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第11章「四聖獣ポセラドル」
未知との遭遇
しおりを挟む「だめだよ、みちっ!」
センテバは誰とでも仲良くなれて、友達が出来る。こうやって駆け寄ってきて、人の中に入り込める。四聖獣ユニコーンを初め、一国の王女エルザ、鴻寨、ユン、ローザがいる。それに、ティーサラとメイリアウス。これからも行く先々で誰かとすぐに打ち解けるだろう。
「いたた……!」
でも、私はあなたにとっての単なる友達の一人に過ぎない。私にとって唯一だったのに、あなたにとっては唯一じゃない。いくらでも代わりがいる。もう近寄らないで。私のことなんか忘れてほしい。
「そこまでにしておけ」
水を掛けられたように、頭の中に絶え間なく湧き上がる蚊柱が消えた。足の裏に小枝を踏みつける感覚だけが残る。
少年一人に構ってなんかいられない。忘れたらいけない。ここにはイグエンがいる。変わり果てた姿でずっとうずくまり、身悶えしている。
私はイルとは違う。魔王のために封印を解くんじゃない。歩み寄る一歩一歩が遠く、その間に息絶えないか気が気じゃない。
ようやく彼の足下にしゃがむと、頭を撫でてくれた。今度は痛くない。もしかして、感覚が戻っているのだろうか。そうだとしたら、私の手の温もりも感じてくれるはず。
(冷たい……)
首筋は冷たく、凍り付きそうだった。このままだと凍え死んでしまう。
いつも彼に助けてもらってばかりだった。申し訳なくて仕方がなかった。
「イグエンさんがもう片方のペンダントを拾ってくれたんですね。今までずっと持っていてくれて、ありがとう」
太陽と月――胸元のペンダントはぴったり合わさっている。もう無くさないから。
怖かった。彼の身体の中に何かが入り込み、蠢くのを初めて見た時は。だけど、もう怖くない。
「よく、やった……」
漆黒の翼――否、彼の怒りが形となって、ほとばしったんだ。教会に捕らえられ、虐げられ、追い詰められた怒り。出生を知らされずに育てられてきた怒り。やり場のない感情が身内でたぎっては収まり、体中に張り巡らされた血管となって駆け巡る。猛り狂った感情は封印を解くことで発現する。
だが、疲弊が激しく、羽根は萎れているように見える。空を掴もうとする左手は心許ない。
「いけないわ」
すぐに手のひらを受け止める。やっぱり痛くない。感じているんだ。ルンサームの広場で殴りかかってきた日のことが幻のよう。瞳は血の色をしているけれども、憂いを帯びた眼差しは彼そのもの。
「まだ封印は残っている。お願い、力を使わないで。あとは私がやるから」
早く逃げて。
夜には決して抜いてはいけないと言われた神の剣。今まで馬鹿正直に言いつけを守ってきたけど、一度くらい。鞘から漏れる妖光と揺れ動く不穏な影の正体が気になる。
柄に触れても、痛みは走らなかった。寧ろ握った指先からぬるま湯のような生暖かさを感じ、溶け込んでいく。
「目覚ましてよ!」
しつこい、諦めの悪い奴。さっきからずっと隙間風の音が耳障りだった。
でも、まあいいや。今日でもう顔を見なくて済むんだから。
剣身はすっかり鮮血の色に染まり、ミミズを彷彿とさせる黒い根っこが伸びている。切っ先まで絡みつき、脈動し、生きているかのよう。
「いい気味」
そうやって足下で這いつくばっていればいい。私はあなたとは違うから。
剣は新たな姿を得た。ずっと外に出たくてたまらなかったんだね。最後に見せてあげる。
センテバ、さよなら。
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