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マツダくんの新しい恋

本能のツワブキさん(※)

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 エレベーターでエントランスに出たら丁度タクシーが到着していた。星野は肩にグデグデになって動かない人間を抱えながら支払いを済ませて降車した。

「石蕗先生、着きましたよー。」

 智裕は急いで2人の元へ駆ける。

「ほっしゃん!うーわ…予想以上かも。」
「悪いな松田、ちょ、1回そこの階段に降ろすぞ。」

 入り口の段差に拓海を降ろすと、拓海はそのままグデン、と横に倒れた。

「んん……。」
「はぁ…だから飲み会なんて出なくて良かったっつーのに。」
「なんか、ほっしゃんキレてる?」

 智裕と星野は横たわっている拓海を挟むように段差に座った。星野は懐からタバコを出して、火をつけると、ふー、と煙を吐いて落ち着く。

「体育の細田ほそだ、お前も知ってるよな?」
「あー…3年の体育の…柔道の顧問だっけ?」
「そ。あいつ俺と同期でまだ未婚の素人童貞なんだわ。」
「……ほっしゃん、いいの?生徒に先生の個人情報とか。」
「したらよぉ、石蕗先生が優しく接したの勘違いしやがって、泥酔させてお持ち帰りまで計画してたっぽいんだよ。それが気に食わなくて俺がお持ち帰りしてやった。」 

 智裕は普通に顔を真っ青にした。自然にそういう反応に。

「でででででも!た、つ、石蕗先生は男じゃん!」
「お前だって男なのに石蕗先生に勃起したんだろ?」

 星野はまたフーと煙を吐いた。智裕の方は一切見ない。そして智裕は固まった。

「なんでそのことを、って思ってんだろ?」
「あ………いや、そ、それはぁ…。」
「お前もガキだよな。爪があめェんだよ。先週だっけ?昼休みに職員トイレの近くでブッチュブチュしてたら嫌でもわかるわ。」
「…………ーーーっ!」

 智裕は言葉が出てこなくて口をパクパクさせた。

(み、見られてたぁぁぁぁぁ!見られてしまってたぁぁぁぁぁ!絶対誰もいねーと思ったほんの1分くらいを見られてしまってたぁぁぁぁぁ!)

「ま、俺は生徒の色恋や性癖にどーこーいうつもりはねーけど。」
「ほっしゃん…やっぱ俺すげーヤバいことしてんのかな。」
「あ?」

 智裕は星野から出てくる次の言葉が否定の言葉だと勝手に予想して怯える。ガタガタと小刻みに震える大男を、星野はクスッと笑い長い腕をしならせ、思いっきり背中を叩いた。
 「いてぇ!」と叫びながら前進して吹っ飛ぶと、智裕は星野を涙目で訴える。

「いてぇよ!手加減しろよ!どんだけ筋力違うと思ってんの⁉︎」
「なんかイライラしたから。」
「ストレスの捌け口⁉︎ひでぇ!体罰どころじゃねー!」
「うるせー。余計なことウジウジ考えんな。」

 煙を吐くと、携帯灰皿に吸い殻をしまい、星野は立ち上がって智裕に近づいた。智裕はまた殴られると思いビクついてしまう。しかし今度は頭をワシャワシャと撫でられた。

「外野の声はどうだっていい、って俺はお前に教えなかったか?」
「あー……うん。」
「だったらそれを忘れるな。お前はお前だ。」
「………はい。」


***

「俺、もう学校辞める。こんなんじゃここに来た意味ねーし。」

「……お前は本当にそれでいいのか?」

「………いいよ。だって……。」

「そんなに他人の意見が大事か?」

「カンケーねーじゃん。」

「外野の声はどうだっていい。お前は心からそう願ってるのか?」

「………………。」


***


 智裕は左ヒジうずき、それを右手で押さえた。

「ん……んん……。」

 段差で横たわっていた拓海がモゾモゾと動き出し、それに気がついた2人は拓海の元に戻った。 

「石蕗先生、声聞こえますか?」
「んん……あぃ……。」
「家の鍵、どこですか?」
「か、ばん……れふ……。」

 星野は拓海の通勤用のリュックのポケットなどを探る。変な目をしたウサギのキーホルダーを見つけて取り出す。

「何これキモッ!」
「キモくねーよ、俺とお揃いだ!」
「お前もかよ!これ何のキャラだよ…。」
「知らん。オフクロが大量にもらってきてた。」
「明らかに在庫処分だな。」

