12 / 27
本編
十二羽
しおりを挟む
覚悟したのに痛いのもビリビリも来ぃひん。代わりに聞こえてきたのは、三条クンの呻き声やった。
「星司クン!」
「立夏、静かに。授業中です」
「あっ」
僕は慌てて両手で口を押さえた。
そんな僕を見て、厳しいお顔をしていた星司クンは、ふっと優しう笑った。
「行きましょう、立夏」
「う、うん……」
アッサリと三条クンの腕を離した星司クンは僕に言うた。
「ちょお待ちや、オレのことは無視かいな!」
「…………」
星司クンのひと睨みに、三条クンはウッと詰まった。そらそうや、今の星司クン、めためた怖いもん。それきり、呼び止められることもなかった。
でも、星司クン、そっちは教室やあらへん。まさかこのまま帰るのやろか。制服の裾を引っ張ったら、振り向いた優しい目とぶつかった。
「帰りましょう、立夏。すぐに車が来ます」
「あ、ウン……」
星司クンに手ぇを引かれて、授業中で誰も居てない廊下をコッソリ歩く。なんや、イケナイことしとるみたいでドキドキするわ……。チラッと星司クンの方を見ると、いつもの、カッコイイ優等生の顔やった。
家に戻ると禊の用意ができていた。
これも、星司クンが手配してくれたのやろと思う。
僕は冷たい水で身を清められ、真っ白な着物と袴を身に着けて離れに戻った。中では、星司クンが正座で僕を待っていてくれた。
「星司クン」
「お疲れさまでした、立夏。穢れもなくなっていますね」
「おおきに。星司クンのおかげで酷い目ぇにあわずに済んだわ。えらいことになるとこやった……けど、僕、ちゃんと嫌やって言えたで」
あの、鍵の壊れた用具入れに押し込まれとき、僕はなんにもできひんやった。されるがままで……。でも、星司クンが助けに来てくれた。守ってくれた。でも、悲しい目をさせてしもうた。
しやから、僕はもう、負けへんって決めたんや。
気張らんと!
三条クンに襲われそうになって、ちゃんと抵抗できたことは、僕にとってすごい進歩なんや。
あんまり上手く言えへんやったけど、それを星司クンに言うたら、優しい顔して笑ってくれた。
「強くなりましたね、立夏。それに、穢れへの抵抗力も上がったようです。少し安心しました」
「抵抗力、って?」
何の話やろな。
僕が首を傾げると、星司クンは膝を詰めてきて、僕の顔を覗き込んできた。
思わず仰け反りかけた僕の顔を、両手で包み込んで、星司クンは優しいキスを何度も降らしてきた。
「んもう、星司クン!」
「すみません」
それで、星司クンが言うには穢れ言うんはなんや、イヤ~な気ぃになることなんやって。
「穢れを気枯れとして、日々の暮らしを営む気力の枯渇した状態に当たるとした論はかなり新しいものにはなるのですが、我々の間でも古くからそういう一面も含んだものとして扱ってきました。穢れに触れると心身に不調が表われ、病気や怪我を招きやすくなります。立夏は特に、穢れへの抵抗力がまったくないので、少しでも穢れに触れると寝込んでしまいますし、最悪命に関わります」
「えっ」
「立夏がよく風邪をひくのもそのせいですよ。この前も……彼らに触れられたせいで寝込んだでしょう。最大限の護りをかけてもこれなのですから、貴方を外に出したくないのです。本当は。学校なんて、以ての外……しかし、そのおかげで、俺は貴方の側にいられる……」
霊能力で食べてる家で、能力のまったくあれへん僕は、とんでもない足手まといや。それに、自分の身ぃも守れへんからって、こやって離れで結界に守られて暮らしてる。
それを初めて聞かされたとき、自分で何とかしたかったんやけど、零に何をかけても零やってん、無理やった。
重政はんやお父はんは、僕をここに閉じ込めておきたいんや。
でも、お母はんは僕を学校へやりたかったんやて。
そのおかげで、僕は独りぼっちにならずに、すんだんや。
そのおかげで、星司クンがいてくれてる。
星司クンのためを思うなら、ほんまはこの手を離して、さよならするべきなんやろうけど……僕は、卑怯やから、僕からそんなこと言われへん。星司クンが「もうやめよ」って言うまでは、このまんまで……いたいんや。
そっと星司クンの胸元に寄ったら、星司クンは僕を抱きしめてくれた。
「星司クン……」
「立夏……」
星司クン、ぬくいなぁ。
それに大きぅて、ぎゅってされたら、えらい気ぃが休まるんや。
僕にお兄はんがいてたら、きっとこんな感じや。お父はんにぎゅってされたら、こんな感じなんやろな。
って思うてたんに……。
「はぁ、はぁ……立夏……」
「星司クン?」
「もう、我慢できません!」
ちょっと!?
固ぁなってしもうてるやん!
