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オマケ
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どうしてこんなことになってしまったのか。顔にはふてぶてしい笑みを浮かべたままでいながら、イダルの末の王子サーレムは心の中で困惑していた。
「ほら、俺を挑発してみろよ」
彼の目の前には、腕組みをした彼の剣術師範、ジェイバル・レレージュが横柄な態度で見下ろしていた。
大柄で筋肉質、ボサボサ頭に無精ひげの五十絡みの男である。どこから来たのかわからない流浪の身の上で、サーレムの父王の親友で、そして表向きには隠しているがサーレムの主人でもある。
王の友人で末の王子の個人的な剣術師範、その正体は古の魔法も退ける強大な力を持った人外のモノ。サーレムはまだ、ジェイバルの仮の姿しか知らない。
「ほら、どうした。やれるもんならやってみろ、クソガキ」
「……意味がわからん。バカじゃないのかジジイ。耄碌したか?」
「お前が言い出したことだろーが。バカはどっちだ」
「む……」
サーレムは黙り込んだ。ただでさえ細い身体をさらに縮こまらせて、一人用のソファの上で膝を抱いて座っていると、成人前の少年か少女のように見える。
天辺を彩るのは輝く白金髪、すみれ色の瞳はアイオライトよりも明るくアメシストより深い。陶器のような傷一つない白い肌にすべてのパーツが完璧なバランスで配置されている。『イダルの至宝』と人が呼ぶ美しい王子は、しかし、性格と口が悪かった。
今回も最初は何か別の話題だったはずだったのだが、ふとした拍子に口から飛び出た言葉が悪かった。
「どうせお前みたいな、本能と身体が直結したような単純バカは、裸ならなんだっていいんだろう? なんなら見せてやろうか?」
と、売り言葉に買い言葉というやつで、それを聞いたジェイバルは額に青筋を立てて低く唸った。
「毛も生え揃ってないガキが、馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ。ほら、謝るなら今だぞ」
「はあっ!? さすがに生えてるわ! 僕はちゃんと成人済だ! 貴様こそいつもいつも王族に対して無礼な態度を……寛大に許している父上たちに感謝するんだな!」
「……で?」
「は……」
ジェイバルはサーレムの言葉にはまったく取り合わず、威圧的な態度で見下ろしている。その目が、ギラギラと光って見えて、サーレムは居心地悪く身体をソファの上でもぞもぞさせた。
「口先だけか? それなら謝って、ナシにしたほうがいいんじゃねぇのか」
「………………」
あくまで冷たいジェイバルの言葉と声に、サーレムはキッと彼を睨みつけると、無言で首元のネッカチーフをシュルリと抜いて、ブラウスのボタンを開けた。
そのまま手を下げていき、腰のベルトを寛げる。そして床に立ち上がると、そのままスラックスを払い落とした。
「……どうだ」
「そんなもんか? そんなんじゃ寝る前のお着換えだろうが。寝かしつけてやろうか?」
「うぐ……!」
室内靴と靴下を脱ぎ捨てたサーレムは、一人用のソファの上に戻り、足を閉じたまま持ち上げてお尻が強調されるポーズを取った。マントを着け、頭には小さな冠を載せたままで。そのアンバランスさが扇情的だろう、とサーレムはドヤ顔でジェイバルに視線をくれてやった。
「ほら、これでどうだ!」
しかしジェイバルは腕組みしたまま、左手の小指を苛立たしげに動かしながら言う。
「そんな中途半端で俺を満足させられると本気で思ってるのか? だからお前はカスって言われるんだぞ。脱ぐなら全部脱げ」
「き、貴様、無礼だぞ……!」
サーレムはムッとしながら頭の上に載せていた冠を取り上げ、そっと脇のテーブルに置いた。マントの紐をほどき、カフスボタンを外し、身体を覆っていた最後の布を取り去った。
「…………」
ぐっと悔しそうな表情で、サーレムはうつむき、ソファの背後に回って身体を隠す。
「ただ脱げばいいわけじゃねえぞ。俺を挑発してみろって言ったろ。だったらどうすりゃいいか、わかんだろーが」
「クソ……」
「そうか、できないんだな。だったらそのまま跪いてゴメンナサイって言え。それならご主人様に対する失礼な言動を許してやってもいいぞ、サーレム」
「ハッ! なら、これでどうだ。満足か、変態ジジイ!」
カチンときたサーレムはソファの上で大股を広げて、わざわざ挿入しやすそうにお尻を上げて挑発してみせた。ジェイバルはぎらついた目のまま舌打ちした。