 星野とそうやり取りをしている智裕の声を泥酔状態でも拓海は認識していた。

「と……もひろ……くん?」
「拓海さん?大丈夫?立てる?」
「と……ともひろ、くん……う…うぅ……。」

 ユラユラと上半身を起こしながら拓海は智裕にすがる。智裕は優しく抱きとめて若干オロオロしながらも拓海を落ち着かせようとする。

「ほっしゃん⁉︎え、何これ!拓海さん何されたの⁉︎」

 星野は少しだけ考えた。


***

 懇親会が行われたのは学校からは2駅ほど離れた場所にある和食料亭の宴会場。滅多にない飲み会で教師たちは浮かれまくっていた。
 そして今晩の主役は新任の教師たちで、その中には擁護教諭の拓海も当然含まれていた。
 星野の隣には、同期の細田が座ってむさ苦しい状態になっていた。いい感じで日本酒が入った細田は星野に訴える。

「いいよなぁ…石蕗くん。マジで男なのかよぉ……。」
「どう見たって男だろ。」
「でもさ、あんなに優しくしてくれたのさぁ、赤羽の風俗嬢以来だぜ?俺、石蕗くんならイケるわぁ。」

 この時点で星野は嫌な予感がしていた。そこからは細田と拓海を注意して見守ることに徹したが、2年生担任教師につかまって目を離した隙に2人の姿は宴会場から消えていた。
 星野はどうにかして離席し、2人を探して手洗い場に向かった。しかし居たのはグロッキーになった新人教師だけだった。そして店中を探すと、外にある喫煙所の近くに人影があった。

「や、やめてください……!」
「いいじゃないですかぁ、こんなお堅い場所の酒より、いいじゃないですかぁ。」
「俺、本当にお酒ダメな……んっ!」
「ほらほら、グイッといって下さいよぉ。」

 すでにフラフラで何とか正気を保っていた拓海に細田は無理やり酒を飲ませていた。しかも焼酎を瓶ごと。
 その拓海を支える細田の手は拓海の服の中に侵入していた。

「細田ぁ!」
「ん…?げ、星野⁉︎」
「てめ馬鹿か!その人本当に酒飲めねーみたいじゃねーか!命に関わったら責任取れんのかよ!」
「だってよ、ここまでしねぇと絶対ヤれねーじゃん。」
「お前マジ最悪だな。石蕗先生は俺が送ってくから、お前はさっさと便所にでもいけ!」

 星野が凄んで脅して細田はそそくさと退散した。そして支えがなくなった拓海はその場で倒れ込んだ。

「石蕗先生、荷物取ってくるから少し待ってて下さいよ。」
「ご…めん……ともひろ…くん……おれ……。」

 拓海は泣いていた。いやらしく性的に細田に触られたことがかなりショックだったのだろう。

(トモヒロ、って俺のクラスの松田のことか。そういや石蕗先生の家と松田の家、同じ団地だったな。)

***

「まぁお持ち帰りされかけたからな。」

 星野は詳細を話すことをやめた。

(いくらヘタレな松田コイツでもこんな話したら月曜日の朝から警察沙汰になるかもしれん。)

 智裕は頭の上にハテナを浮かべたが、それよりも拓海が子供のように泣きじゃくっている姿に、キュンとしてしまう。

「お前の貧弱な身体でも背負うくらいはできるだろ?」
「ほっしゃんからしたら全校生徒の男みんな貧弱だよ。出来るっつの!なんなら姫抱っこだってしてやろーか⁉︎」
「やめとけ。石蕗先生、意外と筋肉あるぞ。」