「ちょ、星司クン! あかんて」
「でも、そういう立夏だって、もうこんなに乳首を勃たせて。期待していたんじゃないんですか?」
「それはっ、星司クンがいじくりまわしたせいやんか!」
「しっ。黙って、立夏。外に全部聞こえてしまいますよ」
「!」
僕が慌てて自分の口に両手で封をしたとこに、星司クンが後ろから抱え込むようにして抱きついてきた。僕のお尻に固いモノを押し当てながら、首の後ろや肩にキスをして、片手で僕の腰を抱いて、もう片手は僕の胸の辺りをずっと擦ってくる。じっと、黙ったまんまで。
誰か外にいてるんやろうかと、僕はじっと聞き耳を立てていた。でも、そんな気配はあれへん。昼間やのに、離れの周りは静かやった。僕がほうっと息を吐くと、星司クンがこっそり笑った。
「もう、星司クンのいけず! 誰もおらんやないの。もしかして、わかってて嘘吐いたん?」
「さぁ、なんのことでしょう」
「もう!」
僕が怒ってるのに、星司クンは楽しそうに笑てる。
「あんなぁ、星司クン! 僕かて怒るんやで」
「怒った立夏も可愛いですよ」
「そういうこと言うてるんやあれへん。僕、ほんまにどないしよかと思ったんに! 誰かに見られたら、どうしよて……。嫌やって言うたら、ちゃんとやめてよ?」
「わかっています。俺は、立夏が嫌がることはしませんよ。……普段は。先日のことは、置いておいてください」
しれっと言い切った後に、星司クンは小声で付け加えた。
あの夜のことは、星司クン自身もあんなに謝ってたし、えらい反省してるみたいや。
でも、謝るなら今のも謝って欲しいわぁ。
「今さっき僕、あかんて言うたやん。それはどないなるのや」
「あれは、本当に嫌で言っていたわけじゃないでしょう? もしそうなら俺にはちゃんとわかります」
「ああ言えばこう言う……」
「嫌ですか?」
「…………嫌や、あれへんけど」
「なら、問題ないですね」
「あっ」
僕は、そのまま畳に押し倒されて、星司クンに食べられてもうた。
「星司クン!」
「立夏、静かに。授業中です」
「あっ」
僕は慌てて両手で口を押さえた。
そんな僕を見て、厳しいお顔をしていた星司クンは、ふっと優しう笑った。
「行きましょう、立夏」
「う、うん……」
アッサリと三条クンの腕を離した星司クンは僕に言うた。
「ちょお待ちや、オレのことは無視かいな!」
「…………」
星司クンのひと睨みに、三条クンはウッと詰まった。そらそうや、今の星司クン、めためた怖いもん。それきり、呼び止められることもなかった。
でも、星司クン、そっちは教室やあらへん。まさかこのまま帰るのやろか。制服の裾を引っ張ったら、振り向いた優しい目とぶつかった。
「帰りましょう、立夏。すぐに車が来ます」
「あ、ウン……」
星司クンに手ぇを引かれて、授業中で誰も居てない廊下をコッソリ歩く。なんや、イケナイことしとるみたいでドキドキするわ……。チラッと星司クンの方を見ると、いつもの、カッコイイ優等生の顔やった。
家に戻ると禊の用意ができていた。
これも、星司クンが手配してくれたのやろと思う。
僕は冷たい水で身を清められ、真っ白な着物と袴を身に着けて離れに戻った。中では、星司クンが正座で僕を待っていてくれた。
「星司クン」
「お疲れさまでした、立夏。穢れもなくなっていますね」
「おおきに。星司クンのおかげで酷い目ぇにあわずに済んだわ。えらいことになるとこやった……けど、僕、ちゃんと嫌やって言えたで」
あの、鍵の壊れた用具入れに押し込まれとき、僕はなんにもできひんやった。されるがままで……。でも、星司クンが助けに来てくれた。守ってくれた。でも、悲しい目をさせてしもうた。
しやから、僕はもう、負けへんって決めたんや。
気張らんと!
