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番外編

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 予定通り、自宅の前で降ろされて、センパイとはそこでお別れした。すっかり男の身体に戻っちゃって、パンツがきついのなんのって……。早く着替えよ。

「ただいま~」
「ハリー! 無事に……」

 言いかけて止めんな。
 玄関口で待っていたのかホールにやってきたダントン様……少し年上の僕の恋人は、僕の前で急に立ち止まって僕をじろじろ見下ろしてきた。いつもニヤケ面で飄々としているんだけど、今は怪訝な顔をしている。
 
「なんなんですか」
「いや、無事で何よりだ。ちゃんと戻ってから帰ってきたんだな」
「たまたまです~!」

 べ~っと舌を出す。女嫌いのアンタのために、わざわざ身体が戻るのを待ってたわけじゃないから~。

 早く着替えたくて階段に向かおうとする僕を、ダントン様は通せんぼして、右手で頬に触れてきた。

「よく似合ってる、ハリー。自分で選んだのか?」
「ううん。用意されてた服だから」

 嘘は言ってない。こっちで用意した服じゃなくて、誘拐犯に着せられた服だけど、嘘じゃないもん。

「長い髪もいいな」

 さらりと耳をかすめるように髪の毛をすくい取られて、思わずピクリと反応してしまう。目つきと手つきがヤらし~んだよ~! 目の前の悪い男は、僕の反応を見てほくそ笑む。

「可愛いぜ、ハリー。こっちの方はどうなんだ?」
「ちょ、ちょっとぉ!」
「おっと窮屈そうだなぁ~!」

 ダントン様の手がいきなり僕のスカートをまくり上げた。さっきから居心地悪くて内股になってたの気づいてたんだろうか。僕のがどんなに小さくたって、女物の下着じゃカバーしきれないのは当たり前だ、かなり……恥ずかしいことになってる。

「こっちもいいデザインだな。小さすぎるが」

 かあっと頬が紅潮するのがわかる。僕は、股間を隠そうとさらに内股になった。くそ、持ち上げられたスカートから露出した脚がスースーする! でも暴れたらこんな繊細なドレス、すぐに破れちゃうし~~!

「いや、小せぇのはパンツだけじゃないよな、こっちもほら、片手に収まる」
「!!!」

 最低すぎる!!!!
 しかも、ガサツに手を突っ込んでくるもんだから、ビリッていったよ、ビリッて!!! そのくせ触り方がいやらしくて慣れてるもんだから、僕の身体も反応してしまう……。

 行儀の悪い手の甲にギリギリと爪を立ててやってるのに、ダントン様は怒りもせずにニヤけ面を近づけてきて僕に囁く。

「あんまり唇噛みしめるなよ、怪我するぜ? このままここですんのが嫌なら、ベッドまで抱いてってやるから、俺の首に腕回しな」
「ばか……」

 ヒョロヒョロに見えて、僕を抱いて二階まで上がれるくらいには力強いんだ。女嫌いのくせにいつも僕をお姫様扱いして。騎士として仕えたい僕の気持ちなんか、まったくわかってくれない。

 それでも。
 僕はこのひとに逆らえない。

 この低い声を耳朶に流し込まれたら、抵抗できない。身体から力が抜けていく。ソーマの葉の甘苦い味のするキスはねっとりと濃厚で、僕を脳髄から痺れさせて夢中にさせられてしまう。もう、身体の隅々まで攻略されてしまっていて、このひとはいつでも僕のことを自由にできるのだ。

 今だって、ダントン様は僕をベッドの上に放り出して、僕に命令するだけでいい。僕は睨みつけるけど、本当は心臓がドキドキして、腰の奥が疼いて切なくてたまらない。このひとだって気づいている。だから、ニヤニヤ笑って品定めするような目で僕を見ているんだ。

