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本編
二羽
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「立夏、口は開けておいてください」
唇を合わせて星司クンが言う。僕が言われた通りに少し口を開けたら、すぐさま吸い付かれた。星司クンの舌は熱くて、僕の口の中を暴れまわる。頬の内側をなぞられるんは、ちょっとくすぐったいなぁ。
「は……ぁ……」
「立夏、奥へ行きましょう。立ちっぱなしは辛いでしょうから」
ようやく不自由な状態から解放されて酸素を補給していると、腰から抱え上げられてしもうた。いわゆる“抱っこ”やんな。こんな体勢になったんは久しぶりで、悲鳴を上げへんように口を閉じて星司クンの服を掴んでいることにかできんやった。
「……せ、星司クン、あの」
「大丈夫。落としたりしません」
どこか楽しんでいるような声がするんやけど、この体勢じゃ確かめようもあれへん。為すがままに運ばれて寝室の布団に上に下ろされた。あ、あかんやん、掛け布団の上やん、ここ。帰ってすぐにお布団に入るなんて、いつも秋月さんが綺麗にしておいてくれるんやから汚したら申し訳ないわ。
「せい……」
「立夏……!」
星司クンはお構いなしに覆い被さってきた。あ、あかん……お布団に連れ込まれるやなんて、なんやえっちな感じや。
「あかん、あかんよ……」
「可愛い……。貴方の全てが欲しいです……」
「えっ……な、なんで……あ、や…………」
星司クンは器用に片手だけで僕の制服のボタンを外していく。僕はキスから逃げて、何とかやめさせようと両手で抵抗した。
「暴れるとちぎれてしまいますよ。いけない手は俺が押さえておいてあげましょう」
「あ……やめて……」
弱々しい、情けない声が僕のものやなんて信じとうなかったけど、上擦った悲鳴は紛れもなく僕のものやった。
「大丈夫……痛いことはしません」
「あ、あかん……やや……」
体を捩ってうつ伏せになろうとしたんは、自分の身を守るためやったんやけど、その最中につるっとズボンまで脱がされてもうた……。
「星司クン!!」
「立夏……可愛いですよ」
振り向くと、星司クンは今まで見たこともないような笑顔やった。普段、全然表情を変えへんのに、僕の前では少しだけ感情を見せる星司クン。せやのに、こんな、幸せそうな笑顔、僕見たことあれへん。もう、なんにも言われんくなってしもて、気ぃついたらウッカリ下着まで剥ぎ取られてしもた。
「僕の裸なんか見ても、なんも……なんも面白いことないよって」
「そんなことありません、綺麗です」
「お風呂でいっつも見てるやん」
「ええ。でも、格別です」
そないに歯ぁが浮くような台詞、わざわざ僕に言わんでもええのに、ほんま、物好きなおひとやよ、星司クンは。
星司クンはそれから、僕の体をまじまじと見て、その大きな手のひらで撫で回した。恥ずかしぅて嫌やったけど、星司クンにお願いされたら、嫌や言われんかった。自慰行為って、他人にされたらなんて言えばええんやろ? 生まれて初めての経験は、気持ち好さよりも怖さの方が勝ってもぅて、星司クンに申し訳なさそうな顔をさせてしもうたんや。
僕は一生懸命謝ったんやけど、星司クンの表情は明るぅならんやった。お風呂でいつも通り僕を綺麗にしてくれてから、星司クンは言うた。
「次は、もっと上手くやります」
どう答えたもんかわからんまま、僕は頷いた。星司クンは、僕のどこが好きなんやろぅか。綺麗でもなし賢くもなし、なぁんも役に立たんし、おまけに男やし。浴衣に袖を通しながら、そんなことばっかり考えとった。
「立夏、夕飯の前に仕事をしていただいてもよろしいですか?」
「そうやね、その方がええね」
僕の仕事はお母はんへのお見舞いの花束選びと、封書の宛名書きなんや。何をさせてもダメダメや言われる僕やけども、毛筆はだいぶ勉強したおかげか、まぁ見られる程度には上達したのや。これだけは、少し……ほんの少し自信が持てる。