三条クンに襲われそうになって、ちゃんと抵抗できたことは、僕にとってすごい進歩なんや。
あんまり上手く言えへんやったけど、それを星司クンに言うたら、優しい顔して笑ってくれた。
「強くなりましたね、立夏。それに、穢れへの抵抗力も上がったようです。少し安心しました」
「抵抗力、って?」
何の話やろな。
僕が首を傾げると、星司クンは膝を詰めてきて、僕の顔を覗き込んできた。
思わず仰け反りかけた僕の顔を、両手で包み込んで、星司クンは優しいキスを何度も降らしてきた。
「んもう、星司クン!」
「すみません」
それで、星司クンが言うには穢れ言うんはなんや、イヤ~な気ぃになることなんやって。
「穢れを気枯れとして、日々の暮らしを営む気力の枯渇した状態に当たるとした論はかなり新しいものにはなるのですが、我々の間でも古くからそういう一面も含んだものとして扱ってきました。穢れに触れると心身に不調が表われ、病気や怪我を招きやすくなります。立夏は特に、穢れへの抵抗力がまったくないので、少しでも穢れに触れると寝込んでしまいますし、最悪命に関わります」
「えっ」
「立夏がよく風邪をひくのもそのせいですよ。この前も……彼らに触れられたせいで寝込んだでしょう。最大限の護りをかけてもこれなのですから、貴方を外に出したくないのです。本当は。学校なんて、以ての外……しかし、そのおかげで、俺は貴方の側にいられる……」
霊能力で食べてる家で、能力のまったくあれへん僕は、とんでもない足手まといや。それに、自分の身ぃも守れへんからって、こやって離れで結界に守られて暮らしてる。
それを初めて聞かされたとき、自分で何とかしたかったんやけど、零に何をかけても零やってん、無理やった。
重政はんやお父はんは、僕をここに閉じ込めておきたいんや。
でも、お母はんは僕を学校へやりたかったんやて。
そのおかげで、僕は独りぼっちにならずに、すんだんや。
そのおかげで、星司クンがいてくれてる。
星司クンのためを思うなら、ほんまはこの手を離して、さよならするべきなんやろうけど……僕は、卑怯やから、僕からそんなこと言われへん。星司クンが「もうやめよ」って言うまでは、このまんまで……いたいんや。
そっと星司クンの胸元に寄ったら、星司クンは僕を抱きしめてくれた。
「星司クン……」
「立夏……」
星司クン、ぬくいなぁ。
それに大きぅて、ぎゅってされたら、えらい気ぃが休まるんや。
僕にお兄はんがいてたら、きっとこんな感じや。お父はんにぎゅってされたら、こんな感じなんやろな。
って思うてたんに……。
「はぁ、はぁ……立夏……」
「星司クン?」
「もう、我慢できません!」
ちょっと!?
固ぁなってしもうてるやん!
「ちょ、星司クン! あかんて」
「でも、そういう立夏だって、もうこんなに乳首を勃たせて。期待していたんじゃないんですか?」
「それはっ、星司クンがいじくりまわしたせいやんか!」
「しっ。黙って、立夏。外に全部聞こえてしまいますよ」
「!」
僕が慌てて自分の口に両手で封をしたとこに、星司クンが後ろから抱え込むようにして抱きついてきた。僕のお尻に固いモノを押し当てながら、首の後ろや肩にキスをして、片手で僕の腰を抱いて、もう片手は僕の胸の辺りをずっと擦ってくる。じっと、黙ったまんまで。
誰か外にいてるんやろうかと、僕はじっと聞き耳を立てていた。でも、そんな気配はあれへん。昼間やのに、離れの周りは静かやった。僕がほうっと息を吐くと、星司クンがこっそり笑った。
「もう、星司クンのいけず! 誰もおらんやないの。もしかして、わかってて嘘吐いたん?」
「さぁ、なんのことでしょう」
「もう!」
僕が怒ってるのに、星司クンは楽しそうに笑てる。
「あんなぁ、星司クン! 僕かて怒るんやで」
「怒った立夏も可愛いですよ」
「そういうこと言うてるんやあれへん。僕、ほんまにどないしよかと思ったんに! 誰かに見られたら、どうしよて……。嫌やって言うたら、ちゃんとやめてよ?」
「わかっています。俺は、立夏が嫌がることはしませんよ。……普段は。先日のことは、置いておいてください」
しれっと言い切った後に、星司クンは小声で付け加えた。
あの夜のことは、星司クン自身もあんなに謝ってたし、えらい反省してるみたいや。
でも、謝るなら今のも謝って欲しいわぁ。
「今さっき僕、あかんて言うたやん。それはどないなるのや」
「あれは、本当に嫌で言っていたわけじゃないでしょう? もしそうなら俺にはちゃんとわかります」
「ああ言えばこう言う……」
「嫌ですか?」
「…………嫌や、あれへんけど」
「なら、問題ないですね」
「あっ」
僕は、そのまま畳に押し倒されて、星司クンに食べられてもうた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
産卵おじさんと大食いおじさんのなんでもない日常
丸井まー(旧:まー)
BL
余剰な魔力を卵として毎朝産むおじさんと大食らいのおじさんの二人のなんでもない日常。
飄々とした魔導具技師✕厳つい警邏学校の教官。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。全15話。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
儀式の夜
清田いい鳥
BL
神降ろしは本家長男の役目である。これがいつから始まったのかは不明らしいが、そういうことになっている。
某屋敷の長男である|蛍一郎《けいいちろう》は儀式の代表として、深夜の仏間にひとり残された。儀式というのは決まった時間に祝詞を奏上し、眠るだけという簡単なもの。
甘かった。誰もいないはずの廊下から、正体不明の足音がする。急いで布団に隠れたが、足音は何の迷いもなく仏間のほうへと確実に近づいてきた。
その何者かに触られ驚き、目蓋を開いてさらに驚いた。それは大学生時代のこと。好意を寄せていた友人がいた。その彼とそっくりそのまま、同じ姿をした者がそこにいたのだ。
序盤のサービスシーンを過ぎたあたりは薄暗いですが、|駿《しゅん》が出るまで頑張ってください。『鼠が出るまで頑張れ』と同じ意味です。
感想ください!「誰やねん駿」とかだけで良いです!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる