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マツダくんの秘密

オオタケくんも災難

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 大竹おおたけ裕也ユウヤ、2年5組、出席番号5番。
 身長163cm、1日の牛乳摂取量は1.5L、帰宅部、成績は下の下。
 もちろん、女子にはモテない。告白もされたことない。


「大竹先輩のこと、入学してからずっと見てました!付き合って下さい!」

 2年生の昇降口前で、裕也は愛の告白をされた。常々彼女がほしい、青春したいとボヤく彼にとっては又とないイベントだった。
 しかし後ろにいた、友人の松田マツダ智裕トモヒロは爆笑を堪えて口を塞いでしゃがみこんで、宮西みやにし椋丞リョースケはスマホを高速フリックしていた。

 当の本人はポカーン、と、頭が全身がフリーズしてた。



_大竹が1年の男子に告白されてるwwww


 クラスのグループ通信が数時間後に荒れるよう、宮西が燃料を投下した。


 そう、裕也は爽やか系の初々しい後輩男子に告白されていた。

「えっと………やっぱり…ご迷惑、ですか?」
「………ところで君は一体誰でしょうか?」
「すいません!俺は1年4組の赤松あかまつ直倫ナオミチです!野球部に所属してます!よろしくお願いしますっ!」

 そして90度に腰を曲げて勢いよくお辞儀をされて、裕也は怯えるように「ひっ!」と声を上げて一歩後ろに下がった。

「よろしくお願いされたくねーよ!なんだよ!俺を罰ゲームに使うんじゃねー!」
「罰ゲーム、とは?」
「とぼけんじゃねーぞ!こう見えても俺は、女子にも『アンタに告白なんて罰ゲームに決まってるじゃない!』と言われる男第1位だぞ!」
「そんなことありません!先輩はとても素敵で可愛らしいです!」
「可愛いとか言われても嬉しくねぇよ!」

 これだけ裕也が威嚇するように否定の言葉を並べても、直倫は全く動じなかった。後ろでしゃがむ智裕は爆笑を堪えて腹筋が崩壊しそうになっていた。

「俺は本気で先輩が好きです!昨日、教室から先輩がとても楽しそうにサッカーをしている姿を見て、この気持ちが抑えきれなくなりました!明日からガンガンアピールさせていただきます!」
「しなくていい!俺は可愛いボインボインなウサギ系女子にしか興味ねーんだよ!」
「今日はこれで失礼します!」

 また90度、頭を下げると、直倫は野球帽を被ってグラウンドへ走って行ってしまった。

「もう来んなあぁぁぁぁぁ!」

 裕也は直倫の背中に向かって叫んだが、きっと彼には届いていないだろう。

「お、おま……良かったじゃん…こ、告白された、し、いひひひひひっ!」
「うっせーよ!トモはいいよ!あんなに可愛くて美人な人だし。見たかあれ⁉︎むさ苦しい高校球児だったろ!」
「いやー…松田よりはスタメン顔だろあれは。」
「宮西、お前俺のことずっと控えだと思ってたのかよ…。」
「どう見てもベンチウォーマー顔。」
「トモが地味顔とか今はどーでもいいだろーが!」
「ちょっと待てや!拓海にはちょーカッコいーって言われてんだぞ!」
「うわー……ツワブキちゃん眼科行った方がいいな。」

 一通り智裕イジリが終わったところで、宮西はふと疑問を持った。

「そういやあいつ野球部って言ってたけど、復活したのか?」
「あー、4月から新入生受け入れて活動再開だとよ。トモの諸々で2、3年の数は激減したらしいけど、去年県大会準優勝だし1年は多いらしいぞ。」
「さすが野次馬大竹。でもあの赤松って奴、有名なはずの松田に見向きもしなかったな。どんだけ影薄いんだよ。」
「ねぇ、俺への罵倒まだ続くの⁉︎」
「くっそトモいじってねーとやってらんねーよ!」
「八つ当たりすんなよチビ!」

 スニーカーを履いて校舎を出ても2人の言い合いは続いた。


***


 野球部の1年はまだユニフォームも配られていなかった。体操服と名前を書いたゼッケンを着用して練習をする。ランニング後にストレッチ、そしてアップ運動を30分かけて行う。
 10分休憩した後に、ポジションごとに分かれて練習をする。その休憩時間だった。

「お前、マジで告ったの⁉︎」
「はい!先輩に当たって砕けろとの指南をいただきましたので。」
「いやあれはほんの冗談だったんだが……。」

 直倫と同じ内野手の2年生、清田きよたは直倫の行動力に脱帽した。あまりに直倫がまっすぐ過ぎて罪悪感も出てくる。

「そ、それで…相手の反応は?」
「罰ゲームじゃないかとか、女にしか興味ないとか罵倒されました。」
「なんでそんなに笑顔なんだよ……。」
「大竹先輩はまだ俺のことを知らないようだったので明日からまたアピールしていきます。」
「いやー…そりゃ無理だと思うぞ。」
「やってみないとわからないじゃないですか。」

 至って真剣な態度の直倫に、清田は「あのなぁ。」と気まずそうに話を切り出す。

「5組の大竹ってさ、同じクラスの松田智裕とホモ説浮上してんだよ。」
「マツダ、トモヒロ?」

 清田はあまり大きな声では言えないので、少し直倫に近づいて小声で話しだす。


***

 松田って新学期早々に彼女の二股された挙句フラれたんだよ。
 そんで俺のクラスで松田のこと狙ってた女子がいてさ、友達と一緒に松田のこと呼び出して、

「今フリーだよね?」

 って訊いたんだけど、松田は、

「あー、俺もう好きな奴いるから。」

 って答えたから、その女子が相手のことを訊こうとしたとこに大竹が後ろから来て、松田は女子放ったらかしにしてそのまま大竹とどっか行ったって。
 しかもそん時、松田が大竹の肩をさり気に抱いてたとかなんとか。

