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マツダくんの秘密
うららかな休日のフタリ
しおりを挟む「ヤってしまった……。」
嗚呼、太陽が眩しかった。智裕はまだ肌寒い朝の気温に震えて目を覚ました。ベッドサイドの置き時計を見ると、もうすぐ午前7時。
起き上がって周りを見渡すと、昨夜の自分の暴走の名残がそこかしこに残っていた。
智裕も拓海も全裸で、拓海は掛け布団に丸まっている。智裕は恐る恐る、拓海を起こさないように、拓海の身体を触る。
(ヌメヌメしてる……これ完全にアウトだ。)
シーツは敷布団掛け布団、全滅だと悟った。
智裕はとりあえず着るものを探した。寝室のチェストを悪いと思いながらも勝手に漁ると、先日お泊りした時に来てた寝間着用の服と下着が一式揃えられていた。
それを持って向かうのは浴室だった。当然、廊下の照明はオフにする。
シャワーを浴びながらとんでもない自己嫌悪に襲われる。お湯で洗い流していると、あらゆる毛がぬめりを出した。全てどちらのものかわからない精液。
(下の毛ならわかるけど、脇毛と髪の毛ってもうアグレッシブすぎるだろ俺ぇぇぇ!拓海さんマジで今日起きれないかもしんない!無理させ過ぎた気がするんだけど!)
「智裕くん……シャワー浴びてる?」
ドア越しから拓海の声がしたので、智裕はシャワーを止めて返事をした。
「ご、ごめん!勝手に借りた。」
「ううん、いいよ。あのさ、お湯溜めてくれない?俺も目が覚めてさ、お風呂入りたくなって……。」
「わかった。」
智裕は湯船に栓をして、浴室内の給湯器のスイッチを押した。機械の案内音声が流れて、お湯が出てきた。
「今入れたから、あと10分くらいじゃないかな?」
「ありがとう。ねぇ……智裕くん。」
「何?拓海さん。」
「よかったらさ……一緒にお風呂、入りたいな、って。」
恥ずかしそうに尻すぼみな声で拓海はそう言うと、智裕は顔が真っ赤になり恥ずかしくなる。昨夜はもっとすごいことしたはずなのに、一緒に入浴はハードルが高い気がした。智裕の動悸は激しくなるが、考えを頑張って巡らせる。メリットデメリット、損得、レア度、全部をひっくるめて。
「い…い、よ。」
その答えを出す間に給湯器から音楽が鳴り音声が「お風呂に入れます。」と合図する。智裕はザブン、と湯船に沈んだ。そんなに時間はかからずに、ハンドタオルで身体を隠した拓海が浴室に入ってくる。智裕は思わず凝視する。
「あ……あんまり、見ないで…っ!」
「え、あ、ご、ごめんなさいっ!」
拓海が顔を真っ赤にして泣きそうになりながら言ったので、智裕はグルン、と90度方向転換して壁を向いていた。
(裸、超綺麗だった!つーか可愛いよ、拓海さん!)
拓海はボディタオルで丹念に全身を洗う。しかし、洗い流すその度に昨夜の情事が思い出されて恥ずかしい。チラリと横目で智裕の背中を見るが、逞しく筋肉質な肩を縮こませていた。
「と、智裕くん……あの…さ……。」
「は、はい……ナンデショウカ…。」
「俺、昨日、所々で記憶ない……けど……へ、変だったよね……。」
「い、いや……そんなことは……。」
「幻滅した、かな?俺本当はこんなにいやらしい男でさ。」
「そ、そんなことは絶対ないから!むしろ超ご褒美!」
反論の為に智裕は勢いよく立ち上がる。
「と、智裕くん!」
拓海がまた急に恥ずかさで目を隠すから、智裕はどうしたのだと下を向くと、智裕は朝の生理現象にプラス拓海の美しい肌に興奮してた。
股間を隠しながら静かに湯に浸かった。智裕の顔も茹でダコのよう。
「い、いや!そ、そんな、ね!朝からそんな拓海さんを撫で回したいとかココであんなことやなんて考えてないですから!すぐなおるので!」
必死の弁解が虚しい。
拓海はそんな智裕が可愛く見えて、おかしかった。
「ほんと…智裕くんって……はははっ!」
「うぅ……俺はどーせ図体デカいだけのガキっすよ…。」
「あーごめんってば、拗ねないで。」
「拗ねてないですよーだ。」
智裕は口を尖らせてそっぽを向く。拓海は間に受けたのか慌てて湯船の淵を持って智裕に近づく。
「ごめんってば。機嫌直して?」
「………じゃあ、抱っこさせてください。」
「………はい。」
拓海はそんな罪滅ぼしが嬉しかった。シャワーで身体をかけ流すと、すこし戸惑いながら湯船に入る。智裕は拓海の細い腕を引き、その身体を自分が開いた脚の間に収め、後ろから優しく抱きしめる。
「拓海さん、意外に筋肉あるよね。」
「うーん、もっと細かったんだけど、まーちゃんを毎日抱っこしてたら鍛えられちゃったかも。」
「身長ってどんくらい?」
「うーん、と……166cm。男にしては小さいね。」
「でも俺には丁度いいや。」
智裕は拓海の首筋に顔を埋めて、またグッと身体を自分の方に引き寄せる。
拓海は静かに智裕の腕に触れると、筋肉や骨とは違う感触に気がついた。