花束選びの方は、お見舞いに行けへん代わりにと星司クンが進言してくれはった。もう、何年も目ぇが覚めてないのや……顔も薄れてくるぐらい会うてないんやわ。しやけど、花束に思いを込めて、それとメッセージカードによぅなるようにと願掛けをして、届けてもらうのや。
「お父はんも、見てくれてるやろか」
「……そうですね。いつも、手に取っていらっしゃいます」
「ほんま? 嬉しいわ」
星司クンは真面目な顔で僕のカードを受け取って、花屋に注文しに行ってくれた。夕飯はいつも僕ひとり。食べ終わった膳をいつもの位置に返して、僕は歯ぁを磨いてちょっとだけのつもりで横になった。
「星司クン……。あ、あかん、お試し期間やて言い忘れとる! まぁ、ええか。きっとすぐ、やめたぁなるんやし……」
ごろんと天井を見上げたら、蛍光灯がちらついていた。星司クンはこういうの気になるおひとやから、明日の朝には言うといた方がええやろな。いつも凛々しい顔の星司クンが、こういうん見つけたらキッとなるんや。眉毛がな、キッて。中学のとき、僕の鞄の角がつぶれとったのを見てキッてなってたんや。あとは、そうやな、僕が掃除の時間にびしょ濡れなっとったん見つけられたときもキッてなってたな。言うたら怒られるやろうけど、ちょっと、面白いやんなぁ。
(なんで僕がええんやろ。役立たずやもの、足を引っ張るだけやのに。ちゃんと断れば良かったんやもしれん。でも、僕、断るの苦手やもん)
布団の上でのことを思い出す。星司クン、勃っとった……。僕の体見て、興奮しとったんや。そんなん、お風呂でいっつも見とるのに。もしかして、今までもずっと?
ある意味、えらいストレートな感情表現やんな。しやのに僕はなんもしてあげられんやった。苦しかったやろか……。星司クンが僕にしてくれたみたいに、手ぇとかでしてあげたら良かったんかな。
キスも……初めてやった。あんな風に、誰かの温もりを近くに感じることなんて、いつぶりやろぅか。胸がむずむずして、そわそわして、こんな気持ち初めてや。僕は……僕も、星司クンのことが、好きなんやろか。
唇を合わせて星司クンが言う。僕が言われた通りに少し口を開けたら、すぐさま吸い付かれた。星司クンの舌は熱くて、僕の口の中を暴れまわる。頬の内側をなぞられるんは、ちょっとくすぐったいなぁ。
「は……ぁ……」
「立夏、奥へ行きましょう。立ちっぱなしは辛いでしょうから」
ようやく不自由な状態から解放されて酸素を補給していると、腰から抱え上げられてしもうた。いわゆる“抱っこ”やんな。こんな体勢になったんは久しぶりで、悲鳴を上げへんように口を閉じて星司クンの服を掴んでいることにかできんやった。
「……せ、星司クン、あの」
「大丈夫。落としたりしません」
どこか楽しんでいるような声がするんやけど、この体勢じゃ確かめようもあれへん。為すがままに運ばれて寝室の布団に上に下ろされた。あ、あかんやん、掛け布団の上やん、ここ。帰ってすぐにお布団に入るなんて、いつも秋月さんが綺麗にしておいてくれるんやから汚したら申し訳ないわ。
「せい……」
「立夏……!」
星司クンはお構いなしに覆い被さってきた。あ、あかん……お布団に連れ込まれるやなんて、なんやえっちな感じや。
「あかん、あかんよ……」
「可愛い……。貴方の全てが欲しいです……」
「えっ……な、なんで……あ、や…………」
星司クンは器用に片手だけで僕の制服のボタンを外していく。僕はキスから逃げて、何とかやめさせようと両手で抵抗した。
「暴れるとちぎれてしまいますよ。いけない手は俺が押さえておいてあげましょう」
「あ……やめて……」
弱々しい、情けない声が僕のものやなんて信じとうなかったけど、上擦った悲鳴は紛れもなく僕のものやった。
「大丈夫……痛いことはしません」
「あ、あかん……やや……」
体を捩ってうつ伏せになろうとしたんは、自分の身を守るためやったんやけど、その最中につるっとズボンまで脱がされてもうた……。
「星司クン!!」
「立夏……可愛いですよ」