「さて、どうして欲しい? 緩く縛って無理やりしてやろうか、それとも優しく抱いて欲しいか?」
「そんなの、好きにすれば」
「ったく、素直じゃねえなぁ」

 強引に押し倒されるかなと思ったけど、ダントン様はくつくつ笑ってその場でシャツをはだけ始めた。胸元のチーフを床に落として、ボタンをぜんぶ外して。バサリと脱いで上半身裸になっちゃった。

「ちょ、ちょっと、何してんの?」
「いつもなら俺だけ服を着て、ハリーを裸にして楽しむんだがな。今日はせっかく可愛いドレスなんだし、ハリーの服は脱がせずに、逆に俺が脱いでみようかと思ってな。ほら、よくあんだろ、そういうプレイが」
「へ~、お店の子とそうやって遊んだんだ、裸見せつけオジサン!」
「……クソ、可愛くねぇ口叩きやがる……!」

 ふんだ! アンタが遊びまくってたのは知ってるんだよ~~っだ!

 ツンと横を向いてたら、顎を掴まれて顔を覗き込まれた。真剣な表情だけはイケメンなんだよね。年齢を重ねて滲み出るオトナの渋みがズルい……。

「口開けろ。舌出せ、ハリー」
「……」
「いい子だ」

 ぎしりとベッドが悲鳴を上げる。舌を貪り合うみたいなキスをしながら、次に何をされるのかと期待してしまう自分がいる。

「ハリー」
「ん……ふぁ……」
「スカート、自分で持ち上げて見せてくれ」
「……」

 その命令に、僕はツルツルと肌触りのいいシルクを摘んで、ゆっくりたくし上げていく。さっきからゆるく勃ち上がった僕自身が、小さな女物のパンツの中で窮屈だと主張している。僕は頬が紅潮するのを感じながら、俯いて唇を噛み締めた。
 
 見られている。
 この恥ずかしい姿を、ジロジロとじっくり見られている……!

 羞恥心に脚が細かく震える。今立ち上がれって言われても、きっと立てないだろう。

「いい子だ。さて、その窮屈な布は取っ払ってやろうな」
「っ……!」

 パンツに手がかけられて、ビリビリッと破かれた。わざとらしく音を立てて、僕をさらに恥ずかしくさせようとしてる。今日はそういう趣向なわけね。もう、ホントに趣味が悪い!

 僕も僕で、この異常な状況に乗せられて興奮してしまっているのが悔しい。背中まである長い髪の毛が、汗ばむ首筋に貼り付いて鬱陶しい。長袖のドレスもベタついて居心地が悪くなってきた。

「可愛いのがよく見えるようになったな。けど、可哀想にまだ小さいまんまだぜ? 自分の手で扱いてみせてみろ」
「……次、小さいって言ってみろ、ガチで蹴飛ばすからね……」
「おっとっと。悪ぃ悪ぃ」

 ……熱していた気持が急激に冷めたよ。一回本気で痛い目見せてやったほうがいいんじゃないかな、躾のために。けど……。

「ごめんって。可愛すぎてつい、からかいたくなっちまった。なぁ、機嫌直してくれよ、ハリー」

 下から覗き込まれて、媚びるように名前を呼ばれて、それで許してしまうなんて、僕ってばホント、どうかしてる。

「舐めて勃たせてやるから、許してくれ。な?」
「っ!? 待っ……!」

 ダントン様は、ベッドにぺたんと座り込んでいた僕の股ぐらに顔を埋めてきた。ばかばか、口でしようとするなんて……!

「ほら、スカートの裾ちゃんと持ってろ。脚広げるぞ……いや、このまま寝転んじまえ、その方が安定する」
「ダ、ダントン様っ、そんなことしなくていいですから……んうっ!」

 押し倒されて脚が割り開かれる。慌てて起き上がろうとする途中で、僕の半身が温かなものに包まれて、痺れるような快感が脳天を貫く。僕、口でされるの弱いのにっ! 止めようとしても、ぜんぜん言うこと聞いてくれない。ヌルヌルと舌がうごめいて、気持ち好くて、声が抑えられなかった。
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