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第11章「四聖獣ポセラドル」

少女を追って

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「ぼぜらどる……ごえだめはやめでっ」
「センテバ殿っ、大事ないか!」
「わーっ、溺れる!」

 頬をいきなり引っぱたかれて、センテバは目を覚ました。便座はすぐそばにある。

「夢? 肥溜めに落っこちて……」
「肥溜めには落ちていないけど、顔は糞まみれだったわねぇ」

 まだ汚れているから、ママが拭いてあげるわよと言わんばかりに、ルフチーモフの顔が迫ってきた。睫毛は長く、べったりと口紅を塗っている。
 おほんと、鴻寨が咳払いした。

「ちょっと、反省しているわよ。ぼうやの無邪気に頬張る姿を見ていたら、久々に張り切っちゃって」

 どうやら下痢させたことを詫びているようだった。

「おっちゃん。この下って、池になってるの?」
「だから、おっちゃんじゃないってば。ママよ、ママ」
「おらだって、ぼうやじゃないから」

 所々男が見え隠れする。なかなか話が進まない。

「寝言でポセラドルと呟いていたが、何かあったのでござるか?」
「おら、ポセ――」

 いきなり耳鳴りがした。おかしいな。腹を下して、体が参っているのだろうか。

「ううん、地下に肥溜めがあるのって珍しくてさ」
「エルガンヴァーナは下水が発達しているのよ。店だけじゃなくて、家庭にも便所があってね、便壺に溜めなくても良いの」
「じゃあさー、みんな地下でつながってるの?」
「そうねぇ」

 どうしっちゃたの、この子。いきなり下水に興味を持って。便所で頭をぶつけたのかしらと、ルフチーモフは訝しがる。

「地下に悪い奴がいる。みちを困らせた奴が。もしかして、あいつ――マケマノかっ……」

 またもや耳鳴りがした。今度はちょっと息苦しい。

「ルフチーモフ殿、やりすぎでござる」
「え、わたしぃ? ぼうや、顔に血の気がないわ。私よりも色白ねぇ」

 冗談を抜かしている場合かと、店主は鴻寨に睨まれた。

「上で休んでいて。すぐに身体の温まる物をこさえるからね」

 センテバは鴻寨の肩を借りて階段を上り、二階の客室に通された。ベッドはあるものの、食堂で使う椅子や置物――果物の絵があしらわれた壺やオブジェ――が所狭しと詰め込まれ、倉庫のていを成している。

「あーあ、みちを探しに来たのに、じっとしてろって」

 耳鳴りは治まったが、振り出しに戻った。鴻寨はルフチーモフと何を話し込んでいるのだろうかと、床に耳を押し当ててみる。何も聞こえない。床木の感触だけが伝わってくる。
 用を足していたら、偶然聖獣ポセラドルに出会って、未知の手がかりを得たなんて、そんなうまい話ないよな。腹痛で失神して奇妙な夢を見たに違いない。

 窓の外に雲が見える。変わることなくゆっくりと穏やかに流れていく。
 こうやってエルザと二人で、ぼんやりと雲が流れる様子を見ていた時もあったっけ。
 センテバなら、あの雲に飛び乗ってどこにでも走って行けそうねと、エルザが言った。おらが!? あ、ユニコーンと一緒ならできるかも。ユニコーンに乗って雲の上を駆けたら、気持ちいいんだろうなぁ。そうだ、エルザも乗せてもらうように頼んでみるよ。そうしたら、おかしそうに笑っていた。まるで小鳥がさえずるように。おら、そんなにおかしなこと言った? 言い出しっぺはエルザの方だけど-。

「エルザ……」

 今だに眠ったままだ。ユニコーンも。
 雲は変わらず、今日も流れていく。
 おらがしっかりしなくちゃ。弾みを付けて起き上がり、拳を握りしめる。ポセラドルも、ユニコーンみたいな目に遭わせたくない。失いたくない。
 今頃、ユンとローザはどうしているのだろうか。夕刻に大聖堂で待ち合わせしようと約束した。大聖堂も、近くの大図書館も閉まっていて、参拝者が途方に暮れていた。衛兵から漏れ聞いた話によると、急な改修があるため、休館にしたそうだ。何だか怪しかった。
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