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本編

七羽

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 星司クンに昨日酷いこと言うてしもうたから、僕は朝から気ぃが重ぅてしようがなかった。仮病して朝食を抜こうとしたんに、お布団にくるまった僕に向こぅて星司クンは淡々と、「食べないなら登校させません」て言うたんや。

 ひどいわ、僕の内申……。成績はボロボロやけど出席は優良児なんに僕。星司クンのいけず!

 まぁ、せっかく作ってもろぅた食事を無駄にするのも嫌やったのは確かや。僕は気まずいまま朝食を済まして、いつものように仕度していつものように星司クンと車に乗り込んだ。全部、いつも通りや。ただ、会話がないだけ……。

 僕はまとわりついてくるような星司クンの視線を振り切って、二年生の昇降口に駆け込んだ。そうしてしまえば、もう放課後まで星司クンの顔を見ずに済む。学年が違うのやもの、互いに会お思わんやったら会うこともおへん。

 ようやっと授業を終えて、ため息ばっかりがこぼれる。今日は宿題を全部忘れとって先生には睨まれるし、課題の再提出はしなあかんし。

「立夏、お前。呆れたやっちゃな!」
「西陣クン」
「まぁええわ。ついて

 机に突っ伏してた僕に話しかけてきたんは西陣クン。その後ろに松原クン、今川クンもおる。それにもちろん……

「ほな、行こうや、カラス君」

 僕の肩に腕を回してきたのは三条クンやった。全員揃ぉて、何なのやろ。どうしてか僕は、重いものが胸にのしかかってくるのを感じていた。





 連れてこられたんは、体育祭以外で使われることのない「第二大道具入れ」やった。ここはドアが壊れてて、ちょっとしたコツさえ掴めばかけた鍵はそのままに中に入ることができる。西陣クンらがよく使う隠れ家みたぁなとこや。

 僕をそこへ押し込んで、入ってきたんは西陣クンと三条クン、それに松原クンで、なぜか今川クンは外へ残った。いつもは僕、ここへはぃひん。それに今川クンが何や見張りみたぁに外におるのもおかしいやないかと思う。

「なんや、怖ぁな……。なんでこないな所に僕を?」

 聞いても返事はない。西陣クンは怖い顔してて、後の二人はニヤニヤしてるだけや。胸が苦しい……。

「西陣ク……あっ!」

 僕を突き飛ばしたのは西陣クンやった。その拍子に誰かがひいたマットレスに足を取られて尻餅をついてしまう。僕を見下ろす視線に体が震えた。

 僕、なんやこの人らの気に食わんことしてしもぅたんやろか。また殴られるんかな……嫌、やなぁ……。

「西陣、クン……」
「立夏ぁ」
「!!」
「あんなぁ、俺ら遊ぶ金が欲しいんやけどなぁ?」

 ビクッとしてしもぅたけど、出てきた言葉は何でもない、前にもあったことやった。

「お、お金なら……」
「まぁ待ちや。お前から直接は貰えんやろ? すぐにバレて、今度こそ退学や。やけど昼飯奢ってもらうくらいじゃあんまり自由に使える金にはならんのや、わかるやろ?」
「う、うん……」

 分かるやろ、って言われても僕にはよう分からんやった。聞き返すのが怖ぁてそのまま頷く。

「それでな、三条がええ商売思いついたんや。協力してくれるよな、立夏?」
「え……」

 さすがに僕でも、これに頷くことはできんやった。だって何するか聞いてへんし、それに嫌な予感しかせぇへん。

 三条クンが前に出てきて、僕をじろじろ見下ろしてきた。まるで品定めされてるみたぁで嫌な感じや。

「薄暗ぁてもカラス君の顔はよぉ見えるし、白さが映えるなぁ。これは流行る思うわ」
「ホンマにやるんか。男やで」
「カラス君かわええから大丈夫や。ソッチの趣味のヤツもぎょうさんいてるよ? 客集めるんは任しときや」

 三条クンと松原クンの会話が何を意味しとるかは分からんやったけど、僕が逃げなあかんことだけは分かる。僕は立ち上がろうとして、でも、西陣クンに蹴飛ばされてマットレスに逆戻りや。