 星野の忠告を素直に受け入れて智裕は拓海を背負った。意外とずっしりする拓海の身体に驚くが、それ以上に寂しく感じたのはいつものような柔らかい香りが酒で消されてしまっていた。

「やっと就職出来て、子供を1人で育てて…ずっと気ぃ張ってんだろうな、石蕗先生。」
「ほっしゃんが24歳の時って何してた?」
「アメフト辞めて大学院行ってたけど、まぁ就職浪人だったしな…今のお前らと変わんねーよ。」
「そんなもんなんだ。」
「俺はまだ人の親にもなったことねーし、家族すら守れなかったしな。俺らなんかよりすげー男だよこの人は。」

 星野はどこか遠くを見るように智裕に話す。スースーと寝息のようなものが智裕に聞こえ、星野は拓海の方を見ながらフッと笑う。

「だけど、やっぱりどこかで気を緩める場所が必要なんだよ人間はな。それがこの人にとっては松田なのかもしれねーな。」
「俺、っすか?」
「運んでる時とかタクシーの中でもずっとお前の名前呼びながら泣いてさ、今は安心しきって寝ちゃってんだもん。子供のお母さんへの反応と一緒だよこれ。」

 智裕は「お母さん」という言葉に引っかかりはするが、星野に褒められている気がして少し照れた。エレベーターに乗って降りて10階の石蕗家の前まで着いたら星野は鍵とドアを開け、照明をつけた。

「おい、これなんだ?」
「あー、それうちのオフクロが水とか薬入れて。」
「ふーん…感心だな、ちゃんと対策している。」
「ーーーーーーっ!」

 智裕は叫びそうになったが咄嗟にTPOを考えて声を飲み込んだ。そのかわり再び口が魚のようにパクパク動く。星野の手にはギラギラ輝く箱。

「ま、ほどほどにな。俺は帰るぞー。あと頼んだー。」
「あ、あざーす……さよーならー……。」

 星野は拓海の荷物を置くと、とっとと去って行った。智裕はその背中に会釈をして家の中に入った。これで石蕗家には2回目。

「んー…ともひろくんの、においするぅ…。」
「あ、拓海さん、起きた?ちょっと待ってて。」

 拓海を背負いながら智裕はパチパチと電気スイッチを入れて、家の中を明るくする。そして1番奥のリビングにたどり着くとソファに拓海を下ろした。
 雑に横たわった拓海は、明るい場所で見ると顔色が予想以上に悪かった。着ていたシャツのボタンを3個、ベルトを外し、革靴と靴下も脱がせて締め付けのないようにさせる。靴を玄関に置いて、靴下も空になっている洗濯機に放り込み、リビングに戻ると拓海はソファから降りて下を向いていた。智裕はすぐに駆け寄った。

「拓海さん!気持ち悪いの⁉︎」

 智裕の声かけに反応すると、拓海は深く頷く。智裕は拓海を肩で支え、トイレに向かう。間取りが一緒なので迷わずたどり着く。そして拓海は、我慢していたものを一気に吐き出した。智裕は必死に拓海の背中をさする。「はぁ、はぁ」と苦しそうに息をする拓海を見ることが辛かったが、10分くらいして拓海も落ち着いたようだった。覚束ないが足取りではあるが意識はハッキリとしてきたようだった。

「シャワー……浴びてくる……。」

 拓海はフラフラと自力で歩き、風呂場に着の身着のまま入っていく。バタン、と浴室のドアが閉まる音がしたので智裕はトイレの現状復帰をすることにした。クリーンシートで床と便座と便器をしっかり拭いて水に流し、ついでに便器の中も塩酸洗剤とトイレブラシで掃除し、最後に消臭スプレーを吹きかけて終了。玄関に置きっぱなしになっていた荷物をリビングに持って行き、なんとなく散らかっていたおもちゃを片し、カーテンも閉める。
 母から持たされていたゼリーと水を冷蔵庫にしまっていると、浴室からガンと大袈裟な物音がした。