「ちげえ」
「えっ」
いきなりぬっと突き出された腕に、サーレムはビクリと身構えた。
「ほら、俺を挑発してみろよ」
彼の目の前には、腕組みをした彼の剣術師範、ジェイバル・レレージュが横柄な態度で見下ろしていた。
大柄で筋肉質、ボサボサ頭に無精ひげの五十絡みの男である。どこから来たのかわからない流浪の身の上で、サーレムの父王の親友で、そして表向きには隠しているがサーレムの主人でもある。
王の友人で末の王子の個人的な剣術師範、その正体は古の魔法も退ける強大な力を持った人外のモノ。サーレムはまだ、ジェイバルの仮の姿しか知らない。
「ほら、どうした。やれるもんならやってみろ、クソガキ」
「……意味がわからん。バカじゃないのかジジイ。耄碌したか?」
「お前が言い出したことだろーが。バカはどっちだ」
「む……」
サーレムは黙り込んだ。ただでさえ細い身体をさらに縮こまらせて、一人用のソファの上で膝を抱いて座っていると、成人前の少年か少女のように見える。
天辺を彩るのは輝く白金髪、すみれ色の瞳はアイオライトよりも明るくアメシストより深い。陶器のような傷一つない白い肌にすべてのパーツが完璧なバランスで配置されている。『イダルの至宝』と人が呼ぶ美しい王子は、しかし、性格と口が悪かった。
今回も最初は何か別の話題だったはずだったのだが、ふとした拍子に口から飛び出た言葉が悪かった。
「どうせお前みたいな、本能と身体が直結したような単純バカは、裸ならなんだっていいんだろう? なんなら見せてやろうか?」
と、売り言葉に買い言葉というやつで、それを聞いたジェイバルは額に青筋を立てて低く唸った。
「毛も生え揃ってないガキが、馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ。ほら、謝るなら今だぞ」
「はあっ!? さすがに生えてるわ! 僕はちゃんと成人済だ! 貴様こそいつもいつも王族に対して無礼な態度を……寛大に許している父上たちに感謝するんだな!」
「……で?」
「は……」
ジェイバルはサーレムの言葉にはまったく取り合わず、威圧的な態度で見下ろしている。その目が、ギラギラと光って見えて、サーレムは居心地悪く身体をソファの上でもぞもぞさせた。
「口先だけか? それなら謝って、ナシにしたほうがいいんじゃねぇのか」
「………………」
あくまで冷たいジェイバルの言葉と声に、サーレムはキッと彼を睨みつけると、無言で首元のネッカチーフをシュルリと抜いて、ブラウスのボタンを開けた。
そのまま手を下げていき、腰のベルトを寛げる。そして床に立ち上がると、そのままスラックスを払い落とした。
「……どうだ」
「そんなもんか? そんなんじゃ寝る前のお着換えだろうが。寝かしつけてやろうか?」
「うぐ……!」
室内靴と靴下を脱ぎ捨てたサーレムは、一人用のソファの上に戻り、足を閉じたまま持ち上げてお尻が強調されるポーズを取った。マントを着け、頭には小さな冠を載せたままで。そのアンバランスさが扇情的だろう、とサーレムはドヤ顔でジェイバルに視線をくれてやった。
「ほら、これでどうだ!」
しかしジェイバルは腕組みしたまま、左手の小指を苛立たしげに動かしながら言う。
「そんな中途半端で俺を満足させられると本気で思ってるのか? だからお前はカスって言われるんだぞ。脱ぐなら全部脱げ」
「き、貴様、無礼だぞ……!」
サーレムはムッとしながら頭の上に載せていた冠を取り上げ、そっと脇のテーブルに置いた。マントの紐をほどき、カフスボタンを外し、身体を覆っていた最後の布を取り去った。
「…………」
ぐっと悔しそうな表情で、サーレムはうつむき、ソファの背後に回って身体を隠す。
「ただ脱げばいいわけじゃねえぞ。俺を挑発してみろって言ったろ。だったらどうすりゃいいか、わかんだろーが」
「クソ……」
「そうか、できないんだな。だったらそのまま跪いてゴメンナサイって言え。それならご主人様に対する失礼な言動を許してやってもいいぞ、サーレム」
「ハッ! なら、これでどうだ。満足か、変態ジジイ!」
カチンときたサーレムはソファの上で大股を広げて、わざわざ挿入しやすそうにお尻を上げて挑発してみせた。ジェイバルはぎらついた目のまま舌打ちした。
「ちげえ」
「えっ」
いきなりぬっと突き出された腕に、サーレムはビクリと身構えた。
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