 ***


「で、それ以来、うちのクラスでは松田と大竹のホモ説が出回ったわけ。ま、あの2人はいつも一緒にいるからな。それと、お前俺の前以外で大竹の名前出すんじゃねーぞ。」

 清田は人差し指を立てて、真剣な声で警告する。

「先輩らの中には、大竹のこと恨んでる奴いるから、何されっかわかんねーし。お前も目ぇ付けられたら大変な目に遭うからな。」
「は…はぁ……。」
「それだけは守れよ。あと詮索も禁止な。」

 3年生が練習の指示を出し始めたので、清田と直倫はそれぞれの場所に移動した。


***


 校舎を出た智裕と裕也と宮西は、いつものようにファストフード店で駄弁っていた。

「しかし男だとしても大竹に惚れる要素なんかひとつも見当たらねーんだけど。」
「黙れヘタレが。ツワブキちゃんにまだ弁明出来てない糞ヘタレに言われたくねーよ。」
「それ今言う?マジであれから拓海さん、目も合わせてくれなくなったんだよ。今日だってゴミ出ししたらすれ違ったのに…挨拶だけされて終わった。」
「自業自得だろ。ほんとヘタレで馬鹿すぎて幼馴染として恥ずかしいわー。」

 宮西の棒読みが智裕に追い討ちをかける。ショックを受けながらシェイクをズズッと啜る。

「どうすりゃいいんだよぉ……てゆーかあんな1年俺知らねーし。」
「本当に心当たりねーの?松田よりはスタメン顔だしモテそうじゃん。」
「だーから止めろよぉ、地味顔とかベンチ顔とかぁ。」
「赤松……赤松……聞いたことねーな。1年の情報とかまだ5月だからこれといって入ってないんだよなぁ。あ、でもバレーボールの強化選手がいるってのは聞いたことある。」
「あー、水上みずかみなー。」
「は?」
「トモ知ってんの?」

 シェイクのストローを無気力に咥えて不貞腐れながら智裕が応えると野次馬はすかさず反応する。

「中学ん時に何度か合宿で一緒になったことあるんだよなー。地元同じだったしテンションも同じだったしなー。」
「合宿って、競技違くね?」
「代表の強化試合とかで泊まるとこだけ一緒だったんだよ。」
「でもそんなに強い奴が何でウチの高校なんだよ。普通の公立じゃん。」
「さぁ?」

 そこで話は終わり、宮西はドリンクをストローでグルグル回しながら黙っている。裕也はまた溜息を吐く。

「また話が逸れてるっつの。俺の今後について考えろよ!」
「はぁ?大竹チビの分際で何言ってんだよ。」
「知るかよ。いいじゃん付き合ってみれば。確実にお前が女だと思うけどな。」
「うるせーよこの絶倫野郎!」
「はぁ⁉︎てめ、何で知ってんだよ!」
「え。」
「は?カマかけただけなんだけど……え、マジ?トモ、マジで⁉︎」

 智裕は顔が一気に青ざめた。そして右手で口をふさぐ。

「え、おま、えぇ⁉︎ちょちょちょちょ!ツワブキちゃんどうなったんだよ!え、何回したの⁉︎」
「童貞で3日くらいオナ禁してたと仮定して2回は許容範囲、相手が酔っていて理性が崩壊してたとしても3回が限度、ということはそれ以上だな。」
「まさか5回⁉︎5回なのか!」

(なんでわかるんだよー!というか宮西がすげー長文喋ってるの怖ぇんだけど!)

「あ、5回で動揺した。」
「マジか⁉︎5回⁉︎うっそだろ!引くわぁ……えぇ…性欲魔人過ぎるだろー…。」

 いつものように智裕が撃沈して3人の1日は終わった。


***


 夜9時の高校の最寄駅の前のコンビニ。
 駅前のマンションに住む直倫は飲み物を選んでいた。すると隣に人が来る。183cmの自分と同じくらいの高さだったので少し気になってチラ見する。

「よぉ、赤松じゃん。」
「……あーっと…同じクラスの水上くん?」
「何で疑問形だよ。それに水上でいいっつの。お前家近いんだ。」
「まぁな。水上、こんな時間まで制服なんだ。」
「練習帰りだしな。練習場が2駅先なんだよねー。」

 あまりに目立つ2人は、他の客にジロジロと見られていた。それに気がついて、直倫は2Lのスポーツドリンクを、水上は1Lのミネラルウォーターを選び、支払いを済ませて一緒に店を出た。

「そういや赤松って野球部だっけ?小さい時からやってんの?」
「小3からやってる。」
「ふーん……何でウチの高校だったんだ?」
「………去年の県大会の準決勝…見たから、かな。」

 直倫はペットボトルを開けて、ドリンクを一口飲む。

「……準決勝で、ピッチャー凄かったから。あの人の後ろで守ってみたいと思った。」
「だけど、その人はいなかった…だろ?」
「2年に投手の先輩いるけど、あの左腕に比べたらヘロヘロだった。」
「真面目な顔でディスるのかよ。」
「事実だったからだ。何があったのかも部内ではタブーにされてて俺は知らない。」

 また一口飲んで、キャップを閉めた。


「そのタブーにさ、お前の好きな大竹裕也が絡んでた、って聞いたらどうする?」


 直倫は水上の不敵な笑みを見て、その場で固まってしまった。


「そのお前が憧れた投手、お前が越えて、先輩奪っちゃえよ。」

 近づいて、耳元で囁かれる。

「俺も協力してやるから、さ。」

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