「拓海さん⁉︎」

 智裕はすぐに浴室のドアの前に駆けつけドアノブを手にかけるが、開けることに躊躇してしまった。

「拓海さん、大丈夫なの?手助けいる?」
「うぅ…う、う……うぅ…。」

 拓海は浴室で泣きじゃくっていた。その声を聞いた途端に智裕はドアノブを下げて中に入った。決して広くない浴室で、丸くなっていた拓海がドアとぶつかった。上手いこと入り込んだ智裕はシャワーのぬるま湯でずぶ濡れになった。

「なんで服着たままシャワー浴びちゃってるの!」
「うぅ……だって…だってぇ……。」
「いや怒ってるわけじゃないんだって……さっきからどうしたの?」
「お、おれ……すっごい、や、だったの…に……せんせ…に…さわ、られて……きもちわるくて……こわくて……ともひろ…くん…いなくて……うわぁあん!」

 拓海は意識が戻って思い出してしまったことで我慢していたものがダムのように溢れていた。星野が詳細を黙ってくれていたことに智裕は感謝をした。聞いてたら月曜日に停学になるかもしれない。

「でも、ほっしゃんが助けてくれたんでしょ?」
「うん……ほしのせんせ…めいわくかけた………こんな、じゃ……ともひろくんにきらわれちゃうよぉお…!」
「そんなんで俺拓海さん嫌いになんないし!てゆーか拓海さん被害者でしょ!」

 まるで子供をあやすように智裕は拓海を落ち着かせようとする。いい加減邪魔だったのでシャワーを止めた。ポタポタと雫が落ちていく。智裕は手の平で顔を拭って視界がクリアになったら、今の状況がとんでもないことを認識した。

 拓海の姿だけで智裕は興奮した。

(ややややややっべーぞ!ジャケットはともかくワイシャツ濡れて乳首透けてるし鎖骨濡れてエロいしスラックスずり下がってパンツ丸見えだしパンツ張り付いてて拓海さんのアソコがかたどられてハッキリ見えるし涙目で顔真っ赤で仕草も可愛いしあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!)


「どうしたら……ともひろくん、ゆるしてくれる?」

 上目遣いで智裕を見つめる拓海、それで智裕の理性は人生最大級の崩壊を遂げた。

「抱かせてくれたら許すよ。」

 音が反響する浴室でわざわざ耳元で、最強に低い声で囁いた。拓海は鼓膜が性感帯へ変貌し、感じた。





 クチュ クチュ

「ん、んぅ……ふぁ……ん。」

 いつもは拓海が娘と一緒に寝ている温かなベッド。今、その上で拓海は本能のままに智裕を求めている。
 何度か交わしている深いキスのはずなのに、互いに思考が融けてしまいそうだった。少しは薄くなったはずのアルコールが、口付けで智裕を酔わせていく。

 既に服は全て脱ぎ捨てた。拓海が智裕の全裸を見るのはあの時のハプニング以来で、智裕が拓海の一糸纏わぬ姿を見て触れるのは初めてだった。2人ともベッドに横になり、抱き合って、密着して、掌で相手の皮膚を確かめながら、舌を絡ませる。

 乾いていない、むしろ濡れた髪が顔に張り付く。部屋の明かりはついていないが、付けっ放しにした廊下の照明が開けっ放しの入り口から漏れて、絶妙に互いを照らしている。それが、一層淫ら。