「……智裕くん、この傷…。」
「あ……あぁ……えっと…。」
「ご、ごめんなさい……言いたくないなら。」
「いや別にそういうわけじゃないから!謝らないでいいよ!チャリで転んで縫ったとかダサすぎて言いづらかっただけだから!」
智裕はすこし伏せたかと思ったら慌てて顔を真っ赤にした。その様子に拓海は少しだけ違和感を覚えた。
「ギプスして登校したらマジでクラス中から爆笑されてさぁ、超つらかったー。」
「そ…そうなんだ。」
「なんかさ、スポーツマンが怪我でリタイアしてーとかそういうカッコいい感じだったらどんだけ良かったか…はぁ。」
いつものヘタレな智裕だった。そして理由もヘタレだった。だが拓海は腑に落ちないような顔をする。それに気がついた智裕は、悪戯に拓海の乳首を甘くつねる。
「ひゃあう!智裕くん…あ、んぁ…やめてぇ…。」
「だって拓海さん、なーんか疑ってそうな顔してるからー。」
「そ、そんなことぉ……。」
「というか今までの俺見てたら、転んだか馬鹿やったかの2択しか出てこないでしょ。ヤンキーに喧嘩吹っかける度胸もないヘタレだしぃ。」
「わかったあぁ…わかったからぁ……も、やめ…んんっ!」
「はいはい、わかりましたー。」
「もぉ……。」
顔も首も耳も真っ赤になった拓海を見て智裕は朗らかになる。お詫びに、と顔を横に向かせて程よく絡み合うキスをする。
唇を離して、また拓海をギュッと抱きしめる。
「拓海さん、可愛すぎでしょ。」
「………そんなの、智裕くんだけだよ……。」
風呂から出て、智裕は現実にかえった。まず昨夜の後始末をしなければならない。そして拓海は腰と尻を痛めてしまっていた。
「マジで俺のせいだから、拓海さんはソファに座ってて!」
「わかった……お願いします……。」
自分もやる、ときかない拓海をなんとか説得して智裕は洗濯、掃除を開始する。
脱ぎ捨てたり濡れている衣服、タオル、シーツを洗濯機に放り込み、液体洗剤と柔軟剤を洗剤ケースに入れて、スイッチを入れる。
次に寝室の換気をする。そしてベランダも窓を開ける。
敷布団と掛け布団をベランダに干して、布団叩きで埃を落とし、衣類用除菌スプレーをかける。
掃除機をくまなくかけると、フローリング用モップシートで拭き掃除。そして寝室のゴミ箱を空にして、昨日は何もなかったかのように現状復帰をした。
(えーっと……使用済みコンドームが1、2、3、4、5ぉ⁉︎マジかよ……え、5回もズコバコしてビューってなってシャキーンして……最初以外覚えてねぇえぇぇぇぇぇぇ!)
智裕はしばらく頭を抱えた。もしかしたら昨夜を思い出してまた興奮するかもしれない、と杞憂していたが、正反対、ドン引きしてしまった。そしてゴミと一緒にこの真相は墓場まで持っていくことにした。
洗濯機が終了の合図を鳴らすと、智裕は洗った衣類を洗濯カゴに入れ、ベランダへ出た。シーツを干して、着てたものやタオルをハンガーに掛けて干した。快い風も吹いている。
「とってもいい風だね。」
「これなら早く乾くだろうな。」
「こんなにいい天気なら、公園にお散歩とかもいいかもしれないけど、今日は…無理かな。」
風で揺れるレースのカーテン、差し込み始める南からの太陽の光、心地の良い風、そして隣に座るのは愛しい人。ゆるりと、雲の速度のように流れる時間。
「あー…コーヒーでも飲む?」
「んー……もうちょっと、こうしてたいな…。」
「わかった。」
拓海は智裕に寄り掛かって、頭も肩に乗せて、智裕の左腕をぎゅっと抱きしめる姿勢。智裕は油断するとまた動悸と興奮が素直になりそうだったので、テレビを見て気を紛らわせていた。
「ほっしゃんがさ、拓海さんのこと、すげー男だって言ってた。」
「え……星野先生が?」
「うん。俺らなんかより強い男だって。」
「そんなこと、ないけど……。」
「毎日気ぃ張るのもシンドイだろうから、俺は拓海さんを甘やかせてやれ、って言われた。」
その言葉で拓海も智裕も頬が赤くなる。だけど、拓海の心は溶けるようにあたたかくなる。
「じゃあ…もっと甘えてもいいの?」
「………最高。」
智裕は拓海を自分の太ももの上に乗せて、向かい合わせにすると、そのままキスをした。それは1回だけで、拓海はそのまま智裕に寄りかかって、智裕の胸に顔を埋めた。
「智裕くん…だぁい好き。」
(茉莉ちゃん、ごめん。もうちょっとだけパパを俺だけのものにさせてね。)
***
一方、松田家。
「きゃああ!じぃじー!」
「ははは、まーちゃんこっちだよー。」
「茉莉ちゃんあんよが上手ねぇー。」
松田父と母、そして智之と大介は茉莉ちゃんの為に近所の広い公園へピクニックを存分に楽しんでいた。
「平和だね、智之。」
「うーん……親父とオフクロがじぃじとばぁばって微妙な気持ちになった。」
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