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本編

十二羽

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 覚悟したのに痛いのもビリビリも来ぃひん。代わりに聞こえてきたのは、三条クンの呻き声やった。

「星司クン!」
「立夏、静かに。授業中です」
「あっ」

 僕は慌てて両手で口を押さえた。
 そんな僕を見て、厳しいお顔をしていた星司クンは、ふっと優しう笑った。

「行きましょう、立夏」
「う、うん……」

 アッサリと三条クンの腕を離した星司クンは僕に言うた。

「ちょお待ちや、オレのことは無視かいな!」
「…………」

 星司クンのひと睨みに、三条クンはウッと詰まった。そらそうや、今の星司クン、めためた怖いもん。それきり、呼び止められることもなかった。

 でも、星司クン、そっちは教室やあらへん。まさかこのまま帰るのやろか。制服の裾を引っ張ったら、振り向いた優しい目とぶつかった。

「帰りましょう、立夏。すぐに車が来ます」
「あ、ウン……」

 星司クンに手ぇを引かれて、授業中で誰も居てない廊下をコッソリ歩く。なんや、イケナイことしとるみたいでドキドキするわ……。チラッと星司クンの方を見ると、いつもの、カッコイイ優等生の顔やった。




 家に戻ると禊の用意ができていた。
 これも、星司クンが手配してくれたのやろと思う。

 僕は冷たい水で身を清められ、真っ白な着物と袴を身に着けて離れに戻った。中では、星司クンが正座で僕を待っていてくれた。

「星司クン」
「お疲れさまでした、立夏。穢れもなくなっていますね」
「おおきに。星司クンのおかげで酷い目ぇにあわずに済んだわ。えらいことになるとこやった……けど、僕、ちゃんと嫌やって言えたで」

 あの、鍵の壊れた用具入れに押し込まれとき、僕はなんにもできひんやった。されるがままで……。でも、星司クンが助けに来てくれた。守ってくれた。でも、悲しい目をさせてしもうた。

 しやから、僕はもう、負けへんって決めたんや。
 気張らんと!

 三条クンに襲われそうになって、ちゃんと抵抗できたことは、僕にとってすごい進歩なんや。

 あんまり上手く言えへんやったけど、それを星司クンに言うたら、優しい顔して笑ってくれた。

「強くなりましたね、立夏。それに、穢れへの抵抗力も上がったようです。少し安心しました」
「抵抗力、って?」

 何の話やろな。
 僕が首を傾げると、星司クンは膝を詰めてきて、僕の顔を覗き込んできた。

 思わず仰け反りかけた僕の顔を、両手で包み込んで、星司クンは優しいキスを何度も降らしてきた。

「んもう、星司クン!」
「すみません」

 それで、星司クンが言うには穢れ言うんはなんや、イヤ~な気ぃになることなんやって。

「穢れを気枯れとして、日々の暮らしを営む気力の枯渇した状態に当たるとした論はかなり新しいものにはなるのですが、我々の間でも古くからそういう一面も含んだものとして扱ってきました。穢れに触れると心身に不調が表われ、病気や怪我を招きやすくなります。立夏は特に、穢れへの抵抗力がまったくないので、少しでも穢れに触れると寝込んでしまいますし、最悪命に関わります」
「えっ」
「立夏がよく風邪をひくのもそのせいですよ。この前も……彼らに触れられたせいで寝込んだでしょう。最大限の護りをかけてもこれなのですから、貴方を外に出したくないのです。本当は。学校なんて、以ての外……しかし、そのおかげで、俺は貴方の側にいられる……」

 霊能力で食べてる家で、能力のまったくあれへん僕は、とんでもない足手まといや。それに、自分の身ぃも守れへんからって、こやって離れで結界に守られて暮らしてる。

 それを初めて聞かされたとき、自分で何とかしたかったんやけど、零に何をかけても零やってん、無理やった。

 重政はんやお父はんは、僕をここに閉じ込めておきたいんや。
 でも、お母はんは僕を学校へやりたかったんやて。

 そのおかげで、僕は独りぼっちにならずに、すんだんや。
 そのおかげで、星司クンがいてくれてる。

 星司クンのためを思うなら、ほんまはこの手を離して、さよならするべきなんやろうけど……僕は、卑怯やから、僕からそんなこと言われへん。星司クンが「もうやめよ」って言うまでは、このまんまで……いたいんや。

 そっと星司クンの胸元に寄ったら、星司クンは僕を抱きしめてくれた。

「星司クン……」
「立夏……」

 星司クン、ぬくいなぁ。
 それに大きぅて、ぎゅってされたら、えらい気ぃが休まるんや。
 僕にお兄はんがいてたら、きっとこんな感じや。お父はんにぎゅってされたら、こんな感じなんやろな。

 って思うてたんに……。

「はぁ、はぁ……立夏……」
「星司クン?」
「もう、我慢できません!」

 ちょっと!?
 固ぁなってしもうてるやん!

「ちょ、星司クン! あかんて」
「でも、そういう立夏だって、もうこんなに乳首を勃たせて。期待していたんじゃないんですか?」
「それはっ、星司クンがいじくりまわしたせいやんか!」
「しっ。黙って、立夏。外に全部聞こえてしまいますよ」
「!」

 僕が慌てて自分の口に両手で封をしたとこに、星司クンが後ろから抱え込むようにして抱きついてきた。僕のお尻に固いモノを押し当てながら、首の後ろや肩にキスをして、片手で僕の腰を抱いて、もう片手は僕の胸の辺りをずっと擦ってくる。じっと、黙ったまんまで。

 誰か外にいてるんやろうかと、僕はじっと聞き耳を立てていた。でも、そんな気配はあれへん。昼間やのに、離れの周りは静かやった。僕がほうっと息を吐くと、星司クンがこっそり笑った。

「もう、星司クンのいけず! 誰もおらんやないの。もしかして、わかってて嘘吐いたん?」
「さぁ、なんのことでしょう」
「もう!」

 僕が怒ってるのに、星司クンは楽しそうに笑てる。

「あんなぁ、星司クン! 僕かて怒るんやで」
「怒った立夏も可愛いですよ」
「そういうこと言うてるんやあれへん。僕、ほんまにどないしよかと思ったんに! 誰かに見られたら、どうしよて……。嫌やって言うたら、ちゃんとやめてよ?」
「わかっています。俺は、立夏が嫌がることはしませんよ。……普段は。先日のことは、置いておいてください」

 しれっと言い切った後に、星司クンは小声で付け加えた。
 あの夜のことは、星司クン自身もあんなに謝ってたし、えらい反省してるみたいや。

 でも、謝るなら今のも謝って欲しいわぁ。

「今さっき僕、あかんて言うたやん。それはどないなるのや」
「あれは、本当に嫌で言っていたわけじゃないでしょう? もしそうなら俺にはちゃんとわかります」
「ああ言えばこう言う……」
「嫌ですか?」
「…………嫌や、あれへんけど」
「なら、問題ないですね」
「あっ」

 僕は、そのまま畳に押し倒されて、星司クンに食べられてもうた。
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