「俺マジでもう抑えきかないからな……。」

 最終確認のように智裕は拓海と目を合わせる。拓海はキスの名残の呼吸と蕩けた眼を智裕に当てる。拓海の眼には理性はなかった。

「ずっと……こうなりたかった……おれのほう、だから…。」
「拓海、煽り過ぎ…っ。」
「ふぅ……んっ。」

 また深く口付け、智裕は拓海を組み敷く態勢をとった。拓海の右手を左手で、ひとつひとつ指を絡ませて拘束する。指の神経から拓海は智裕の熱を感じる。
 ジンジン伝わる甘い痺れを放出したくて堪らず、拓海は「はぁ、はぁ」と熱い息を吐きながら空いてる左手を口元に持っていき、甘く食んで、刺激で気を逸らそうとする。

「ねぇ、拓海のそれ、クセ?」
「ふぇ?」
「すっげーエロいんだけど。」
「あぁっ!や、だめぇ……っ!」

 智裕の右手の指先は、拓海の首筋から鎖骨、胸の真ん中、ツツツと辿って、横に軌道をそらすと、ぐるぐると大きく心臓をかたどる円を描く。段々と小さくなる円は乳輪を、ツンと主張する頂きテッペンをクリクリと。腰をくねらせ、ひたすら悶えるしかない拓海の痴態を知りたくて、智裕は唇でそれを遊び始めた。

「はぁ、ん…っ!あ、や…あぁ…っ!」
「ん…拓海、乳首、いいの?」
「んん……やだぁ……っ!」
「嫌なの?」
「ちがう、よ……も、しんぞぉ、とけちゃう…。」

 甘くて、融けてしまいそうな智裕の熱と愛撫を表現するにはその例えが正解なのかもしれない。智裕の脚には拓海の硬くなったモノが当たっている。本番はこれから、だと言うのに、保健室での時よりも硬度がある。

(拓海の…超熱い。)

 右手は左側の胸部から、突然、1番弱いソコに移動する。唐突な智裕の行動に拓海は小さく悲鳴をあげる。予測出来なかった驚きだった。智裕は握って、親指で先端を弄ると、すでに濡れていた。

「すっげ……乳首、そんなよかった?」
「や、あぁ…そんな、こと……。」
「言わないと、ここ、ギュッとするけど?」
「ふぅ…あ……や、やだぁ……。」

 また拓海の目から涙が流れた。熱を帯びた目の周りは赤くて、呼吸は荒くて、肌の水滴は汗なのか拭き取れていなかった雫なのかわからない。智裕は拓海の右手を自分の口に含んで、指紋を舐める。せき止められていた拓海は全身が小刻みに震えていた。

「も、だしたい……よ……ともひろく……あぁ……。」
「拓海が正直になってくれたら、いいよ。」

 少し意地悪になった智裕はその背徳感でゾクゾクした。

(俺、もしかしてSなのかも。こんなのバレたら、ヘタレのくせに、て言われそうだな。)

「とも、ひろ…く、ん……きもち、いい、の……だしたいよぉ……。」
「どうやって、出して欲しい?」
「ん…はぁ……そ、こ……こしゅってぇ……さきっぽ、ぐりぐりがいぃ、です……っ!」
「うん、わかった。」

 拓海の要望通りに拓海は両手を使う。ほぼ瞬間だった。

「あ、あ、いくの……あぁぁぁあああっ!」

 保健室の時とは較べものにならないくらいの勢いで拓海の欲望は放出された。それは拓海のへそ周りにドプドプと零れた。拓海の肺は活発に動く。その姿は、智裕を煽る。

「ちょっと、待ってて!」

 智裕はダッシュで部屋を出て行く。
 置いていかれた拓海はシーツの微妙な擦れにも反応してしまうくらいに敏感になってしまっていた。仰向けから横向きになると雑に置かれた湿ったバスタオルが目に入り、それに手を伸ばした。


(あ……ともひろくんのいいにおい、する。)

 嗅覚から思い出された智裕の声や仕草、意地悪な前戯、達したばかりのソレがまたフルフルと震える。まだ残るアルコールの酔いも手伝って血がドクドクと巡る。頭はグルグルする。
 拓海は自然と両手が伸びていて、ゆっくりと上下に動かして刺激する。

(おれ、ともひろくんのにおいで、おなにーしてる。どうしよう、きらわれたら、やなのに、とまんないよぉ…!)

「あ、あ、あぁ……や、あぁ……や……んん…っ!」

 ヌチャヌチャと粘着質な音が部屋に響く。拓海の罪悪感を増やす要素になっているが、止まらない、もっと欲している。
 仰向けになって、膝を曲げて少し股を開いて、茎だけでなく嚢の裏やソレの付け根も不器用に触れる。手探りで満たせる刺激を求めることに夢中になって、智裕が既に戻ってきたことも分かってなかった。

 ローションのビニールを剥がしたり、コンドームの箱のビニール包装を取ったり、少々時間がかかって焦っていた智裕の眼前で、いじらしい恋人の慰めが行われていた。ゴクリ、とツバを飲み込んでしまった。

(え、何これマジで何起こってんの?あれさっき俺が使ったバスタオル…をクンクンしながらシコシコしてる感じ?あーね理解した。俺の匂いだけで、真っ赤になって喘いでシコシコして、イくのか?マジで?え、どうしよ、見たい、見ていいのか?見たい!)

 智裕はまだ自分に気づかず、自慰に夢中になっている拓海の乱れる姿を凝視しながらもフリーズして立ち尽くしていた。拓海の喘ぎは大きくなり、苦しそうになり。

「あ、や…っ!み、みちゃいやぁぁぁぁ……ああぁぁぁぁぁ!」

 バッチリと拓海のとろけた目が智裕の視線と合った瞬間に拓海のソレから白濁が飛び出した。拓海は脱力してしまう。そして羞恥で顔がまた熱くなる。


 智裕は小箱をひっくり返して、連なるビニール包装を全て拓海の胴体に落とした。

「な、に……これ……。」
「コンドーム、こんだけあるから。」

 トロリとするボトルの中身を自分の右手に垂らすと、すかさずそれで拓海の陰嚢の更に奥に触れる。ズプズプ、と人差し指をゆっくりゆっくり侵攻させる。

「ひぃっ!や、な、なにこれぇ…っ!」
「俺初めてだけど、拓海が空っぽになるまで抱ける気がする。」
「んん……あぁ…。」
「痛い?」
「んんん……おなか、むじゅむじゅ、する……はぁ…あぁ、あ……っ!」

 拓海は違和感と少しの快感から逃れようと、さっきまでオカズにしていたバスタオルをまるで抱き枕のように扱って、気をやろうとしていた。
 智裕は人差し指を入れきると、グルグルかき混ぜ始める。すると拓海の本当のスイッチに触れ、全身に鳥肌が立って、拓海の羞恥から生まれかけた理性の糸は簡単に切れた。ただ、智裕を求める身体になった。

「あ、そこ、がぁぁぁ……っ!」
「ココ擦ると、拓海すごい乱れる。気持ちいいの?」
「わかんなぁい……っ!あ、あぁ…っ!へん、なの、くるの……っ。」
「ナニが変になるの?教えてよ、そしたらもっと変にしてあげるから。」
「あ、あ……くるくる、すると……ちんちん、変なのぉ……あっ!」
「ホント、ビクビクしてる。拓海の可愛いおちんちん。」

 人差し指を挿れたままの右の手のひらに、またローションを垂らすと、拓海は秘部への急激な冷たさに驚いて指をかたどるように締める。その入り口をグルグル回して中指も侵攻させる。

「はぁんっ!あ、キツ…い…。」
「拓海、力抜ける?」
「あ……どしよ、わかんない……。」

 智裕は、上半身を倒して、拓海の胴体にキスの雨を降らせた。徐々にそれは上昇して、鎖骨、首筋、耳。


「拓海と、1つになりたい。」


 なんともキザったらしい風に智裕が囁くと、吐息で感じた拓海の入り口は柔らかくなる 。2本の指がナカを侵すと、さきほどと同様にかき混ぜる。またポイントに擦れると、拓海は全身を震わせる。

