【R18】【BL】クソガキ王子と剣術師範〜言ってわからないなら身体でわからせてやる〜

サディスティックヘヴン

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 イダルの末の王子サーレムは、その性格はともかく、見た目だけはまるで人形のような愛らしさがある。輝く白金髮トゥヘッド、珍しいラヴェンダー色の瞳、日に焼けない白い肌。すらりとした細い手足はまだまだ発展途上の子どものもので、頼りない細さで。

 それもそのはず、サーレムはもう成人したとはいっても、生まれつき病弱でずっと城の自室に押し込められる生活をしてきたのだから。体調が整ってきたのも最近のことで、彼の身体には筋肉も余分な肉もまったくと言っていいほどない。

 そんな彼は今、顔を真っ赤に染め拳を握り、歯を食いしばって怒り狂っていた。

「ジェイバル・レレージュ……! いまいましい、あの、クソジジイ!」

 サーレムが目の敵にしているジェイバル・レレージュは、諸国漫遊と言えば聞こえはいいが、つまりは定職に就かずして世界中をフラフラ渡り歩いている男だ。そして、このイダルの国王の古い友人でもある。

 ボサボサの頭に無精ひげ、年齢は五十ほどにも見えるが、もっと年寄りかもしれないし、あるいはもっと若いのかもしれない。背が高く大柄で、隣に立つとサーレムがまるで小さな子どものように見える。それもまた癪に障った。

 サーレムの父王は、ある日ふらっとやってきたこの男を王宮に引き留め、あろうことか部屋を一つ空けてまで彼の滞在を願った。王族のための私的な部屋を、だ。そのエピソードだけとってみても、彼が国王にとってどれほど大きな存在であるか誰の目にも明らかだ。

 サーレムは決して狭量などではない。父親に大切にされる存在が急に現れたからと言って、それに腹を立てたりはしない。問題なのは男の態度だ。

 古い友人とはいえ国王相手に敬語も使わず、まるで庶民に対するような気安さはいかがなものか。しかも、その粗野な振る舞いは国母であるサーレムの母に対しても、そして王太子である兄に対しても変わらないのだ。

 それだけでは事は収まらない。父王はその野蛮人をサーレム専任の剣術師範としてつけると言い出したのだ! ジェイバルもすっかりそのつもりでサーレムのあれやこれやに口出ししてくる。鬱陶しいことこの上ないのだ。

「もうこれ以上は我慢ならん! 今日こそあいつを……追い出してやる!」

 そうと決めたサーレムは、深夜を待って誰にも知られずに自室を抜け出した。警備兵に守られた宮殿の中では、随伴の護衛も四六時中一緒ではない。巡回のルートとタイミングさえ掴めば、誰にも見られることなく目的の場所へ行くことができる。

 ジェイバル・レレージュの部屋へ入ると、居間のスペースはもう明かりを落としてあった。バスルームにもドレスルームにも人の気配はない。ということは、すでに寝室で休んでいるはずだ。

 サーレムは寝室のドアノブにそっと手をかけてみる。鍵がかかっているかと思いきや、それは簡単に動いた。マスターキーの出番はないようだ。サーレムは毛足の長い絨毯に足を沈み込ませながら、そっとジェイバルの寝ているベッドへ近づいていく。

「何の用だ、坊主」
「!」

 背を向けたままでジェイバルが言う。サーレムは息を呑み、仰け反った勢いで一、二歩後退った。

「いつから……」
「最初からだよ。んで、何なんだよ」

 面倒くさそうな声色。未だに起き上がろうとさえしない不敬さ。サーレムは驚かされたことによる羞恥と怒りにサッと顔を赤らめ、思わず拳を握って声を荒げていた。

「気がついていたのか! ならば都合がいい。おい、よく聞け、ジェイバル・レレージュ! 父上に気に入られているからって調子に乗るなよ貴様。目障りだ、さっさとこの国から出て行け」
「……うるせーなぁ。んなこたぁ父親に言えよ」
「なっ、貴っ様、よくも……!」

