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本編

十羽

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 激しい性交に意識を失った立夏を、星司は優しくいたわった。体を清拭せいしきし、水分も与え、浴衣も着替えさせて新しく用意した布団に寝かせてやる。星司自身は軽くシャワーで汗を流した後、汚した敷布やら何やらを母屋の選択部屋へと運んだ。

 すべてを終えて立夏の隣に戻ってきたのは明け方近くで、少しでも仮眠をして登校に備えなければと思いつつも、泣き腫らした瞼で無防備に眠る立夏をいつまでも眺めていた。

 初めて会った時からこの可愛らしい少年を好きになっていた。だから、「立夏に仕えよ」と命令が下された時は嬉しくて仕方がなかったのだ。まるで、守るべき弟ができたようで。

 しかし思春期を迎えて自分が他の大勢とは違う性的嗜好を持っていると知り、星司はこれまでの立夏への好意が恋であることに気がついた。

 ずっと秘めておくつもりだった想い。
 だが、立夏の置かれている立場を知るにつれて星司は苦しくなっていった。

 霊媒と式神の使役で名を上げてきた『八咫やた』にとって、身内・ ・の人間は皆、道具であると言える。そんな中で神や鬼が好むひときわ純な魂を持っている立夏は、強力な式神を得るための『にえ』の素質を生まれついてより持っていた。しかも、当主の息子でありながら己を守る力は皆無……まさに生け贄にうってつけだったのだ。

 それを拒否したのが当主の母親と妻だった。

 まだ当主の母親――つまり立夏の祖母が健在だった頃には、立夏の母と二人がかりで物の怪の害から立夏を守っていた。結界が施された離れへ閉じ込めなくとも、立夏は普通に生活できていたのだ。

 だが、高齢だった当主の母が亡くなると、立夏の母だけでは物の怪から身を隠す隠形おんぎょうの術を維持することが難しくなった。立夏の母は身を削って息子を守ろうとし、そのせいで今も目覚めぬままだ。

 立夏が実の父親に疎まれているのはそのためだ。憎まれていると言っても良い。彼は立夏が死ねば妻が目覚めると思っているのだ。だからこそ早く立夏を生贄として捧げたい、殺してしまいたい。そこには当主としての判断と言うより、ただの男として、妻を取り戻したいという想いがあったのではないだろうか。

『せめて十八になるまでは。高校を卒業するまでは』

 そんな遺言めいた願いによって、今の立夏はある。
 辛うじて生かされている。

(早く……早く、この状態から抜け出させないと……)

 星司は焦っていた。
 もうすぐ夏期休暇に入る。星司が卒業するまであと半年弱……自分が立夏の側を離れてしまえば、儀式が早まってしまう可能性がある。そんな懸念を星司は抱いていた。知らぬ間に生贄に捧げられてしまっては助けるものも助けられない。

 立夏の身体と魂を贄に、強大な力を持つ鬼神をおびき寄せ、しきとする。そのためには立夏が純粋であればあるほど良く、できることなら高校も中退させて閉じ込めておきたいというのが八咫のお偉方の本意だろうから。

 立夏の運命を知ったその日から、星司はそれを変えようと動いた。父を説得しようとしたり、当主である立夏の父に会わせてくれるよう頼み込んだり……だがそれは叶わなかった。そればかりか、『当主の命に逆らうか』と、かなり手酷い折檻を受けた。

 立夏には何とか隠し通し、高校も休むことはしなかったが、あの時ばかりは星司も心が折れそうだった。

(正攻法でダメなら、どんな手でも使うと誓った。それが、俺自身の手で貴方を穢すことであっても)

 星司が額に口づけると、立夏が小さく呻いた。
 そのあどけない寝顔を見て星司は薄く笑う。

 『立夏を救いたいのなら、彼が生贄としての資格を喪ってしまえばいい』

 それが星司の出した結論だった。
 随分と星司にとってだけ都合の良い展開だ。己の劣情で純真無垢な立夏を穢し、「これは貴方のためなのだ」とうそぶいて。快楽で篭絡し、星司の色に染め上げて……。

 初心うぶな立夏のことを慮ってオーソドックスに告白から入ったが、断られるとは微塵も思っていなかった。意志薄弱で流されやすい立夏のこと、いつも側にいる人間の好意を無碍にできるわけがない。押して押して押せば、いつかは手に入ると。

 少しずつ慣らしていくつもりだったのに、他の男がしゃしゃり出てくるとは……!

 おかげで立夏には無理を強いてしまった。
 まだその行為を怖がる立夏の細くしなやかな身体を脅しつけるようにして開かせて、処女地に押し入った。涙を流して泣く立夏に何度も何度も……。

 ぐずぐずに蕩けさせて犯し抜いた。
 「やめて」と懇願する声も、表情も、愛しすぎて。
 
 隣にいるだけで想いが溢れて止まらなくなる。

「早く、俺のもとへ堕ちてきてください、立夏……」

 愛してなんてもらえなくて構わない。
 そんなものは錯覚でいい。
 立夏は流されるままに、星司の側で快楽に溺れていればそれでいいのだ。それだけでいいのだ。
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