「痛ぁ……」
「騒ぐなや? また跡がつかんとこに折檻されたいんか。あんときお前大泣きしてその後四、五日学校来んやったやろ。おんなじ目にあいたいんか?」

 僕は慌てて首を横に振った。あのことは結局、星司クンにも言えんやったことや。またおんなじ目ぇにあわされるやなんてごめんや。

「脱げ」
「え……」
「全部脱げ、立夏」

 西陣クンの声は冷たかった。僕は、逆らうことなんて許されてへん。震える手ぇでシャツのボタンを外していった。

「なんも難しいことはないんやで。立夏はここで横になってればええんや、後は客が全部やるわ。ちょっとサービスしたったらそれだけでええ。跡も残さんよう言うとくし。
 どうせ放課後まで居残りやし夏休みもずっと補習やろ?」

 西陣クンの言葉が、頭ん中を右から左へ流れてくみたいやった。シャツとズボンを脇へよけると、松原クンがわっと声を上げた。

「なんやこの背中、キスマークだらけやん! こない可愛い顔してえらく遊んでんやなぁ」

 星司クン……!
 なにしてくれますのや、あの人。もうつけへんって言うたはずやのに……!

「な? やっぱりキスマークやったんや。あの先輩とよろしくやってるんやろ。なぁ、何回抱かれたん? いつから? ……もっと早よ出会うてたらなぁ……」

 肩に置かれた三条クンの手に力がこもる。僕はそれを払いのけようとして、逆に手首を掴まれてもうた。

「パンツも脱いで見せてや? かわええなカラス君、乳首もピンク色してるわ。ほんまかわええ……。キスしよ、な?」
「嫌や!」

 咄嗟に唇を守ったら、パンツに手ぇ入れられてスルッと脱がされてしもぅた。星司クンのでない手ぇに撫で回されて涙が出てきてしまう。

「男相手にようやるわ。えげつな~。なぁ、西陣?」
「俺かて立夏が女やったら、とっくに犯っとるわ」
「そうか? そやなぁ。ま、男やったら売春もバレにくいやろ、それならそれでええわ」

 二人そろって勝手なことばっか言いなや!
 そう言うてやりたいけど、それすら僕にはできひん。

「今日は味見だけや。どのみちなんも準備してへんのに突っ込めんしな。せやから、お口でしてぇな、カラス君。慣れとるやろ?」

 そんなもん、慣れとるわけあれへんやろ!

「なんや、反抗的な目ぇしとるな、立夏」
「…………!」

 三条クンが何か言う前に、西陣クンが僕の頭の後ろ髪を掴んできた。

「おら、膝つけ。そんでお前がベルト外すんや。お客さんに失礼な態度取ったら……どうなるかわかるやんな?」
「西陣クン……」
「今までずっと、お友だちゴッコしてやってたんはお前とおったら面白いからやない、得するからや。卒業したらもうお前とは他人やし、それまでは甘い汁吸わせてもらわんとな」
「そんな……」
「痛い目ぇみるか、大人しうして気持ち良うしてもらうかやで、立夏」

 本当の友達やとは思ってへん……でも、僕は、僕は西陣クンのこと好きやった。勉強もスポーツもできて、誰にでも優しい西陣クンが、一等好きやった。たとえ重政はんが、お母はんとお祖母はんと三人暮らしの西陣クン家にお金を渡して、クラスで僕が独りぼっちにならんようにしたからこその優しさやったとしてもや!

「僕は、西陣クンのこと、ずうっと友達やと、思っとったよ」
「……図々しいわ。早よ、し」
「…………。初めてやから、やり方なんて知らんよ? 三条クン、もう少しこっち、寄ってや」

 湿ったようなマットレスに膝をついて、頭を押さえられた僕は三条クンのベルトに手をかけるしかなかった。

「ホンマに初めてなん? まぁ、嘘でも嬉しいわ。ほな、よろしゅうな」

 なんもかんも、諦めが肝心や。
 ここで暴れたらそれこそお尻に突っ込まれかねんのやもん。全部、諦めて、ちょっとだけ我慢してれば終わる……。終わってほしい。
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