 さらに言い募ろうとするサーレムだったが、ゆっくりと身を起こし立ち上がったジェイバルが目の前にずんと壁のように立ちはだかると、その圧力にそれ以上言葉が出てこなかった。二メートルを超す長身、しなやかな筋肉が隆々と盛り上がった鋼のような体躯。いつものヘラヘラした笑みを消したジェイバルからは、まるで別人のような、男の色香のようなものが感じられた。

 サーレムはジェイバルの金の瞳から目を逸らし、下を向いた視界に入ってきた不愉快な物の存在に気が付いて呻き声を上げた。

「貴様……貴様、何で下を履いていないんだ!?」
「あー。寝るときゃ脱ぐ主義なんでな」
「じゃあ立ち上がるなよ! 汚い物を僕の視界に晒すな!」
「おいおい、そりゃねぇだろ。コイツもショック受けちまうよ」
「動かすな! 正気か!? 気持ち悪い……」

 ぴくぴくと小さな動きを繰り返すソレから思い切り目を逸らすサーレム。ジェイバルは悪ふざけをやめて、生意気王子が予告なしに単独でこんな夜更けにやってきた訳を尋ねた。

「で、オージ様はなんでこんな時間に俺の部屋まで来たんだ、わざわざ。まさか本気で、出てけって言うためだけに来たんじゃないだろ?」
「…………」
「まさかのまさかかよ」

 ジェイバルはため息を漏らすとベッドにドカッと腰を下ろした。ボサボサ頭を左右に振り、はねのけたシーツを掻き寄せる。

「部屋に戻って寝ろ、坊主。早くしないと、明日の鍛錬がつらくなるだけだぞ~」
「…………」
「んじゃ、俺はもう寝るわ。おやすみ」

 サーレムは無言で、横になろうとするジェイバルの鼻先に、宝石のついた指輪を嵌めた左手を突き出した。

「お?」
「見たな。『我に従え、ジェイバル・レレージュ。貴様の居場所はここにはない、今すぐに荷物をまとめて、どこか遠く離れた国へ行き、二度と戻ってくるな』……わかったな?」

 イダル王家に伝わる秘中の秘、宝物庫からコッソリ拝借したマジックアイテム『支配の指輪』の効果は、『宝石を目にし、真の名を呼ばれたとき、その人間は下された命令にただちに従わなければならない』というものだ。これは大変強力なマジックアイテムで、この指輪によって命令を下された人間は、普通の洗脳系魔術や催眠術では効果のない被術者本人の生命・身体に害を与えるような命令――たとえば『死ね』などの直接的な命令にも従おうとしてしてしまう。

 王族や貴族はこういった魔術を使われることを避けるため、表向きには明かさない真の名を持っている。しかし、平民たちにはその権利すらない。だからこそ人心を操る術をみだりに使用することは許されておらず、『支配の指輪』も厳重に保管されているのだ。指輪を悪用した場合、たとえ王族であっても重い罰は免れない。

 サーレムもそれを知ってはいたが、指輪の効果を使ったとしてもそうとわかるわけではない。元に戻しておきさえすれば、誰にもバレはしないのだ。

(コイツが消えればお父様は落胆されるだろう。だが、それも一時的なもの。元々旅人なのだ、いなくなっても誰も疑いもしないだろう!)

 これで望み通りだ、とサーレムはニヤリと嗤う。だが、指輪の効力で操り人形となったハズのジェイバルは、思いもよらない行動に出た。

「このクソガキが!」
「えっ」

 ジェイバルは指輪の嵌まっているサーレムの左手を掴み、それをサーレムの顔面に押し付けた。

「なっ」
「見たな。『我に従え、サーレム・カミール・シフ・イダル。服を脱いで全裸になれ』……お前にはお仕置きが必要みたいだな、オージ様。それも、もう二度と逆らう意思が持てなくなるくらいにキッツイやつが」
「あ……どう、して……」
「さあな」

 ジェイバルはサーレムの左手から『支配の指輪』を抜き取りつつ嗤った。サーレムはぼんやりしていく意識に抗おうとしたが、身体は言うことを聞かず、細い指は勝手に衣服をゆるめていく。

「やめ、ろ……くそ……」
「そうそう、さっさと脱いじまえ。指輪に逆らっても良いことなんてないぞ」

 サーレムの耳に入ってくる、ジェイバルの楽しそうな声がとても不愉快だった。
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