振り向くと、星司クンは今まで見たこともないような笑顔やった。普段、全然表情を変えへんのに、僕の前では少しだけ感情を見せる星司クン。せやのに、こんな、幸せそうな笑顔、僕見たことあれへん。もう、なんにも言われんくなってしもて、気ぃついたらウッカリ下着まで剥ぎ取られてしもた。
「僕の裸なんか見ても、なんも……なんも面白いことないよって」
「そんなことありません、綺麗です」
「お風呂でいっつも見てるやん」
「ええ。でも、格別です」
そないに歯ぁが浮くような台詞、わざわざ僕に言わんでもええのに、ほんま、物好きなおひとやよ、星司クンは。
星司クンはそれから、僕の体をまじまじと見て、その大きな手のひらで撫で回した。恥ずかしぅて嫌やったけど、星司クンにお願いされたら、嫌や言われんかった。自慰行為って、他人にされたらなんて言えばええんやろ? 生まれて初めての経験は、気持ち好さよりも怖さの方が勝ってもぅて、星司クンに申し訳なさそうな顔をさせてしもうたんや。
僕は一生懸命謝ったんやけど、星司クンの表情は明るぅならんやった。お風呂でいつも通り僕を綺麗にしてくれてから、星司クンは言うた。
「次は、もっと上手くやります」
どう答えたもんかわからんまま、僕は頷いた。星司クンは、僕のどこが好きなんやろぅか。綺麗でもなし賢くもなし、なぁんも役に立たんし、おまけに男やし。浴衣に袖を通しながら、そんなことばっかり考えとった。
「立夏、夕飯の前に仕事をしていただいてもよろしいですか?」
「そうやね、その方がええね」
僕の仕事はお母はんへのお見舞いの花束選びと、封書の宛名書きなんや。何をさせてもダメダメや言われる僕やけども、毛筆はだいぶ勉強したおかげか、まぁ見られる程度には上達したのや。これだけは、少し……ほんの少し自信が持てる。
花束選びの方は、お見舞いに行けへん代わりにと星司クンが進言してくれはった。もう、何年も目ぇが覚めてないのや……顔も薄れてくるぐらい会うてないんやわ。しやけど、花束に思いを込めて、それとメッセージカードによぅなるようにと願掛けをして、届けてもらうのや。
「お父はんも、見てくれてるやろか」
「……そうですね。いつも、手に取っていらっしゃいます」
「ほんま? 嬉しいわ」
星司クンは真面目な顔で僕のカードを受け取って、花屋に注文しに行ってくれた。夕飯はいつも僕ひとり。食べ終わった膳をいつもの位置に返して、僕は歯ぁを磨いてちょっとだけのつもりで横になった。
「星司クン……。あ、あかん、お試し期間やて言い忘れとる! まぁ、ええか。きっとすぐ、やめたぁなるんやし……」
ごろんと天井を見上げたら、蛍光灯がちらついていた。星司クンはこういうの気になるおひとやから、明日の朝には言うといた方がええやろな。いつも凛々しい顔の星司クンが、こういうん見つけたらキッとなるんや。眉毛がな、キッて。中学のとき、僕の鞄の角がつぶれとったのを見てキッてなってたんや。あとは、そうやな、僕が掃除の時間にびしょ濡れなっとったん見つけられたときもキッてなってたな。言うたら怒られるやろうけど、ちょっと、面白いやんなぁ。
(なんで僕がええんやろ。役立たずやもの、足を引っ張るだけやのに。ちゃんと断れば良かったんやもしれん。でも、僕、断るの苦手やもん)
布団の上でのことを思い出す。星司クン、勃っとった……。僕の体見て、興奮しとったんや。そんなん、お風呂でいっつも見とるのに。もしかして、今までもずっと?
ある意味、えらいストレートな感情表現やんな。しやのに僕はなんもしてあげられんやった。苦しかったやろか……。星司クンが僕にしてくれたみたいに、手ぇとかでしてあげたら良かったんかな。
キスも……初めてやった。あんな風に、誰かの温もりを近くに感じることなんて、いつぶりやろぅか。胸がむずむずして、そわそわして、こんな気持ち初めてや。僕は……僕も、星司クンのことが、好きなんやろか。
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