し振りに学級尋問かな。」
(学級尋問って……若月が女の先輩に手ェ出した時にやったあの地獄の……。)
「大丈夫だ松田。痛くねーから、すーぐ終わるから。」
被疑経験者の若月の目は笑っていない。
キーンコーンカーンコーン
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
***
1年4組は数学の授業だった。1番窓側の席の水上は外を眺めてほくそ笑む。
(石蕗拓海、あんなんで動揺しちゃってさー。面白っ。)
シャーペンでタンタンタンと真白のノートを叩く。
(あんな牽制、まだまだ序の口だし。徐々に追い込むの、アスリートは得意だし、ね。)
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