「ふぁあぁぁ…なか、らめぇ…っ!」
「ダメなの?良くないの?」
「ぐりゅぐりゅ、するぅ、あ、あ、んぁあぁぁ…っ!」

 拓海のソレはパンパンに腫れていた。それは智裕も同じ。連なる包装をちぎって、取り出して、ガチガチの硬度の自身に装着して、充分にほぐした拓海の秘部に充てがう。

「挿れるよ……拓海。」
「あ……きて………ともひろくん…っ!」

 濡らしたソコはいやらしい粘着な音を立てる。ズプリ、ズプリ、との速度で智裕の熱が拓海のナカへ侵入する。痛み、熱さ、あるはずなのに、拓海は下腹部の圧迫が甘い痺れになっていた。智裕が痛いくらいに拓海の太ももを握りしめる。

「はぁ…やっべ……きっつ……。」

 締め付けられる、かたどられる生々しい感触に智裕は達しそうになるが、どうにか堪えようとしかめ面になる。
 そんな情けない顔さえ、拓海にはカッコ良く映っているようだった。

「あっつい……ね……?」
「拓海、痛くない?平気、か?」
「……うれしい………だいすきぃ…。」

 涙を流してぐちゃぐちゃになった顔でも、ふにゃりと笑う拓海は美しかった。智裕も安心したように笑うと、嬉しさと愛しさがこみ上げて、拓海の目尻にキスをする。

「俺、やばいかも。」
「…え……?」
「拓海のこと、ちょー好きになってる。心臓痛いくらい、好きだ。」
「ともひろくん……おれも、すきぃ……。」

 ゆっくりと慣らすように動く、のち、滑らかに動くようになったらば、智裕は拓海の太ももを掴んで、雄の動きを激しく始めた。
 皮膚がぶつかる音とグジョグジョに濡れた音が規則的に鳴り、合わせるように拓海から漏れる声。気が狂うほどに2人は興奮する。

「あ、あ、あ、あぁっ!や、と、もひろ…く、ん…すきぃ…っ!」
「俺も、好きだ…っ!」
「も、だめ、イッちゃ……あ、あぁぁぁっ!」
「じゃ、一緒にイこ……ふぅ…んん…っ!」
「あ、あ、だめ、イク、あ、ああぁぁぁあぁぁぁっ!」
「ああっ!……だぁ、っ!」

 拓海が3度目の射精をすると、直後に智裕も欲望が放出した。ゴムを被せているとしてもそれは拓海のナカに注いだよう。

 ナカから自身を出した智裕は、被せてたゴムを縛って捨てて、また新しい包装を破いた。拓海の先端からは透明になったものまで漏れていた。まだ絶頂の余韻が残っている、のに。

「ひゃあっ!」
「ごめん、1回じゃ足りない。」

 ズプリ

 一気に奥を貫かれると足がピン、となり、全身が痺れるような感覚に襲われた。拓海は生理的な涙が流れるが、心は喜びに満ちていた。

(ともひろくん……すき、だいすき……。)

「からっぽ、にして、もっと……ぐりゅぐりゅ、して?」

 拓海は手持ち無沙汰になった両手を口元へ持っていき、甘えた声でおねだりをする。拓海は既にアルコールは無くなっていて、智裕の熱と色気に酔わされてしまっていた。

「もっと、グチャグチャにしてもいい?」
「……ともひろくんなら、いいよ。」

 智裕は呼吸を許さないと言わんばかりのキスを拓海に。拓海は応えるように蹂躙される。同時にナカも智裕の熱で焦がされるよう。


(拓海、止まんないや、ごめんね。明日洗濯とか俺やるから、今は抱かせてくれ。)

(もう、このまま、しんじゃいそう……ふわふわ、ぐるぐる…ともひろくんでいっぱい……。)


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